第2話 フラストル
警報が鳴り響く。
「なんてタイミングだ!どうやらフラストルが現れたようだ。行ってくれるかね統君」
「行きます、願ってもないチャンスだ!」
「そうか、場所はこの近くらしい、クスティで身体を強化して走ればすぐだ。タワーから出て真っ直ぐに走りたまえ」
「わかりました!」
一呼吸置いて、アータシュさんに教えてもらった言葉を唱える。
「
すると腕輪から光が溢れ、それは腕の周りを回る『輪』の形となった。
さらに、その輪から光が流れ、自分の目の前へと集まって形を成していく。
「これは……槍?」
「その武器こそフラストルに有効な攻撃手段だ。さあ今の君なら、このタワーから落ちても平気で着地できるほどに、その力は強化されているぞ、試してみたまえ」
黒くなったまどが明るくなり、そのうちの一つが開く。
俺は覚悟を決め、槍を掴んでその窓から飛び降りた。
現場に着くと、それは悲惨な状況だった。
逃げ回る人々、それを追いかけ回す、あの怪物フラストル
辺りには血が飛び散り、建物の一部が瓦礫となって散乱していた。
思わず槍を握る手に力が入る。
仇討ちのためにここに来た。
だがこの状況も許すわけにはいかない。
フラストルは複数いた。
そのうちの一体に目標を絞り、突撃する。
常人は人が走ったとは思わないであろう速度だった。
一瞬で目標のフラストルへとたどり着き、それを貫く。
槍で貫かれたフラストルは、煙のように霧散した。
あまりのあっけなさに少し拍子抜けする。
しかしまだフラストルは残っている。
もう一体のほうへと向き直ると、なんとそのフラストルがこちらへと向かって来ていた。
その速度は、先ほどの俺に匹敵するほどだった。
(こいつら、人を襲ってた時は、本気じゃなかったのか!?)
人々を追いかけていた時と明らかに違うスピード、少し対応が遅れるもギリギリのところで防御に成功する。
しかし、その勢いに押され吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁ……!」
吹き飛ばされた先でなんとか着地するも、すでに相手は次の攻撃へと移っていた。
(こんなことなら、なにかスポーツでもやっとくんだった!)
そんなどうしようもない後悔をしながらも、ギリギリのところで攻撃を避ける。
フラストルの猛攻に、防戦を強いられる。
すると、クスティがアータルとは違う輝きを放つ。
『天鉄君、聞こえるかね』
「アータシュさん!?」
どうやらクスティには通信機能もあるらしい。
『いいかねよく聞きたまえ、君がクスティを通じて操るアータルの最大の特徴は「情報を入力できる」というものだ』
「情報を、入力……」
なんとかフラストルの攻撃をしのぎながら、アータシュの言葉に耳を傾ける。
『言葉でも、文字でも、なんなら念じるだけでもいい、細かい操作には、専門の装置を使わなければならないが、攻撃や防御、戦闘行為でそこまで細かい操作は必要あるまい』
「つまり、あいつらを倒せるような『何か』をイメージしろってことですかっ!?」
話している最中にもフラストルの攻撃は止まない、爪や牙がこちらへと何度も突き立てられようとしている。
『「
攻撃手段、具体的にそれはどんなものなのかなど聞く暇はなかった。
発動しなければジリ貧、仇討ちどころかさらなる犠牲の一人になるだけだ。
強く願う、目の前にある脅威を退ける力を。
そして唱える。
『
辺りのアータルが収束するのを感じる。
自らに新たな形が与えられるのを待っているように集まりその時を待っている。
それまで攻撃していたフラストルが、そのアータルに圧され、こちらと距離が出来る。
『
迸る光の奔流、それは、フラストルを巻き込み、さらに広がり、さながら地上に落ちた太陽のごとき形となった。
「成功か、流石彼らの子供といったところか」
アータシュは、統が作り出した光を見ながら独り呟く。
そこで彼の携帯に連絡が入る。
『こちらインドラ、「アフラ」の起動を確認したが、もう動いていいのか』
「いや、あれはまだ起動したばかりで未成熟、それに頭数もたりない』
『ならばまだ待機ということか』
「ああ、栄光の輪を巡る神話を再現するにはまだ遠い、だがそうだな、もう少し雑魚を狩らせた後で、完成度確認のために一人適当なのぶつけてみてくれたまえ」
『了解、ならばサルヴァにその任を与えることにする』
「頼む』
通話が切れる。
溜息をつくアータシュ、車椅子の背もたれに体を預ける。
「さて……彼を迎えにいかなくてはな」
先ほどまでの通話とは違う声音でそんなことを言う。
部屋に備え付けられた電話を使い、部下に指示を出す。
その後、戦いの疲れで、倒れた統は回収され、再びこのタワーへと戻ってくるのだった。
統はタワーの1階にある医務室へと運ばれていた。
目立った怪我はなく、意識を失ったのも一時的な症状だということだ。
「アータルの制御はクスティを介していても、それなりの負荷がかかる、脳の情報処理能力が関係してくるのだが、まあこの話はまた今度にしようか」
そんなことを意識が戻ったばかりの統に告げたアータシュは、仕事があるからといって、どこかへいってしまった。
(聞きたいことがあったんだけどな)
起きたばかりで意識がはっきりとしていなかったために引き留めることもできなかった。
(フラストル……あれは間違いなく、アータルだった)
だとするならば、黒い獣は何者かにあの形を、その情報を入力されたことになる。
「つまりそいつらが父さんと母さんを……ッ!」
苛立ちが募り思わず壁を殴りそうになるのを寸でのところで止める、誰かわからない、けれど明確に現在進行形で行われている悪意ある行為。
だがその正体を見極めるには、冷静にならなくてはならない。
現在の手がかりであり容疑者はただ一人、特区の長アータシュ・グザスタク
力をくれた恩人でもあるが、アータルというモノの全てを研究・管理している権威なのだ。
知らないはずがない、謎の怪物などと言っていたが、フラストルがアータルで構成されていると分からないわけがない。
クスティなんてものが有効だと分かっていたのだって、つまりそういうことなのだろう。
問い詰めねば、ここにいることも恐ろしくなってくる。
だがそんな気持ちとは裏腹に、ベッドの上に横たわっている体は思うようには動かない。
戦闘によってたまった疲労が意識までも奪おうとする。
(今だけは……どうしようもない……か)
フラストルにはなんとか勝てたが睡魔に勝つことは出来ず。
そのまま、瞼を閉じ、ゆっくりと、再び意識を手放した。
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