第2話 出会い
春。
桜並木の下を、新しい制服に袖を通した少年少女達がある場所に向かって歩いている。
そう、今日は西暦3000年の4月5日土曜日。国立東京魔法高等学校の入学式当日である。
同時に、日本に全てで11校ある魔法高校、8校ある魔法大学も同じ日に入学式を迎えていた。
中学校から魔法高校という新しい環境に置かれるせいか、新入生達は期待や緊張の入り混じった表情で魔法高校の門をくぐるのであった。
しかし、その中で明らかに表情の異なる少年がいた。
「はぁ……」
1人面倒そうにため息をついた少年は、新入生の集合場所であり、入学式の会場である講堂へと向かった。
周りの学生のように浮き足立ってはいないが、纏う新品の制服を見る限り、彼もれっきとした新入生のようだ。
目鼻立ちが整い、大柄な方に分類される少年は他の新入生からの視線を多少集めていたが、その視線を気にすることもなく歩いていった。
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入学式では、普通高校と同じように粛々と進められ、1学年7クラスの200人が新しく新入生として入学した。
この魔法高校には、「魔法応用科」と「魔法工学科」という2つの学科が設置されている。
少年は魔法を防衛以外にも使い、様々な事を発展させるための方法を学ぶ魔法応用科へと入学した。
また、もう1つの学科の魔法工学科とは、魔法を発動する際に使用する補助器具や魔法を使った機器などの作成方法や調整方法を学ぶ学科である。
国が期待しているのは、戦力となり得る魔法使いだが、その実力を最大限に引き出すためには、優れた技術者も必要なのだ。
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入学式が終わり、少年は自分のクラスである1-Aの教室にいた。
周りでは中学校が同じ同士で会話をしている者達もいたが、彼は1人で席に座り机に備え付けになっている空中ディスプレイを動かしている。
「そこの君、ちょっといいかな」
少年は隣から声をかけられたので、ディスプレイを動かす手を止めて、声の主の方を見た。
声をかけてきたのは、背が低く柔和な顔立ちをした少年だった。
「ごめんね。急に話しかけて。僕、同じ中学の人がいないから話す相手がいなかったんだ」
「いや、全く問題ない。俺も1人だったからな」
「僕は
「ああ。俺は
少年——結城蒼真は軽く微笑んだ。
そうして蒼真と修悟が少し話をしていると、1人の女性が教室に入ってきた。
「みなさん座って。今からHRをします」
教師らしいその女性は、立ち上がっていた生徒に座るように言った。
そしてHRが始まった。
「ようこそ国立東京魔法高校へ。私はこのクラスの担任を務めます
生徒の半数以上が机に内蔵されたディスプレイを見て驚いていた。
もちろん中学校にこのような設備はないし、普通高校でもなかなかない。
周りの反応とは逆に、蒼真は先程から触っていたので驚かなかったのだが。
HRは順調に進み、ディスプレイの操作法や魔法実技以外の一般の授業でそれを使うということなど、学校に関することの説明をして終わった。
「ではこれでHRは終わります。明日1日オリエンテーションがあり明後日から授業が始まりますので、新しい学校生活を楽しんでくださいね」
そう言って立花は教室を出て行った。
その瞬間を待っていたかのように、修悟が蒼真に話しかけてきた。
「蒼真。この後なんだけど——」
「悪いがトイレに行くから、話は後にしてくれないか? すぐに戻ってくる」
「わかったよ。じゃあ君が戻って来てから話すことにするよ」
蒼真はトイレに向かうべく教室を出た。
用を足し、教室へ戻ろうとすると彼は後ろから誰かに呼び止められた。
「君が結城君?」
「そうですが、あなたはどなたですか?」
「入学式の時もいたんだけどね……。えっと、先に名乗った方が良かったわね。私は
「光阪……。あの光阪ですか?」
蒼真は少し驚いたような表情を見せた。
それもそのはずで光阪家とは、「七元素」の一角を担う家の1つなのである。
「その生徒会長が俺に何の御用ですか?」
「ここでは話しにくいから、生徒会室までついて来てくれない?」
「すみませんが、友人を待たせているので……」
蒼真は即答した。
実際に教室では、修悟が蒼真が戻ってくるのを待っている。
「そうなのね……。なら、明日のオリエンテーションが終わった後に生徒会室まで来てくれないかな?」
「わかりました。明日ですね」
蒼真は恵と別れて教室へ戻ると、そこでは修悟が1人の女子生徒と話をしていた。
そして、戻ってきた蒼真に気づいたのか彼に向かって手を振った。
「遅かったね。何かあったの?」
と、修悟が尋ねた。
「ああ。ちょっと生徒会長に呼び止められてな」
蒼真がそう答えると、先程まで修悟と話していた女子生徒が蒼真に話しかけてきた。
「えっ! 会長と会っていたの? 君、会長と知り合いか何かなの?」
蒼真は少しバツの悪そうな顔をした。
「おい、修悟。この人は?」
「入学式で新入生代表挨拶をしてた明智さんだよ。覚えてない?」
「残念ながら、人の顔や名前を覚えるのは苦手でな」
「はじめまして。
「こちらこそよろしく。あと、俺のことは蒼真でいい。名字で呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ」
「じゃあ僕も修悟でいいよ」
「わかったわ。なら、私も志乃って呼んでね」
それぞれ自己紹介を終えて少し話した後、志乃は他のクラスメイトの元へと行った。
「そういえば、俺がトイレに行く前に何か話そうとしていなかったか?」
「あっ、忘れてた。部活の見学に一緒に行かないかって誘おうと思ってたんだ。今週のどこかで一緒に行かない?」
「悪いが、明日生徒会室に行かないといけないから、その用事が終わってから部活の方は決めようと思っているんだが……」
「それなら、明後日に見学に行こうよ」
「ああ。大丈夫だが、今日はだめなのか?」
「うん。今日は早めに帰らないといけないからね。親が早く帰ってこいってうるさくてさ」
修悟はそう言っている間に、帰り支度を済ませていた。
「それじゃあまた明日」
彼はそう言うと、帰って行った。
そして蒼真もつけっぱなしだった机のディスプレイの電源を消し、家路についた。
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