第16話 アズダハク
黒く焼き焦げた残骸の山。
まだ赤く溶けている場所や、タワーの落下の衝撃で壊れた地上の建造物などもあった。
『……反応はある。確かにここにアータルの流れを感じる』
黒い靄、ダエーワは残骸を吹き飛ばしながら、目的のモノを探していた。
そこに現れる、金色の輝き。
「これ以上、被害を出さないでもらおうか」
『ふむ、そういえば一人、同じ段階まで至っていたのだったな。だが私には勝てんよ』
「……お前は誰だ。まさかアータシュ……じゃないよな」
『違うな、私は『インドラ』とでも名乗っておこうか。ヤツの所在は私も探っているところだが……まあ、結晶体さえ手に入るならば、このまま消えてもらっていたほうが好都合か』
統が大量のアータルに質量を持たせ、宙に浮かべた。
それは攻撃の意思表示だった。
「アンタ達は、グルだったのか?」
『……そうか、お前が天鉄夫妻の子供か。つくづく計画を引っ掻きまわしてくれるな』
黄金の大質量が一気に流れ出る。
インドラを押し流さんと殺到する。
閃光が迸る。雷が、その黄金の行く手を阻む。
『お前は、何を目的に戦っている?』
「両親の遺志を継ぐ。アータルの悪用なんかさせてたまるかよ」
『悪用……ふむ、日本でこの技術・エネルギーを独占してることのほうが、よほど悪に思えるがね』
「その力で人を襲ってたヤツに渡すより百倍マシだろうが!」
落雷と黄金の激突は何度も繰り返されている。
どちらも一歩も引かず、動くことはない。
『このままでは埒が明かんな』
インドラが金剛杵を構える。
――
現れたのは巨大な象。
それは、ゆうに五メートルは超える大きさだった。
しかし、ながら統が脅威を感じたのは、その白い身体から延びる長い鼻、
そこから出る黒い靄だった。
『放て』
象の鼻から靄が噴き出す。
統はそれを黄金で防ごうとした……しかし。
「消えていく……!?」
思わず横に飛んで黄金を消して迫る靄を避ける。
『次だ』
靄は立て続けに飛んでくる。
黄金で防御できない以上、移動してかわすしかない。
『力の段階は同じでも、力の使い方で、まだ差があるようだな』
落雷が統へと向かう。
黄金で防御しようとしたところを、象が吹き出す靄に溶かされる。
(避け切れない!?)
直撃を覚悟したその時だった。
――
――
――天唱・
黄金の外套を纏った三人がその落雷を受け止める。
「もう、統ってば無茶しすぎなんだから!」
「僕達の事、忘れないでくださいよ!」
「俺、まだ入ったばっかなんっすけどねぇ!」
落雷は三人の力に掻き消され霧散した。
『……サルヴァ、貴様――』
「おっと、手が滑った」
黄金を尖らせ、針いや最早、槍のようにして飛ばす佐浦。
象が靄でそれを、主のインドラに届く前に消して見せる。
『それが答えか?』
「さあどうでしょうね? ていうかなんのことでしょう?」
助けてもらったお礼を言う暇もなく、インドラと佐浦の会話に気を取られる統。
「サルヴァ……? おい佐浦、お前」
その時、四人全員に落雷が向かって来る。
溜息を吐くインドラ。
『もういい。お前らを全て倒し結晶体を回収する。それだけだ!』
落雷の数が勢いが増していく。
辺りの建物まで巻き込んで破壊の嵐を撒き散らす。
「統! とにかく先に、あのインドラってのを止めなきゃ!」
タルサが言う、どうやら、さっきまでの統とインドラの会話はクスティを通して聞いていたらしい。
「……ミスター・サウラ、とりあえず今は共闘するということでいいのですね?」
「そうっすねぇ、そうしてもらえるとこっちも助かるっていうか」
話してる間にもどんどんと落雷はその強さを増し続ける。
「分かったよ! 全員、スドレ使うなんて無茶しやがって!」
統は一旦、息を整える。
前を見据え、やるべき事を考え、皆に伝える。
「二手に分かれるぞ! 俺と佐浦はインドラに! タルサとノーリッジはあの象に!」
『了解!』
統が槍を、タルサが剣を、ノーリッジが銃を、佐浦は斧を、それぞれが、黄金に輝く象徴である武器を顕現させて敵に向かう。
