第15話 勇者
勇者達は私の姿を認めると、即座に臨戦態勢に入った。
「まあ、まてよ」
私はそれを右手で制しながら、左手を胸に持っていった。
「俺はこの辺りを取り仕切っているものなんだが、貴様等人の庭先で随分と勝手にやってくれているそうじゃないか」
「あんた、誰だ?」
ユウトは敵意を隠そうともせずに、そう言う。
彼と合うのは二度目となるのだが、魔物状態と人間状態では全然違う―仮面ライダーみたいなものだ。もっとも、私は怪人側だろうが―ので、彼も、私がミヤモトガイロンとは分からないだろう。あっちの方が本名なのだが、ここでは偽名を名乗るしかない。人間の姿が本名で、魔物の姿が偽名とは、ややこしいが、仕方ない。
「俺はササキグウゼン。魔王をやっている。気安くグウゼン様と呼んでくれ。それで、そこの格好良いあんたはなんて名前なんだ?」
「ミナイユウト。勇者だ」
ユウトは臆せずそう名乗ってきたが、他の三人には緊張が走ったようであった。
それもそうだ。こんなに早く魔王が来るとは予想だにしていないに違いない。
「貴様が、魔王か。こんなに早く来るとは、思わなかった」
言いつつ、ユウトは三人を守るように一歩前に出た。
成程。こういう所は勇者らしい。
「ああ。魔王城で待っているのも、暇なんでな。ちょっくら遊びに来てやったんだぜ」
「遊び?ふざけるな。殺しあいだろ」
「そうだよ。よく分かってじゃないか。じゃあ、聞くぜ。貴様等は何でこんな所に殺し合いに来た?遊びじゃないなら、理由はあるはずだろう?」
「それは……」
ユウトは口をつぐんだ。ここで話して良いのか、それとも。そう考えているようである。
しかし、結論は出たようで、彼は私と目を合わせた。
「話してやっても良いが、何か魔王たる資格でも持っているのか?」
先送りを決めたようである。
「いや、魔王は力こそが証だからな。血統ではなく決闘で決定される身分だからな。証明書はないんだよ。ついでに魔物だから戸籍もない」
「なら……」
「どうしても」
私は何かを言おうとするユウトを遮り、言った。
「どうしても俺を魔王か確かめたいというなら、その答えは一つしかあるまい?」
刀を鞘から抜く。
「俺と戦うより他にはな。こいよ。刀と手を両方抜いてやるからよ」
「…………」
しかし、ユウトは答えない。
押し黙ったままである。
「おいおい。何か言えよ。口もきけないほどびびったのか?」
「それは」
私の言葉を無視して、ユウトは私を指さした。失礼な奴だ。
「その刀は、ムサシか?」
指さしていたのは刀だったようだ。失礼じゃない奴だ。
しかし、ムサシの名をどこかで言ったかな。ああ、決闘の時か。
さて、肯定するべきか、否か。
否定しても、意味はないか。これ程までに選刀眼のある奴を相手にしらばっくれても、しょうがないか。
「だとしたら、どうする?この刀がムサシだろうが、ヤマトだろうが、はたまたシナノであったところで、貴様にとっては無関係だろう?」
「それは、ガイロンさんの刀だ。それをどうして貴様が……そうか、そうだったのか……」
ばれたか。私がミヤモトガイロンだと。しかし、それでも有利に交渉を進められるかもしれない。私はこの男に一度勝っている。それを、有効に作用できるか。
「貴様……ガイロンさんを殺したな!」
え?何を言っているのかしらこの勇者様は。名探偵ものの刑事か。的外れにも程がある。
「そうか。ガイロンさんの言っていた用事とは貴様との決闘か。その因縁は僕に知るよしはないが……それで貴様がガイロンさんに勝利し、その刀を奪った。そうか。そうだな。そうなれば全ての説明が付く。貴様は魔王城からここに来たと言ったが、実はそうではない。魔王城に帰る途中にここに寄ったのだ。それで、何やらの方法で報告を受け、僕たちの前に姿を現した。そうだろ!」
大外れだ。何から何まで当たっていない。
「いや、それは……」
「問答無用!」
首相暗殺をもくろむ青年将校のごときせ台詞を吐きながら、ユウトが斬りかかってきた。魔王と勇者というそれぞれの役割を思えば、それは有る意味はまっているのかもしれない。
そんなことを言っている暇はない。
「神刀流!士定百式!」
左手を鞘に見立てての抜刀――
だが、その攻撃は既に知っている。破っている。
この技で!
「神刀流、飛燕絶翔!」
先の選刀と同じ結果にしてやる。
しかし――
「何だと」
私は驚愕を隠せないでいた。
私の方が押し込まれている。
その疑惑は、ユウトの言葉で確信に変わった。
「貴様も神刀流を使うのか?だが、弱点は克服済みだ!さあ、あの世でガイロンさんに詫びろ!」
何でこの前あったばかりの人間のことで、ここまでなるんだ。私と分からないくせに。笑わせるが、笑えない状況だ。
ユウトの剣を間一髪で防ぐ。しかし、その剣―カミカゼ―は軟体動物のようにぐにゃりと、私の刀を這い上がってくる。刀どうしがぶつかったエネルギーすら利用しているのか。というか、ここまで自由ではわざわざ型名を定める必要はないと私ですら思うのだが、いや、それはどうでも良いか。
「これで終わりだ!」
「くっ……」
私の喉を狙い、ユウトの剣が迫る。躱す事は、出来ない。
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