第34話 光晶祭 -英雄の目覚め-
嘘、ですよね……?
頭に広がるそんな言葉。
目の前で倒れているマイティアちゃん、それに刺さっている私の剣。
その姿から目を離せず、レオンさん達が逃げるように言ってますけど、足が動きません。
だって、マイティアちゃんが、マイティアちゃんが……。
私は頭の中で浮かぶ嘘だと思う気持ちにすがる思いでマイティアちゃんに触れてみます。
でも、触っても完全に力の抜けたその感じが伝わってくるだけで、マイティアちゃんはピクリとも動きません。
少し揺すっても、顔を上げてくれません。うう、これって……。
でも、信じたくないです。こんな、こんな事って……。
「マイティアちゃんっ」
「……何?」
「へ?」
あ、あれ? 今、マイティアちゃんが返事をしたような?
そう思って見たらマイティアちゃんが私の方を向いていました。
って、ええ!? マイティアちゃん生きてます! 生きてますよ!?
「まいてぃあさん、だいじょーぶ?」
そんなマイティアちゃんに横にいたクリスタ君が尋ねました。
「……大丈夫。って、何、これ?」
その時マイティアちゃんが刺さってる私の剣に触れて、少し頭を傾げています。
これ、なんと言えば良いんでしょう……。とりあえず何か分からないと不安だと思うので答えましょう。
「それ私の剣ですけど……」
「……そう、あなたの剣。……なんで私に刺さってるの?」
「あの方が投げたのが刺さって、ですね」
私が指さした方へマイティアちゃんが視線を向けると、あの怪物がなんかまた凄いぞわわってする感じの魔法の塊を生み出していました。
って、まずくないですかこれ!?
それを阻止しようとレオンさんとかが頑張ってる様子ですけど、って、あ!
レオンさん達があの怪物の溜めている魔法とは違う他の魔法攻撃でこっちに吹き飛ばされてきました!
これは受け止めないと、壁にぶつかって大変な事になっちゃいます!
私はそう思って吹っ飛んできたレオンさんとディアナさんの服を掴んでなんとか壁に当たるのを阻止して、ルーファンさんを体で受け止めます!
固いものを着てる二人は痛そうなので掴めそうな所を掴んだんですけど、そういうのを身につけていないルーファンさんを体で受け止めるの、思ってた以上に痛いです……。ふぐひぃ……。
「貴様等、まとめて、消え去れぇ!」
ルーファンさんを受け止めた衝撃に膝をついたらそんな声が聞こえて見たら、あの怪物が黒い魔力の塊を放ってきました!
あわわわ!? これやばいですよ!!
ど、どどど、どうしましょう!?
と、とりあえずえーと、えーと!!
あああ! 考えがまとまりません!
「……伏せて」
考えている私の耳にそんな声が聞こえてきました。
えーと、ふ、伏せれば良いんですよね!?
混乱しつつもとりあえずルーファンさんを下にして守るようにして、レオンさんとディアナさんを掴みつつ伏せます。
これで大丈夫なんですよね!?
助かるんですよね!?
まだ、クリスタ君と一緒に旅続けられるんですよね!?
って、クリスタ君も伏せさせないと―――
そう思ってクリスタ君を見ようとした私の視界の端で凄まじい爆発が起こりました。
凄い魔力の分散と風とがビュワーって、ビュワーって!
目を開けてられないですっ!
「わあ! すごーい!」
そんな中聞こえてくるクリスタ君の声。
な、何が凄いんでしょうか?
気になります。気になりますけど、風とかが凄くて目が開けられませんよぉ!
クリスタ君っ!
そう思っていたら風が落ち着いてきたので前を見ると、私の剣を構えたマイティアちゃんが目に映りました。
って、どこから私の剣を? って、あれ? あのお腹に刺さっていたあの私の剣刺さってませんね。
それを抜いて使ったんでしょうか?
そう思ってマイティアちゃんの背中を見ると、私の剣が刺さっていた場所の周り。服の破れた箇所に血が付いていますけど、その肝心の場所は傷どころか跡も無いです。本当に傷がありませんよ。
確かに完全に刺さってて、貫かれていたのに。
えーと、こ、これはどういう事でしょうか?
