第21話 堂々巡りのリハーサル

 結局俺と片桐は二人がかりでリョーマの勉強を見る事になり、結構な睡眠不足のまま三人揃っていつものスタジオへと足を運ぶ。「お、リョーマが遅刻してないとか天変地異の前兆か?」先に来ていたタァ兄はケラケラと笑う。

「俺の家で片桐と朝までリョーマに勉強教えてて仮眠くらいはしたけど、基本そのまま来たって感じ」欠伸を噛み殺せずに答えれば「そりゃぁお疲れ」と完全に同情しているトーンでタァ兄は俺と片桐に労いの言葉を掛ける。「ホントだよ」「だよねぇ」俺と片桐が口々にそう言って頷けば、リョーマが「俺は途中でやめましょうよって言ったんすよ!?」と喚く。

「イヤ、あの状態でやめたら俺らの努力が水の泡になりかねなかった」

 そんな話をしていれば、アカネも時刻丁度にスタジオのドアを開けて中へ入ってくる。

「ウッソ、俺最後?」

「リョーマがシュン坊の家で片桐クンと三人で宵っ張り勉強会してたらしいぜ」

 遅刻常習犯が先に来ている事を信じられないというように驚いた顔で中に入ってきたアカネに、タァ兄がその理由を語る。「そりゃ、結城さんも片桐さんもお疲れさまで」素直な感想と労いを口にするアカネにリョーマは何かを言いたげにするが、ぐっと堪える。ここでケンカされても困るから、すかさず「さ、全員揃ったし一気に六曲、やろうぜ?」と声を掛け、各々ウォームアップで音を出し終えればタァ兄のカウントで曲が始まるのだ。

 最後の曲であるバードランドの子守歌まで一気に駆け抜けて、最後の音をきちんと締めればチラリと時計を見る。「ちょっと話すとしても、もう一曲位行けそうな感じ?」経過時間を見て、そう口にしてみれば「確かに」と片桐からも同意を貰えて。

「どうせ本番になったらもう少しテンポ上がるだろうし」

「行き成り倍テンだけはやめてよな!?」

 同意のようでいて、恐ろしい犯行予告の可能性も存在するタァ兄の言葉に思わず俺は叫びながらも、全体的にテンションが上がればいつもよりテンポが少し上がるのは理解できる。それなら最後にもう一曲くらい追加できるかな? なんて思っていれば「もう一曲行けそうな感じ?」とリョーマも俺が考えていることと同じことを口にする。

「行けそうですよね」

「行けるんじゃないかな?」

「行けなかったら次のライブでやりゃぁ良いし」

 リョーマの言葉に他の三人も口々に同意を示せば、「サラッと出来るの一曲やっとこうぜ。シンプルにセッション位な感じで最後に出来るヤツ」と俺もリョーマの言葉に応える。

「でも何やるんだ?」

「バードランドの子守歌で締めた後でしょう? しっとり行くか明るく締めるかかな?」

 タァ兄と片桐の疑問に「サニーやりたいんだけど」と返せば「じゃぁ後はテンポだな」とタァ兄は頷く。原曲通りのしっとりとしたブルース調にするか、テンポを上げて明るいファンク調で行くか、だ。

「やっぱりしっとりのまま締める?」

「いやでもボッサでも良いかも」

 片桐の言葉に唸りながら返せば「サニーはどうやっても良い感じで行けるんだよなぁ」とタァ兄もため息交じりで言葉を重ねる。

「これはもうやってみるしかないな」

「オッケー、アカネもリョーマもサニーなら行けるよな?」

 俺の言葉にタァ兄が若干蚊帳の外だったアカネとリョーマに声を掛ければ「勿論。まずはどんな曲調で?」「じゃぁ俺ファンクが良い!」と二人一斉に話し出す。二人がケンカを始める前に「じゃぁまずファンク!」と声を出せば、すかさずタァ兄はカウントを取る。

 こうしてサニーを何度も何度も色んなテンポやアレンジで試した俺たちは、結局ボッサで落ち着いたまま終わろう。そうしよう、なんて何のひねりすらない着地点に落ち着いた。「な、何とか形になったな……?」七回目のサニーで「もうどうにでもしてくれ!」と叫んだタァ兄は疲れ切ったようにそう口にする「後は前日に流してみるだけ……だよね?」片桐も少しだけ訝し気な調子で俺に尋ねる。俺は俺で流石にサニーだけを色々な曲調で演奏し続けるのには疲れ果てて、「そうしようぜ……?」と答えるのだ。

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