出会い
「すぅ…はぁ…すぅ…はぁ…」
俺達は病室の前にいる。
流石に緊張するのだろう。さっきからずっと胸に手を添えて深呼吸をしている。
「すぅ…はぁ…」
少しでも落ち着ければと思い、俺も彼女と一緒に深呼吸してみる。
彼女は少し驚きながらも、少しするも落ち着いたみたいで、小声で「ありがとう」といい、遠慮がちにドアをノックした。
「はーい」
部屋の中から、あまり感情が読み取れない女の人の声が聞こえてきた。
彼女が遠慮がちにソロソロとドアを開ける。
病室の中には、綺麗な顔した女の人と優しそうな男の人、それから笑夢と同じくらいの女の子が居た。
女の子はベッドで寝ていたから、あの子が恐らく…
「は、はじめまして!わ、私は、豊丘笑夢って言います!きょ、今日は、その…あの…」
泣いては居なかったが、極度の緊張でパニックになったのか、固まって押し黙っでしまう。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。僕は、
気を遣ってくれたのか、磯山さん…誠吾さんが優しく声を掛けてくれた。
「そうよ。提供を決めたのは、私達自身と、それからこの子本人なんだから。あ、私は磯山
私達自身と…この子本人…?
疑問に思いながら、俺も自己紹介をする。
「付き添いの、浅間亮輝です。よろしくお願いします」
簡潔に名前だけ言い、頭を下げる。
すると笑夢も落ち着いてきたらしい。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
というと、丁寧に頭を下げる。
ご両親と未来さん自身が決めたってどういうことなんだろうと思っていると、希さんが話しだした。
「提供はね、私達もなんだけど、この子自身が決めていた事だったの。
臓器提供意思表示カードって分かる?この子がそれを書いていてね。脳死した時に、すべて提供するって。
もちろん本人の意思が1番大切だけど、私達はなかなか決心がつかなかったの…」
希さんは、我慢の限界が来たのか涙を流した。
「もしかしたら…って思ってしまうんだ。でも、病院の先生と話したり、実際に臓器提供してもらった子と話したりしていくうちに、覚悟を決めたんだ」
誠吾さんが、希さんの跡を継いで話しだした。
その後も、色々な思いがあったことや未来さんについて、沢山話した。
気がついたときには、僕も、笑夢も泣いていた。
未来さんに、感謝した。こんな言葉では表せないくらい、本当に。
「図々しいと思う…けど、1つだけお願いがあるの…」
希さんは、僕ら二人に耳打ちした。
「…分かりました。もし、生きていたら、手術が成功したら、必ず!」
笑夢が目を大きく見開いたあと、また大きく頷いた。
磯山夫妻に見送られ、病院を出た。
いつの間にこんなに話したのか、もう4時を回っていた。
「良い方達だったね…」
「あぁ…笑夢。頑張ろうな」
「…うん!」
______________
それから僕らは夕食を済ませ、お風呂と寝泊まりだけ出来るビジネスホテルに泊まった。
このまま帰ると、12時を回ってしまうからだ。
そんな時間、病院には入れない。
笑夢が何故か同じ部屋ということを譲らないので、同じ部屋になった。
もちろんダブルベッドが1つあるだけだったので、俺はソファーで寝ようとすると、めちゃくちゃ怒られた。
一緒に寝ないといけないらしい。
とりあえず先に笑夢が風呂に入った。
その間に俺は、飲み物でも買いに行くことにした。
二人分の飲み物を買い、部屋に戻ると笑夢はもう風呂から出ていた。
続いて俺も入り、その後は特に何もせず、二人ともベッドに入った。
泣き疲れたのか、俺達はすぐに眠りに落ちた。
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