マイティアちゃん、そういう事も出来るんですかね?
「ぬう……。この気配。小娘、貴様、何者だ?」
そう考えていたら怪物がマイティアちゃんに声をかけました。
何者ってマイティアちゃんはマイティアちゃんですけど。
あ、もしかしてマイティアちゃん自己紹介してないんですかね?
「……知らないし分からないけど、その攻撃はもう通用しない」
マイティアちゃんはそう言って私の剣を構えます。
あれ? 今、マイティアちゃん知らないって言いましたよね。んんん??
何で知らないなんて言ったんでしょう?
そう思っていたら、マイティアちゃんの持つ私の剣がピシッて音を立ててパラパラとなんか落ちてって、そしてなんとなく持っているマイティアちゃんの手に丁度良い感じの大きさに―――。
ってぇ!? ちょっと待って下さい! 私の剣壊れてくんですけど!! 正確にはお母さんの剣ですけど。でも、それを受け継いだので私の剣です。それにヒビが入って壊れていってます!!
「あ、れしあさんの剣壊れてるよ?」
そんな様子を暢気そうにクリスタ君が見ながら言ってます。
って、
「クリスタ君! 見てないで止めて下さいよ!」
「ふえ?」
クリスタ君に声をかけましたけど、彼は首を傾げて「どーやって?」って聞いてきました。
「ど、どうやってって。それは―――」
あ、あれ? どうやれば良いんでしょう?
うーん、止まって下さいって心を込めて言えば止まるんですかね??
「貴様、それは、聖剣か!?」
私が悩んでいたら怪物がそんな事を言い始めました。
聖剣、ですか?
あれ? 聖剣って、確か本とかで読んだ物語の英雄さん達が神様から貰って持ってるやつですよね?
うーん、確かに本に書いてった通りになんか輝いてますし、凄く神秘的な感じしますけど。
でも、お父さん、
というか私の剣ですし。
でももう完全に私の知ってる私の剣の形とかじゃなくなっていますけど。
「ぐぬぬ、この感じ、貴様、あの忌々しき者か!」
とか考えてたらあの怪物が凄く震えてぬがーってし始めましたよ!?
なんかやばくないですか!?
「……魔王?」
そう思っていたらマイティアちゃんがそうポツリ言います。
魔王って確かその聖剣を持った英雄さんが戦う相手ですよね?
って、なんで急に魔王って言ったのか分かりませんけどそんな事言ってる場合じゃ無いと思いますけど!?
凄い勢いであの怪物の手になんかこうさっきよりも凄くドロドロしててむわって感じの力が集まってますし!
あんなの当たったら絶対凄く痛いですよ!?
というか痛いで済みますかね? 済みますかね!?
そう思って見ていたら急にマイティアちゃんが「……ハァッ!!」とか言って剣を上に掲げます。
その瞬間、剣から光が真上に出て天井をドゴーンって壊しちゃいました。
そしてマイティアちゃんにお日様の光が当たります。
その光に照らされて、なんというか、こう、神秘的です。
見ていたら光よりも眩しくマイティアちゃんの握る剣が輝き出して、凄く眩しいです。
「……っ!」
マイティアちゃんがその剣を振るうとあのレオンさんが放っていた光の攻撃よりも更に濃ゆい感じの魔力の光が放たれました。
それと同時にあの怪物があの凄いモヤモヤを放ってきます。
それはお互いにぶつかり合って凄い爆発音と共に魔力を霧散させるのが伝わってきます。
というかまた凄まじい風がビュワーって!
うう、さっきよりも強いです!!
「わー」
なんとかその魔力の奔流と風に伏せた状態で耐えていたら私の元へクリスタ君が転がってきました。
「だ、大丈夫ですか? クリスタ君」
「うん。だいじょーぶ」
声をかけたらクリスタ君は私の方を見て元気そうに答えます。
ふう、良かったです。
「ぐぁぁああ!」
突然そんな悲鳴みたいな声が聞こえました。
凄くびっくりです! どこから聞こえたんでしょう?
