第25話 光晶祭 ー乙女の力ー

「んふふ~、美味しいです」


 カリンさんに出会った後、私達は食堂で朝食をる事にしました。

 それにしてもここの宿屋さんの料理は美味しいです。

 私の知らない美味しい料理ですから新鮮ですし美味しいです。

 そう、美味しいんです! んふふ~。


「うーん、やっぱり落ち着きませんわ」

「そーなの?」

「はい。そうなのです。やはりいつもの服装でないと」

「でも、お姫様似合ってるです!」


 私の向かい側ではコクヨーちゃんとクリスタ君がトパーズサイト様を間にしてそんな会話をしています。

 そんなトパーズサイト様ですけど、今はドレスじゃない物を着てますよ。

 彼女が着ている服はワンダーさんの布で出来てる物ですね。

 白いシャツと黒くて長いズボンって感じの服装です。そのズボンはなんというか、ズボンの前の方に胸まで隠れるような部分があってその部分に太めの紐があってそれを肩にかける感じのやつです。

 コロンさん曰く、オーバーオールっていうらしいです。

 コーメインでよく見かけましたし、この街でもたまに見かけますけど、名前初めて知りましたよ。

 そのトパーズサイト様の頭には黒い帽子もセットで着いています。

 それ全体的に見ると見た感じ普通って感じです。変装であるならバッチリってコロンさん言ってましたからバッチリなんですよ。


 あ、その時ですけど、帽子で隠れるからティアラは良いとして、流石にイヤリングは目立つので外した方が良いって言ったら、本人から体から生えた魔宝石だって説明されちゃいました。

 見てみたら確かに生えてる感じでしたね。

 少し驚きましたけど、あんな綺麗な装飾品みたいになってて感心しちゃいましたよ。


「ところで、本当に光晶祭行くの?」


 三人を見ていた私にコロンさんがそう小声で言いました。

 えーと、


「急にどうしたんですか?」

「いや、だって多くの人がいる中に行って、それで宝晶族様に何かあってからじゃ遅いし」

「大丈夫ですよ。その為に私達がいるんですから」


 そうです。私達はその為にいるんです!


「えー、まあ、そうだけどさ……。うーん」


 コロンさん、さっきは了承したのにまた納得出来てないみたいです。

 うーん、何が不安なんですかね?

 でも、なんだかコロンさんが不安そうなのを見てるとなんだか私も少し不安になってきましたよ。

 こ、これは駄目です! ちゃんとしっかりしないと!


 こういう時は、そうです! ちょっと痛いですけど頬を叩くと良いんですよ。

 気合い、入れて、行きますッ!!


 私は気合いを込めて自分の頬を叩きました。

 ―――ッ。い、痛いです。痛いです、けど、これも頑張るためです。気合い注入です。ッくふぅう~。


「ちょ、ちょっとレシア。急にどうしたの?ていうか大丈夫?」

「ふぅう~、だ、大丈夫です。ちょっと気合いを入れました」


 私はコロンさんにそう言います。

 でも、気合いを入れるのって痛いですね。まだジンジンします。

 ですけど、気合いは入った感じがしますよ。


「気合いってなーに?」


 痛む頬をさすっていたらクリスタ君がそう問いかけてきました。

 クリスタ君、気合い知らないんですか。

 案外知らない事多いんですね。

 フフ、なら今こそ、私、レシア先生の出番ですね!


