第10話
*☆*☆*
オ・ロンの東。ザナック山脈から陽が昇る。
巨大な街そのものを囲った厚い壁は、砦のように厳めしい。
朝日を斜めに受けて先頭を行くカリオペが、何かおかしいと気づいたのは、開かれた街の門で馬を預けた直後だった。
朝市の商いを始めようとしている商人たちに、知った顔がない。
警告を発するよりさきに、警護兵一部隊が退路を断った。
「姫をっ!」
牙一族の若者たちに一声かけ、カリオペは目前に迫った兵士を一閃した。
ブンッと湾曲刀が空を裂き、兵士の身体が左右に割れる。
「こちらへっ」
フリアとリュイーヌを囲んだまま、ネッドを先頭に若者たちが移動した。
「待てっ、離れるなっ!」
リュイーヌを追いかけようとするミランディアを、数人の兵士らがはばむ。
「どけっ!!」
使い込んだ長剣をひと振りし、怯む人垣を薙いで、ミランディアは大地を蹴った。
度外れた闘気に、後じさる兵と、迫る兵がぶつかり合う。
混乱する者たちの隙を突き、縦横に剣をふるうミランディアとカリオペ。
ふたりは一気に正面を切り崩し、リュイーヌたちの消えた小路へ飛び込んだ。
追うこともできずに取り残されたメティスを、数人の兵士が囲む。
守り手のないひ弱なメティスを、彼らは甘く見すぎた。
まともな構えもせずに捕らえようと一人が近づいたとたん、メティスはありったけの勢いで体当たりした。
「どけぇっ」
見かけによらず雄叫びをあげたメティスと、派手に倒れた仲間に、一瞬彼らの動きが止まる。
小路に向かって走り出したメティスは、行く手をはばむ者に気弾を打ち込み、ヤムからもらった短剣を振り回した。
肉の弾ける手応えに、ゾッと身の内を震わせながらも、メティスは走った。
うしろを確かめる勇気はない。
もしものときに備えて、ラグーンの味方の店をメティスは教わっていた。
何か不都合がおこったとき、自力でそこへ逃げ込めとカリオペは言った。だが、行き着けるだろうか。
メティスの不安をあおるように、背後から追ってくる甲冑の音が、狭い小路に反響する。間近に聞こえる剣の音も、メティスを怯えさせた。
ふいに前方を遮って、ドアが開いた。
扉にぶつかったメティスを、細い手が引っ張り込む。
「だれっ!」
華奢な腕に抱き込まれ、息がとまった。
「静かにしな、アルラントの兵隊に追われてるんだろ?助けてやるよ」
間を置かず、ドアの外を足音が走り過ぎた。あたりに人の気配がなくなるまで、ふたりはみじろきもせず、じっと寄り添っていた。
「こっち、おいで。音たてんじゃないよ」
身を離した救い主を見上げ、メティスは目をみはった。
痩せてギスギスした身体に粗い麻のトーガをまとい、白熱する炎のような青い髪を背中に垂らした少女。
ひと目見た瞬間。メティスの心臓が、音をたてて跳ね上がる。
あまりにもまぶしくて、心が溶けてゆくような、あたたかさに満たされる。
唖然として、穴のあくほど見つめている様子を嫌悪と勘違いして、たちまち少女は険しい表情になった。
「あたいじゃ、不満ってわけだ。ふんっ、助けてやるんじゃなかったよ」
あわててメティスは、頭を振った。
この少女に嫌われたくない。と、鼓動が激しくなる。
メティスの胸に、不思議な想いを焼きつけた少女。
くるくる変わる表情から、目が離せない。
しどろもどろになりながら、メティスは言葉をさがした。
「すみません。助けてくださって、ありがとうございます。失礼なことをしました。あなたのような髪を、はじめて見たものですから。田舎者ですので、ゆるしてください」
嫌みや皮肉から出た言葉ではないと、少女の直感が受け入れた。
すぐさま険悪だった顔がやわらいで、やさしい笑みになる。