そう思って見たら、あの怪物の腕が一つ無くなってました。
「貴様、貴様ぁ! くそっ、何故ここに聖剣がある! あれは我が千年前にこの地より遠ざけたはずであるというのに!」
怪物は凄く怒っている様な感じです。
凄く怖いですけど、そんな怪物にマイティアちゃんは剣を横に構えてひとっ飛びしちゃいました。
ええ、どうなってるんですか!?
あの怪物の頭の所にピョーンって感じで跳んで行っちゃいましたよ!?
「チィ!!」
そんな私の視界にはあの怪物の手の一撃を剣と体を上手く使って避け、その腕に乗って足場にしつつ時には迫る腕をその剣で切り落とすマイティアちゃんの姿が。
でも、あの怪物も斬られた腕がすぐに生えてきて攻撃してますし、見てて時々マイティアちゃん見失うので、なんというか凄すぎて、凄いです。
って、あれ? よく見てみたらマイティアちゃんの手に二本剣ありませんかね?
というか、明らかにさっき持ってた剣とは違う形になって、何というか刃を後ろに向ける様な形状になってますね。
実際に向けてますし。
はっ!? 待って下さい。ということはマイティアちゃん、私の剣二つにしちゃったんですか!?
あ、でも、私のもう一つの剣を拾って使ってる可能性もありますよね?
そう思ってもう一つの剣が落ちている場所を見ると、ありますね。
私の剣。
ということは―――。
私の剣、真っ二つにされちゃんたんですかー!?
その事実に少し、というか凄くびっくりですよ!
ええ、私の剣が。ううっ。
でも、凄くあの怪物に有利に戦えてます。それに、もう一本はありますから大丈夫です。
「くそっ! こんな所で負ける訳にはいかぬ! 勇者に敗北して以降、長い年月をかけ計画し、邪魔者共を排除し、聖剣が金輪際握られぬよう遠くの教会に手渡したというのに。くそっ!」
怪物がマイティアちゃんと攻防をしながらそんな事言いました。
なんというか凄い頑張ったみたいですけど、でも、あの怪物をそのままには出来ません。
何でか分からないですけど、あの怪物は倒さないとダメな気がしますから!
「マイティアちゃん、頑張って下さい!」
そう思ったら、私はいてもたってもいられずにレオンさんとディアナさんを離して立ち上がってそう言っていました。
「まいてぃあさん、頑張ってー!」
それに続くようにクリスタ君もそう言います。
これは、そですね。マイティアちゃんをいっぱい応援しましょう!
私じゃあの怪物は倒せないと思うので、私のその剣を使って頑張って倒して下さい!!
「あ、そーだ。ねえねえ、れしあさん」
そう思っていたらクリスタ君に呼ばれました。
どうかしたんでしょうかね?
「どうかしましたか?」
「頑張れーってする祝詞ってないのー?」
「え?」
頑張れって言う祝詞ですか? うーん。
「頑張れってする祝詞ですか。んーと、そういうのは無かった気がしますけど―――あっ」
そういえば、神様にお願いして一時的に強化する祝詞ありましたね。
「何? 何かあったー?」
私が思い出したのが分かったのかクリスタ君が目を輝かせて問いかけてきました。
「ええ、ありましたよ」
「教えて教えてー」
わくわくしながら言うクリスタ君にいつものように私は耳打ちします。
その間、クリスタ君はいつものようにうんうんって聞いてます。
「分かりましたか?」
「うん。 分かったー」
ふふ、流石クリスタ君。一発で分かるんですね。
「えーと、それじゃあ、あのマイティアちゃんがいた、あのお日様の光が出ている場所でやりましょうか」
「うん」
そういう事で私はクリスタ君と共にあのお日様の光が当たっている場所に行き、いつものように膝立ちになります。
「いきますよ。クリスタ君」
「うん!」
クリスタ君が頷いたのを確認したので、いざ、祝詞です。
「「 太陽に
そう唱えた瞬間、凄い勢いで天井の穴から光がぶわーって感じで降ってきました!
あ、あれ? これ、こういう感じの祝詞でしたっけ??
そう疑問に思いつつもマイティアちゃんに視線を向けると、体の周りが光っています。
あ、あれ? うーん、私がお父さんに教えて貰って唱えた時は薄ら光っただけだったんで、こんなに光らなかったですけど。
あ、こう暗いからそう見えるだけですかね?
