第17話 打ち上げ

 と言うわけで魔王は死にました。

 ちゃんと丸坊主にしてからね!

 バトルシーンなんて絶対的力の差じゃ存在しないからね。しょうがないよね。


 その時、俺の周囲に淡い光が現れた。

 魔王を倒したから地球に帰還するらしい。

 ひょっとしたら、魔王を倒せば連続召喚されなくなるのかも。

 俺がゴリった時の事を1年前って言ってたから、地球での1日がこっちでの1年なのかもしれない。

 連続召喚されないのであれば、もう2人には会えない可能性が高いだろう。


「どうやら帰るときが来たみたいだ。

 2人の狐火で見送ってくれよ。」


 笑顔で俺がそう言うと、2人は慌てていた。


「そんな急な!

 もう少し色々教えてよ!」


「お兄ちゃん帰っちゃうの?」


 また裾を引っ張りながら上目遣い。

 マジかわいい。


「別れってのは急なもんだ。

 後悔しないように、毎日を大切に過ごさないと駄目だぞ。

 これが俺からの最後の指導だ。さあ、2人の狐火を見せてくれよ。」


 泣きながらうなづく2人。

 声も出せないらしい。


 リュックから出した様々なインゴットを握りしめ、2人は両手を上に向けた。



 沈んだばかりの太陽を見送るかのように。

 脅威が去ったことを喜ぶように。

 沢山の、色とりどりの狐火が夜空へと打ち上がる。


 打ち上がる。


 打ち上がる。


 打ち上がる。



 ……鍛えすぎたのかも知れない。

 いつまでも終わらない狐火に、街中が大盛り上がりだ。

 え?これ、俺が消えるまで続くの?

 ちょっと待って、帰還の時間を合わせないとバイトサボりになっちゃう!


 慌てて帰還魔法をいじくりたおし、時間の設定をして消える俺。


 脳筋だとシリアスに嫌われるのだろうか。

 最後に俺もちょっと変わった狐火をお返ししてやろう。


 最後に5発だけ打ち上げると、俺は地球へと帰還した。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 お兄ちゃんが帰る直前。

 最後に残した狐火はとっても綺麗でした。

 縦に並んだ5つの狐火は次々に色を変え、まるで胡蝶蘭こちょうらんのようでした。


「あれどうやってるんだろう。」


「わからないけど、流石だよね。」


「お姉ちゃん、いつかわたしもあれやりたい。」


「私もだよ。2人で考えればきっといつか出来るよ。」


 いつかまたお兄ちゃんが戻ってきた時に、あれを真似して驚かしてあげたい。

 5輪の蘭みたいなあの狐火を。



 後日、2人の姉妹はこの時の狐火を再現した。

 そして5輪の蘭、ゴリラと名付けたのだった。

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