第47話 煉瓦屋さんにて

 フクゥダ公爵様と別れた私とクリスタ君ですけど、私のお腹が空いたので食堂で飯を食べてました。

 ふふ、いっぱい食べてお腹いっぱいです~。

 ですけど、食堂ではクリスタ君が食べれるものが無かったので、食堂を出た私達は今、煉瓦屋さんに来ています。


「クリスタ君、どれにします?」

「えーとね。えーとね。全部美味しそうでね。うーん、どれにしよー?」


 サンプルって書いて並べてある煉瓦を見てクリスタ君悩んでますけど、んー、どれが美味しいのかは私には分かりませんね。

 ……あ、そうです。


「とりあえず全部買って食べてみれば良いんですよ」

「あ、そっかー!」

「そうです」


 という事で店員さんのところに。


「すみません。煉瓦一つずつくださーい」

「はー……はい?」


 あ、あれ? 店員さん、急に首を傾げちゃいましたよ。


「え、えーと。お客さん。煉瓦それぞれ用途に適した特徴があるのですが、一つずつですか?」

「はい! どれが良いのか分からないので」

「そ、そうですか。であれば、何用なのか訊いても良いですか? それに見合った物をお売りしますので」


 おお! 店員さんが選んでくれるみたいです。


「えっとですね。食べる用ですね」

「食べる用ですか。食べる用となると―――……食べる用?」


 あれ? 店員さんがまた首を傾げちゃいました。

 あ、もしかして頭の中で何が良いかを選んでくれてるんでしょうか?


「うん! 食べるの! どれが美味しいか教えてー!」


 そんな店員さんにクリスタ君が目を輝かせて問いかけます。

 ですけど、それに店員さんは「ええー」と困惑してるみたいです。これは注意した方が良いですね。急かすのは良くないですし。


「クリスタ君、ダメですよ。店員さん困ってますから、今選んでくれるって言ってたんですから、待ちましょう」

「はーい」


 私の言葉にクリスタ君は手を上げて返事をしてくれました。

 ふふ、分かってくれたみたいです。


「いえ、あの、お客さん。食べる用の煉瓦なんてありませんよ?」

「え? 無いんですか!?」

「えー! 無いのー!?」

「そりゃあ、建築材料ですし食べる物ではありませんし」


 二人で驚いていたらそう言われちゃいました。

 ですけど、クリスタ君に買ってあげるって言っちゃいましたし。むむぅー。


「すいませんですー」


 悩んでいたら他のお客さんの声が。

 って、あれ? この声。


「あれ? おりなーとれしあさんです。お二人ともどうしたです?」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはコクヨーちゃんがいました。

 って、コクヨーちゃんも外套を着てて、フードを被っている姿がなんだか新鮮ですし可愛いですね。


「あのね、煉瓦買いに来たんだけどね、食べる用の無いんだってー」

「おりなー、そーなのですよ。煉瓦という物を人間さん達は食べないって事、私、お姫様に今日教えて貰って初めて知ったです。なので、そういう時はふつーに買うのが良いっていうのも教えて貰って今、ふつーに買いに来たです」

「そーなんだ!」

「そーなんです!」


 なるほど。そうなんですか。

 あれ? ですけど、私も普通に買おうとしてたんですけど、店員さんに無いって言われちゃいましたよ?


「なので、てーいんさん。赤煉瓦をいっぱい下さいです!」

「……あの、うちの煉瓦は食べ物じゃ無いですよ?」

「知ってるです。なので、赤煉瓦をいっぱい下さいです」

「うーん」


 コクヨーちゃんに言われた店員さんは凄く難しい顔をしちゃいました。

 うーん。ですけど、なんでこんなに難しい顔してるんでしょうか?


「少々お待ち下さい」

「はいです」


 と、コクヨーちゃんが答えると店員さんは店の奥へ。

 どうしたんでしょうかね?