「あんた、変わってるね。まぁいいや。こっちへおいで」
導かれるまま、細い階段を下って行く。
降り着いた地下の部屋は、汚物の山だった。
「こっちだ。あんたを追っていた兵隊たちも、ばかじゃない。すぐにここいらへんの家は、しらみつぶしにされるよ。その前に逃げなくちゃ、あたいまで処分されちまう」
床にあいた四角い穴からは、猛烈な異臭が立ちのぼっていた。
息をつめて覗きこんでも、ゾッとする闇が見えるだけだ。
穴の縁から器用に身体を滑らせた少女は、ぶらさがったままあごをしゃくってメティスを招いた。
「この川は、深くない。安心しな。あたいユタ」
かがみこんだメティスは、凝り固まった臭いに吐きそうだった。
「わたしは、メティス。ここの他には、逃げ道はないのですか?」
贅沢を言うなと、ユタの目が無言の返事をした。
「わかりました」
ユタの姿が消えてすぐ、下の方で水音がした。
この穴は深くない。
恐々縁にぶらさがり、決心のつかない自分に言い聞かせる。
「だいじょうぶだ。わたしは、だいじょうぶ」
呪文のようにつぶやき、メティスはぶらさがっていた手を離した。
足から水に飛び込んだメティスを、ユタはうまいぐあいに抱きとめてやった。そうしなければ、膝までしかない下水の流れに溺れていただろう。
「おいで」
流れに沿って歩くユタの背中が、闇の中で幻のように浮かぶ。
ほっそりした手のぬくもりと、狂いだしそうな臭いで、メティスは現実なのだと自分をはげました。
ユタに引かれ、片手で壁を探って行くが、ヌメヌメした手触りや指の沈み込む感触に、情けないほど悪寒が走る。
「もうすぐ出口だよ。がんばりな、メティス」
「はい」
素直な返事に、ユタは口元をほころばせた。
畜人(スラッジ)相手に同等な言葉を交わす者など、このオ・ロンにはいない。
いや、この大陸のどこを探したって、いるはずはない。なのに、メティスは違和感なくユタを信じ、導かれるまま従っている。
「あんた、ほんっとうに変わってるわ」
ユタに手を引かれながら、メティスは座り込みそうな自分をはげまし足を動かした。魂駆けしそうなほど凄まじい臭いの中で、生きているのが不思議だった。いや、歩いているのが。
「着いたよ。いま戸を開けるから、じっとしてな」
縄のきしむ音がして、ポッカリと頭の上が明るくなる。
目の前に下がっている縄ばしごの途中で、ユタは早く来いと手招きした。
「助かった」
やっと拷問から逃れた心地で、メティスは縄ばしごを伝い登る。
這い上がったところは、貧しい集合住宅の真ん中だ。
地面にあけたゴミ投棄用の穴が、下水道につながっていたらしい。
「急ぎなよ。だれかに見られたら、面倒だ」
大急ぎで路地をぬけるふたりのあとから、イスランが這い上がって来る。
辺りを探り、イスランはそっと二人のあとを追った。
日干し煉瓦を積み上げ、泥で塗り固めた小屋に、ユタはティスを案内した。
窓はなく、入り口をボロ布でふさいだ小屋だ。
巨石造りのオ・ロンの街並みの中で、畜人(スラッジ)たちの住居は、家畜小屋よりひどい状態だった。
「ただいま、メイベル」
薄暗い小屋の隅で、小さな影が寝藁にくるまっていた。
ユタよりも年下の少女は、身動きひとつしない。
熱をもった甘酸っぱい匂いが、メティスの鼻孔を刺す。
ラジェッタの貧しい村で、ルーウェン恩師が建てた治癒院は、いつも病人独特の匂いに包まれていた。
病が発する匂いだと、メティスは恩師に教わった。
「病気なのですか」
ユタの顔が、苦しげに歪む。
「そうだよ。もうすぐお迎えが来るって、呪い婆が言ってた。お医師も薬師も、畜人なんか助けてくれないもの」
畜人だけではない。