統と佐浦がインドラに直接攻撃を加えに飛び込む。
防ごうとした象の動きをタルサとノーリッジが止める。
槍と斧を振りかぶる二人。
しかし、インドラはそれを金剛杵で受け止める。
『こんなものか』
「まだだ!」
「見て驚け!」
槍から黄金が溢れ出る。
それにより金剛杵は絡め取られ、動かせなくなる。
そして斧は、鋭く形を変え、その切っ先をインドラへと伸ばしていく。
『なるほど』
インドラは表情を変えない。
――
迸る雷、今度は雷雲からではなく、インドラ本人からそれは放たれた。
バチバチと帯電するインドラは、近づくだけで焼き焦がされそうなプレッシャーを放っていた。
「ありゃりゃ、計算外、四人でもダメかぁ」
「佐浦、やっぱお前、いやそんなこと言ってる場合じゃねぇけど……クソッ、どうしたら!?」
タルサとノーリッジも象を抑えるので精一杯のようだ。
打つ手無し、そう諦めかけた時だった。
「……私がいる」
戦い合う四人対一人と一匹の後ろから声が届く。
「ドゥグドウ!」
「ドゥグドウちゃん!」
「ミス・ドゥグドウ!」
「お、そうかエクスペンドなら」
インドラが戦いが始まって以来、初めて身構える。
『エクスペンド……厄介な』
落雷がドゥグドウへと向かう、しかし、それは彼女に当たったかに見えて、その直前で消えてしまう。
「皆! 下がって! 私の後ろへ!」
四人はその言葉に従って、一気に飛び退る。
――
エクスペンドの光が、インドラを包み込もうと広がっていく。
主人をかばった象は、光に飲まれ消える。
そしていよいよ、インドラへと届こうとした時だった。
『やっと見つけたぞ! 同じ結晶体が現れ反応を強くしたな!』
光が霧散する。
そこにいたのは、アータルの力を消されたインドラの正体ではなく、黒い靄を纏ったインドラがそのままの状態でいた。
しかし、注目すべきはそこではない。
彼が持っているモノ、エクスペンドを防いだモノ。
それは黄金の輪だった。
「プラス・アータルの結晶体……!」
『これで、私の勝ちだ』
統が、いや全員がインドラへと突撃する。
「あいつを逃がすな! アレを外に持ち出させたら――」
刹那、地面が隆起する。
インドラの新たな技かと思った統達だったが、一番驚いていたのはそのインドラ本人だった。
『何だッ! これは!?」
『それを特区の外に持ち出されては困る。まだ実験は終わっていない。アズダハク握り潰せ』
「了解しました」
それは巨大な腕だった。
黒い鱗の生えた三本爪のソレはファンタジーに出てくる竜を連想させた。
『まだこんなものを隠していたかアータシュ!』
竜の腕にギリギリと締め付けられながらも叫ぶインドラ。
「おじいちゃん!? どこにいるの!? これはなに!?」
『タルサか、今はその問いに答えている場合ではないが、一つ褒めてやろう。よくぞスドレの段階まで至った。これで実験はさらに進む』
「実験って、アンタは結局、何するつもりなんだよ!」
「博士、僕もアナタが何をしようとしているのか分からない。研究する価値のあることなのですか?」
答えは返ってこない。
その間も、インドラは締め付けられていたが、未だ倒されてはいなかった。
そして彼はコードを唱える。
――
それは泡で出来た槍だった。
それを竜の腕へと突き刺すインドラ。
すると竜の腕の拘束が外れる、しかし、その拍子に黄金の輪も転がり落ちる。
それを、その場にいた全員が拾おうとした時だった。
ついに地面が崩壊する。
そこに現れたのは巨大な竜そのものだった。
黒い鱗の竜、はっきりと姿が見えるために、竜が実在したのかと勘違いしそうになるがそうではない。
全員が落ちる間に黒い靄と化している尻尾を見る。
その時、それがフラストルだと理解した時には、皆が地下の暗闇に飲み込まれていったのだった。
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