いや、でも、あそこまではっきり光りますかね??
「この光ッ!? まさか、あの最高司祭が生きているのかッ!?」
「……ハァッ!!」
そう思って少しボーッとしていたらマイティアちゃんが両手に持った短刀みたいに、というか短刀になってしまった私の剣で怪物の頭をズバッと切り裂きました。
その時、短刀とは思えない様な長さの光の剣になってましたし、明らかに斬ったのは頭なのに腕とかもズバババンって感じで斬られたようになって床に落ちていき、黒い粒子になってサァッてマイティアちゃんの開けた天井の穴から流れていきます。
「うごぉぉお、呪力が抜けていく。くそ、ここまで、ここまで来たというのに。くそ、こうなったら―――この者の体を頂く!」
その様子を眺めていたら突然怪物だったモノだと思われる黒い塊がそんな声を発して、マイティアちゃんに向かっていくのが見えました。
でも、今のマイティアちゃんならこうズババババって倒せますよね。
そう思って、マイティアちゃんの方を見たらまるで力が抜けたように床に膝をついて、倒れちゃいました。
えーと、これは大変なんじゃ無いでしょうか?
って、あわわわ!? 大変も大変ですよ!? こ、こうなったら魔法でって、あの怪物だったモノが進む速さと距離的に絶対間に合いませんよね!?
ど、どうしましょ―――
「まさかお前、魔王でありながら幼子になろうというのか? どこぞの世間ではそういうのもあるが、ああ、分かったぞ。さては、貴様。幼子になってという、そういう趣味なのだなぁ?」
そう思って見ていたら、ど、どこから現れたんでしょう?
いつの間にかマイティアちゃんの前にいつものように笑みを浮かべたワンダーさんがいて、あの黒い塊を鷲掴みしていました。
「グゥッ!? き、貴様。赤服のワンダー!?」
その黒い塊はワンダーさんにびっくりしている様子です。
でも、言い方的に知り合いなんですかね?
「おお! おいおい、その呼び方はずいぶんな言い方では無いか。お主と私の間だろう? 俺の事は気軽に、ワンダーで良いのだぞ?」
そんな黒い塊にワンダーさんは首を曲げて笑顔で言います。
でも、なんでしょう。凄く怖い笑顔、です。
「
黒い塊がそこまで言ったところでワンダーさんの手の中でその黒い塊はパァンっという破裂音を出して黒い粒子になっちゃいました。
えっと、あの黒い塊に何が起こったんでしょうか?
そう思っていたらワンダーさんが私の方へと視線を向けました。
「ああ、混ざり物のレシアよ。礼を言うぞ。ありがとう! そして、おめでとう! お主は色々な問題を解決したんだぞ。もっと喜べ。ああ、でもまあ、美味しいところはワシが全部持って行ってしまったから喜べないと言うならすまんな! ヌハハハハ!」
えっと、どういう事、なんでしょう?
ワンダーさんが言ってることよく分かりませんけど……。
というか、さっきの怖い笑顔とは違って凄く楽しそうです。
「ところで、他の者達は起こさなくて良いのか? 全員運ぶとなると骨が折れるぞ? いや、それは比喩だがな」
そんな事を言ってワンダーさんは笑いました。
って、そういえば皆さん、静かですけど。
そう思って辺りを見渡すと、私とクリスタ君以外全員倒れてるじゃ無いですか!
あわわわ!? マイティアちゃんはさっき元気に動いてましたけど、あの攻撃を受けたレオンさん達、あれから動いてませんよね!?
だ、大丈夫なんでしょうか?
私はレオンさんに近づいて様子を見ます。体は上下に動いているので息はしてるみたいです。
他の皆さんも息はしている様子です。
え、えーと、と、とりあえず一安心ですかね。
そう思っていると、凄く重たい扉の開く音が聞こえてびっくりしちゃいました。
見ると、少し離れた場所にある扉がゆっくりと開くのが見えて、そこには―――
「あら? あなた達、どうして、いえ、どうやってここに?」
―――驚いた様子のカリンさんが見えました。
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