第4話 コード


(さっきまで寝てたばかりだけど……)

 寝てばかりだと自嘲しつつ、しかし、それでも色々なことに疲れた体と心は、現実から逃避するように眠りについた。


 なんと特区では電力を全く使っていないらしい。

 今朝、スマホを充電しようと思った時、コンセントの形がおかしいのに気づき、そのことがわかった。

 電力の代わりになっているのはもちろんアータルだ。

 流石に新エネルギーとはいえ、そこまで実用化されているとは思っていなかった。

 仕方ないので、アータシュさんに相談すると、なんと無償でアータルに対応したスマホと交換してくれるらしい。

 さらに、その連絡の時についでのように聞かされたことなのだが、どうやらフラストルと戦うにあたって、自分に給与が出るらしい。


 その額は、高校生にはかなりの大金、いや高校生でなくてもかなり高いものだった。

「ここに就職しようかな……」

 なんて感じに血迷ってしまうほどだった。

 両親の安否を確かめるために来たはずが、怒涛の展開により、ここに住み戦うことになってしまったが、通っていた高校のことなど、どうするかは全く考えていなかった。

 一応、世話になっている叔父さんには連絡はとっているのだが、フラストルの件は話さないほうがいいだろう、というか話して信じてもらえるかどうか、うまく話せる気もしない。


 そんな感じで色んな事を有耶無耶にしながらも、もらった給料で、生活の準備をする。

 まずはスマホ交換しに携帯ショップへといかねばならない。

 その後に食料の買い出しだ。

 部屋に備え付けられていたパソコンで調べたところ、特区は三つの区画に分かれているらしい。

 中央のダマーヴァンドタワーを含むその周りを「研究区画」

 研究区画を囲むようにあるのが「居住区画」

 さらに、その外側、フヮルナフに近い部分に「商業区画」

 この三つの円が基本的な区画で、そこに東西南北を加えて、大まかな場所を説明したりするらしい、西研究区画とか東商業区画とかいった具合だ。


 今、自分が住んでいるのは南居住区覚で、携帯ショップも近くの南商業区画にあるらしい。

 そんな訳で、ささっと特に何の問題も起こらないままに用事を済ませ、家に帰ろうとした時、交換したばかりのアータル対応スマホに連絡が入る。

『フラストルが現れた、西商業区画だ。急いで向かってくれ』

 西商業区画は反対だが、クスティを使い強化した体ならそう時間は掛からない。

輪転ロウテイション!」


 現場に着く、今回はまだ被害が出る前にようだった。

 二体いるフラストルは辺りを見回し、なにかを警戒しているようだった。

を試し見るか)

