第8話 サナンダ記 :「波動アップ大作戦」
サナンダ記
「波動アップ大作戦」 乙音メイ
「食事」
人形が眠っている午前3時頃、チームでミーティングをし、人形ボディの波動を上げる食生活に移していくことになった。
ベジタリアンから始め、徐々に生活上に、動物の製品が入り込まない、ヴィーガンの第3段階まで導いていくと決まった。
まず大天使ミカエルが、自分のスピリットである当時7歳の子どもにインスピレーションを送った。
「動物さん、かわいそうだね」
と、メアリーがマーケットから買ってきた肉を見て、そう言った。メアリーは愕然とした。「ハッ! 動物はフードではなく、家族!」
このように一遍に理解した。
その結果、現在は全くの菜食で、不要な添加物質を、極力家の中に持ち込まない暮らし方に移行できている。
他の超高度文明惑星人から見たら、動物も人間も地球人であり、食卓に並べるその行為は、人食い人種のそれである。それに、動物の方が、人間よりも波動が軽いためテレパシーを感受しやすく、すでに沢山の動物たちとの意思の疎通が図られている。今は、人より動物たちの方が、超高度文明人に近しい状況だ。
父は言っておいたのだ。
『羽のある空を飛ぶ鳥、二本足、四つ足で歩く動物、水を泳ぐ魚、それらは、あなた方の家族である。愛をもって接しなさい。共に生きることを喜びなさい。父である神が、子を愛するように愛するのだ。そして、滋養物を与えることにする。あなたがたは海や園の植物、樹の実からは何でも食べてよい。動物たちと仲良く分け合って食べなさい』と。
あなたがたは動物たちを見守り、必要があれば世話をする立場にあるのだ。神が人の子を世話するようにやさしく。
すり替えられた記述は他にもまだある。言いたいことは山ほどあるが、これはいずれ時期を見て改められる。
支配する者たちに父の教えを改ざんされたまま、5万年もの間、未開の野蛮人にも映るような行為を、強いられ、続けてきたのである。
「運動」
運動も始めるようになった。これはひょんなことから始まった。
メアリーの家庭では、家での娯楽は読書や映画鑑賞である。テレビはもう何年も前に処分しているため、大きめのゲームディスプレイとレコーダーを繋ぎ、レンタルや購入したブルーレイディスクで映画を楽しんでいる。
いつだったか期限ギリギリまで映画を鑑賞していて、そのままメアリーは眠ってしまった。レンタルショップが開店する午前10時までに返却ポストに投函しておけば、約束の期日に間に合う計算だ。そこで、メアリーはレンタルショップに走って返しに行くことにしたのだった。その途中のことだが、メアリーが護衛と思っている人物から、称賛のまなざしを浴びた、とメアリーは思った。
意外と早く走れることに、本人は満悦し、それが契機となって、近所をランニングするようになった。褒めると伸びる質なのだ。
息が荒いことを、努めて気取られないようにしながら、フォームも決めて走っているつもりなのだ。妻よ、何ともまあ……。
メアリーは、2キロ近くまで走ると、呼吸が急に楽になることを発見し、走る距離も順調に伸びていった。それは、肺の毛細血管のつまりがなくなるからである。
近所の公園の中をぐるぐる走っていたが、そのうち、公園を飛び出して1キロほど離れたサイクリングロードまで足を延ばすようになった。東から西に40キロメートルほど続く細い水路に沿って、散歩やサイクリング用に整備されている自家用車通行禁止の道だ。
家族の世話をし、お昼前に走ることが多かった。サイクリングロードに隣接したある踏切は、鉄道ファンが写真を撮るポイントとする場所でもあった。撮り鉄に交じってギャラリーが増えた。多いときは、50人くらいいる。妻は、近寄らないように踏切の手前200メートルまで来ると、Uターンして走った。だが、望遠レンズの数は半端ではない。
悪魔崇拝者たちは病院の名を借り、誕生から生涯の終わりまで、肉体ばかりか精神までも人体実験をすることが上からの申し付けだったのだ。
のんびり散歩を楽しむ人が早朝でも一人二人はいる。その道を遠くまで走れるようになると、サイクリング車で、妻の走っている様子をそれとなく探る者もいた。長いコースを快調に走っているうちに、お腹に刺激を受け、トイレに寄る必要が生じたことが2回あった。開店している大きな洋品店が近くにあって助かった。妻は、ランニングコースを住まいからあまり離れない短い半径の周回に変更した。それでもさらに早朝、夕刻、時間にかかわらず車で妻をつけてくる車が後を絶たなかった。
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