第17話 光晶祭 ‐提案‐

 ……どうしましょう。


 宿のベッドに腰をかけて天井を見上げていました。その隣ではクリスタ君とコクヨーちゃんも同じように呆けています。

 頑張ったんですけど、人の波に流されて、トパーズサイト様に声もかけられず私達は宿へと戻ってきました。

 なんか何もする気が起きません。

 今更ですけど飛べば良かったですよね。はぁ~、何してるんでしょう。私。


 周りのクリスタ君とかコロンさんとかコクヨーちゃんも全員黙ってしまっていて静かです。

 そう思いながら皆さんを見ていたらふと思いました。

 あれ?そういえば、祭りに行ってる時からコロンさんは黙っているような?


「コロンさん?」

「何?」


 なんだかいつもの声よりも少し気持ちが落ちているような声です。


「どうかしましたか?」

「別に……」


 そう言ってそっぽを向いちゃうコロンさん。

 ですけど、何か悩んでる感じがします。うーん。ですけど、私も悩んでいるので同じ内容でしょうかね?

 と、私達のいる部屋のドアが叩かれました。

 こんな時に誰でしょうか?

 私は悩むのをちょっと置いておいてドアを開けてみます。


「はーい」

「……こんにちは」


 そこにいたのはマイティアちゃんでした。


「マイティアちゃんどうかしました?」

「……具合は大丈夫か来てみただけ。それよりもここの方がどうしたの?」


 そう言ってマイティアちゃんは聞いてきました。

 あ、そうです。マイティアちゃんに話したら何か良い案が浮かぶかもしれませんね。

 という事で私はマイティアちゃんに話しました。


「……そういう事」


 私の話を全部聞いたマイティアちゃんはまたまた顎に手を当てて考えます。


「それでね、この美味しい石渡そうと思ったんだけどお姫様の所に行けなかったの」

「です。人いっぱいで無理でしたです」


 何か考えている様子のマイティアちゃんに二人も言います。

 なんというか二人もマイティアちゃんに案を求めてるみたいですね。


「……んー、どちらにせよ何かを渡すのは難しいと思う。審査を通さないといけないはずだから。それにあなた達が美味しいと言っても普通の人には分からないから審査は通らないと思う」


 マイティアちゃんの言葉。審査が何か分からないですけどなんだか凄そうです。


「……それに、直接ってってなればもっと無理だと思う。宝晶族様の周りは伯爵が集めた凄腕の護衛が守っているから近付くのも難しくてどんな凄腕の暗殺者でも近付けないって言われてる。住んでる所の警備も厳重で有名な怪盗ノクターンホロウでさえも通さないって言ってるらしいから。宝晶族様が自ら来てくれるっていうなら大丈夫だと思うけど」


 なるほど。なんだか希望が見えた気がします!

 つまり!


「つまり、トパーズサイト様が来てくれればいいんですね!」

「……そうだけど」

「私、良い案が思いつきましたよ!」


 私は思いついた方法に胸を張ります。

 そんな私をクリスタ君とコクヨーちゃんは「おおー」って感じで見てきます。ふふ、凄く優越感ですよ。


「……どんな方法?」

「トパーズサイト様の所に行って来てくださーいって大声で言えばいいんですよ」

「わあー!」

「それは良い案です!」


 二人は更に目を輝かせました。ふふ、どうですか!

 この完璧な方法。こんな方法が思いつくなんて私天才じゃないですかね!?


「……普通に門前払いくらうと思う」


 そう思っていたらマイティアちゃんにそんな事言われちゃいました!

 ……門前払いってなんでしょう?


「門前払いってなーに?」


 疑問に思っていたらクリスタ君が尋ねます。


「……門前払いは家の前で相手を追い払う事」

「ふーん。そーなんだ」


 なるほど。そういう意味なんですね。

 ふむふむ。……。


「って、なんでですか!?なんで追い払われちゃうんですか!?」

「……考えてみて。知らない人が自分の名前を言って家の前で呼んでたら行く?」


 私が抗議の声をあげるとマイティアちゃんがそう言いました。

 行くかどうかって……。


「え?行かなきゃ失礼じゃないですか?」

「……え」


 普通、尋ねてきたら出ますよね?


「……不気味じゃ、ない?」

「ん?んー、確かに不思議ですけど名前を知っているっていう事はどこかで会った誰かかもしれませんし、尋ねて来たって事は何か用事があるって事ですよね?」

「……そう、だけど」


 そう言ったら何か腑に落ちないって感じの反応が返ってきちゃいました。

 え?あれ?何か私、変な事言っちゃいましたかね??


