第4話 生徒会
翌日の朝、蒼真は家の地下室にいた。
この時代、家に地下室があるのはごく一般的な事となっている。
その地下室で彼はある作業をしていた。そこに、もうすでに制服に着替えて身支度を済ませた澪が入ってきた。
「朝早くから何をしてるの?」
「補助装置の調整だ。最近少し調子が悪かっただろう」
補助装置とは、魔法を使う際に事故が起こらないように補助をするものである。
装置とは言っても、指輪型などの小物の形をしたものが一般的で、そこに大量の情報が書き込まれている。
「3人分全部調整してるの?」
「ああ。お前は自分でできるけど、直夜は自分では完璧に調整できないからな。ついでに全員分やった方が早いだろう」
本来補助装置は使用者の情報が書き込まれているため、他人に見せる事はせずに自分自身で調整することの方がいいとされている。
しかし、この3人の場合は主と守護者という絶対的な信頼関係があるため、このような事が出来るのである。
「ほんとあなたって何でも出来るわね」
「そんな事はない。ただ自力でしないといけなかったから出来るようになっただけだ。お前だって1人で何でも出来るじゃないか」
「あなたほどではないわよ。人並みにしかできないわ」
そんな会話をしていると、けたたましい音が家中に鳴り響いた。
蒼真と澪は呆れた顔をして、音源となっている直夜の寝室へと向かった。
直夜の寝室に入った2人は、目覚まし時計の音が鳴り響く中ぐっすりと眠っている直夜を見て、再度呆れた顔をしたのだった。
「おい直夜、さっさと起きろ」
目覚まし時計の音を消した蒼真が、眠り続ける彼を起こそうとしたが簡単には起きない。
そんな直夜を見て、澪は手をかざして魔法で大量の冷水を生成し、彼の顔に容赦なくかけた。
「ぶはぁっ! 冷た!」
びしょ濡れになった直夜は、ここまでしてようやく起きた。
「あ、朝からこんな起こし方しなくてもいいだろ。揺するとかさぁ」
彼は頭をかきながら、不機嫌そうにそう言った。
「それ、もう蒼真がしていたし、そこまでして起きないあなたが悪いんでしょ」
「何であんなに音が鳴っているのに起きれないんだ? 近所迷惑になるレベルだぞ」
2人にそう言われ、
「ったく……。わかったよ……」
とだけ言い、直夜は風と火の魔法で濡れたベッドを乾かした。
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蒼真と直夜は制服に着替え、3人で簡単に朝食を済ませた。
3人とも朝はあまり食べない方なのである。
そして、学校に行く用意をした。
と言っても、この時代になると持っていくものもほとんど無く、各自タブレット端末を持ち歩くのが主流となっている。
このタブレット端末は、学校の机のディスプレイと無線で繋げる事で情報を入れる事が出来るし、魔法補助装置としても使う事が出来るのである。
よって、どんな物を忘れやすい者でも忘れ物をする事はほぼ無くなっている。
3人は一緒に家を出て、学校へと向かった。
前日の入学式の時に蒼真が1人でいたのは、直夜がなかなか起きず面倒になったので、澪に直夜を任せてきたからである。
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教室に着くと、教室の真ん中あたりで人だかりができていた。
その中心にいた人物が、教室に入ってきた3人に気づいたのかそちらへ向かってきた。
「おい。お前達は1-Aの生徒だな。俺は同じ1-Aの
炎珠のように「七元素」には劣るものの、各属性で力を持つ一族はその属性の字を名に持つ事がある。
そして、そのような者達は「
「俺は結城蒼真」
「自分は百瀬直夜です」
「茨木澪です」
「お前達、俺についてこないか? 俺のような『副元素』が近くにいた方が何かといいだろう。名に何も持たない『
多くの「副元素」の者達は「無元素」と呼ばれる者達を下に見ている。
実際のところ、「副元素」の者の方が優秀な魔法使いは多いのである。
そういった事から、このような差別的思考が生まれている。
「悪いが不知火。お前の下につく気は無い」
「何だと? 『無元素』があまり調子に乗るものじゃない」
高圧的な態度で蒼真に詰め寄る炎珠。
彼らの目線の高さはほぼ同じだ。
周りから見ると、かなり険悪な空気が2人の間に流れていた。
「そんなしょうもない考えの奴は嫌いなんだよ。『副元素』が全員優れている訳でもないだろう」
「結城と言ったな。覚えておいてやろう。後で泣いてもしらんぞ。後ろの2人はどうだ?」
「自分達も遠慮しておきます。正直、君には興味が湧かない」
「はっはっは! こんなにも馬鹿な奴がいるとはな。たかが『無元素』が!」
そう言って炎珠は去って行った。
すると直夜は蒼真と澪にしか聞こえない小さな声で、
「あいつ自分の方が格上だと思ってるんじゃないか? それだったら何もわかってない馬鹿野郎だな。蒼真なら、鬼人化してなくても簡単に勝てそうだけどな」
と言った。
それを聞いた2人は直夜をすぐに睨みつけた。
「何で外で声に出すの! 聞かれたらまずいじゃない」
「聞かれなければいいという物でも無いんだぞ」
まるで合わせる事を決めていたかのように、同時にそう言った。
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8時55分。
オリエンテーションのため、講堂に移動する時間となった。
そこへ修悟が息を切らして走ってきた。
「危なかった。ギリギリセーフかな?」
「おはよう修悟。遅かったな」
「おはよう蒼真。いやぁ寝坊しちゃってさぁ……。あれ? その2人は?」
「紹介してなかったな。幼馴染の百瀬直夜と茨木澪だ」
「百瀬です。よろしく修悟君」
「あれ? 僕まだ名前言ってないけど」
「蒼真から聞いたんです。私は茨木です。よろしくお願いします、細見さん」
「うん、よろしく。これからよろしくね」
