第56話 元英雄の宿
「へぇ、その様な事が」
夕日に照らされた馬車に揺られながら体を寄せて寝ているクリスタ君に腕を回しつつ私はキルティーさんとお話をしていました。
まあ話しているのはクリスタ君と出会った話から、コーメインでレオンさん達と一緒にキングゴーレムを倒した話、コロンさんに出会ってスクロックでそのコロンさんが夢を叶えるために分かれた事とかを話していました。
コロンさんがノクターンホロウと言うのは言っちゃいけないので言わないように気をつけてですけど。
「レシア様の話は聞いていて新鮮です。何せその様な経験をする人を乗せる事が無いもので」
「え? そうなんですか?」
「ええ。朝方にも話しましたとおり、この馬車は偉人や貴族様、貴重品を運ぶのが主な仕事ですので似たような話を聞くとすれば勇者レオン様のお爺さま達が経営する宿で聞くくらいですので」
「そうなんですね」
「はい。―――っと、そろそろ宿が見えてくるので降りる準備をして頂いてもよろしいでしょうか?」
「分かりました。クリスタ君、そろそろ宿に着くので起きて下さい」
「んぅー?」
寝ているクリスタ君の体を揺するとクリスタ君は目を擦って私の顔を見てきました。
凄く眠たそうですね。
「ほら、クリスタ君。そろそろ宿に着きますからしっかりして下さいね」
「はーい」
凄く眠たそうな声でクリスタ君はそう言うと「んー」と伸びると「ふはぁ」って。
しっかり起きたみたいですね!
「そろそろ見えてきます。あれが―――」
「キルティー何かおかしいぞ」
キルティーさんが何か言いかけた所で、前のケンタウロスさんの一人。ゼバスさんがそんな声を掛けてきました。
何かあったんでしょうかね?
「どうした?」
「宿の屋根が見えない」
「え?」
そう言ってキルティーさんが視線を前に向けます。
私も見ますけど、んー? 何も見えませんね。
「一旦停まろう。何が起きているのか見てくる」
「分かった。―――お客様」
凄く真剣な声色でキルティーさんが声をかけてきました。
「申し訳御座いませんが、宿の方で何か異常があるかも知れませんので馬車を一旦停め確認に向かいます。ですので、座席にしっかり座っていて下さい」
「わ、分かりました」
「はーい」
「では、―――停車用意!」
馬車が停まり、ゼバスさんが馬車に繋いでる器具を外して走って行きます。
大丈夫、なんでしょうかね?
ゼバスさんの姿が見えなくなってからしばらく帰りを待ちつつ馬車で座って待ってますけど、んー……。
「キルティーさん、ゼバスさん戻ってきませんけど大丈夫ですかね?」
「安心して下さい。彼であれば大丈夫です。ああ、今、戻ってきました」
キルティーさんの言葉で見てみると、あ、確かにゼバスさんが戻ってきました。
良かったです。
「お客様、少しお待ち下さい。ゼバスに状況を聞いて参ります」
そう言ってキルティーさんは馬車から降り、走って戻ってくるゼバスさんの元へ。
そうして何か話し始めました。んー、……気になります。
気になりますけど、ここから聞こえますかね?
と言う事で、少し耳を澄ませて―――
……んー、聞こえないです。
「何!? 宿が焼け落ちていた!?」
「しっ、声がでかい」
「す、すまん」
急にそんな声が聞こえました。
宿が焼け落ちたって。
と、キルティーさんがゼバスさんから離れて戻ってきます。
ゼバスさんはまた行っちゃいましたけど。
「あのー、もしかして宿燃えちゃったんですか?」
戻ってきたキルティーさんにそう問いかけたら、
「ええ、今現場を見に行ったゼバスから聞いたのですが、宿は完全に焼け落ちていたらしいです。ですので、本日は野宿という形になってしまいますがご了承くださいませ」
「野宿なのは良いんですけれど、ゼバスさん、なんでまた行ったんですか?」
「ゼバスは安全確認と宿の者を探しに行きました。先程は現状確認に行っただけでしたので」
「そうなんですか」
「はい。宿の主人達が避難していればそれで良いのですが、もし何かの事故で動けないのであれば助ける必要があるので。それと、今から
「分かりました」
「では、座席にお座り下さい。出発致します」
私達が座ると馬車はまた進んでいきます。けど、なんだかさっきまでワクワクしていたんですけどなんか今はそんな気分では無いですね。
そうしてしばらく走ると宿だったと思われる木の柱とかが見えました。
ですけど、完全に黒くなってますね。
あ、ゼバスさんがいます。
その近くには、二人いますね。ですけど、なんか様子がおかしいです。
と、馬車がゼバスさんの傍で停まります。
そこで見えたのは、横になっているお婆さんと、ゼバスさんに抱えられ凄く乱れた呼吸で頭から血を流してるお爺さんです。
というか、お二人色々ぼろぼろですよ!?