貧しい人々にも助けはないと、メティスは胸の中でつぶやいた。
医師も薬師も、富める者のためにいるのだろう。
貧しい者や弱い立場にいる者を、救おうとする医師がいても、与える富を持たねば救い手にはなれない。たとえ癒やしの力を授かっていても、己自身を養う糧は必要だ。
メイベルと呼ばれた少女のかたわらに膝をつき、メティスは燃えるように熱いほほへ手を置いた。メイベルの腕に巻いた布から、異臭がする。
「どうしたのです? 剣の傷のようですが」
布を取り去った腕は、弾けるほど腫れあがり、血膿にまみれて腐りかけていた。
「飼い主に、斬られたんだ」
なぜと問いかけて、メティスは口をつぐんだ。
悔しそうに唇を噛んだユタの目に、涙がにじんでいる。
「まさか」
なんの理由もなく、ただの気まぐれから飼っている畜人をなぶり殺す者がいる。
そんなことを、ラジェッタで聞いた。
その時は信じられなかったが、本当だったのだろうか。
「どこまで出来るかわかりませんが、癒やしをかけてみましょう。わたしにもっと力があれば、治癒できるのですが」
かざそうとしたメティスの手を、ユタは鋭く跳ねのけた。
そうしてメティスの胸ぐらを掴み、かすれる声を絞り出す。
「余計なことをするなっ。このまま死なせてやるほうが、メイベルは為なんだ。こんな、獣より惨めなくらしなんか、だれがしたいものか。あたいたち畜人は、生きている事が罪悪なんだ。だれからも忌まれる物なんだ。だから、死ぬのが、しあわせなんだ」
死ぬのが、しあわせ。
大声を張り上げず、叫ぶでもなく、ユタは囁いた。
くちびるを噛みしめ、いまにも狂いだしそうに顔を歪めているユタに、メティスは押さえようのない怒りをかきたてられた。
ユタに、この少女に、こんな苦しみを背負わせるなんて、許せない。
あれほど雄々しく、強い態度でメティスの前に現れたユタ。それがこんなにも脆く、か弱い存在だったとは。
家畜以下の生活がどれほど厭わしくつらいものか、メティスにはわからない。だが、生まれながらに不浄な者など、この世に生み出されるはずはない。
すべての命には意味があると、亡くなったルーウェン師も説いていたではないか。
師に教えられるまでもなく、目の前で声もなく泣いているユタを、メティスはどうしても助けたいと思った。
だれかに助けてもらうのではなく、自分のこの手で守りたい。
こんな酷い涙など、流させたくない。
この思いは、どこから溢れてくるのだろう。
メティスはそっと、ユタの手をとった。
苦しげな面を縁取る青銀色の髪の、なんと美しいことか。
「聞いてください、ユタ。この世に生を受けた以上、無駄な命など存在しないのですよ。皆それぞれに、必要な命だからこそ、生まれてくるのです。王家に生まれようと、貧しい村に生まれようと、人としての尊い命を、神はくだされたのですから」
ユタは身をもがいて、メティスの手をほどいた。
見つめ返すユタの目に、鋭い憎悪がある。
「それは、人に言う言葉だ。あたいたちは畜人なんだよ」
「ユタ 」
言い返そうとするメティスを遮って、入り口の布が引き破られた。
傭兵の身なりをした男がひとり、小屋に踏み込んで来る。
血走った目をして、ひどく酒臭い男だ。
喉元を押さえたユタが、目を見開いて息を飲む。
「ユタと、メイベルだな」
男の目が、縮みあがったユタから床のメイベルに移り、立ちつくすメティスの上で止まる。
「よそ者か。ガキに用はねぇ、とっとと消えな」
腰のベルトにさした短剣を引き抜き、男はメティスを無視してユタと向き合った。「ご主人様が、おまえたちに飽きたそうだ。わかるな?」
胸ぐらを掴まれ、ユタは観念して膝をついた。
脱力した身体が石になり、激しく震える。
