第45話 雨の日はお腹が減ります

「――あ、さん。―しあさん」


 私の体を揺する感覚がして、あとなんか声が聞こえてきました。

 んー、なんでしょうかねー……?


「ふぁあ~……、どーしましたー?」


 私が眠たいままに体を起こすと、クリスタ君が「おはよー」って元気に言ってきます。

 まだ薄暗いし眠いんですけど……。


「んー、おはよーございます。って、薄暗いですけど、まだ夜なんじゃ?」

「えっとね、お昼くらい」

「はあ、お昼くら―――……へ?」


 え? 今、お昼くらいって言いました?


「今、お昼くらいですか?」

「うん。れしあさん、朝になっても起きなくてね、起こしたんだけどね。まだーって言ってね、お昼まで寝てたんだよー?」

「そうなんですか」


 クリスタ君がそう言ってますけど、んー、全然頭回らないような、そんな感じです。

 外は、カーテン開いてますけど、曇り……というか、雨、ですね。雨ですか。……雨。

 そう考えた瞬間、


「お腹が空きました」


 なんでか分かりませんけど、雨の日ってなんでかお腹が空くんですよね。

 ああー、凄くペコペコですよ。

 そんな私にクリスタ君が首を傾げます。


「れしあさん、お腹空いたの?」

「はい」

「じゃあ、ご飯食べに行こー。れしあさん来なかったから起きたら食べれるようにしてくれてるんだよー」

「そうなんですか」


 んー、なんだか悪いですね。わざわざそうさせちゃったなんて。

 あー、なら、食べに行きましょう。その方が良いですよねー。


「それじゃあ、クリスタ君行きましょー」

「うん!」

「あー、ですけどどこに行けば良いんでしょうか?」

「僕分かるよ」

「そうなんですか?」

「うん」


 元気に頷くクリスタ君。


「なら、連れてって下さい」

「はーい」


 という訳で、クリスタ君にご飯が食べられるという場所へ手を引いて連れて行ってもらいました。

 そこはどこかのお部屋です。なんというか立派な感じのお部屋ですね。

 とりあえず窓側の席に座ります。座りますけど、今日は雨みたいです。音がしなくて気付きませんでしたけど。

 ああー、雨の日はお腹が空きますし、なんかこう気持ちが上がりません。

 曇りとか雨の日は嫌ですねぇ~。タイボクさんは雨は好きって言ってましたけど……。


「れしあさんご飯来たよー?」


 ボーッとしていたらクリスタ君がクイクイと。

 見たらいつの間に来たのか料理が来ていました。その匂いは凄く美味しそうで―――


「わあ! すごーい! すぐ無くなっちゃったー!」


 夢中で食べちゃって、クリスタ君のそんな声に気付いたら私の持ったお皿もテーブルに置いてあるお皿も空っぽでした。

 ですけど、うう、お腹が減って仕方が無いです。

 あ、そうです。


「あのすみません。おかわりってありますか?」

「ええ、ありますよ」

「すみません、お腹が空いちゃって、お願いします」

「かしこまりました」


 ちょっと恥ずかしいですけど、近くにいた使用人さんにそう言うと使用人さんはそう答えて出て行っちゃいました。

 ああ、早く来ませんかね。


「お待たせしました」


 そうして待っていたらすぐにおかわりが。

 ああ、美味しいです。美味しいですよー。

 でも、またすぐに無くなっちゃいました。あ、そうです。また頼めば良いんですよ。

 と言う訳で―――


「ふう、ようやくお腹いっぱいになりましたー。ごちそうさまでした」

「え、ええ、満足頂けたようで、な、何よりです」


 何回かおかわりしてようやくお腹いっぱいになりました。


「すごーい! れしあさんいっぱい食べたー!」


 そんな私の横ではクリスタ君がきゃっきゃとそんな事を。

 んー、確かに雨の日はいつも食べる時よりは少し多く食べますけど、普通こんなもんじゃ無いですかね?


「それではお下げ致しますね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 使用人さんにそう声をかけ食器を下げていると、ドアが開いて昨日部屋まで案内して下さった使用人さんが入ってきました。


「お食事はお気に召されましたでしょうか?」

「はい。凄く美味しかったです」

「そうですか。それは何よりです。それでレシア様、公爵様よりあなたへ言伝ことづてが御座います」

「言伝ですか?」

「はい」


 凄く丁寧な様子で使用人さんはそう言うと話を続けました。

 うーん、ですけど、言伝ってなんでしょう?


「食事が終わり次第、公爵様の部屋へ来るようにとの事です」

「フクゥダ公爵様のお部屋ですか?」

「はい。そちらであなたへお話があるとの事です」


 んー、言伝の事は分かりませんでしたけど、何かお話があるようです。なんでしょうかね? あ、もしかしてコロンさんが旅をやめてここに残るって事を言われるんでしょうか?

 んー、それは昨日本人から聞いたのでわざわざ言わなくても良いと思いますけど……。

 でも、ここは行った方が良いでしょう。せっかく使用人さんがお知らせしてくれたんですから。


「分かりました。今、行きますね」

「では、今、来ると公爵様へ伝えておきます。それでは」


 そう言うと使用人さんはしっかりとした様子で向きを変えて歩き出すと、ドアの前で向きを変えて一礼し、お部屋から出て行きました。


「それじゃあ、クリスタ君。行きましょうか」

「うん」


 そうして私達もフクゥダ公爵様の元へ。

 部屋の前で来たのでとりあえずノックを―――


「ようやく来たかッ!!」


 ―――しようとしたら、いきなりドアが開いて間違えて公爵様のお顔にノックしちゃいました!!

