第55話 黒い石

 ケンタウロスさん達が引く馬車に乗って、馬車護衛ガードっていうらしいこの馬車専用のお仕事をしている猫の獣人、キルティーさんと馬車を引くお二人とお話ししています。

 なんでも普通の馬車では無いお仕事で、何か危ない事が起きた時に前をケンタウロスのお二人が担当して、後ろを彼女のお仕事である馬車護衛が対応するそうです。

 普段は偉い人を乗せたり、凄く貴重な物を運んだりするらしいです。

 なんか凄いですね。


「妹様に会いに。それでお二人は教皇街に行くのですか」

「そうなんですよ~。ね、クリスタ君」

「うん! あとね、レシアさんの叔母さんがね、美味しい煉瓦を用意して待っててくれるんだって!」

「お、美味しい煉瓦? ですか」

「うん!」


 ふふ、クリスタ君たら凄くワクワクしてますね。


「それならば私達も途中までですがお二人が無事に辿り着けるよう次の町まで頑張らせていただきます」


 そう言ってキルティーさんが被ってる帽子を掴みながら言います。

 なんかかっこいいです。


「ありがとうございます。キルティーさん」

「ありがとーございます」

「それが私達の役目ですので」


 お礼を言ったらキルティーさんが微笑みながらそう言います。

 おー! 本当にかっこいいです!

 高く登ったお日様にも照らされて、凄くかっこよく見えますし。

 って、あれ? そう言えば。


「キルティーさん、ケンタウロスさん達、朝からずっと走ってますけど休まなくて大丈夫なんですか?」

「お気遣いありがとうございます。者にもよりますが、今回担当させていただいています彼等は朝から夕方までどの様な道でも走り通せる訓練と実績がある者達ですので安心して下さいませ」


 へぇ~、朝から夕方まで―――


「えぇ!? 朝から夕方まで!? そんなに走れるんですか!?」

「はい」


 朝から夕方までって凄いですね!

 私ならそんなに走れないですよ。


「すみません。お客様、少し確認よろしいでしょうか?」


 と、思っていたらキルティーさんが「あっ」と小さく言ったのが聞こえてそう聞いてきました。どうかしたんでしょうかね?


「どうかしましたか?」

「しばらく休憩をせず走っていますが、一旦どこかで馬車から降りて休んだり等はしなくても大丈夫でしょうか? 勿論走行中、いつでも仮眠をしていただいたり、お食事を摂って頂いても構わないのですが」