『これで、みんな終わるんだ。惨めなくらしも、みんな 』
「やめろっ!!」
短剣をふり上げた男の腕が、メティスの怒声に動きを止めた。
ユタを助けたい。
夢中で引き抜いた短剣を構え、一直線に切り込むメティスを、男は軽く受け流し、身体ごと弾き返した。
床に叩きつけられたメティスの手から、短剣が転がる。
起き上がろうと上げたこめかみに蹴りを受け、気が遠くなる。
ユタを死なせたくない。
こんな、救いのない悲しみの中でなんか。
途切れそうな意識の狭間から、ユタへの思いがほとばしった。
その思いが、萎えそうな身体を突き動かす。
「邪魔するなっ」
男の膝を鳩尾に受け、床に沈んでもなお、メティスは必死で男の足にしがみつく。
どんなに非力でも、今ふたりを守れる者は自分しかいない。
「うっとうしい野郎だっ」
メティスに向け逆手に持った短剣を振り上げた刹那、ハッと男は身体を堅くした。
自分の首筋に、真新しい血糊で汚れた長剣が、突きつけられている。
恐る々る顔をめぐらし、男は背後にいる者を流し見た。
薄暗がりの中で、血を思わせる赤銅色の髪が目に飛び込んでくる。
同時に、凍えるような殺気も男を捕らえていた。
くの字に身体を折り曲げ、なんとか顔をめぐらしたメティスは、長剣を構えたイスランを見つけてホッと目を伏せた。
『イスラン様が、なぜ、ここに?』
短剣を取り落とした男の膝が、音をたてるほど戦慄く。
「よせよ。こいつらを庇う気か? こいつらは、畜人なんだぜ」
「それが、なんだと言うのですか」
男は自分の首筋に、ねっとりした刃があたるのを感じて、あわててユタから手を離した。人を殺したばかりの剣が、自分の首に張りついている。それだけで、身体中を恐怖が駆けめぐる。
「おまえのような者を見ると、むしずが走ります」
整った顔立ちに無表情な目をして、イスランはほんの少し刃を滑らせた。
わずかな痛みが、恐れを抱いた男には致命傷に感じられた。
「頼む、殺さないでくれっ」
冷や汗を流し、腰を抜かさんばかりに男は哀れな声を上げていた。
「おかしなことを言う。平気で人の命を奪ってきたおまえが、なぜ、命乞いなどするのですか。殺される順番が、おまえに巡ってきた。ただ、それだけのことだ」
長剣が跳ね上がり、柄がしたたかに男の後ろ首を打つ。
途端に断末魔の呻きを上げ、男は床に崩れ落ちた。
なんとか上体を起こしたメティスに、イスランは暖かな笑みを向けた。
ラジェッタにいた頃とくらべ、少年は数段男らしく見える。
「強くなりましたね、メティス」
イスランを見上げ、メティスはまぶしそうに目を細めた。
命がけでラジェッタを後にしてから、幾度もメティスを救った強い気配が、イスランを包んでいる。
不思議なくらいに追っ手から逃げ延びられたわけが、メティスの中ではっきりと形になった。
「わたしが、生きてここまで来られたのは、イスラン様が守ってくださったからですね。ずっと、わたしを守って」
イスランの穏やかな目に答えを見つけ、メティスはほがらかに笑んだ。
だらしなく気絶している男を見下ろし、ユタは呆然としていた。
イスランがメイベルの傷を治癒の呪文で回復させるのさえ、ただぼんやりと眺めていた。飼い主から不要だと宣告された以上、畜人に生きるすべはない。
「これで、あたいたちは、生きられる場所を失ったんだね」
魂がぬけたようなユタの手をとり、メティスは曇った目をのぞき込んだ。
あの時、なぜユタが助けてくれたのか、メティスにはわからない。
城の兵隊たちに追われているのを見て、気まぐれに手を伸べただけなのか。たぶん、今のメティスが助けたい、守りたいと思う気持ちとは違っているはずだ。
