第20話 格差社会

 常識がヤバい。


 俺が城の人間に教わったのは常識じゃなかったらしい。

 例えば貨幣、俺が聞いたのは小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨の4種類。


 今俺が持っているのは銀貨8枚ずつと小金貨4枚に大金貨2枚。

 4枚で上の貨幣になるらしいから、全部で小銀貨224枚分になる。


 そして目の前の屋台には5枚の文字。

 どうやら小銅貨10枚で大銅貨、大銅貨100枚で小銀貨らしい。

 他の店を見ると、食料品は安めで嗜好品が高めの発展途上国によく見られるような物価だった。


 大銅貨99枚なんてお釣りは無いらしい。

 うん、良くあるパターンだけど、素で困るねこれ。

 力業でも何も出来ないし。


 とりあえず他に何か買おう。

 旅に必要な物はあらかた異空間倉庫に入っているし、別の店で食料品でも買って小銭を作ろう。


 歩きながら街並みを観察してみると、良くあるパターンで中世ヨーロッパの街並み……とは違っていた。

 真っ白なコンクリートのような壁の建物ばかりだ。

 中には鉄筋らしき物も入っているようだし、これはローマンコンクリートとかいうやつなんだろうか。

 真っ白な豆腐のような四角い建物が道沿いに並ぶ姿は美しさもあり、1つの文化として確立しているのを感じた。

 全部の建物が3階建てで高さが揃っているのも、そんな法律でもあるのかも知れない。


 白い建物の2階部分、窓と窓の間にあるスペースに色々な絵が描いてあった。


 金床と金槌の絵は多分鍛冶屋だろう。

 剣と杖がクロスしてるのは武器屋か?

 鍛冶屋は武器屋を兼ねていないのだろうか。

 わかりやすいようで微妙にわかりにくいな。


 貴族は買い物は商人を呼びつける物だとか言ってたけど、流石にそれは信じていない。

 けどこんな風になっているとは知らなかった。

 おのれ貴族め役に立たねえ常識を伝えやがって……


 なんかの実が描いてあるところは食料品っぽいけど、何の実かわからないと意味不明だな……

 とりあえずそこに近づいてみると八百屋のような果物屋のような感じで、色々な果物や芋などが山積みされていた。

 店員はバーコードハゲ、それなりに続いている店なのだろう。

 とりあえずここで買う事にする。


 小銅貨3枚の赤いみかんみたいな果物を50個、小銅貨4枚の皮の厚いパパイヤのような果物を50個、小銅貨2枚の芋っぽい野菜を100個まとめ買い。

 全部で大銅貨55枚分。

 小銀貨1枚払ってお釣りが大銅貨35枚。



「……おい、釣りが足りないんだが。」


 軽く睨む俺を気にもせず、冷ややかな目で見るバーコードヘアー。


「あん?兄ちゃん計算出来るのか?

 こっちは長年商売やってんだ、間違え……ましたすいませんイダダダダダ!!」


 頭を脇に抱えるように固定すると、バーコードを読み取り不可にしてやった。

 こう……ブチブチっとね!


「くそったれ!大事な髪を引っこ抜きやがって!

 衛兵に突き出してやるからな!」


 急に大声でわめく元バーコード。

 どうやら騒ぎを大きくして衛兵を呼ぶつもりなのかもしれない。


 あまりにも腹が立ったので、頭皮に魔法でモザイク柄の入れ墨を入れてやった。



“バーコードハゲは、QRコードハゲに進化した!”



 スマホで読み取ると(釣り銭ごまかしオヤジ)と表示されるんだけど、この世界じゃ意味不明だよね。


 とりあえず壁の絵の下にも(釣り銭を誤魔化す店)と魔法で焼き印を押し、赤みかん20個と皮パパイヤ10個を釣り銭の差額替わりに頂いた。


 衛兵が来ても大丈夫だろうけど、面倒なことに変わりは無い。

 さっさとこの街から離れてしまいたい所だが、ちょっと貴族と平民の常識の差が酷すぎる。

 少しばかり平民の常識を学んでからにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る