 そう思っていたら店の奥から小さく声が聞こえてきました。


「……―方、―、困ったお客さんが来てまして」

「買いたいってんなら売ってやりゃ良いだろ? 何をそんなに悩んでんだ?」

「普通なら――――すけど、何か勘違いしているような感じなんですよ」

「勘違いだ?」

「はい。食べるとかって言ってて」

「食べるだぁ? うちの煉瓦を? はっはっは! そんな客がいるのか。だが、まあ、間違えるのも勉強だろ? それに欲しいってんなら売ってやれ。ほら、行った行った」

「……分かりました」


 所々聞き取れませんでしたけど、奥の人と話してたみたいですね。


「お待たせしました。それで赤煉瓦をいっぱいとの事でしたけど、数的にはどれくらいでしょうか?」

「いっぱいです!」

「いっぱいだとどれくらい用意すれば良いのか分からないので、できれば数を言って頂けると幸いです」

「えーと、いっぱいは、いっぱいです……」


 店員さんの言葉に意気消沈しちゃうコクヨーちゃん。

 んー、いっぱい欲しいならいっぱい売ってあげると良いと思うんですけど。


「何か紙に欲しい数とか書いて持ってきてたりはしてますか?」

「あ、持ってるです!」


 困っていたコクヨーちゃんですけど店員さんの言葉に「あっ」とした様子で答えて、服のポケットから二つに折られた紙を取り出しました。


「見せて頂いても良いですかね?」

「どうぞです!」


 そうして紙を開く店員さん。

 それをジッと読んでますけど、なんか表情が険しくなってます。むむぅ、そんな表情をされると何が書いてあるのか気になります。気になりますよ。


「えーっと、少々お待ち下さいね」

「はいです」


 再度奥に引っ込む店員さん。

 出たり入ったり忙しいですね。


「それにしても、おりなーとまた会えるなんて思ってなかったです」

「僕もこくよーさん来ると思わなかったー! あ、あとね。買い方教えてくれてありがとーございます」

「おりなーだからお礼言わなくても良いです。でも、どーいたしましてですー」


 二人で深々と頭を下げていて、ふふ、微笑ましいですね。


「お待たせ致しました。赤煉瓦、二十五個ですね」

「ありがとーです!」


 そうしてコクヨーちゃんはポケットからお金を取り出して店員さんに言われた額を支払います。


「丁度ですね。ありがとうございます」

「こちらこそありがとーです」


 そうしてコクヨーちゃんはバッグに煉瓦を入れていきます。

 そういえば、コクヨーちゃん。バッグつけてったんですね。って、あれ? そのバッグ。

 見た目が完全に私とクリスタ君が持っているバッグに似てますよ。

 あ、もしかして。


「コクヨーちゃんそのバッグ。いっぱい入るバッグですか?」

「はいです。お姫様に、煉瓦は重たいから持って行ってーって言われたのです。ですけど、私のキラキラ石を入れないとダメって言ってたです。なので私のキラキラ石入ってますです」

「そうなんですか」

「そーなんだ」


 コクヨーちゃんの言葉に頷いて話を聞いているとクリスタ君も感心してます。

 あれ? でも、私、キラキラ石っていうの入れてないんですけど、普通に使えてますよ?

 んー? あ! もしかしてレオンさんがくれた時に入ってたんですかね?


「あ、そうです。おりなー。そーだんがあるので来てくれますです?」

「ふえ? 僕?」

「ですです」

「いいよー」

「ありがとーです」


 そんなやり取りをしている二人ですけど、なんでしょう相談って。……気になります。


「そうです。れしあさんもそーだんに来てくださいです」


 気になっていたらコクヨーちゃんに声をかけられました。

 なんと、私にも相談みたいです。

 これは、―――乗るしかありませんね!


「良いですよ」

「ありがとーです」


 ふふ、という事で早速相談に行きましょうか!


「さあ、行きましょう。クリスタ君!」

「うん! あ、でも、まだ煉瓦買ってないから待ってー」


 そうして、煉瓦を一つずつ注文して買ったクリスタ君。

 その時は店員さんも普通に売ってくれました。ただ、凄く微妙な顔してましたけど。


「それで、どこに行けば良いんでしょうか?」

「えっと、あっちです」

「あっちですか」


 コクヨーちゃんが指し示した方。それは、多分、あっちに行けば分かると思います。

 という訳でコクヨーちゃんと一緒にあっちへ、レッツゴーです!

 そうして歩く事、どれくらいでしょうか?


「着いたです」

「ここですか」

「おー」

「ですです」


 辿り着いた先。そこは、宿屋さんでした。私達もよく知るあの、この町に来て初めて泊まったカリンさんの宿屋さんです。

 ここで相談ですか。


 そう思っていたら「行きますです」ってコクヨーちゃんが気合い十分に宿屋へ。

 私もその気合いに気合いを貰いましたので、気合い十分に、いざ!


「あら、いらっしゃい。って、あらあら、レシアちゃんにクリスタちゃんにコクヨーちゃんじゃない。どうしたのかしら?」


 開けたらカリンさんが鏡を見ていた様子で手には、お母さんがたまによく使っていた口紅っていうのと同じものを持っていました。

 そういえば、小さい頃に口紅を塗ってるお母さんの真似し口紅を塗ったらお母さんから凄く怒られたの思い出しますね。


「おりなーとれしあさんとそーだんをするために来たです。席一つ借りたいです!」

「あら、そうなの。なら好きな空いてる席に座って頂戴」

「ありがとーございますです!」

「ふふ、どういたしまして」


 コクヨーちゃんの気合いが十分入ってる言葉に笑顔で応えるカリンさん。

 じゃあ、早速空いてる席に。って、全部空いてますね。


「じゃあ、ここにするです」


 と、コクヨーちゃんが近くの席を選び、私達もそっちへ。

 そして私とクリスタ君が向かい側に座るとコクヨーちゃんは凄く真剣なキリリって感じの顔で話し始めます。


「それでそーだんです。そーだんですけど、このそーだんはしーです」


 相談する事は秘密のお話みたいです。なんでしょう。そう聞くと凄くわくわくしますね。

 ですけど、秘密なのでしっかり聞かないと、ですね。


「分かりました」

「うん」


 私とクリスタ君がコクヨーちゃんの言葉に頷くと、コクヨーちゃんはしーって口に当てていた指を降ろして話し始めます。


「そーだんはですね―――」

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