第28話 ゲンコツ(足)

 日も沈み、夕食を済ませ部屋で寝ころんでいたのだが、何か殺気立った集団が宿屋に近づいてくるのを感じ取った。


 探知魔法を使うと、1人はカイゼルヒゲ改めカイゼルハゲのようだ。

 おそらくは仕返しに来たのかもしれない。


 宿に迷惑をかけるわけにはいかない。

 ましてや幼女をおびえさせるわけにはいかない!幼女をおびえさせるわけにはいかない!


 2回言いました。大事な事なので。


「お兄ちゃんどこ行くの?もう夜遅いよ?」


 眠そうな目をこすりながら声をかけてくれたのは宿屋の幼女。

 もう寝る前なのか、パジャマのような簡素な服でぬいぐるみを持っている。

 ぬいぐるみは……クマ…?

 うん、後ろに立つと殴られそうな顔のクマさんである。狙撃が上手そう。


「ちょっと夜風に当たってくるよ。窓から部屋に戻るから、玄関は閉めておいてね。」


 誰かが受付に詰めるのかも知れないけど、とりあえず窓から入る予定で鍵は開けておいた。

 アイテムは全部異空間倉庫に入れてあるから、部屋に荷物は置いてないし大丈夫だろう。

 念のために結界も張っておいたから大丈夫。


 幼女に手を振ると、玄関の鍵が閉められるのを確認する。

 幼女をおびえさせるわけには(以下略)



「自ら出てきたか、この反逆者め!」


 振り向くと同時に、カイゼルハゲがこちらを指さしてわめき出した。

 反逆者と言うのは貴族を埋めたり剃ったりしたからだろうか。

 それとも斡旋所を両方ボコボコにした事だろうか。


「何度でも言ってやろう。

 法が正しい者を守るのであれば、俺もその法を尊重して守ってやる。

 しかし、弱者を食い物にするための法だと言うのなら、俺はそれをぶっ潰す!

 それが政治だの貴族の戦いだの必要悪だの言うやつは全員かかってこい。

 この俺がゲンコツしてやる!」


「そう強気でいられるのも今のうちだ!

 傭兵ランク8の[我らが栄光]を相手に無事でいられると思うなよ!」


 こいつら魔法使い募集してたやつらじゃないか。

 カイゼルハゲと同じ髪型の私兵が4人、その他の16人が[我らが栄光]なのだろうか。

 あ、1人増えてるって事は応募があったんだね。よかったね。


 そういいつつゴリってローリングソバット、略してゴーリングソバット。

 え?ゲンコツ?

 …ほ、ほら、この人たち雇われただけだから!


「くっ!タンクが一瞬でやられた!

 それだけ強ければ貴族様に仕えていい暮らしが出来るものを!」



 …ゲンコツしました。残り15人。

 特にさっきの発言をしたリーダーっぽい奴には2発ゲンコツです。

 この世界腐ったやつ多いな!お釣りも誤魔化されそうになるしな!


「ランク8の傭兵団を数分で…だと……!?」


 あーはいはい、そんな凄いアピールとかいらないから。

 俺に言わせれば全員雑魚だから雑魚。



 カイゼルハゲ は チョビハゲ に 進化した!


[我らが栄光] は [失われた毛根] に改名させられた!

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