第6話 邪魔者
「何やら騒がしいと思ったら、そんなところで慈善事業でもやってるのかい?」
悪意のこもった言葉と共にやって来たのは、まるで貴族のような格好をしたデブガキだった。
襟はひだひだで無駄に長くシャンプーハットでも首に巻いてるかのようで、ギラギラ輝く銀糸で刺繍された赤いベストはデブガキの体型と相まって毒薬の瓶のようにも見える。
デブガキを見たクレアは俺の後ろに回り、服の裾をしっかりと握りしめている。小動物みたいでかわいい。
でもクレアを怯えさせたのは許さない。
デブガキは俺を無視してクレアに話し続ける。
「そんな余裕お前にあったっけ?
ついに伝説のネックレスとやらを質屋にでも売り飛ば…「どーん!」
質屋って言葉があるの?とかどうでもいい事を考えつつ3時前的な人のアタックを手加減しつつ真似してみた。
ゴロゴロ転がるデブガキは近くの樽にぶつかり、中身をひっくり返しながら止まった。
げ、あれ生ゴミ捨ててあったのか。超臭ぇ。
「なっ!?キサマ何をする!
この俺をSSR保持者と知っての行動か!?」
「な……なんだってーー!?」
あ、あれはSじゃなくてMだった。
まあ正直SSRとかSSSとかマジどうでもいい。
まだ内側があるかも知れないとKから始めたバークラー先生やボーア先生を見習え厨二病どもめ!
「ふっ、俺のSSRに恐れをなしたか!
泣いて謝ってもゆるさんぞ!」
「あ、別に臭いから近寄って欲しくないとか思ってないです。
さっきスラムの人達みんなキレイにしたから、多分この街でこのデブガキが今一番臭い!なんてちゃちいキャッチコピーみたいな事考えてないです。
許して欲しいかと聞かれれば……」
俺は両手を前に出して手のひらを揺らしながら困り顔でこう言った。
「「「No thank you」」」
何でハモった。
誰だ今一緒に言ったやつ。
いいぞ後で一緒に飲もう。
「クキッ…き…キサマぁあああ!!!」
丸い顔を真っ赤に染めてプルプル震えるデブガキ。
何やら手で印を結びながらブツブツと唱えると、ニヤリと汚い笑みを浮かべた。
「召喚する隙を与えるとはバカめ!
出でよ!シーシュリンプ!!」
デブガキが手のひらを上にかざすと、その上の空間が歪んでトゲのようなものが出てきた。
そのトゲは頭の一部のようで、触覚のようなものと並んで生えているようだ。
根元には黒く丸い目玉のようなものがついており、体は長く胸当てのような甲殻を持つが、体を曲げられるように節のように何枚かに分かれている。
甲殻の内側にはまるで杭のようにとがった足が何本もついていて、そのうち2本は手なのかハサミ状になっていた。
尾は水を掻くのによさそうな形をしており、機敏に曲がったり伸びたりを繰り返していた。
………どう見てもエビです。本当にありがとうございました。
いや、シュリンプだもんね。しょうがないよね。
「なあクレア、エビフライと塩焼きどっちがいい?」
「お兄ちゃんあれ食べちゃうの!?」
「だってえすえすあーる(笑)だぞ?絶対美味いだろ。」
当然のように調理する気の俺に対し、クレアはあまり乗り気ではないらしい。きっと美味しいのに。
流石に飼い主の前で調理方法の相談は頭に来たのか、デブガキはもはや赤を通り越して赤黒い顔で泡を飛ばしながらエビに攻撃を命じた。
「いけ!シーシュリンプ!あいつらを逆に食ってやれ!!!」
シーシュリンプなのに池なの?え?そのいけじゃない?
まあとにかく料理してやろうか。
【並列斬り】・【ロックパイル】
次の瞬間、シーシュリンプは腹を切り裂かれ、地面から伸びた石の杭に貫かれていた。
「な……なんだと…!?俺のシーシュリンプが一瞬でやられただと!?
くそっ!今度はSSSR連れて復讐してやるからな!覚えてろ!」
「この世界の基準じゃSが何個付こうが俺には勝てねーよ!おととい来やがれ!」
不死になった15回目の召喚は伊達じゃなかったのだ。
さっきのエビを基準に考えると、ここのSSRとやらは向こうの世界じゃ5等級くらいじゃなかろうか。…当時の最高等級は俺の18等級だったけど。
そのまま俺はシーシュリンプを貫く杭を根元から折ると、クレアに向かってこう言った。
「筋切りと串打ち済んだから塩つけよう。塩焼きの方向で。」
周囲はみんな口を開けて呆然としているが、俺には関係ない。
こんな立派なエビの塩焼きとか絶対美味い。よだれ垂れそう。
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