ひょっとして、迷惑がられているかもしれない。ただ、どう思われようと、ユタたちを捨てて行けない気持ちに、メティスは忠実でありたかった。
この世に生を受けたことを、悲しんでほしくない。
授かった命そのものを、無駄な物だと呪わないで。
生きるのに辛い毎日でも、何か、わずかでもいいから喜びを見つけてくれるなら。お願いだから、ユタ。
「ユタ。生きられる場所は、なくなったりしないよ。これから生きる場所を、探しに行けばいいんだから」
力のない目で見返すユタに、メティスは笑顔を向けた。
先のことを考えると、心細くて不安ばかりがもたげてくる。けれどユタには、笑顔だけを見せていたい。
「だいじょうぶだよ、ユタ。いっしょに行こう」
じっと見つめるメティスに、ユタがくちびるをふるわせた。
笑おうとして、泣いてしまうユタ。
「あんた、ほんっとうに変わってるわ。アルラントの兵隊に追われてるくせに、あたいみたいな畜人を連れて行こうなんて。あんたが捕まったら、あたいも一蓮托生だね。あんたより、畜人には酷い罰が待ってるけど」
おおきく息を吐いて、ユタはメティスの胸にすがりついた。
「でもいいよ、あんたみたいな人といっしょなら、どんなことも怖くない。あたい、なんでもできそうだよ」
メイベルを抱き上げ、イスランがうなづいた。
「ひとまず、親父殿のアジトへ行こう。後の事は、それからだ」
イスランが親父殿のアジトと言った収穫亭は、メティスが教えてもらった酒場だった。
あれから下水道に戻ったメティスたちは、イスランの案内で、収穫亭の地下にある 汚物処理部屋までたどりついた。
ここからは、オ・ロンにあるラグーンの領事館まで、下水道とは別に地下道が設けられている。もし、領事館がなんらかの襲撃を受けたとしても、脱出口は常に確保せねばならない。これは、長老レムランの方針だ。昼すぎには到着するはずのレムランを待って、メティスたちは水浴びをし、衣服をあらためた。
領事館に着けば、はぐれた仲間のこともわかるだろう。
亡き恩師ルーウェンの遺言も、大地の宝珠を封印してもらえば達成される。
ラグーンの火の宝珠はアルラントに奪取されるが、大地の宝珠さえ封印できれば、四宝の力は発動しない。
幸い大地の宝珠を追っていた暗殺者は、ディルを除いて全滅した。
ラグーンへ向かっていたことは知られているだろうが、カタラクトからの足跡は消えているはずだ。
念のため長老レムランは、カタラクトから四方の村や港町。はては島国のシムへ渡る船の中まで、大地の宝珠を持つ者の消息をばらまいていた。
宝珠を失ったラグーンに、もうひとつの宝珠が存在すると判明するまでには、長い時間がかかるだろう。
メティスたちが衣服をあらためている頃、ユタは赤狼族の女に捕まって、むりやり風呂に押し込められていた。
はじめての経験に、死にそうなユタの悲鳴がひとしきり続く。
メイベルを休ませた部屋で待っているメティスは、落ち着かなく立ったり座ったりを繰り返し。その様子がおかしくて、思わずイスランが苦笑いする。
そんな中で、メイベルは意識を取り戻した。
「気がつきましたか? メイベル」
柔らかな寝台に横たわり、メイベルはどうでもいいように辺りを見回して、ユタを探す仕草をした。すべての感情を失い、空漠として何も映さないメイベルの目は、岩山に穿たれた洞窟のようだ。
どんな仕打ちをすれば、ここまで無表情にできるのかと、この子の主人だった者に問いつめたくなる。怯えもしない幼子を見おろして、イスランは囁いた。
「ユタなら、もうすぐここに来ますから。安心なさい」
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