第10話 ドゥグドウ
ガロードマーンラボに集うクスティを持つ者達。
統、タルサ、ノーリッジ。
そして、光り輝く少女。
「はじめまして、ノーリッジ・エフォートです」
「はじめまして。天鉄統です。日本語上手いんですね」
「心地タルサでーす! ほんとペラペラだね」
そんな挨拶もそこそこに、注目は自然と件の少女にと集まることになる。
「あのこの子は……」
「なんで光ってるんですか!?」
何故かタルサは嬉しそうだった。
比喩的な意味で目が輝いていた。
「やはり、君達にも輝いて見えるんだね」
ノーリッジが顎に手を当て、興味深げに呟く。
「博士はどうなんですか、彼女のこと、どう見えます?」
「いや、私にはただの少女にしか見えない……瞳も髪も黒色だ。だが」
アータシュが、ラボの装置を操作し、画面にデータを映しだす。
「観測数値が、彼女をアータルだと物語っている」
驚愕が広がった。
連れてきたはずのノーリッジも驚いている。
統は理解が及ばす、タルサの表情には何か含むモノがあった。
「僕はてっきり、クスティとは違う手法で、人体にアータルを注入するような実験が行われたのかと、思っていたのですが……アータルそのものですって?」
「ああ、そうだ、彼女はまさしくアータルそのもの、それもただのアータルではない」
そう言ってアータシュは、別の装置を操作し、柱から、とあるモノを取り出した。
「それは……」
「アータルの結晶体、彼女はコレと同質の存在だ」
一度起きた驚愕は、連鎖を始めて止まらない。
統はアータルの知識が少ないために、それがどれほどすごいことかはわかってはいなかった。
アータシュは、結晶体の重要性を知っていた。
しかしそれが人型であることに、二重にも三重にも驚きを重ね、思考の渦を加速させていた。
そんな中、タルサは一人、少女に対する一つの結論を言った。
「ゼロ・アータルの結晶体……この子は、あの実験の時に生まれた……そうでしょ! おじいちゃん!」
タルサの感情は複雑だった。
実験が成功していた喜びと、それが少女の形をしていたという困惑でない交ぜになっていた。
「だろうな、数値がそう語っている。失敗したと思われた実験が、まさか今まで達成されなかった結晶化を、こんな形で実現するとはな」
アータシュは画面に映されたデータを凝視していた。
タルサも、少女を複雑な眼差しで見つめていた。
ノーリッジも困惑で、なにをどうたらいいかを見失っていた。
そんな時、手を挙げたのは統だった。
「とりあえず、名前、決めませんか? 結晶体、じゃあんまりですよ」
そこから始まったのは名前会議だった。
さっきまでの困惑ムードはどこへやら、タルサなど完全に浮かれていた。
「ゼロ・アータルの結晶体だから、ゼロ、いやレイ……それとも光ってるからヒカリとか!」
「ミス・ココチ、それはあまりに安直なのでは……、ここは偉人にあやかってジャンヌ……いやナイチンゲール……」
言いだしっぺの統が会話に加われないほどの白熱っぷりだった。
これはある種の現実逃避だったのかもしれない。
あまりの理解を超える出来事からとりあえず目をそらすことで、精神の安定を保つための動きである。
「あの……アータシュさんは、なにかあります? その名前の案とか……」
おずおずと聞いてみる。
「ふむ、ではドゥグドウ、というのはどうだろう」
さらっと言った、あまり思考した様子はなかった。
(ノーリッジさんと同じ考え方で、何か由来でもあるのだろうか?)