 アータシュさんのところで訓練をしたときに作り出した「技」を使う。

命令コード

 アータルが収束していき、光が形を得ようと集まる。

 それにフラストルも気づくがもう遅い。

砲ヲ撃テキャノンファイア!』

 収束したアータルは光の弾丸となり、フラストル目掛け飛んでいく。


 その速さはまさに砲撃、フラストルは避けることもかなわず直撃する。

 しかし、一発の弾丸、当たるのは一体まで。

 もう一体は直接叩く。

 槍でもって突撃する。

 しかし、いまだ直接戦闘は慣れてはおらず、動きはぎこちない。

 そのため、砲撃でひるんでるにも関わらず、フラストルに突撃を避けられてしまう。

「クソッ、だったら『聖唱コード火ヲ拝ス誓イアヴェスター』!」

 太陽の如き爆発。


 なんとか今回もフラストルを撃破することが出来た。

 だが、戦闘に慣れ、そしてその戦い方を洗練していかなくては。

 このままだと「意思を持つフラストル」に勝つことは出来ないだろう。


 一度、家に帰り荷物を置いた後、自分はダマーヴァンドタワーへと向かった。

 ちょうどよくアータシュさんに会えたので、タワーの地下にある訓練室を開けてもらう。

 ここ開けられるのはアータシュさんだけなのだ。

「あまり無理はしてはいけないよ、といってもこの訓練で怪我をすることはあるまいが」

 訓練室ではアータルを制御し、フラストルの形を真似たダミーを相手に戦う。

 入力された通りにしか動けない人形だ。

 その操作もアータシュさんにしかできないことだ。


 クスティを起動し、戦闘態勢に入る。

「ダミーをこっちを狙って攻撃してくるようにしてください」

 アータシュさんにダミーの行動を入力してもらう。

 すると白い獣といった風貌のダミーがこちらへと迫る。

 その速さは、本物に勝るとも劣らない。

命令コード盾デ防ゲシールドガード

 アータルを収束させ、ダミーの攻撃を阻止することに成功する、


「よしっ、命令コード囮ヲ置ケデコイセット

 操作したアータルで自分そっくりの偽物を作り盾の後ろにセットする。

 盾を避け、横から回り込んできたダミーが最初に発見したのは囮の方だった。

 その隙は、見逃さずはずもない。

命令コード砲ヲ撃テキャノンファイア!」

 光の弾丸がダミーを撃ち貫く。


「おお、すごいじゃないか、だいぶアータルの制御にも慣れてきたんじゃないか? こんな短期間でここまで出来るとは」

 アータシュさんは拍手までしている。

「そうですかね。だといいんですけど」

 正直、自身はない、いざ戦闘になるとうまくいかない。

「ただ、その槍はつかわないのかね?」

「槍、ですか?」


 そういえば、クスティを起動したら必ず現れるこの槍。

 これをうまく扱えてはいない。

「そもそも、これって……?」

 一体なんなのだろう。

「それはある種のアータルを操るためのコントローラーでもあり、クスティが起動した者の意思を汲み取り具現化させた、高濃度のアータルによって編み上げられた象徴的な武器でもある」

「自分自身の意思が具現化した武器ってことですか?」

「そうだ、それゆえに強力だ、なるべく活用したほうがいい」

「活用……ですか」


 急に言われても、あまり思いつかない。

 未だ場慣れしていない自分には、槍の扱い方など見当もつかなかった。

「この本を参考にするといい」

 そう言ってアータシュさんがどこからともなく取り出したのは。

「世界の神話辞典? どうしてこれを?」

「君はもはや、現実とは違う次元の戦いへとその身を置いている。ならば普通のモノよりフィクション的なイメージの方が戦いに活かしやすいかもしれないだろう?」

「なるほど……」

 確かに、槍を持って獣退治など、おおよそ現代日本で聞く話ではない。

 しかし、まさか規模はそれほど大きくないとはいえ、神話を真面目に、しかもリアルで活用するために読む日が来ようとは、まさしく夢にも思わなかった。

 

 アータシュさんと別れ家に着き早速、神話の辞典を読み始める。

 これが意外に面白く、槍関連でも、それ以外でも色々と面白い話がありつい読み込んでしまった。

 気づいたらすっかり深夜になるまで読み込んでしまったのだった。


 ダマーヴァンドタワー最上階、そこはただの部屋ではなくガロードマーンラボと世名付けられた研究施設でもある。

 普段は何もない部屋だが、床から機材がせりあがってくる形で、研究室へとその姿を変える。

 左右前後全ての壁が窓になっているが、それはモニターにもなる。

 今、窓はモニターになっており、特区全域のアータルの様々な様子を数値や色などに変えて表示していた。

 それを一人眺めているアータシュ。

 おもむろに携帯を取り出し通話を始める。

「こちらメーノーグ、例の計画を実行に移してもらいたい」

『随分早いな、まだあのアフラは数回の戦闘しか行っていないはずだが」

「想定よりも成長速度が速いのだ、ゆえに現在の完成度を確認したい」

『了解した』

 通話が終わる。

 そしてまた何事もなかったかのように、アータシュは窓に表示される数値を眺めていた。

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