 フクゥダ公爵様は私の手が当たった部分を押さえて悶絶してます!!

 あわわわ! そんなに強くノックをしたつもりは無いんですけど!


「ご、ごめんなさい! だ、だだ、大丈夫ですか!?」

「だいじょーぶ?」


 声をかけてしばらくしてフクゥダ公爵様は悶絶をやめて「酷い目にあったわぃ」と鼻血を垂らしながら涙目でこちらを見てきました。

 うう、なんというか……。


「ご、ごめんなさい」

「うむぅ、いきなり拳が飛んできてビックリじゃ」

「いや、あの。ノックしようとしたらドアが開いて、その開くとは思って無くて」

「お主、あれ程の力でノックしようとしておったのか?」

「え? お家ではそれくらいの強さでいつもやってましたけど……?」

「えっ?」

「え?」


 凄くキョトンとした様子でフクゥダ公爵様が見てきました。

 何かおかしかったですかね? むむー?


「ま、まあ、い。わざとでは無いのは分かった」


 考えていたら、フクゥダ公爵様がそう言って、それからお部屋に入るように言われたので、私とクリスタ君は部屋の中へ入り、昨日みたいにソファーへと腰を下ろしました。

 そんな私とクリスタ君の向かい側にフクゥダ公爵様が昨日みたいに座ります。

 その時、鼻に詰め物してるのが見えて、その、申し訳なく思います。


「それでじゃ。お主には昨日、武器を作り、渡すと約束したじゃろう?」

「へ? ……あ!」


 そういえばそんな話もしてましたね。

 私、てっきりコロンさんの事について言われるのかと思ってました。


「それで、お主の動きを見せてもらおうと思っての。今日、大丈夫そうかの?」


 そういえばそんな話もしてましたね。そうですね。


「はい。大丈夫です」

「そうか。では、ワシについてまいれ」

「はい!」

「はーい」


 そうして私とクリスタ君はフクゥダ公爵様について行きます。

 って、あれ?

 フクゥダ公爵様、お屋敷の入り口まで来ちゃいましたけど……。もしかして、


「外に行くんですか?」

「うむ。そうじゃが」


 私の疑問にそう答えるフクゥダ公爵様。

 ですけど、


「外、雨降ってますけど? 濡れませんか?」

「んむ? まあ、多少は濡れるが雨の日用の外套を着ていくからの」

「そうなんですか?」


 フクゥダ公爵様にそう答えますけど、うーん。外套? また知らない言葉が。

 なんでしょう? 外套って?


「ねえねえ、外套がいとーってなーに?」


 するとすぐにクリスタ君がフクゥダ公爵様に問いかけます。

 流石クリスタ君。抜け目が無いですね!


「うむ? お主、知らんのか?」

「うん!」

「そうじゃなぁ。分かりやすく言うとなると、うむ、外側に羽織るローブとかそういう類いの事じゃな」

「なるほど」

「ふえ?」


 私は分かりましたけど、クリスタ君、分かってない様子です。

 そうですね。ここは私が分かりやすく教えてあげましょう!


「外套っていうのはですね。つまりあれですよ。お洋服の外側に着るローブですよ!」

「う?」


 あれ? 分かりやすく説明したんですけど、なんでか首を傾げられちゃいました。

 あれー? 分かりやすく教えたはずなんですけど。


「ろーぶってなーに?」


 そしたらクリスタ君からそんな言葉が。

 クリスタ君、ローブ知らないんですか……。

 うーん、ですけどローブが何かを説明するのは……。あっ。

 出来ますよ! ローブの説明! ふふ、流石私!


「ローブっていうのはですね、ルーファンさんがいつも着てるお洋服ですよ」

「そーなんだ」


 クリスタ君、納得したようです。

 ふふ、どうですか。このレシア先生の力!


「じゃあ、ふくーだこーしゃく様は、るーあんさんと同じの着るの?」

「そうですよ。同じのを着るんですよ」

「そーなんだ。じゃあ、るーあんさんと同じの着るんだ」

「そうですそうです。フクゥダ公爵様はルーファンさんと同じの着るんですよ」

「じゃあ、ふくーだこーしゃくさまは、ルーファンさんの着るの?」

「そうですよ。フクゥダ公爵様はルーファンさんのを着るんです」

「そーなんだ!」

「いやいや、お前さん達、なんか話が変な方向に行っておるぞ! それに、それは色々語弊があるから止めてくれぇ。先程からメイド達の視線が痛い」

「あ、ご、ごめんなさい」

「ごめんなさい」


 嫌だったみたいで止めてと言われたので咄嗟に謝ります。

 嫌な事をしたら謝るのは基本ですからね。

 んー、ですけど、なんで嫌なんでしょうか? ルーファンさんと同じってだけの話だったのに。むむー、謎です。


「まあ、良い。とりあえず、これからワシの運営しておる学園。クスロック魔法学園の演習場に行くぞ」

「はい!」

「はーい!」


 そうしてフクゥダ公爵様を先頭に、私とクリスタ君はお屋敷の外へ―――


「公爵様、お客様、お待ち下さい! ただいま外套お持ちしておりますので!」

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