「……あなたの場合はそうだけれど、普通は入れてもらえないから」


 むむー、よく分かりませんけど。マイティアちゃんが何回もそう言うって事は、そういうものなんですかね?


「お姫様元気にしたいね」

「です」


 考察する私の横ではクリスタ君とコクヨーちゃんが残念そうにそう言ってます。


「……仕方ない。公爵の許可があれば会えるけど今は宝晶祭の運営で忙しくされてるから」


 マイティアちゃんもそう言ってこの雰囲気の仲間入りを果たしました。

 むむぅ、何か良い方法無いでしょうかね?

 あ、そうですよ。今マイティアちゃんに言われた事をまとめてみればいいんです。

 思い立ったが吉日。という訳で私は思い出します。

 つまり、トパーズサイト様が自分から来てくれないと無理で、私達は会えない。っていう事ですね。ふむふむ。


 ……あれ?どうしたら良いんでしょう。

 考えても結局同じ所に戻ってきちゃいます。あ、こういう時は他の所も思い出して考えればいいんですよね。

 うーん、ええっと、確か他には、暗殺者がとか、怪盗さんがどうとか、ノクターンホロウさんがどうとか……。ノクターンホロウ?


 その言葉に私は引っ掛かりを覚えました。

 確かどこかで聞いた事あったような?私は必死に記憶を辿ります。

 むっ、むむー。確か、どこかで聞いたんですよねー。


「……とりあえず、元気そうで良かった。それじゃあ」


 考えてたらマイティアちゃんがそんな事を言って部屋から出て行こうとします。


「あれ?もう行っちゃうんですか?もう少しいても良いんですよ?」

「……これから用事ある、から」


 そう言ってマイティアちゃんは行っちゃいました。

 用事って何でしょうかね?むむむ、気になります。けど、本人がもう行っちゃったので聞けませんね。


「そー言えば、まいてぃあさん。なんでのくたーんほーろーの名前知ってたんだろーね?」


 と、マイティアちゃんが居なくなった後でクリスタ君がそう聞いてきました。

 んー?確かに。


「何ででしょうね?」


 私も良く分かりませんね。どうして知ってるんでしょうかね?

 そういえばコーメインでもオーラ様が言ってましたね。有名人なんでしょうか?


「おりなー、のくたーんほーろーってなんです?」


 と、思い出せず悩んでいたらコクヨーちゃんが首を傾げます。


「のくたーんほーろーっていうのはね、かいとーなんだって」

「かいとー、です?」


 クリスタ君の言葉にコクヨーちゃんは更に首をかしげちゃいました。

 ふふ、ここからは私が説明してあげましょう!


「コクヨーちゃん。怪盗というのはですね、人の物を盗む人の事だそうですよ」

「それはどろぼーさんじゃないんです?」


 するとコクヨーちゃんからそんな言葉が。確かに、人の物を取る人は泥棒ですよね。

 ですけど、うーん?怪盗と泥棒とってどう違うんでしょうか?

 でも、名前が違うって事は違うんですよね。


「泥棒さんとは違うんじゃないんですかね?」

「そーなんですか」


 私の言葉にふんふんと頷くコクヨーちゃん。うん、多分違うんですよね。

 そうです。違うんですよ。きっと。


「でも、ころんさんの名前だよね?のくたーんほーろー」

「そうですよねー。あっ!?」


 クリスタ君の言葉に同意した瞬間思い出しました!

 確かノクターンホロウはコロンさんが怪盗をする時の名前だって言ってましたね。

 ああ、謎が解けてスッキリです。


「あれ?じゃあ、あの人かいとーさんです?」


 と、私がスッキリ気分を味わっていたらコクヨーちゃんがコロンさんを見て言いました。

 凄いですね。そこまで分かるとは!なので肯定してあげましょう!


「そうですよ。コロンさんは怪盗さんですよ」

「そーなんですか!」


 私の言葉に「おー」って目を輝かせます。ふふ、気持ちいいですね。


「あれ?良いの?」


 と、そんな私にクリスタ君が首を傾げて聞いてきました。


「何がですか?」


 首を傾げたクリスタ君に私は問いかけます。

 何が良いのか良く分かりませんからね。


「ころんさん秘密にしてーって言ってたよ?」


 クリスタ君のそんな言葉。ふむふむ、確かにそう言ってましたね。


「あ……」


 確かにそう言われてましたよ!ど、どどど、どうしましょう!?はわわわわ!!

