第44話 決意と思い出

「そう、なんですか」

「そっかー」


 お部屋でコロンさんのお話を聞いてました。

 コロンさんはお爺さんに昔の言葉を教えてもらって、それから考古学者っていうのに憧れて、ですけど、お父さんに、怪盗の一家として活躍して欲しいからっていう事で反対されていたそうで。

 それで、ある日お父さんと言い合って、怪盗として動けたら好きにして良いと言われて家を飛び出して怪盗をしようと頑張ろうとして、色々頑張ったけれどダメで。

 最終的に疲れて、お腹が空いて、それであの日、食べ物を盗むために入って私達と出会ったらしいです。


 なんか聞いてて色々凄いなって思いました。


「それで、まあ、お母さんからだけど、一応合格は貰えたし、フクゥダ公爵様からも遺跡の言語とか、最深部にあったよく分からない物について色々調べたいから手伝って欲しいって言われて、それで、フクゥダ公爵様が考古学者の先生にも取り合ってくれるって言ってたから、だから、ここに残りたいんだ」


 俯き加減でそう言うコロンさんの姿がなんとなく昔の私と重なります。

 これは、そうですね……。


「分かります。その気持ち。私も旅に出たいって言うのを話したら決まってお父さんとお母さんにもう少し大きくなってからって言われてましたから。だから―――」


 勢いでここまで言っちゃいましたけど、この先を言っちゃったらコロンさんが。

 いえ、でも、あの気持ち、分かります。分かるからこそ、引っ張るんじゃ無く、後押ししなきゃですよ!


「コロンさんの事応援したいと思います! だから、えっと―――」


 正直お別れは辛いですけど、ですけど、コロンさんは考古学者になりたいんですから!

 頑張れ! 私!


「ここで頑張って下さい!」


 頭を下げてコロンさんに伝えました。

 正直、ここでばいばいは寂しいですけど。


「ありがとう。レシア」


 そんな私にコロンさんのそんな言葉が聞こえてきます。

 うう、お礼言われて嬉しいはずなのに何ででしょう。悲しいはずは無いのに、涙が。


「ころんさんは、もう旅しないの?」

「うん、そうなる、ね。私はここで考古学者を目指すから」

「そっかー」


 凄く残念そうなクリスタ君の言葉に私、耐えられませんよ。

 ですけど、これは喜ばしい事なんです。事なんです!


「えーと、あのね。ころんさん、ありがとーございました」


 そんな寂しそうなクリスタ君の言葉―――


「ゴロ゛ン゛ざん゛、今まで、ありがどうございまじだぁああ!!」

「ちょ、ちょっと、レシア」


 思わずコロンさんに抱きついちゃいましたけど、我慢できません。

 やっぱり皆で旅がしたいです! でも、応援しなきゃいけないですし、うう、でも、でも―――!!


「って、れ、レシアああああ! 苦しッ! く、苦しいから! 力弱めてぇーーー!!」

「あ、ご、ごめんなさい!」


 咄嗟に離れると、コロンさんは息を整えて、


「はあ、もう、レシア。その力一杯締め上げるのは止めた方が良いと思うよ」

「いえ、あの。そういうつもりは無いんですけど」

「つもりは無くてもそうなっちゃってるから」


 コロンさんにそう言われちゃいました。

 うう、私、そんなつもり本当に無いんですけど……。


「でも、レシア。応援してくれるって言ってくれたのは嬉しいよ」


 落ち込んでいたらコロンさんがそう言ってくれました。


「そんなの当然じゃないですか。夢が現実になるのは良い事なんですよ。私が好きなお話にそう書いてありましたし。それに仲間―――じゃなくなりますけど、友達じゃないですか」


 そうです。友達です。友達なんですだから応援するのは当然ですよね。


「じゃあ、僕も友達だから応援するー!」


 と、横にいたクリスタ君がはいはーいって手を上げてそんな事を。


「クリスタもありがと」

「えへへ~」


 そんなクリスタ君の頭をコロンさんが撫でるとクリスタ君は嬉しそうに笑顔になってます。


「それじゃあ、レシア、クリスタ。私は戻るけど、あまり使用人とかに迷惑かけちゃダメだからね?」

「うん!」

「はい! ってなんで私も!?」

「それじゃ」

「あ、ちょっとコロンさん!!」


 私が声をかける前にコロンさんが部屋から出て行っちゃいました。

 ううー、なんで私にも言ったのか分かりませんし、なんか腑に落ちないですよ。迷惑なんてかけた事無いですし。むむー。


「私は迷惑かけないのに。クリスタ君はどう思います?」


 少し腑に落ちないのでクリスタ君に話しかけ―――あれ?

