第2章 クレア編

第4話 魅惑の呼び名

「わたしのお兄ちゃんになって!」


 薄暗い部屋の中、明かりは足下の召喚魔法陣だけ。

 薄着の金髪ロリ幼女と二人っきりでドキドキ密室状態!

 お巡りさん!私です!



 ……いかん、混乱のあまり変なこと考えていた気がする。

 とりあえず状況を確認しよう。

 目の前には俺を召喚したであろう金髪幼女。

 ボサボサで薄汚れた髪に顔、服もボロボロで所々ほつれている。

 薄着に見えたのはそのせいだろう。


 あたりを見渡すと部屋自体もどこかの一室というより、ボロボロの物置小屋のようだった。

 今にも壊れそうなドアはドンドンと叩かれ、向こう側からオッサンの怒鳴り声が聞こえる。


「なんだてめぇ!ガキはど…コベラッ」


 俺はとりあえずドアを開けると、オッサンを蹴り飛ばして小屋に戻った。

 5人いたけど、ちゃんと全員蹴り飛ばし、オマケで4人丸坊主にしといた。

 ……ひとりは最初からハゲてたので、前髪だけフサフサにしてやった。


「ところで俺を呼び出したのは君かい?

 なんでお兄ちゃんが欲しいの?」


「あのね!お兄ちゃんは困った時に助けてくれるって絵本で読んだの!」


 そう言って小屋の片隅から一冊の本を持ってくる幼女。

 目を通してみると『さいきょうのおにいちゃん』という、とち狂ったタイトル以外は勇者物語のような本だった。


 昔々魔王が魔物を生み出し、世界が暗闇に包まれていた頃。

 とある小国のお姫様の祈りが通じ、ひとりの青年が現れた。

 お姫様は青年のことをお兄ちゃんと呼び、青年はお姫様を可愛がった。

 お姫様を苦難から救うため、お兄ちゃんは悪徳貴族を蹴散らし、魔物や魔族を蹴散らし、果てには魔王まで倒して平和を取り戻した。

 お姫様は青年との結婚を望んだが、青年は帰る場所があると言い残し、お姫様にネックレスを残して消えてしまった。



 ……ちょっとロリコン入ってるように見えるこの青年の話は、思いっきり俺の事だった。

 7回目か8回目の召喚だった気がする。

 困ったときに助けられるように渡したネックレスは、まさに幼女が握っているそれだった。


「そのネックレスはどうしたの?」


 嫌な予感がしつつも、優しく幼女にたずねてみた。


「わたしの名前はクレア!お母さんもクレアって名前で、クレアって名前の女の子がこのネックレスに祈るとお兄ちゃんが来て助けてくれるってママが言ってたの!」


 確認してみると普通に子孫だった。

 魔法で血筋を辿ってみると、あれから何年たったのかわからないが8代ほど前に知り合いのクレアがいた。


「よし!お兄ちゃんがクレアちゃんをお姫様にしてあげよう!」


 召喚を繰り返し荒んでいった頃、俺の心を救ってくれた幼女の子孫。

 たまには世界じゃ無くて、ひとりの少女を救うのも格好いいかもしれないな!



 ……ロリコンじゃないよ?

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