第22話 明白な暗殺
ここにきて、私は少し焦っていた。ユウト達が助けに来る様子が全然ない。ひょっとすると、私は担がれたのではないのか、騙されたのではないのかという疑惑が頭を擡げる。
だったらだったで、このような状況を切り抜ける程度の実力は持っていると自負している。脱出するのも、可能だ。
すっと、首に違和感を覚えた。枷をはめられたようだ。ひょっとするとギロチンででも処刑するのだろうか。それは御免被りたい。私も首を切られて生きているだけの生命力は持っていない。
しょうがない、実力行使と行こうか。
私がそう決意を固めた瞬間であった。
「あーー」
不意に声がした。そして、その声は更にこう続いた。
「予が、ヨーク王じゃ。魔王が処刑され、これまで魔界と呼ばれていた土地が再び我が国のものとなる事を、喜ばしく思う。これで、目下交戦中の専制国家ビスマルク、そして我々ブリタンを頂点としたブリタン連邦の裏切り者民主制国家ステイツにも、目にもの見せてやることが、可能になるだろう。この大事業を成し遂げたのは、そこにいるミナイユウト少将が主となって成し遂げたものである。このミナイ少将は忠誠心、愛国心ともに甚だしく--」
随分と長い演説だ。ヨーク王と名乗っているくせに吃りもしない。立て板に水の如く流暢に喋る。なんだこの国は。弁舌屋ばかりか。
ヨーク王が喋り続けている中、すっと手に何かが当たる感触があった。間違いない。これは我が愛刀ムサシだ。
そうか。彼らはこの瞬間を待っていたのだ。この場にいる全員が私から目をそらす瞬間を、いや、晒さざるを得ない瞬間を。この王が喋っている間は、そちらを見なければいけないだろう。失礼に当たるというものだ。
腕輪の仕掛けを起こし、開錠する。
魔力が解放されるままにし、首枷を含めた周囲のガラクタを吹き飛ばす。
目が久方ぶりに外界を映す。ビックリしないか心配だったが、それは杞憂に終わったようだ。
聴衆達はヨーク王から目を外し、こちらを見ている。
「さて」
先ほどまでたいそう立派な演説が聞こえていた場所を見る。
一番上の席に、痩せぎすのしかし身なりはやけに豪華は男がいた。奴がヨーク王か?
「ここまでお膳立てされたんだ。約束は、果たさなければな」
私は一飛びで王の目の前にその身を移した。そして、目の前の男に問いかける。
「あんたが、ヨーク王か?」
「あ……あ……」
恐怖のせいか、何なのかまともな言葉が返ってこない。手から金塊でも差し出しそうな音が、その喉奥から木霊するのみである。
目の前の男を斬るかどうか悩んでいると、下の方から声が聞こえてきた。
「止めろ!そのお方に!ヨーク王に手を出すな!」
ユウトの声だ。そうか。こいつがヨーク王か。
「ヨーク王。あんたに恨みはないが、よ。いや、恨みといえば恨みか。まあ、いいや。兎に角、人の土地を奪おうとするなんて、悪いことだよな。その件はとうの昔に決着がついてることは、あんたもこの国の王なんだ。知っているだろう?悪いことには罰が当たる。右の頬を打たれれば、左の頰を打て、だ。やるなら、やられる覚悟ぐらい、あるよなぁ?」
「……何を言っておる!魔王風情が!予はブリタン王国が国王、ヨークアベノだぞ!この世界すべてを手に入れる男だ!」
「そうか。俺は魔王ミヤモトガイロンだ。自分の守るべきものさえ、ろくに守れないチンケな男さ。じゃあな、裸の王様」
私はムサシを鞘から抜き、一刀の元にヨーク王を両断した。彼は武術の心得はなんら持っていなかったようで、ろくに抵抗も出来ぬまま、絶命した。
場内を沈黙が支配したをしかし、それも一瞬の内で、すぐにざわめきが広まっていった。
「まったく、たった一人殺したというだけで、大袈裟なんだから……」
刀を振るい、血を払う。
「うん、では皆の衆。これで私の役割は果たされました。嗚呼、皆様方に危害を加えるつもりは毛頭ありませんので、ご安心ください。とは言っても、私の髪の毛はご覧の通りフサフサですが。ま、それは兎も角として、この王様がこのような、志半ばで絶命するような事態に陥ったのも、ついぞ魔界に手を出してしまったからです。私達魔物はそのイメージとは裏腹に平穏を望みます。喜びます。尊びます。確かに、皆さんとは隣人の関係にある以上、いざこざは起きるでしょう。しかしそれも、出来うるだけ最小限にとどめる努力を払っていることもお忘れなく。私達は良きとまではいかなくとも、他人程度の隣人にはなれるのです。しかし、一度貴方方が、この精神を忘れ、我々のいる魔界を侵略するような真似をするならば、今度は私たちも全兵力を上げて、戦いましょう。此度のような!此度のような最小限の血で幕を引くような真似は致しませんゆえ、それを努努お忘れなきように。では!」
パフォーマンスも忘れなく行う。今回の目的、そして未来の忠告。民衆に恐怖と禁忌を抑え込むことで、未来の戦争を抑止する。これも、一種の外交であろう。人間は、どのような兵力であっても戦争を起こそうとする生き物である。それを避けるには、こちらが神になるしかない。神とは、自然災害並みの実力を持つことを示すことを言う。
「二度と会わないことを願っていますよ」
そう言い残し、立ち去ろうとした時であった。背後に殺気を感じた。
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