 今まで横にいたのにクリスタ君がいませんよ。一体どこに……?

 って、いつの間にかテーブルの方の椅子に座っていました。

 いきなりいなくなったのでビックリしましたけど、クリスタ君。何か紙を出して何かやってますね。

 一生懸命鉛筆を走らせて何か書いてますけど、なんでしょうかね?


「クリスタ君、何かいてるんですか?」

「ころんさん」

「コロンさん描いてるんですか?」

「うん」


 一生懸命描いてる姿勢のままクリスタ君がそう答えます。ですけど、なんでいきなり?

 ……あ、もしかして思い出になるように描いてるんですかね?

 あ、なんかそれ凄く素敵な感じがしますね。


「あとね、れしあさんと僕」

「そうなんですか」


 へぇ、私とクリスタ君ですか。

 ……え?


「私のことも描いてるんですか!?」

「うん!」


 驚いてそう言ったらクリスタ君が思いっきり頷きました。

 ええ、私もなんてなんかそのあれですね。ですけど、そう聞いたらどんな感じで描いてるんでしょうか?

 うーん、気になります。気になりますよ。むむむ……。

 あ、そうです。


「クリスタ君。私、隣で見てても良いですか?」

「うん。いーよー」


 快く了承してくれたのでクリスタ君の隣で見てみましょう。

 そうして椅子をクリスタ君の隣に持ってきて見てみると、す、凄かったです。

 なんというか、鉛筆だけで書いてるから白黒なのに、もうそこには私とクリスタ君とコロンさんがいて何か楽しそうに話しているようなそんな感じに。


「凄いですねクリスタ君。まるでお話ししてるみたいですよ」

「うん。そーだよ。お話ししてえへへーってしてるところだよ」

「なるほど」


 笑顔で答えてくれたクリスタ君の話に納得です。というか、納得しなくても見て分かりましたけど。

 そうして描きつづけるクリスタ君はサラサラーって感じに鉛筆を走らせ、紙には私とコロンさんとクリスタ君が本当に楽しそうにしてる感じがさっきよりも出てきて見てるとなんだかほんわかしますけど、同時に少し寂しく思えてきます。

 コロンさん、本当に旅しないんでしょうかね……?

 いえ、コロンさんはここでやりたい事が出来るんです。応援するんですから、私がそんな弱気な気持ちはダメです。

 しっかりしないと!


「できたー!」


 私が自分にそう言い聞かせていたらクリスタ君が嬉しそうに紙を広げて紙を掲げます。

 それを見ると、白黒ですけど、本当にそこにコロンさんと私達がいるような、そんな絵です。


「ねえねえ、れしあさん」


 その絵を見て少しまた考えそうになっていたらクリスタ君に声をかけられちゃいました。


「どうしました?」

「これ、今からころんさんにあげてくるね」

「え? 今からですか?」

「うん」


 元気に頷くクリスタ君ですけど、今からですか……。


「今はもうお外も暗いですし、もしかしたらコロンさんはもう寝てるかもしれませんから、私達も寝て、明日渡しに行きましょう」

「うん。分かったー」

「ということでもう寝ちゃいましょう」

「はーい」


 と言う事で私とクリスタ君はテーブルを離れてベッドに横になります。

 って、クリスタ君。私と同じベッドに来ちゃいましたね。

 ですけど、今日くらいは最初から一緒に寝ても良いかもしれませんね。ああ、ですけどその前に。


「クリスタ君」

「なーに?」

「おやすみなさい」

「うん! おなすみなさーい」


 二人でそう言い合い瞼を閉じます。

 そうして私の意識はクリスタ君の寝息が聞こえてきた辺りでゆっくりと沈んでいきました。

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