そんなお二人のところに馬車から降りてキルティーさんがしゃがんで話しかけます。
「シルフィード様」
「はあ、はあ、……―――ヨカゼが、うぐっ」
凄く苦しそうにお爺さんが言います。なんか聞いてて辛いですよ。
「あまり無理はせず少し休んで下さい。ゼバス、ソフィー様の方は?」
「―――ギリギリだ」
「―――ッ、そうか」
「頼む、ッはあ、ゲホッ、ああ、あの子を、ヨカゼを……」
「分かりました。ヨカゼ様はしっかりと助けます」
「すま、ない。―――ッグ」
「シルフィード様、任せて下さい。今は休んでいて下さい。……ゼバス」
そう言うとキルティーさんは着ていた上着を脱ぎゼバスさんに渡し、ゼバスさんは「ああ」と短く答えると地面にそれを広げて、その上にシルフィードさんをゆっくりと横に寝せました。
その時、シルフィードさんが「うっ」って言ったのが少しなんか苦しく感じます。
「ねぇねぇ、れしあさん」
不意に聞こえた声に浮くとクリスタ君が不安そうな表情で私の方を見ていました。
そ、そうですよ。そうですよね。クリスタ君には不安ですよね。
「れしあさん、だいじょーぶ?」
「え?」
そう考えていたらそんな事を言われて固まっちゃいました。
ですけど、クリスタ君は私の次の言葉を待っている様子でずっと見てきます。
うう……。
「え、えーと、だ―――」
大丈夫と言おうとして、止まっちゃいました。
その時、何故かクリスタ君に言われた「嘘はやだ」という言葉を思い出してしまったので。
「クリスタ君」
「なーに?」
「お手々、握っていて貰って良いですか?」
「うん!」
私の言葉を聞いてクリスタ君はぎゅっと握ってくれました。
なんか少し苦しい感じが和らいだ気がします。
「お客様、馬車から降りて来て頂いてもよろしいでしょうか?」
と、キルティーさんの声が聞こえてきました。
「分かりました」
「はーい」
そうしてクリスタ君と一緒に馬車から降ります。
近くには息の荒いシルフィードさんとソフィーさんがいて、……あまり直視は出来ないですけど。
と、私の隣にもう一人のケンタウロスさんのユニーさんが来ました。
その反対側。クリスタ君の横にゼバスさんがやって来ます。
するとキルティーさんが私とクリスタ君の前に立ちました。
「お客様、すみません。突然なのですが、私はヨカゼ様を探しに行ってきます。この様子から攫われてしまったと考えるのが自然と思われますので」
本当に突然にキルティーさんがそんな事を。ですけど、一人で探すのって大変じゃ無いですかね? 皆で探した方が良いと思いますけど。そうです。それがいいですよね! よし、なら―――
「キルティー」
私が皆さんで探しましょうって提案する前に、ゼバスさんに先を越されちゃいました。やっぱりゼバスさんも一緒に探した方が良いって―――
「―――私情を挟むなよ?」
「……分かっている」
あ、あれ? なんか違う感じの事言ってますけど。
「では、すみませんがお客様。私は―――」
キルティーさん、急に振り向いて腰に下げている剣を抜いて―――
キンッ
三方向からそんな音がしました!
見たら、ケンタウロスさん達も剣を抜いてました。
ですけど今の音、な、なんですか!?
「いやぁ、お見事お見事。流石はケンタウロス快速便ですねぇ」
ビックリしていたらそんな声と手を叩く音が聞こえてきました。
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