光晶祭間幕

 ……何やっているんでしょう私は。


 薄暗い牢屋の中。私は端で膝を抱えて考えていた。

 トパーズサイト様に対して今まで感じていた敵対心は消えているけれど、それと同時になぜそこまで憎んでいたのかと思ってしまう。


 トパーズサイト様は悪くない。そんなのは知っていた。それに、トパーズサイト様が見つかり側近に立候補し選ばれた時は凄く嬉しかった。

 お姫様に会ったら助けてあげて父さんに言われていた事が果たせる気がしたから。


 それから、色々と傍でお仕えして、過ごして楽しかった。

 でも、いつから憎みだしたんだろう。


 ―――ああ、あの屋敷の中にあったあの指輪を見つけてからだ。


 長年開かず使われてないという部屋の話を聞いて確認のために入った時。

 そこで埃など一切無いあの指輪を見つけた、あの時だ。

 なんでその指輪をはめたのか自分でも分からないけれど、それから心の中に色々変な思想が入り込んできたんだ。

 なんで今更そんな事思い出せたんだろう。ああ、指輪が無いからか。

 それで、私は、何やってるんだろう。一つ間違えば、いえ、確実にトパーズサイト様を殺していた。あの時、父さんを奪った王と同じように。


 トパーズサイト様も苦しんでいたのに。近くにいたから痛い程分かっていたはずなのに。

 憎むならあの王だ。それに、この街にあの大結晶を持ってきた赤い服の男だろうに。


『願うなら、過去のような事が無いように、今後も起きないように私の後悔となる物を残しておきたい』


 そうトパーズサイト様がポツリと話された時に現れた。あの男。

 その男は残る物を残してやろうと言って消えた。そして戻ってきた時―――


 あれは流石に酷かった。当時の風刺絵や文章だと思ったら、あんな結晶を持ってくるなんて。

 男は笑いながらあの大結晶と共に現れた。

 全てがめちゃくちゃに混ぜられたあの山大結晶を。

 他の種族にはただの結晶にしか見えないけれど、あれはあの当時殺された半同族の、皆の、遺体の山。そこには私の父もいるのが見えた。

 あれを持って来れたのであれば、なんであの男はバラバラに混ぜて持ってくるのそんな事をしたのか分からない。


 それと、私の聞いた話だとトパーズサイト様や父さん達の遺体は基本的に残らない。

 残らないけれど、強い未練がある場合に限りとある場所に結晶として留まっているのをトパーズサイト様から教えられた。多分、そこから持ってきたんだと思う。


 そして、そんな男にトパーズサイト様はお礼を言っていた。拳を握って震えながらも。

 多分、悔しかったと思う。でも、相手は約束は守ったから、お礼は言っていた。そんな感じだった。


 色々と塞ぎ込んでいた私が眺めている床が明るくなるのに気付いた。それが徐々に強くなっていく。


 ここは牢屋なのに、誰が? もしかして、あの男?


 嫌な予感で顔を上げると、そこにいたのは、光りの子供の姿。

 いや、そこにいるのは、大好きだったの姿。バラバラでは無くその当時のその姿で。

 見間違いかとも思った。だけれど、そこにいるのは間違いない。父さんだ。

 光で形作られたその顔の感じ、身の丈も姿も、あの思い出に強く残ってるあの姿。


「父、さん?」


 思わずそう口に出すと、父さんは喋らずにこくりと頷いた。

 その仕草、やっぱり父さんだ。


 そう思った瞬間、色々と感情が爆発した。


「ごめ、なさい。父さん、わ、わたし」


 いい歳して泣いてしまった。でも、でも―――

 泣いていたら、父さんがぎゅっと抱きしめてくれた。幼い頃のように。やっぱり父さんだ。

 気がついたら、私は光る父さんに抱きついて泣いていた。いくら泣いたのか分からないけれど、巡回の兵士が何か言ってるのにも気付かない程に泣いていたらしい。

 その間も父さんはずっと抱きしめてくれていた。小さな腕で、小さな体で。


『大きくなったね』


 私が泣き止んだ時、父さんの声でそう聞こえたような気がした。

 すると父さんは私の頭を撫でて、顔を傾げる仕草をしながら私の事を見ている様子に感じる。

 その様子は本当に幼い頃にいなくなってしまった父さんの褒めてくれた時とかの仕草そのもの。


『そろそろ行かないと』


 と、また父さんの声でそんな声が聞こえた気がした。嫌だ。


「嫌だよ。父さん、もういなくならないで」

『僕はずっとクレサンの、心の中にいるから大丈夫だよ。それに、僕の大好きなクレサンはもう僕よりずっと大きくて強いんだから』


 いなくならないように抱きしめていたのに、そう笑顔で言ってる様に聞こえたかと思うと父さんは光の粒になって私の手をすり抜け、牢屋の小窓から出て行ってしまった。

 ―――ずっと、心の中にいるから―――

 ―――大好きなクレサンっ!


「父さん、私も大好きだよ!」


 私は思いのまま立ち上がり小窓から父さんへ声をかけた。

 当時、兵に招集され帰ってこなくなった父さんに伝えられなかったあの言葉を。

 そしたら夜の外を行く光は一瞬止まって、―――先程より凄い速さで飛んで行ってしまった。

 でも、分かる。あれは、喜んでくれたみたい。


 ―――ありがとう。父さん。

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