第24話 終わりの終わり
私たちが互いに名乗りを上げた瞬間であった。私たちの周囲に爆発が起こった。
「何っ!」
この炎はヒナの……そうか、目くらましというつもりか。
「っ!」
ユウトの刃を何とか防ぐ。あと一歩で首を切り落とされるところだった。この煙思った以上に厄介だな。視界を遮られても、殺気だけは感じられる。それもまた、しばらくぶりの恐怖を感じられる。
自分を中心に、風を起こし、この鬱陶しい煙を払う。目の前に、刃が迫ってきていた。
後ろに一飛び。紙一重で躱す。しかしそれで十分。視界は良好。敵の動きははっきりと見える。ユウトの剣を正面から受け止める。重量はこちらの刀が勝る分だけ、こうすると、ユウトの方がはじかれる。しかし、二度三度、打ち込んでくる。神刀流は連続技の流派。はじかせては、向こうを利する。
私は角度をつけ、ユウトの剣をはじかないようにする。重心を微妙に変え、刃から、腹を抑えるように。そして、一歩踏み込み、鍔迫り合いの状態にする。
「これで、捕えたつもりか!」
つばぜり合いの中、ユウトの剣がすぅと微妙に動いでゆく。これは……?
「この技は、機能開発したばかりのものだ。実戦で使うのはこれが初めてだが、それはあなたにとって何ら益とならない!くらえ!神刀流『辻斬陣風』!」
「くっ!『線光流星』」
何だ、この技は?『線光流星』がすべていなされるばかりか、私に手傷まで負わせてくる、そして……
ユウトがようやく刃を止めた時には、私は両手を宙にあげ、剣を喉元に突き付けられていた。少し前進するだけで、私の首は一瞬で胴体と離れることになるだろう。
ムサシは私の手を離れて、傍らに転がっている。
「これもあなたとの約束を守るためなのだ」
ユウトは小さな声で、私にささやく。手を伸ばしても、あと少しで届かない、絶妙な距離。それでも、その声はよく聞こえた。
「ここで、衆人環視の前でヨーク王を殺害してしまったあなたは、当然恨まれます。少なくとも、最小限の犠牲で、速やかに王座を取ろうとしたときにはあなたを恨まざるを得ない。しかし、ここであなたを殺せば、あなたは死人となる。そのために、あなたを恨み、その怨恨をもとにして魔界に出兵するような真似は誰も取れなくなる。いや、リスクを考えれば、取らないでしょう。おまけに僕の計画の成功率も少し上がる。何せ、僕はヨーク王の敵を取ったただ一人の人物なのですから」
いけしゃあしゃあとものを言う。この男に罪悪感という感情はないのだろうか。
「だから、俺に死ねと?随分勝手な意見じゃないか。それに視野狭窄でもある。魔界の、魔物の力をもってすれば、人間との戦争はどうということもない。人間も、貴様レベルの者がそうゴロゴロいるわけではあるまい?俺は面倒なことが嫌いだが、それでも誇りがないというわけではない。それに、俺にもある程度の求心力はあると自負している。となると、魔界からの恨みというのはどうなるんだ?なあ、聞かせてくれよ次期王様よ」
私の言葉に、ユウトは薄く笑って答えた。
「当然、その時は戦いますよ。あなたとの契約も、こちらから魔界に攻め込まないだけであって、魔物の側から攻め込んできたときには、そりゃ自己防衛をしなければいけませんからね」
「なるほど……そちらが狙いかな?貴様の腹は魔物以上に魔物だぜ。しかし、魔物は強いぜ」
「さっきの言葉をあなたに返しますよ。魔物も、あなたレベルの者がそうゴロゴロしているわけではないのでしょう?魔王というものは魔界で一番強いものがなる。つまりは、あなたを頭打ちとして、あとは魔物の強さは下がってゆくばかりだ。そんなものの、どこが怖いものか」
ああ、そうか。こいつは知らないのだ。現在の魔王ミヤモトユキのことを。私より強い、真の魔王のことを。しかし、それを教えてやるような義理は、当然ない。少なくとも、今まさに私を殺そうとしている人間にユキのことを話すほど、平和ボケしていないし、耄碌もしていない。
「そうか。あんたも大変かと思うが、せいぜい頑張ることだな」
「ああ、頑張るよ。草葉の陰で、応援してくださいね」
その言葉を最後に、ユウトは剣を前進させた。
私は、死んだ。
隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている! 芥流水 @noname
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