軽く自己紹介をして、まだ何か話しそうな雰囲気だったが、蒼真はすでに移動が始まっているのに気づいた。
「おい3人とも、もう移動始まってるから早く来い。遅れるぞ」
座っていた3人は急いで立ち上がった。
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講堂に1年生全員が集まり、オリエンテーションが始まった。
どうやらこのオリエンテーションは、生徒会が主体となっているようで、進行は生徒会副会長がしている。
主な話の内容としては、学校の規則や部活、委員会について話された。
この内容はほとんど学校のパンフレットに載っていたため、ちゃんと聞いている生徒は少ないように見えたのだが……。
講堂での話が終わると、新入生はそれぞれ校内の各施設の見学へと向かった。
魔法高校はただの高校ではない。それは、施設の充実感でもはっきりと差が現れている。
特に東京高校は魔法高校の中でも1、2を争う設備の良さを備えている。
そんな恵まれた環境なのである。
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見学が終わった後、蒼真達は教室へ戻って来ていた。
「蒼真、お前生徒会室に行かないといけないんじゃないか? 時間は大丈夫なのか?」
直夜が少し心配そうに言った。
「そうだな。そろそろ行くが、お前達はどうするんだ?」
「私は図書館の方に行こうと思ってるわ。魔法高校なら、いろんな文献が置いてあるでしょ」
「じゃあついて行こうかな。暇だし」
「あっ僕も。ちょっと見たい資料があるんだよね」
3人は揃って図書館へと行くようだ。
そんな彼らに一度別れを告げ、蒼真は生徒会室へと向かった。
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生徒会室ある、最上階である5階までの階段を登る蒼真の足取りは重かった。
「生徒会なんて苦手なんだがな」
彼は小さく呟いた。
彼の数少ない本音が漏れた。
思い切り嫌な顔をしながら生徒会室のドアをノックした彼はドアを開ける瞬間に表情を整え、中へと入った。
「失礼します。1-Aの結城です」
そう言って前を見ると、満足げな表情を浮かべた恵が座っていた。
「ちゃんと忘れずに来てくれたのね。ありがとう、結城君」
「いえ、会長直々の呼び出しなんて忘れませんよ。それより昨日の件なんですが……」
蒼真は恵の目線が横へずれているのに気がついた。
その方向へと目を向けると思いがけない人物がいた。明智志乃である。
「志乃、お前も呼ばれていたんだな」
「うん。今日ちょっと呼ばれてね」
「2人共こっちで座らない? 立たせておくのも気が引けるし」
恵は椅子に座るように促した。
そして、席に着いた2人に彼女は話しだした。
「今日あなた達に来てもらったのは、生徒会に入って貰いたいと考えているからよ。1学年から2人ずつ生徒会役員が選出されるんだけど、1年生からはあなた達が選ばれたの」
「志乃は……明智さんはともかく、何故俺なんですか?」
「それはあなたの入試成績が、本校始まって以来の最高得点だったからよ。点数を聞いたけど、びっくりしたわ」
それを聞いて、志乃はとても驚いた表情で蒼真を見た。
彼は入試で、座学でも魔法実技でもほぼ満点の得点を叩き出していたのである。
「それ以外にも理由はあるの。あなた、新入生代表挨拶を学校側から頼まれたのに断ったでしょう。今までにそんな事例は無かったのよ。魔法高校の新入生代表なんて、結構な名誉なことだと思うんだけど」
「断ったのは事実ですが、俺のような人間がするよりも、他の人の方が適任だと思ったからです。結果的に俺がするよりも明智さんがした方が、入学式という式典において良いものになったと思いますが」
「そんなに自分を卑下すること無いんじゃない? あなたがやってみても、入学式は成功していたのかもしれないわ。まぁ生徒会としては、そんなあなたに興味を持ったというわけよ」
そこまで言った恵は、志乃の方を向きすまなそうに言った。
「ごめんなさいね、明智さん。あなただけ蚊帳の外みたいにしちゃって」
「いえ、大丈夫です。でも、何故結城君だけでなく私も呼ばれたのですか?」
蒼真の入試の話などを聞かされた志乃は劣等感を覚えながら、そう質問した。
「あなたの成績も素晴らしいものだったわ。結城君に次いで2番目の成績だったの。例年なら首席でもおかしくないくらいのね。それで生徒会には、各学年の最も優秀な2人が選ばれるの。だからあなたも気を落とさないで、胸を張っていいのよ」
「そうですか」
恵の言葉を聞いて、志乃は安堵の表情を浮かべた。
「というわけで、2人共これからよろしくね」
恵が笑顔で言った。
「あの……」
「どうしたの結城君?」
「俺はまだ生徒会に入るとは言ってないと思うのですが……」
蒼真は、どうやってこの状況を打破するかという事を考えていた。
面倒事に追われ、目立つ事になるのが目に見えている生徒会には入りたくないのである。
「そうだったかしら? てっきりもう決めてくれていたと思っていたわ。どう? 入ってくれる?」
「お断りします」
蒼真はすぐに答えた。
「そう、残念だわ。なら誰に頼むべきかしら? 不知火君あたりがいいかしら」
恵は笑みを崩さずそのような事を言った。
が、その笑顔は少し意味深だった。
まるで不知火と蒼真のいざこざを知っているかのような。
そう感じた蒼真は、もう断る事が出来ないと本能的に察した。
「ハァ……わかりました。お受けします……」
「ありがとう、結城君」
恵は思い通りに事が進んだため、とても嬉しそうだ。
「明智さんはどう?」
「よ、喜んでお受けします」
こうして蒼真と志乃の生徒会入りが決まった。
蒼真にとっては不本意な結果となってしまったのだが……。
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