運命の
俺はゴクリッと息を呑み、全神経を笑夢の言葉に集中させる。
「いいって…!」
彼女は満面の笑みで言った。
「っしゃ!」
俺も、恐らく満面の笑みだっただろう。彼女みたいに素敵な笑みでは無くとも、全力で笑った。
そして、ガッツポーズもした。
「両親は元々その方が良かったみたい。私が、したくなかったからあまり言わなかっただけなんだって。亮輝くんに感謝してたもん!」
「俺はただ、笑夢に生きてほしいだけだから」
笑夢は嬉しそうに笑って言った。
「へへ、ありがとう。それでね、移植には臓器を提供してくれる方が居るじゃないですか…その方々の中からコンピュータで一番合う人が選択されて、本当に奇跡的に私になったわけです…
その子の親さんに、会いに行こうと思うの。県外になっちゃうんだけど、やっぱり会っておきたくって…」
なるほどな。たしかに、会っておいたほうが良いかもしれない。
「本当に、奇跡ですよ…年間で臓器提供を待機されている方の中で実際に提供されるのは1年間で2%くらいしか居ないんだそうです。それなのに…」
「そうだな。そこは、感謝だ」
本当に、感謝しなければいけない。
いくら眠っているからと言って、臓器提供を選択するのは、とても勇気がいることだし凄いことだろう。
俺にはわかろうとしても分からないだろうし、これから先も同じ体験をしないと分からないだろう。
それくらい、凄い決断をしてくれた方達だ。
そして移植が成功したら、その子は笑夢の中で生き続ける。
ただ、実際にまだ生きている人間を殺して命をもらうというわけで、笑夢もこう、なにか大きなものを背負って生きることになるだろう。
「俺も一緒に行くよ」
「本当!?やっぱり一人じゃ心細くって…ありがとう。
あ、でも県外だけど大丈夫ですか?」
「あぁ、金は多分大丈夫」
これまで無駄遣いせすに貯めておいて良かったみたいだ。
まぁそこまで使わないと思うが、電車賃やご飯代など、色々必要になるだろう。
今までは使いたくなかったが、不思議なものだ。笑夢のだめに使えると思ったら、嬉しい気がする。
「…明日、さっそく行きませんか…?」
「明日?学校あるけど…別にいっか」
幸い今まで1度しか休んだことはない。明日や明後日休んだところでとくに響かないだろう。
「早く会っときたくて…ごめんなさい!」
「いや別に大丈夫だ。じゃ、色々決めようか」
______________
というわけで次の日、俺は学校をサボって笑夢と待ち合わせをしていた。
朝6時にだ…眠い…
「お待たせしました!」
俺がぼーっとしていると、後ろから肩を掴まれた。ちょっと怖かった。
振り向くと、首元にも布がある白いセーターにグレーのチェックのスカート、上着は茶色と黄色を混ぜたみたいな…色のコートを着た笑夢が立っていた。
あの…漫画家が被っているイメージが強いぺったんこな帽子も被っていた。
「かわい…」
思わず本音が漏れていたらしく、笑夢の顔が…いや、耳までが真っ赤に染まる。
「い、行こっか…!」
「おう」
笑夢によると、電車で乗り換えをはさみ、5時間かかるらしい。なかなか遠い。
電車の中でコンビニで買っておいた朝ご飯を済ませ、また他愛もない話をする。
何気にこの話の時間がすごく楽しい。
いつの間にか2時間も経っていたらしく、乗り換えする駅に着く。
「向こうついて病院に行ったあと、私がやりたいことに付き合ってくれませんか?」
「ん?あぁ全然いいよ」
こんな時のため…というわけではないが、お金は多めに持ってきてある。
一晩泊まるくらいなら余裕だ。
俺達はその後、いつの間にか寝ていたらしい。
パッと飛び起きると幸い、次が降りる駅だった。
肩に重みを感じで横を見ると、笑夢が涙を流しながら、寝ていた。
俺は、そっと彼女の手を握った。
着く直前に彼女を起こし、駅から出て病院まで歩く。
外はそこそこ寒かったが、朝6時よりは大分マシだったのと、南の方に来たから恐らく俺達の住んでる街より温かい。
「見えてきましたね…」
「あぁ…でかいな」
笑夢が居る病院もでかいが、ここは更に大きかった。
「ここに…私の心臓になる子が…」
笑夢の瞳が、不安そうに揺れる。俺はまた、彼女の手をそっと握った。
彼女は少し驚きながらも、その手をしっかりと握り返してくれた。
もう少し歩くと、俺達は病院に到着した。
12時ぴったりだった。
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