第67話 開幕
前夜祭から一晩明け、交流戦は開幕した。
開会式は前夜祭ほど派手に行われることなく、淡々と進む。
来賓の紹介などもあったが、交流戦の特性上、選手達が強くしているのは来賓よりも、むしろ一般の観客席に紛れている魔法関係者だ。
逢羅成島は国の施設であるため、魔法高校交流戦の観戦だからといって簡単に訪れることができる場所ではない。
だが、一般人でもこの島へ観戦しに来る方法はある。それが一般向けの抽選だ。
魔法高校の交流戦というのは、普通高校の甲子園大会のようなもので、テレビ放送もされているが、どんなジャンルにもマニアと呼ばれる人はいる訳で、厳しい抽選をくぐり抜けて逢羅成島へやってくる一般客もいる。
特に、今年の交流戦は「黄金世代」が入学してきて初の交流戦だということもあり、倍率が高い。
名古屋校の「七元素」コンビをはじめとした3人の1年生「七元素」。そして、光の「七元素」——光阪恵。
その他にも多くの実力者が鎬を削ることとなる今年の交流戦は、例年と比べてもハイレベルなものになると予想されていた。
また、一般向けとは別の抽選枠として、魔法高校の学生の分もある。
選手やサポーターとしては選ばれなかったとしても、応援に来たいという学生は確かにいる。
そういった者達のために各校で一定数の学生が、毎年観戦にやってきている。
彼のように。
「蒼真! 応援に来たよ!」
「ありがとう、修悟。それにしても、よく抽選に通ったな」
「そうだね。まさか僕も、当たるとは思わなかったよ。僕だけ選手に選ばれなかったのは、実力がないから仕方ないとはいえ、ちょっと寂しかったから、来れてよかった」
「直夜やリサは、特に修悟がいないのを気にしていたからな。後で会いに行ってやれば、喜ぶんじゃあないか?」
普段学校で一緒に過ごすメンバーのうち、修悟だけが会場に来ることができない可能性があったことを友人達はどうにかできないものかと悩んでいた。それは蒼真も同じであった。
無事に全員が集合することができ、顔に出してはいないが、内心蒼真もほっとしていることだろう。
「今は蒼真1人だけ? 直夜達はもう試合準備中?」
蒼真と修悟がいるのは、1年生男子の競技会場の観客席だ。
この日この会場で試合を行う直夜がいないのは当然として、澪達までもがいない状態であった。
「直夜はウォーミングアップ中だ。東京校は第2試合だから、まだ時間はあるぞ。女子チームは志乃と白雪の付き添いで、ウィッチ・クラフトの課題を確認に行っている。おそらくすぐ戻ってくるはずだ」
開会式終了後、1番に始まる競技がウィッチ・クラフトだ。
マシンの製造から魔法の構築まで、魔法高校で学ぶ全てを約2週間かけて表現する。
課題が発表された直後からマシン製造チームは動き出している。
「ほら、言ってるうちに戻ってきたぞ」
そう言って蒼真が指差す先から、2人の女子学生が歩いてきていた。
「シューゴ! 来れたのね! これから、みんなで交流会を過ごせると思うと嬉しいわ!」
「うん。みんなを応援に来たよ。リサさんも競技頑張ってね」
客席の階段を走り降りて修悟の元へ辿り着いたリサは、息を切らしながら満面の笑みで言う。
「白雪と志乃、それに獺越がいないようだが、あいつらはもう競技の方に行ったのか?」
課題を見に行くために別れた人数と、帰ってきた人数が合わないことに蒼真が気がついた。
「シノとシラユキは同じ競技の先輩に連れられて行ったわ! どんなものを作るか話し合うんだって!」
「真凛は稲荷さんに呼ばれていったわ。しばらくは戻ってこないでしょうね」
「そうか。ならいいんだ。この島は広いからな、迷子になったとかではないなら心配することもないだろう」
「蒼真は優しいんだね。それとも、生徒会としての責任感?」
「直夜は高校生になっても、目を離せばどこか知らない所に行って戻ってこないからな。そんな奴と長年一緒に過ごしてきた癖みたいなもんだ。あまり気にしないでくれ。ほら、座れよ。席を空けておいた」
ちょうど競技が見やすい位置に蒼真が確保した席の数は7つ。競技場へと戻ってこなかった3人分の席が空いてしまったが、足りないことならなかっただけいいだろう。
「そろそろ始まるみたいね! ナオヤはもう出てくるの!?」
「直夜が出るのは第2試合だから、まだよ。今からは名古屋校、岡山校、札幌校の試合よ。直夜が喧嘩を売った、例の風の『七元素』がいる学校が出てくるから、よく見ておいたほうがいいかもしれないわね」
彼らの眼前で行われる競技名は、「シェパード・ボール」。
直径20cmのボールをゴールへ運び、得失点差で競うという、サッカーに似たシンプルなルールである。ボールに触れてもいいという、異なる点はあるが。
加えて、羊飼いに見立てた司令塔3名が目隠しをした牧羊犬役のプレイヤー10名に指示を出さなければならず、計13名の連携が必要となる競技だ。
刻一刻と変わりゆく戦局を冷静に分析し、指示を出さなければならない司令塔も難しい役割であるが、その司令塔の指示のみを聞いて目が見えない中で動かなければならないプレイヤー達も、司令塔とはまた違った難しさがある。
暗闇のどこから敵プレイヤーがやってくるのか指示が遅れたり、無ければわからず、衝突の恐怖に打ち克たなければならない。
それに、ボールはプレイヤーが持っているとも限らないのだ。
魔法で操作すれば、触れることなくゴールへと運ぶことができる。
この競技に求められるものは、自分から離れた位置であっても正確に魔法を発動できる技能である。
1年生男子の競技であるシェパード・ボールは、毎年ロースコアの対決になることが多い。
魔法高校に入って半年足らずの魔法使いでは、魔法技能のセンスはまちまちで、得点できるまでの精度の高い者など、一握りしかいないからだ。
しかし、今年の交流戦は一味違う。
シェパード・ボールは、第1試合から1人の学生により波乱の展開を迎えることとなった。
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