閑話1 瞬殺の被害

 とある国は魔王に乗っ取られていた。

 魔神の力を取り戻すため、近くの国々を攻め落としては民を生贄に儀式をくり返していた。

 その魔王は勇者を危険視しており、自国で先に勇者召喚を行う事にした。

 敵国の王を魔王と偽り、手駒として使うのだ。



 結果、姫が丸坊主になった。



 髪が伸びるまでは引きこもると宣言する姫。

 お父さん悲しいです。

 いや、実の娘じゃないけど。


 次に魔王が考えたのは、魔神様がよみがえれば敵は勇者だけ。

 その勇者の態度があれだけ悪ければ、協力してもらえる国など無いだろう。

 その勇者も伝説の剣が無ければ何も出来まい。

 そう思った魔王は、伝説の金属を集めて封印することにした。

 それなら魔神様にかなうやつはいなくなるからだ。



 結果、集めた金属が急に消えたかと思うと、なんか剣が飛んできた。



 あるぇ?

 なんで復活しかけてた魔神様が跡形も無く消滅してるの?

 ナンデ?


 しかも都市には被害は無いのに、魔神様が封印されていた場所の上に建てられていた城がきれいさっぱり無くなっていた。

 欠片一つ残さずに無くなっていた。


 あるぇ?


 魔神様が滅ぼされてしまったようなので、自力で世界を征服しようと魔王は考えた。

 既にヤケになっていたが、まわりは誰も止めなかった。

 と言うか、まわりも皆ヤケになっていた。


 それでも魔王とその部下たちは人間よりはるかに強く、侵攻の速度はかなりの物だった。

 一ヶ月もしないうちに隣国の王都そばまで攻め込み、次の戦いで隣国を手に入れる……はずだった。



 何故か一晩野営したら、王都が凶悪になっていた。



 外壁には頻繁にトゲが生え、とてもじゃないが上れそうに無い。

 それ以前にその手前には2mを超える植物が歯をガチガチ鳴らしながら待ち構えていた。

 ……植物?


 そして肝心の門は明らかに別の場所に繋がっていた。

 沢山のちょっと変わったオーガが白い布をまとったような人間を鍋で煮たり針で串刺しにしたりしていた。

 そんなところに兵が攻め込む気を見せないのもしょうがない。


 幻術かも知れないので、魔王はしばらく待ってみることにした。

 朝日が少し昇った頃。

 昼まではまだ半分といったところで、何かが飛び出してきた。

 腕を振り抜けば千人単位の兵が吹き飛び、距離が近い兵にいたっては風圧だけでひしゃげていた。


 魔王も吹き飛んだが、腐っても魔王。

 それだけではたいしたダメージでは無かったのだ。


 ……それが一度だけなら。


 まるで小学生が石を蹴りながら帰るかのように、吹き飛ばされ続けて徐々にスピードアップしていく。

 吹き飛ばされ続けながらも魔王は相手を観察してみたが、どうも普通の人間にしか見えない。

 その異常なまでのスピードとパワーとスタミナとアホ面を除けば、だが。

 気付けば自国の王都まで戻ってきており、ついでとばかりに部下をパンチやキックで消し飛ばしていく。


 最後、私だけになったその時。


「なんかそこそこ強いのがいるな。魔王クラスか?

 とりあえず全力デコピンしてみよう。」


 それが魔王の聞いた最後の言葉となった。


 こうして世界に平和は取り戻されたのだ。



 魔王からは逃げられない。

 本人も気付いてはいなかったが、召喚者を懲らしめても、魔神を倒しても、国のピンチを救っても。

 例え何度も召喚をくり返し、人外の強さを得てたとしても。

 魔王からは逃げられないのだった。

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