そんな風に考えつつ、それを、議論を白熱させている二人に伝える。
「なんか、言いづらいね? でも、うん悪くないかも」
「……なるほど、そういうことですか博士、分かりました僕も異論はありません」
こうしてゼロ・アータルの結晶体の少女の名前が決まる。
「私、私の名前。ドゥグドウ、それが、私?」
小首を傾げ確認を取るドゥグドウ。
「そう、それが君の名前、えっと俺は天鉄統、これからよろしくドゥグドウ」
統が手を差し出す、
その手に小首を傾げながら、そっと触れる。
「よろしく、私ドゥグドウ、統、よろしく」
少女がほんの少しだけ、笑ったのだった。
「ドゥグドウちゃん! 私はタルサ、心地タルサだよ! よろしくね!」
「ミス・ドゥグドウ、僕はノーリッジ・エフォートです、よろしくお願いします」
各々の挨拶、タルサはドゥグドウに抱き着いたりしていた。
統はそんなわちゃわちゃから離れ、再びアータシュのとこへ戻る。
「それで、これから彼女はどうなるんですか……?」
純粋な疑問だった。
アータルの結晶体、それにアクセスするためにフヮルナフという巨大な建造物が必要になる代物。
それの扱いなど、想像がつかない。
一つはこのガロードマーンラボに隠され。
もう一つはダエーワに奪われた。
彼女もダエーワに狙われるのだろうか。
「そうなるだろうな、奴らはドゥグドウの存在を知ったら間違いなく狙ってくる。だが、彼女はゼロ・アータルの結晶体だ。それを理解したら迂闊に手を出すことも出来ないだろう」
「そうか、彼女はアータルを『
ゼロ・アータルは相克して自己増殖を続けるアータルの均衡を保つため、フラストルという驚異を無くすため生み出された存在なのだ。
その結晶の彼女は間違いなく対フラストルの切り札になる。
「とりあえず、タルサ、お前がドゥグドウの面倒を見ろ、それが一番効率的だろう」
アータシュさんがタルサへと声をかける。
「え! いいの!? やった! タルサちゃんかわいいからなぁ、どんな服着せようかなぁ、こんな地味なワンピースみたなのじゃ勿体ないし! せっかくの金髪だしね……ああでも他の人からは黒髪に見えてるんだっけ、それを考慮してコーディネートしないとね!」
すっかりはしゃいでいる。
「話はまとまったようで、しかし博士、詳しい調査……いや検査などはしなくてもいいのですか?」
ノーリッジがアータシュへと疑問を投げかける。
新たな結晶体など調べない訳にはいくまいと。
しかし返ってきた言葉は意外なものだった。
「いや、データの観測だけで十分だろう……それ以上調べることは、恐らく出来まい」
「そうか、結晶体への干渉には、そのためのフヮルナフが必要となる……」
アータシュの言葉を、すぐさま察するノーリッジ。
ドゥグドウ一人のために今から、あの外に見える巨大建造物を造るなどあまり現実的な話ではないということだろう。
もしかしたら、いつかはそうしなければいけない日が来るのかもしれないが。
こうして、初めて二人で行った対フラストル戦闘に、新たなダエーワとの邂逅、そして、新たなクスティの戦士の追加と、ゼロ・アータルの結晶体の出現。
そんな大量のイベントを盛り込んだ一日だったが、ここで一度解散となる。
戦闘の疲れや、渡航の疲れを癒すため、それぞれに用意された家へと帰る。
ノーリッジはなんと、統と同じアパートに住むらしい。
という訳で、統とノーリッジと、タルサとドゥグドウというメンバーで別れ帰路についたのだった。
ノーリッジ来日、ドゥグドウ出現、そして合流、その前にも戦闘があったが、まあとにかくそんな日から、数日が経った。
幸いなことに、その間、フラストルの出現はなかった。
ノーリッジは「確かに幸いなことで僕も嬉しく思いますが、クスティを使用した実戦を経験出来ていないというのは、少し不安もありますね」などと語っていた。
フラストルが現れなければ、特にクスティを持つ者達が、行動を縛られることはない。
故に、統は特にやることもなく、少しだらけていた。
いや、昨日はノーリッジの戦闘訓練に付き合っていたので、その疲労もあるのだが。
そんな時、アータル充電に対応したスマホに連絡が入った。
タルサからで『今から会えない?』という短文のメッセージ。
北商業区画のカラオケへのルートが、その後に送られてきた。
断る理由もなかったので、とりあえず着替え、財布とスマホを持って外へ出た。
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