第4話 元魔王様、お笑い大会でネタを披露する。

4-① それでは第1回トーミ王国、お笑い大会を開始する!

 トーミ王国の円形闘技場。

 普段から活気に満ち溢れることが多いこの場だが、今日は別格なまでに賑わっていた。その理由の1つとしては、闘技場に特設のお笑いステージが設けられているのがあげられる。


 競技場全てを使っても大丈夫なように、そこを全て舞台に改造。さらにはスイッチ一つで床が上下したり底が抜けたり、左右に流れたりの装置が仕掛けられている。その上、中央には高価な音声拡大装置まで置かれていて、これを使えば闘技場の端から端まで届くほど大きくすることも可能だ。

 だがそれらはまだ観客には見えていない。何故なら全体が緞帳で覆われているからだ。本当はつける予定はなかったのだが、シコロモートがどうしても欲しいと駄々をこねたため後付けしたのだ。


 ともあれ見えないのであればそこに見えるのはただのデカい布、それに盛り上がるなど難しいはずである。しかし現実はそうでない。そこかしこで話し声や期待に輝いた目の持ち主がたくさんいた。

 それもそのはず、今この場には都にいる全ての人族がいる。地方で働いている勇者や兵士以外はほぼ全員この場に来ているのだ。

 しかもその地方にいるもの達にも聞けるように魔法で音声通信をしている。後日の再会したときの期待さえ起こさせる今、この騒がしさは当然とも言えた。

 ここぞとばかりに酒を飲む者。少しでも銭を稼ぐためか、自作の飲み物や弁当を売るもの。音声や映像を記録する魔法を内蔵した魔石を販売するものまでいる。


 そんな騒がしい中であったが、壇上に1人の男が立つと少しづつ静かになっていった。

 グーヴァンハ・キビイア。

 軍の最高責任者が立ったことで、普段の訓練を思い出してきたため、条件反射的に1人、また1人と黙り始めた。


「………………」


 完全に静寂が音擦れたことを確認したグーヴァンハは自分で作成した拡声器を片手に、叫び始めた。

「待たせたなお前ら! それでは第1回トーミ王国、お笑い大会を開始する! 本日は一切の遠慮をせず、多いに笑い転げていいぞ! 逆につまんなかったら酒瓶投げてもいいぞ!」


 開始の冗談としてそれは機能できた、いろんな場所からくすくすと忍び笑いが起こる。それに気を良くしたグーヴァンハは欠かせない注意事項を言いながら、彼なりのおふざけを入れるのを忘れなかった。


「まず最初にこれだけは言っておく! 今日やる2人は魔王と元魔王に似ているが、あくまで似ているだからな! 一般人なので戦わない様に! つまりあれだ、『踊り子さんに手を触れないでください!』という奴だ!」


 これも成功した。しかも先ほどよりも。

 今度ははっきりとした笑い声が聞こえてくる。『将軍! それはボケすぎでしょう!』というツッコミすら上がってくる。

 前座兼司会として文句ない働き、グーヴァンハは自分の行動をそうにらんだ。

 だからこそ、いよいよバトンを渡した。


「さあ、そろそろ挨拶もここらで終わりにしよう。お笑い大会堪能しろよ! 爆笑してやれ! それじゃ漫才コンビ、まおまおのご登場だ、どうぞー!」


 幕が上がる。そこにいる2人。

 ギムコとシコロモート。

 そしてほぼ同時、歓迎の拍手が鳴り響く。

 今ここにお笑い大会は開会した。

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