「気合いっていうのはこれから頑張るぞー! っていう気持ちの事ですよ」

「そーなんだ!」


 いつものように目を輝かせてクリスタ君はうなずきます。

 ふふ、本当にクリスタ君は良い子ですね。


「あの、何を頑張るのかはぞんじておりませんが、叩いた音が大きな音でわたくし、驚きましたわ」

「です。びっくりしたです」

「え? あ、そのごめんなさい」


 気持ちよく教えていたら二人からそう言われちゃいました。

 でも、気合い入れるにはこれくらいやらないといけないですから。そう教わりましたし。


「それに頬、赤くなってますけれど痛くないですか?」


 心配そうなトパーズサイト様の顔。

 確かにまだジンジンしますけど、


「これくらい大丈夫ですよ。気合いの証です」


 そうです。この頬の赤みは自分の不安を撥ね除けた証ですから。


「そうですか。なら、良いのですけど」


 トパーズサイト様、その気持ちだけで十分です。

 でも、こんなに優しい人を殺すなんて犯人はなんて人なんでしょうか。

 これは見つけたらお説教しないとですね。


「ちょっとレシア」


 そう心に決めていたらコロンさんが横から静かに話しかけてきました。

 なんかなんとも言えないような表情してますけど、どうかしたんでしょうかね?


「どうかしましたか?」

「いや、気合い入れるのは良いんだけど。周りの注目集めちゃってるから慎重にしてよ」


 そう言われて辺りを見渡すと、確かに、他の席にいる人とかチラッて見てますね。というか、コロンさんに言われたのもあって皆さんが見てる感じがしますよ。

 はわわ、な、なんだか少し恥ずかしいです。


「んもう、どうしたの? 何かあったの?」


 私が恥ずかしくてシュンとしていたら、カリンさんが声をかけて下さいました。

 うう、ですけどなんと言ったら良いのか……。


「れしあさんがね、気合い入れたの」

「です! 気合いです!」


 言うのが恥ずかしかったのにクリスタ君コクヨーちゃんが言っちゃいました。

 あううー……。


「あら、そうなの? それくらい頑張りたい事があるのね。でもね、レシアちゃん。こんなに綺麗なお肌なんだからいたわらないとダメよ? まあ、綺麗になりたいんだったらだけれど。ほら、赤く腫れちゃってるじゃない」


 優しい声でカリンさんはそう言うと指をくるっと回しました。

 そしたら、頬のジンジンしてた感じが無くなりました!


「わー! れしあさん戻ったー」

「です! ほっぺ真っ赤っかじゃなくなったです!」

「ふふ、これが乙女の力よ」


 カリンさんはそう言って片目を瞑りました。

 凄いです乙女の力。全く痛くないですよ!


「え? まさか、回復魔法を無詠唱で?」


 カリンさんの乙女の力に感心していたらコロンさんがそんな事を言いました。

 無詠唱って、あれですよね。確か魔法の呪文を言わなくても出来るってやつですよね。でも、それは物語的なものだから実在しないってお父さんよく言ってたと思うんですけど……。


 はっ、もしかしてカリンさんは物語の中から出てきた人なんですかね?


「ふふ、違うわ。乙女の力よ」


 予想していたらカリンさんは片手を胸に当てて堂々とした態度で言います。

 本人はこう言ってますし、無詠唱とかじゃなくてやっぱり乙女の力なんですね。

 それでも凄いです。乙女の力! 私もいつか習得したいですね。そうすれば皆の痛いのも治せるかもしれませんし。


「ところで、カリンさん。一つうかがいたいのですがよろしいでしょうか?」


 すると、凄く真面目な声色でトパーズサイト様がカリンさんに言葉を発しました。

 優しさが少し薄れた感じの凄く真面目な声です。


「何かしら?」

「先程ですけれど、こちらの皆様にお手伝いすると言ってましたけれど、それってどういう意味ですの?」


 その言葉は凄く怖い感じがしますよ。迫力があります。


「ああ、その事ね。でも、その話はここじゃああれだからー、そうね。今で良いのであれば私のお部屋で話しましょう。あなた達も一緒にいらっしゃい」


 カリンさんは私達も来るように言います。

 どうかしたんでしょうかね?


