第18話 戦闘

 牽制を多分に含みながら、出来うる限りの速度でもって、ユウトの懐に潜り込む。

 三度目の戦いだ。互いの戦法は知りすぎるほど知っている。と、言うわけではないが、多少の癖はお見通しである。

 ガキン。そう音がして、互いの武器が弾かれる。

 刃を交えつつ、立ち位置を次々に変化する。立ち止まると、あの火炎弾が飛び込んでくる。それは避けなければいけない。

「ちっ……」

 状況は不利である。四対一は思ったよりもきついようである。

 しかし、私は魔物である。

 必然、人間である彼よりも体力において優れている。その為、防御に集中していれば、相手はいずれ体力が尽きるそこを、狙う。その時に反撃すれば、必ずではないが、勝てる。

 しかし、それを防ぐためのカミカゼだ。その戦法が通じる可能性は低いと見ざるを得ない。

「神刀流!『冠戦零式』」

 しびれを切らしたのか、私の企みに気付いたのか、それともヒナが攻撃しやすい状況を作ろうとしたのか。

 ユウトは技を放ってきた。聞いたこともない名前である。

 良いだろう。受けて立つ。

「神刀流『夜明秋水』」

 神刀流には珍しい、迎撃に絞った技である。後の先を着くことを主流となす神刀流において迎撃を行う技は珍しいどころか、一般的ではないかという言葉もあるかもしれない。それも有る意味においては正しいだろうが、必ずしも真実を突いているわけではない。神刀流の技の殆どは後の先を取る技。それは確かだ。間違いない。

 しかしながら、『夜明秋水』は後の先を取らない。

 後手後手に回りつつ、相手の攻撃を防ぎつつ、決定打を絶対に打たせない。致命傷を絶対に負わない。完全防御にその全てを割り振った。そう言う技である。

 上段から斬りかかったかと思えば、次の瞬間はその逆から斬撃が来る。速い。

 これは『夜明秋水』でなくとも防御に徹するほかなかったな。いや、『夜明秋水』だからこそ何とか防御出来てると言った方が正しいかもしれない。

 参った参った。参りすぎて四八カ所巡りでもするところだ。

 しかし、何とか防御出来ているものの、良い気はしない。紙一重の戦いなのだ。

「これで終わりだ!『暴風烈風』!」

 来たか。カウンターを決めるとすれば、今しかない。『冠戦零式』は速度が尋常ではなかった。しかし、その代償として、疲労度の上昇も、同じくであるようだ。ユウトの息が上がっている。テツガクに回復されないうちに、勝負を決める必要がある。

「神刀流『線香流星』」

 スイッチを防御から、攻撃に切り替える。

 後の後を取る技から、後の先を取る技に!

 剣と、刀が交差し、不協和音でありながら、どこか美しいメロディーを奏でる。



「――はあっ!はあっ!」

 実質一対一の戦いであった。しかし、それでもここまでとは思いもしなかった。彼は、ミナイユウトは、私の想像を遙かに超えるほど強い。

 しかし、これまでの戦いで手抜きをしていた印象はない。

 戦えば、戦うほど強くなるタイプの天才か。

 と、するならば。

 このまま生かしておくのは、この才能を活かしておくのは、危険だ。

 殺しておくべきか?

 ザリ、と。

 背後で音がした。

 振り返ると、ヒナの姿が視認された。こちらに杖を向けている。

 そうだ。一人倒しただけでは、終わらなかったな。

 彼女と対峙しようと、刀を構えよとしたが、腕が思うように動かない。

 私も、想像以上に疲れているようだ。

 しょうがない。

 私は近くの岩に腰を下ろし、息を吐いた。

「ええと、このままヒナさんが魔法を放てば、私達の価値になると思うのですが……」

 テツガクが、ユウトの側にかけより、そう言った。

「うん?じゃあ、俺の負けで良いよ。あんたらの勝ちだ。でも、そこに転がっている彼はそれで納得するかな?」

「どうでしょう?ユウトさんは戦略的な考え方をする方ですから。一対一では負けても、四対一では勝った。つまりは総合的に勝利、そう考えているんじゃないですか?」

 成程、それは確かにそうである。

「その場合は、どうなる?」

「さあ、それは我らがリーダーに聞いてみないと……」

 テツガクはちらりと、下の我らのリーダーことミナイユウトを見る。

 彼は丁度目を覚ましたようで、不機嫌そうな目をこちらに向けていた。

 寝起き最悪かよ。低血圧かよ。

「おやおや、お姫様のお目覚めかな」

「うるさい。貴様は五月の蠅かよ。あと、誰がお姫様だ。僕は男だ」

「男は戦闘中に気を失わないと思うんだけど……」

「それは関係ないだろう。女性蔑視とか言われるぞ。最近はうるさいからな」

「しかし、テツガク君、君の治療能力は非常にたかいね。医者になれば儲かりそうなのだけれど……どうだい?魔王城のドクターにでも」

「おあいにく様ですが、私は勇者のパーティーですから」

「そのようだな」

「おい、僕を無視するな」

 横たわったままのお姫様もとい勇者が何か喋る。

「僕と交渉するのだろう。早くしろよ」

「その前に、一つ聞いても良いかい?交渉の前準備という奴だ」

「良いだろう。何だ?」

「お前が魔王討伐に乗り出した理由だよ。それを聞いておきたい。それを聞かなければ、交渉は始まらないだろう」

「それも、そうだろう」

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