2-⑧ ということは私に乱暴しに来たと……
ショートコント、勇者と魔王
「ここが魔王の部屋か……ここまで色んな苦労があったけど、それも遂に終わりだ、魔王、覚悟しろ!」
(勇者、魔王の部屋の門を開けて入る)
『あ、いらっしゃいー』
「店か! 勇者来てんだぞ!」
『ええ! 勇者様ですか!?』
「そうだよ勇者だよ。お前を倒しに来たんだよ」
『ということは本日の面接希望の方でしたか。これは失礼しました』
「一文字もあってない! 連絡してない!」
『遠路遥々のご労足大変ありがとうございます。粗茶を只今用意しますが、お口に合えば至上の幸福でございます』
「丁寧だなおい!」
『わが社への働きを希望する方を何故無下にできましょうか?』
「だから働きに来てないから! お前を倒しに来てるから!」
『ということは私に乱暴しに来たと……』
「なんか言い方が引っ掛かるな……」
『しかしあまりの強さが分かり、それが高じて憧れる。そして当社への勤務を希望したと……』
「一言も言ってないから!」
『熱い志望理由、ありがとうございます。当方そのような熱い心の持ち主大歓迎です。福利厚生もしっかりしている職場ですので、ご安心下さい』
「結構いいところなのか……?」
『はい、殉職してもアンデッド属としての再雇用できますし』
「超腐れ企業だこれ!」
『引退後は年金生活保証、南の島で余生を過ごしてもいいんですよ』
「やっぱり優良企業……?」
『まあ場所は勇者の故郷近くなんですけどね』
「やっぱり腐れ企業、か……? ああもう何か分からなくなってきた……とにかく俺は働きに来たんじゃない! お前を倒しに来たんだ!」
『そうなんですか? ですが無職なんでしょう?』
「違うよ! 勇者が職業だよ!」
『それでは失礼を承知で聞きますけど、収入は?』
「……それは無いけどさ」
『勤務先住所は?』
「……世界中、かな……?」
『はっはっはっ、面白い冗談ですね』
「ははは……」
『ちなみに私、冗談を言う人間は息してるだけで殺したくなるんですよ』
「怖っ! しかもすごい睨んでくるし!」
『大丈夫です。私の目は相手を殺す呪いがかかるだけですから。絶対解除不可能なだけですから』
「最悪な返答しかしてないんだけど!?」
『ともあれやっぱり無職じゃないですか! 働きましょうよ! お金は入るし好きなことできますよ。高収入だと女の子にも好かれますし』
「条件を聞こうか」
『変わり身はやっ! 何でこんなにがっつくんですか?』
「それがさぁ、勇者なんかやっても女の子にモテないんだよ。モテたくて勇者始めたのに誰も好きになってくれなかったんだ」
『ええー、意外ですね。勇者って強そうだから好かれそうなものなのに』
「可愛い女の子を助けたんだけど、そいつ彼氏がいてさ。『ありがとうございます!』の一言で彼氏の方に走っていってそれっきり」
『切ないですねー、うちの方だとそういうことありませんよ』
「そうなの?」
『だってその彼氏を殺しての略奪婚も可能ですし』
「最低だな! これ以上ないくらい最低だぞそれ!?」
『………………』
「何で突然にらんでくるの!? 怖いから!」
『……「最低」なのに「これ以上」って言いましたよね。もしかして冗談のつもりで……』
「揚げ足取らないで! 比喩だから!」
『とにかく勇者も大変なんですねー。その点私達は大丈夫ですよ。社内恋愛も自由ですしもちろん勤務後の恋愛も結婚も自由です』
「へー、そうなんだ。ちなみに一応聞くけど、もし採用されたら仕事はなにやるの?」
『世界征服ですね』
「するかそんなん! こっち勇者だぞ!」
『ちゃんとお給料も出しますよ。勇者達からお金を奪う現地調達で』
「強盗じゃないか!」
『ちゃんと仕事さえこなしたら休暇も出ますよ。勇者殺しても殺さなくてもその瞬間休暇の始まりです。命があるかないかの違いはありますけど』
「デッドオアアライブ!? 最悪な職場だな!」
『なお達成したらボーナスで世界中の女性はあなたのものになります』
「ここで働かせて下さい!」
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