第39話 光晶祭 -現状-

 なんというかフクゥダ公爵様のお部屋は凄くて、凄かったです。

 中心にはふかふかな長い椅子とテーブルがありますけど、部屋の端には所々に宝石がいっぱい付いてる感じの剣とか盾とか、鎧とかが飾ってあって、全部ピカピカに輝いてます。


「では、レシアとクリスタ。お前さん達はそっちに腰をかけてくれ」


 と、先に席に着いたフクゥダ公爵様に言われ、私とクリスタ君は向かい側の席に。

 オーラ様達は―――、って、あれ? オーラ様達いないんですけど、どこかに行っちゃったんですかね?

 あと、あの遺跡にいた人もいなくなってますし。


「それで、レシア。お前さんの家族について聞くが、父親と母親はどのような者だったのじゃ?」


 と、顔をあちこちに向けて探そうとしたらフクゥダ公爵様からそんな質問が。


「えーと、どのような者って聞かれましても、普通のお母さんとお父さんでしたし。

 あ、強いて言うなら、お母さんがアルラウネでお父さんがエルフですね。そして、私はその二人から生まれたのでアルラウネとエルフのハーフです!」

「アルラウネとエルフのハーフ、か。して、両親の名は?」


 むむ? お母さんとお父さんの名前ですか?


「えーと、お母さんがアイジーアで、お父さんがフィオルですね」


 一応答えましたけどそんな事聞いてどうかしたんでしょうかね?


「そうか。なんというか、ふむ、そうか。ふぅむ」


 ふぅむって言った後、何かブツブツ言ってるのが聞こえましたけど、よく聞き取れませんでした。

 うむむ、なんて言ってたんでしょうかね?


「ところで、レシア。お前さん、ルビアという、あ、いや、ルビアールガベールという姉妹しまいはおるかの?」

「へ?」


 突然なんの質問なんでしょう?

 聞いたこと無い名前ですね。

 というか


「私、姉妹なんていませんよ? 私、ずっと一人でしたし」

「何? 嘘では無いのか?」

「はい。私ずっと森でお母さんとお父さんと暮らしてましたけど、姉妹の話なんて聞いたこととか無いですよ? いて欲しいなと思ったことはありますけど」

「む、そうか。ふむー、そうか」


 私の答えを聞いたフクゥダ公爵様がなんか凄く不思議な感じの納得できてない様子ですけど、納得したように返答が来ました。

 ですけど、うむむ、フクゥダ公爵様の質問なにか引っかかりますね。


「ふと聞きたいんじゃが、そのアイジーアとフィオル。たまに長く家を空けることは無かったか?」


 神妙な感じで聞いてくるフクゥダ公爵様。

 でも、なんでそんな事聞いてくるんでしょうか?

 んー、でも―――


「確かにありましたけど。お父さんかお母さんのどちらかが出掛けたら十日くらいは帰ってきませんでしたし、あと、私が小さい時、お母さんが何日も何月も帰ってこない時はありましたね。それに、亡くなる前は、その、二人で出て行って、それで―――」

「よいよい。そこまで聞ければ。その思い出を思い出すのは辛いじゃろう」


 フクゥダ公爵様はそう言って私が言うのを止めてくれました。

 正直、思い出そうとすると辛いです。辛いですけど、お父さんがよく言ってったのを今思い出しました。

 仲が良かった人、親しい人が亡くなった事で立ち止まるのはあってはならない事だって。

 でも、そんな人の事を忘れることもあってはいけないって。ありがとうって感謝しようって。


「それで、クリスタ。お前さんは、レシアと同じ場所で過ごしておったのか?」


 私が思い出していたら質問はクリスタ君の方へ。


「んー? 違うよー。れしあさんにはね、この間会ったの! それでね、僕はね、火山地帯ってところから来たんだよ?」

「火山地帯!? というと、ここより遙か北の別の国のある場所では無いか! どうやってそこからここまで?」

「お昼寝してたらね、溶岩よーがんに落ちちゃってね。それでね、起きた時にいっぱいぶれいくしてね、外に出たられしあさんに出会ったの! 最初はね、おかーさんとかどらるーの言ってた人間さんだと思ったんだけど、違ったの! それでね、今、旅してるんだよ」

「そうなのか。む? ところでクリスタ。お前さん、今、お母さんと言ったか?」

「うん。言ったけど?」

「その火山地帯にまだそのお母さんはおるのか?」

「んー? わかんない。だって、おかーさん、急に行かなきゃーって言っていなくなっちゃったから」

「何!? そうなのか?」


 急に驚いた様子でフクゥダ公爵様が席を立ちました。

 凄く急な動きで普通にびっくりです!

 一体どうしたんでしょうか!?


「うぅむ、そうか。そうであれば、火山地帯にはもういないか」


 そしたら少し残念そうに言うフクゥダ公爵様。

 えーと、なんで分かるんでしょうかね?

