第19話 「自分の意見を持たない政治家は何のために政治をしているの?」「美味い汁を吸うためさ」
ユウトは得心したように頷いた、
「そうか……そうだな。それを話さなければ、交渉は始まりませんし、あの時に、勝ったら教えると言ってましたからね」
「そうだ。今こそその約束を果たすときだぜ、勇者さん?」
「まあ、そうですね。では」
ユウトは私と同じように、手近な岩に座ると、話し始めた。それは、私にとっては有る意味想像通りであったが、想像を超える話しでもあった。
「まず、貴方を何と呼んだら良いのか、ミヤモトガイロン、ササキグウゼン、どちらが本名なんです?」
「さあな。まあ、好きなように呼べば良いさ」
格好を付けてみた。
「じゃあ、ササキさんで」
「好きなように呼べばいいさ!」
「ササキさんで」
「好きなように……」
「分かったよ。ミヤモトさん。えーと、何の話しだっけ」
「魔王をどうして倒しに来るのかという話だろ。しっかりしろよ」
「話の腰を全力で折っていたあんたが言うな……」
ユウトは不満そうに呟くが、そんなことは気にせずに話を続ける。
「ええと、それで俺の推理だが、地位のためというのが、最初に思いついた。魔王を討伐したというものは、それ相応の地位と名誉が得られるだろう。それを持って、君達を閑職に追いやった者達を見返してやりたいと。しかし、それでは交渉というのが、どうも引っかかる。まさか桃太郎よろしくきびだんごを与えて仲間になれというわけでは無いだろう?」
「その桃太郎というものが何やら知らないが……世界観に著しく合わないということ以外分からないが……貴方を仲間にしたいと言えば、そうなるな」
「ほう……」
「ただ、同期においてはまるきり違うな。僕たちは革命を企てているのだ」
何を言っているのだこいつは。革命?大富豪でもしているのか?
「君達は共産主義者かよ……ロシアよろしくブリタンにも革命を起こそうと?」
「さっきから比喩がまったく伝わってないんだが、まあ、そんな所だ」
「読者に伝われば良いのさ。で、その革命とやらが成功する確率は?」
「各地に革命分子はいる。しかし、決して高い値は示してませんね。貴方がいなければ」
「ほう……男に口説かれても、つまらんが、それはどういう意味だ?」
「言葉通りの意味ですが」
「そうだな。聞き方が悪かった。何故俺が君の側についたら、勝率が上がるんだい?それに、俺の参加によって成功するというように聞こえたが?」
「ああ、その通りだ。それについての戦略も、戦術も、戦法も、ある」
ユウトは自信たっぷりにそう頷いた。
「というよりも、他に方法はないのです。王を引きずり出す方法が」
「引きずり出す?随分と物騒な言葉だが、その真意は?」
「王制打破のためには、王の殺害―それも目に見える形の、誰に対してもあからさまな形で―必要なのです。しかし、私達では到底不可能です。しかし、貴方がいれば。貴方がいればそれが可能になるのです」
ユウトはそこで言葉を切って、こちらの反応を伺った。
「……続けて」
「先ず、我々だけで、魔王討伐に成功した場合の話をします。この場合、私達は王に謁見することが可能になるでしょう。しかし、武器は持っていけない。おまけに守備兵もうじゃうじゃいるだろう。その場合僕は剣がないと、戦闘能力は半減する。いや、激減する。そうなれば、とうてい王の殺害は無理だろう。おまけに、よしんば成功したとしても、王の求心力は未だ強大だ。国の半分は間違いなく敵に回すだろう。そうなれば、僕の革命も、成功はすまい。仮に、万が一に、成功したとしても、僕は新たなる支配者にはなれないだろう。或いは、一瞬で引きずり下ろされる」
まあ、そうだな。お飾りの首級は悲惨な末路になるのは目に見えている。
「そこで、貴方の出番となる。ミヤモトガイロンさん。先ず僕達が、貴方を生け捕りにしたことにする」
「俺が君達に生け捕りに?素敵な冗談だな。満点大笑い間違いなしだ」
「茶化すな。それで貴方は処刑されることになるだろう。それも、大勢の目の前で、王の目の前で。その時こそ、王を討つときだ」
「その時は俺が動けない。それこそ君達が謁見するとき以上の厳重な警備と、おまけに俺は力を封印されるだろう。俺は魔王なのだから。その状態で、どうやって、ヨーク王を殺す?」
「そこは僕たちがどうにかしますよ」
「どうにかとは?どうしようもないように、思えるが」
私の質問に、ユウトは悪そうな笑みを浮かべて、答えた。もうお前勇者じゃないよ。革命を企てたり、勇者のゆの字も見当たらない。
「非合法な行いと、徹底的な根回し。言ったでしょう?革命分子は、至る所にいる。この国の半分は潜在的な、王制打破を企んでいるのだ」
「成程……それは心強い。だが、一つ条件がある」
「勝ったのは、僕ですよ?」
「何、たった一つだけですよ。たった一つのつまらない約束だ。革命を起こした後、これを明文化すればそれでいい」
「……何です?随分と大がかりな話のようだが」
「君が王になって、成立した新生国家、それの魔界への侵略をしないと、魔界とは、近しき他人でいて欲しい。それだけだ」
「…………」
ユウトは、ため息を吐いた。
「貴方は僕なんかより、よっぽど王に相応しい人間ですね。良いでしょう。約束しますよ」
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