 うーん、考えても仕方ないですし言われたとおりについて行きますか。

 そういう事で私達はカリンさんの後を着いてお店の奥へと入っていきました。

 そこは、【カリンのお部屋】と書かれた丸い木の板がぶら下がっているお部屋です。


「さあ、入って入って」


 言われるまま入ろうと思って開かれたドアの向こうを見るとなんというかファンシーな感じです。というより、なんというか、中はどこかで見た事あったような感じですね。

 あ、そうです。ギルシュガルデさんのお部屋ですよ。そこに更にもっと可愛いらしい物が置かれているような感じのお部屋です。

 そうして中に入るとカリンさんに座ってと、長い椅子を指し示されました。

 座ると、ギルシュガルデさんの所みたいにこの椅子凄くふわふわですよこれ!


「それでカリンさん。先程の話、いえ、その事もですが、今、何か起きているのでしょう?それについて説明願いますわ」


 凄く真剣な声でトパーズサイト様が言います。

 それに凄い真剣な顔です。ちょっと怖いですね。


「そうね。これを言っちゃうのはあれだけれど仕方ないわ」


 カリンさんはため息交じりにそう言うと頬に手を当てます。

 一体、何を言うんですかね? 少しドキドキしますよ。


「良く聞いて。トパーズちゃん」


 そしてカリンさんは凄く真剣な表情で口を開きました。

 この感じ、何が語られるんでしょう。凄く緊張します。


「実はね」


 じ、実は……?


「貴女に光晶祭このお祭りを第三者として普通に楽しんで貰うためにフクゥダちゃんによって仕組まれたのよ」


 え、えーと? つまり?


「どういうことですの?」


 私が聞く前にトパーズサイト様が聞いちゃいました。

 私も聞きたかったですけど内容的に同じですから良いですかね?


「そういう事よ。フクゥダちゃんが貴女に純粋にお祭りを楽しんで欲しいと思って、自由に動けるようにって事で貴女はさらわれた事にしたの。だって光晶祭の間ずっと舞台上にいるのも退屈でしょう?」

「いえ、そんな事はありませんわ。だってあの場所には――」


 言い返したトパーズサイト様はそこで顔を下に向けてしまいました。なんだか、表情が少し暗くなったような気がしますけど。


「ともかく、そういう事なのよ。逆に主催者側が一般客の気持ちを知る上でも大事な事なの。トパーズちゃん、これはね、お仕事なのよ? ただ遊ぶだけって訳じゃないわ」


 そんなトパーズサイト様にカリンさんは力強く言いました。

 トパーズサイト様が暗い表情をしている理由はよく分かりませんけど、そういう事らしいです。

 なら、私が取るべき行動は一つですね!


「お姫様あのね」


 そう意気込んでトパーズサイト様に声をかけようとしたらクリスタ君が先に声をかけましたよ。

 むむう、でも、私が言おうとした事ではなさそうです。

 何か思い出したのを伝えようとしているだけみたいですね。


「オリナー、なんでしょうか?」


 そんなクリスタ君の声を聞いてトパーズサイト様は顔をあげました。


「あのね、皆がね、お姫様笑ってーって言ってたよ」

「です。皆言ってたです」


 二人はトパーズサイト様にそう言います。

 そういえば二人ともそんな事言ってましたね。でも、本当に誰に言われたんでしょうか?

 むむむ、謎です。


「……お二人には聞こえたのですね。その声が」

「うん。皆から言われたの。でも僕もお姫様をえへへーって笑わせたいの」

「です! 私もお姫様にえへへーって笑ってもらいたいです!」


 二人は真剣な表情でトパーズサイト様に言います。

 凄く真剣ですね。私もそれを見ていたら気合いが入りますよ!


「そうです! だからトパーズサイト様。一緒にお祭りを回って下さい! 笑顔にさせてみせますよ!」


 私もクリスタ君達に連なります。だって、私もトパーズサイト様を笑顔にさせ隊の一人ですからね!

 さあ、そうと決まれば行く準備をしなきゃですよね!


 そういう事で私達はカリンさんの部屋を後にしました。

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