第20話 おおぐまちゃん、ともだちができる

朝になったが、おおぐまちゃんは一睡もできずにいた。これからまた船酔いに悩まされることを思うと余計憂鬱になる。

目覚ましのアラームが鳴り、眠い目をこすりながらこぐまちゃんが起きてきた。

「おはよ。あれ、もうおきてたの?」

「うん、少し前にね。よく眠れたかい?」

寝てないなんて言えなかった。

「うん。あのね、いいゆめをみたんだぁ。ふねのなかでおしえてあげるね。」

嬉しそうにこぐまちゃんは答えた。


11時過ぎにチェックアウトの準備をしてフロントに行くとベアードがすでに待っていた。

「先程病院から連絡がありまして、くまぞうさんは予定通り救急車で港に向かうとのことです。チェックアウトの手続は私が済ませておきました。出発までには20分ほど時間がありますのでラウンジでごゆっくりなさってください。」

そう促され2頭はラウンジに向かった。

「お腹は空いてないかい?」

「だいじょうぶ。ふねできもちわるくなるのはいやだから。クッキーののこりもあるし。」

「はあ、またあれに揺られるのか。まいったな。」

また憂鬱になり、おおぐまちゃんがうなだれるとこぐまちゃんが手を握り、

「だいじょうぶ。あたしがいるでしょ。」

「そうだね。頼りにしてるよ。」

そう言って小さなこぐまちゃんの手を握り返した。

ホテルを後にするとき、従業員の多くが見送ってくれた。数日前までおどおどしてやってきた2頭を皆暖かく迎えてくれた。またあのホテルに来よう、こぐまちゃんとふたりで。


港に向かう車の中でベアードからメモを受け取った。

「私の連絡先です。お越しになられたときはぜひご連絡ください。」

「ボクの番号も渡しておくよ。こぐまちゃんのもね。」

「まさかクマランドの方とこんなに親しくなれるとは思いませんでした。」

「いやあ、ボク達もそうでしたよ。あなたがこんなに気さくな方だとは思わなかったですよ。」

「こわかったよねー。」

こぐまちゃんがクスクスと笑うと、

「いやあ、お恥ずかしいことです。警備の仕事では余計なことは話すなといつも言われてまして、ホントはいつも喋りたくてウズウズしてるんですよ。」

ベアードは明るく笑いながら答えた。

「おおぐまさん、実は母が退院することになったんですよ。」

「花束が効きましたね。おめでとうございます。」

「おめでとう、ベアードさん。きれいなおはなだったもんね。」

「あなた方には母も感謝しています。また来られたら母と会っていただけますか?」

「もちろん、料理はボクがごちそうするよ。こっちにはない料理だから、ぜひふたりに食べてもらいたね。」

「楽しみだなぁ。私はよく食べますから、たくさん作ってくださいね。」

「まかせて。おおぐまちゃんもくいしんぼうだから。」

「こぐまちゃんもね。」

「だって、おおぐまちゃんのつくるごはんはすっごくおいしいんだもの。」

「じゃあ隊長たちも呼ぼうかな。大食らいばっかりですよ。」

「いえーーい。こわいおじさんたちとパーティだ!」

3頭が騒ぎながら走る車はもうすぐ港に着こうとしていた。

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