第58話 都を守る者

 蒼真達の知られざる活躍により、京都に日常が戻り始めた。

 外部からの侵入者のいなくなった街で、道を外れた魔法使いが違法薬物を手に入れる方法は無くなっていた。

 しかし、すでに服用済みで体調を崩していた者は一定数存在していた。

 彼らは陰陽師の保護の元で病院に運ばれ、治療を受けているが、全快となるには時間がかかるだろう。光の手に入れた薬物の解析が終わり次第、より効果的な治療に移る予定だが、既に魔法能力に障害が出ている場合、元のように自由に魔法を使うことはできないだろう。

 身体と魔法能力の治療は別物である。身体はドナーさえ見つけられれば移植により機能を取り戻すことが出来る場合があるが、魔法能力に関しては替えが効かない。

 だが治療を行わない訳にはいかず、薬物の解析が急がれたため、蒼真や稲荷も手伝うこととなった。

 そんな中、最も重要でハードな仕事を任されていたのは光だ。

 彼の仕事は京都を守る結界の強化だ。

 安倍晴明によって作られた結界。今まで作成者以外、誰にも触れられてこなかった領域に踏み入る訳である。到底、一筋縄ではいかない。

 しかし、これは光にしかできないことだ。

 十二天将を全て操る、安倍晴明に最も近づいた陰陽師。

 そんな才能の持ち主であっても、伝説の陰陽師を超えるのは難しいようだ。


「こんなんどうやったら解決できんねん……。蒼真、手伝ってくれや」


「無理です。俺は結界術、見よう見まねくらいしか使えませんし」


「アンタが苦しんでるとこ見るん、ほんま愉快やわぁ」


「……安倍晴明本人連れてこんと無理やろ、こんなん」


「何言ってるんですか。無理でもやってください。光さん以外で誰が出来るんですか」


 後に、光は人生で1番頭を使った時間はこの結界を編み出した時と語るのだが、長い時間をかけたとはいえ結局のところ改良に成功してしまうのだから大したものである。

 一方、今回の事件では出番の無かった直夜と澪であるが、2人は変わらず日々の訓練に明け暮れていた。

 敵との直接的な戦闘は無かったものの、彼らに課された任務は修悟達、クラスメイトの保護だ。

 その責任を放ってまで戦いに参加しようとするのならば、組織の人間として失格である。

 護衛対象である彼らはというと、事件が終息したのを確認した上で東京へ帰っていった。

 だが、別れの時間はほんの少し。

 魔法高校交流会開催日まで、あと数日にまで迫っていた。

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