「んー、私は大丈夫です。クリスタ君はどうですか?」

「僕もだいじょーぶ!」


「そうですか。ではこのまま走行を続けさせて頂きます。何かありましたらお申し付け下さいね」


 そう言って前を向いたキルティーさん。なんでしょう。キルティーさんを見てると凄く頼もしいです。

 なんか安心しますね。

 それに今日は本当に良い天気です。凄く光合成が捗りますよ~。んふふ~。


「あ! れしあさん見てみてー!」


 と、クリスタ君が袖を引っ張って声を掛けてきました。


「んー? どうしましたクリスタ君」

「あそこに美味しそうな石があるの!」

「え?」


 クリスタ君にそう言われて見やると、走っている道と川を挟んだ向こう側に黒い石がありました。

 クリスタ君、良く見つけましたね。


「あの石欲しいんですか?」

「うん!」


 元気に頷くクリスタ君。そうですね。


「あの、キルティーさんすみません」

「なんでしょうか?」

「ちょっとあそこにある石を取りに行きたいんですけど停めて頂いても良いでしょうか?」

「分かりました。 停まるまで座席に座っていて下さい。―――停車用意!」


 そうキルティーさんが言うと馬車の速さがゆっくりになって停まりました。


「ありがとうございます。じゃあ、クリスタ君行きましょうか」

「うん!」


 そうしてクリスタ君と一緒に馬車を降りて―――


「お客様、私もご一緒致します」


 キルティーさんがそう言って馬車から降りてきました。

 んー、ですけど。


「石を取ってきたらすぐに戻ってきますのでキルティーさんは馬車で待ってて大丈夫ですよ」

「しかし、お客様に何かあれば大変ですので。それよりも川を渡ると服が濡れてしまいますし、私が代わりに―――」

「え? 川は飛んで超えて行くので大丈夫ですよ?」

「えっ。……と、飛べるのですか?」

「はい!」

「れしあさんね、びゅーんって飛べるんだよ!」

「な、なるほど」

「というわけですからキルティーさんは休んでて下さい。行きましょうクリスタ君」

「うん!」


 そういう事でクリスタ君と一緒にふわって浮いて川の向こう側へ。そうして石の傍に降りました。

 近くで見るとちょっと思ってたより大きいですね。私の膝よりちょっと下くらいの大きさでなんか細長いですね。


「凄ーい! 美味しそう!」


 クリスタ君、この石を見て凄く目を輝かせてますね。


「さ、クリスタ君。キルティーさんも待ってますし石を拾って早く戻りましょう」

「うん!」


 そうしてクリスタ君はブレイクと言って石をポンって壊して、崩れて小さくなった石を鞄に入れていきます。

 でも、クリスタ君のお手々小さくて両手で二つずつしか入れていけないので、私もお手伝いです。


「これで全部ですね。良かったですねクリスタ君」

「うん!」

「それじゃあ、キルティーさんも待ってますし戻りましょうか」

「はーい!」


 そうしてクリスタ君を抱えてふわりと―――


「だ、大丈夫でしたかお客様。何か破裂音がありましたがッ!」


 浮いたら、後ろからキルティーさんが話しかけてきました。

 ずぶ濡れですけど。


「だ、大丈夫ですけど―――」

「それは、良かったです」


 キルティーさんはそう言って胸を撫で下ろします。けど


「あの、キルティーさん、濡れてますけど大丈夫ですか?」

「ご心配ありがとうございます。私は大丈夫ですのでご安心を。しかし、先程の破裂音は一体?」

「破裂音、ですか? あ! あれはクリスタ君のブレイクなので気にしなくて大丈夫ですよ。ね、クリスタ君」

「うん!」

「そ、そうなのですか?」

「はい。それで今から戻る所ですし、もう一度濡れるのもあれですしキルティーさんも一緒に戻りましょう」

「ああ、いえ。お気持ちは嬉しいですが、今すでに濡れていますし、お客様にお手数をおかけするのは気が引けます。私は自力で戻りますので先に戻って頂く形にはなりますが―――」

「別に私は大丈夫ですから、行きましょう!」

「え!? いや、あ、あの―――ヒッ!?」


 私はクリスタ君を抱えていない方の手でキルティーさんの手を掴んで、更に浮いて馬車の方へびゅーんと飛んで馬車の傍に降ります。

 降りますけど、キルティーさん地面にペタって座っちゃいました。ちょっと降ろし方悪かったですかね?


「キルティーさん、大丈夫ですか?」

「……へ? あ、えっ、あ、は、はい! だ、大丈夫です。大丈夫なので、お客様、馬車にお乗り下さいませ」


 キルティーさん、慌てて立ち上がってそう言ますけど、本当に大丈夫なんでしょうかね? 

 ちょっと顔青いですし、足震えてますけど……。

 んー、大丈夫って言ってるので大丈夫だとは思いますけど。

 そうして私達はまた馬車に乗って、キルティーさんが乗り込み、号令を言うと前のお二人が「ハイヤー!」って言って出発しました。その時にはもう足も震えてませんし顔色も良いです。

 あ、そう言えば。


「キルティーさん、お着替えしなくて大丈夫なんですか? さっきずぶ濡れでしたけれど」

「お気遣いありがとうございます。私共が着ているこの服は特別仕様で濡れたり汚れたりしても破損していなければ元の状態に戻る魔法が働いているので大丈夫なのです。証拠に、この様に乾いておりますし」

「え? あ! 本当です!」


 見てみたら本当に乾いてました! 凄いですね。


「ああ、そうです。言い忘れていましたがこのまま順調に行けば夕方くらいにはこの先に宿がありますので本日はそこで休憩して、明日出発となりますのでよろしくお願いしますね」

「え? この先に宿があるんですか?」


 なんか周りには何も無くてそんな感じは無いですけど。


「はい。そこは元英雄であり、勇者レオン様の剣の師でもあるレオン様のお爺さまとお婆さまが営む宿が御座いますのでどの様な悪者が来ようとも安心できる宿です」


 レオンさんのお爺さん達の宿!? なんか凄そうですね!


「それにお料理の腕もご立派でなかなかに絶品ですし―――、あ、そうです。最近、宿に見習いの少女もいるとの事で、対応に粗相があっても温かく見守って欲しいとご利用されるお客様に伝えるように言われましたので、予めご了承頂けると幸いです」

「分かりました!」

「はーい!」


 いやぁ、凄く楽しみですね。レオンさんのお爺さん達、どんな方達なんでしょうか。

 それにお料理も凄いって、凄く楽しみです!

 それと見習いの女の子、どんな子なんでしょうかね?

 ああ、気になります! 早く辿り着きませんかね。

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