鬼の魔法使いは秘密主義

瀬戸暁斗

魔法高校入学編

第1話 プロローグ


 世界には2種類の人間が存在する。力を持つ者と持たざる者だ。

 そしてその力とは、時代により種類を変えていく。

 加えて皮肉なことに、大きな力を得る時はたいてい大きな犠牲や争いが伴う。

 歴史上でさまざまな国家が欲し、手に入れてきた技術力、軍事力は過去に起こった大戦により進歩を見せてきた。

 20世紀初めに起こった第一次世界大戦——一国家対一国家から連合国対同盟国という複数国家同士で起こったはじめての世界戦争は数多くの新兵器が開発、実戦投入された。

 20世紀半ばまで続いた第二次世界大戦——戦いの舞台は大陸を越え海、空に及んだ。既存の兵器の大幅な改良が行われ、最後に使われた新兵器——核爆弾によって終戦を迎えた。

 多くの血を流した2回の大戦から時は流れ、人類は平和を取り戻した。

 と、誰もが思っていたが、現実は理想通りに進むほど甘くはない。

 あの第二次世界大戦から約900年経過した29世紀半ば。過去2度の戦争の規模を大きく上回る第三次世界大戦が勃発した。

 主な攻撃手段となっていたのは第二次世界大戦終結後から900年間改良、発達を続けてきた武器と、2度目の大戦を終結させた、人類が生み出した最悪の兵器——核兵器。

 この未曾有の核戦争を終結に導いたのは、各国が秘密裏に研究を進めていた新技術「魔法」であった。

 魔法は、超能力や超常現象などの人の域を超えた現象からそのメカニズムの解明、そして国民生活への有効活用を目的に研究されていた。

 しかし戦争が始まると、そのような高尚な目的はすぐに別のものへとすり替えられてしまう。

 戦争という異常な状況から必然的に、敵国へ打撃を与えること、魔法を使って戦争に勝つ事へと魔法研究の目的は変わっていった。

 そして研究の成果もあり、魔法は圧倒的な武力として核兵器をも封殺し、目的通り戦争を終わらせた。

 この事実から、魔法は国家にとって大きな力であり、同時に脅威となり得るものとなっていったのである。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 30世紀最後の年の西暦3000年。

 戦争が終わって訪れた平和な社会では、魔法は攻撃手段としてだけでなく、本来の研究目的であった日々の生活をより良くするためにも使われるようになっていた。

 過去の第三次世界大戦では中立の立場をとり、隣国からの攻撃に備えて自衛に徹していた日本だったが、当時から日本でも魔法研究がさかんに行われており、現在では世界屈指の魔法技術大国となっていた。

 日本では世界の国々のような超能力の研究だけでなく、日本に古来から存在したとされていた「妖怪」も魔法の1種として考えられ、研究されていた。

 日本独自の妖怪という概念から派生して生まれた魔法技術のおかげで、世界の大国に遅れをとることがなかったのである。

 しかし遅れをとってはいないとはいえ、決して日本が魔法技術で世界のトップに立った訳ではない。

 人口の多さを利用した技術開発により、アメリカや中国は競って核兵器に代わる抑止力としての魔法を開発している。

 この魔法が次の大戦の火種になると危惧している魔法研究者や政治家もいるが、開発が止められることはなく魔法の規模は大きくなり続けている。

 それに対して日本政府は、力をつけた他国からの魔法による攻撃を受けて新たな世界戦争が起こる事を恐れていた。

 そのため、防衛のために優秀な魔法使いを育成する事を目的に、日本各地に国立の魔法高校、大学を作り運営する事で素質のある人材の確保を図った。

 他にも、それらの施設を卒業して魔法使いとしての資格を得た者たちを、第三次世界大戦終戦後に新設した「魔法庁」の魔法使いリストに登録し、彼らの管理を目指した。

 魔法庁には魔法使いリストの他に、禁止魔法と呼ばれる魔法のリストもある。

 そのリスト上に載ってある、魔法使い個人が行使するにはあまりに強力すぎる魔法を勝手に使わせないように法律を制定するなどの対策が政府、魔法庁を中心に進められた。

 また、火、水、風、土、雷、光、闇の7つに分けられた魔法属性を名前に持つ、それぞれの属性で最も魔法使いとして力のある7つの家系を「七元素エレメンツ」と呼んだ。

 そして、それらの一族の代表を日本魔法界の頂点として優遇措置をとる代わりに、彼らの膨大な力を利用して国内外の不安要素を消し去ることができるようにシステムを組み、組織を構築した。

 こうして、国外の脅威に対して日本人の優秀な魔法使いを育て、国内の魔法使いの反乱を抑えるため「七元素」中心の社会を作り上げたのだ。


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  そんな魔法と家柄が重視される風潮の中、魔法高校へとある「秘密」を持った男子生徒が入学しようとしていたのであった。

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