 と、フクゥダ公爵様がゆっくりとした動きで再度椅子に腰掛けます。


「ところで、クリスタ。お前さんが住んでいたところには他に岩食族はいたか?」

「うーんとね、いなかったよ。僕とおかーさんだけだったよ」

「そうか」

「うん」


 そんな返答を聞いてフクゥダ公爵様は少し残念そうな表情というか雰囲気を出しつつ深く腰掛け直しました。

 何が残念なのか分かりませんけど。


「ふぅむ、まあ、いないものを気にしても仕方ないか。ありがとう二人とも、色々話を聞かせてもらってのう。さて、では、お前さん達が―――」

「グリノレッジ様、今、よろしいでしょうか? 御用があるという事で来ているのですが」


 フクゥダ公爵様が何かを言おうとした時、ドアがノックされてそんな声が。どうやらフクゥダ公爵様に御用がある人が来たみたいです。


「む、こんな時にか? 誰じゃろう?」


 と、ドアの向こうから聞こえた声に対してフクゥダ公爵様は首を傾げて、少しまたぶつぶつと言って考えている様子です。

 けど、今度はすぐに顔をあげて


「分かった今向かおう。お前さん方、すまんが少し待っていてくれ」

「はい」

「うん」


 返事をするとフクゥダ公爵様は席を立って、ドアの方へ。

 そんなフクゥダ公爵様を目で追うと、フクゥダ公爵様の開けたドアの隙間から見覚えのある服装が見えます。

 というか、あれ、トパーズサイト様の服ですよね?


「あれ? お姫様とこくよーさんいる」


 と、クリスタ君も見ていたようで隣からそんな声が。

 って、コクヨーちゃんも来てるんですか。


「トパーズ、どうかしたのかの?」

「ご相談が、いえ、お願いがあって来させていただきました」


 フクゥダ公爵様の言葉に凄く真剣な声色のトパーズサイト様の声が聞こえます。


「お願いとな? それはどの様なお願いじゃ?」

「はい。あの、街が荒れ、大変な事になってしまいましたけれど、今日予定していたあの子達、いえ、魔宝石の大結晶への灯しをさせていただきたく」

「大結晶への灯しか。うぅむ、別に行っても構わないと答えたいが、街もじゃが、街の民や外部の者達の怪我の被害報告ではキングゴーレム出現あの出来事での死者は奇跡的にもおらんかったが、怪我人も多く安価な傷薬でも不足しておる状況と報告を受けておる。

 わしも一旦避難所に行ってはみたが、あんな状況だったしの。あんな状況では光晶祭としての継続は出来ぬのじゃが。それでも良いというのであれば」

「光晶祭としては無理、ですか。そ、そう、ですよね」


 フクゥダ公爵様の言葉にトパーズサイト様がシュンとした様子の声で答えているのが聞こえます。

 うむむ、なんというか、あの声を聞くとなんとかしてあげたい気持ちがします。

 ですけど何か出来ますかね?


「れしあさん、れしあさん」


 と、クリスタ君に横からクイクイと袖を引っ張られました。

 なんでしょうかね?


「どうしました?」

「お姫様悩んでるのどうにかしてあげたい」


 どうやらクリスタ君も私と同じようにどうにかしてあげたいみたいです。

 ですけど、


「私も同じ気持ちですけど、どうやってその悩みに応えましょうね?」

「どうしよー」


 クリスタ君と私はお互いに首を傾げます。

 多分、トパーズサイト様はお祭りとしてその灯しを行いたいんですよね。

 でも、それをするのにはなんか色々出来ないっていう感じの会話ですから、とりあえず街の皆が元気になれば良いんでしょうかね?


「れしあさんれしあさん」


 と、考えていたら再度クリスタ君に袖を引っ張られました。

 今度はなんでしょうか?


「どうしました?」

「お怪我してる人達、あのるーあんさんをぴかーってして治した祝詞を皆にかけてあげるとぴかーってなって治ると思うの」


 クリスタ君がこれだーって感じで顔をパァーっとさせて提案します。

 んー、確かにルーファンさんそれで治りましたけど、ですけど


「あれ、解呪の祝詞なので怪我を治す祝詞じゃ無いですよ?」

「そーなの?」

「はい。そうなんです」

「そっかー」


 私の答えにまた考えるクリスタ君。

 その姿を見ると、私もなんとかしてあげたいですけど全然思いつきませんよ。

 それにお薬も足りてないって言ってますし。

 ……あれ? そういえば、カリンさん。あの時、クリスタ君達には万能霊薬エリクサーは使っちゃダメって言ってましたけど、私達には凄い薬だって言ってたような?

 それに、なんか私がアルラウネだから万能霊薬がっていう感じの事も。これは提案してみても良いような気がしますね。


「あのー、フクゥダ公爵様。万能霊薬ってどうなんでしょうか?」

「む?」


 私が提案すると、フクゥダ公爵様が振り返ります。


「万能霊薬じゃと? 確かに、あれば解決できるが、あまりこの街ここにはあって欲しくは無いがあれば今いる怪我人達は治せるじゃろう。しかし、それには今や存在自体が希少なアルラウネの葉か髪が無ければ作れぬゆえ、教皇街におる教皇に頼むしか―――……、あ」


 と、私が言うよりも早くフクゥダ公爵様が目を見開いて私を見てきました。

 いきなりで少し怖かったです。


「そうか! お前さんもアルラウネの血が混ざっておったんじゃったな! もし、お前さんが素材となる髪や葉を提供してくれるというのであれば、今から急げば夕方までには出来る!」

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