  私、なんて事をしちゃったんでしょう!このままじゃコロンさんの正体がバレて捕まっちゃいますよ!

 うっ、うう!!


「ごめんなさーい!コロンさーん!!」

「うわ!?な、何?!」


 コロンさん、許してくだしあ!許してくだしあ!


「ちょ、ちょっと、レシア。鼻水!鼻水服に付くから!離れて!」

「うええ、このままじゃコロンさん捕まっちゃいますー」

「え?いや、え?どういう事?」

「私、コロンさんがノクターンホロウだってコクヨーちゃんに話しちゃいましたー!」

「ちょ、ちょっと!声が大きい!って、え?本当に?」

「本当です。つい言ってしまいました」


 私がコロンさんを見上げると、コロンさんは私に向けていた視線を移しました。

 私もその方を見ると、コクヨーちゃんがクリスタ君と何か話していますね。


「あのねこの事はね、しーなんだよ?」

「分かったです!おりなーがそう言うなら秘密です!しーです」


 そんな二人はお互いに人差し指を立ててしーと言い合っています。なんだか可愛らしいです。

 はっ!いえ、そんな事よりもこっちの方が重要ですよ!


「だから、コロンさんごめんなさいです!」

「いや、多分クリスタがコクヨーに話し通してくれたみたいだから心配ないと思うけど……」

「……へ?」


 クリスタ君が話を通してくれたって、どういう?


「大丈夫です!あなたがかいとーさんなのはしーです。秘密です。おりなーとの約束です」


 何がなんだかよく分からない私達の方を見てコクヨーちゃんがしーと言ってきました。

 つまり、コクヨーちゃんもコロンさんの秘密を守ってくれるみたいです。

 ああ、良かったです。


「あ、そうです!」


 胸を撫で下ろしていたら突然コクヨーちゃんが何かを思いついたような声を出しました。なんでしょうかね?


「あの、お願いがあるです!」


 そう言ってコクヨーちゃんはコロンさんに近寄りました。


「え?お願いって私に?」

「です!」


 コクヨーちゃんはさっきより気合を込めています。なんだか決意を決めたって感じがしますよ。

 一体どんなお願いが来るんでしょうか……!


「えーと、取り合えず聞くけど何、かな?」

「お姫様を取ってきて欲しいです!」


 そう言ってコクヨーちゃんは頭を下げました。

 なるほどー。お姫様を盗むんですね。ふむふむ。あれ?


「それって誘拐って言うんじゃないですか?」

「盗むのとは違うです?」


 私の言葉に反応したコクヨーちゃんと顔を見合わせてお互いに首を傾げました。

 うーん、確かに盗むのとは一緒ですけど誘拐ですよね?あれ?でも、誘拐って人を盗む事なんですかね?あれ?


「いや、普通に誘拐は専門外だから。無理だよ」


 よく分からなくなっていたらコロンさんがそう言いました。

 やっぱり誘拐と盗むのは違うみたいですね!


「そうなんです?うう、残念です」


 ですけど、それを聞いたコクヨーちゃんは凄く残念そうです。

 うう、そういう表情一番苦手なんですよね。どうにかしてあげたいです。何か無いですかね?

 ……あっ。

 そこで私はある事を思いつきました。そうです。この方法を使えばいいんですよ!

 という訳で!


「私に良い案があります!」


 私は宣言します。


「良い案です?」

「はい。良い案ですよ」


 私は不安気に聞いて来たコクヨーちゃんに頷きます。

 ふふ、そう!私が思いついた作戦と言うのは――!


「ずばり、トパーズサイト様から大切そうな物を盗って取り返しに来てもらおう作戦です!」


 どうですか!これなら大丈夫でしょう!


「え、そんな事したらお姫様ぐすんってなるんじゃないです?」


 そうしたらコクヨーちゃんがそう言います。

 むむ、確かにそうですけども。


「仕方ないです。こうしないと来てくれないと思いますし、大丈夫です。ちゃーんと返しますから。ね、コロンさん!」

「ゴメン。その話にはどっちにしても乗れない」

「え?」


 あ、あれ?なんかコロンさんにそう言われちゃいました。

 の、乗れないって――。


「な、なんでですか!?」

「半人前、だから」


 コロンさんはそう言って俯いちゃいます。

 え、えーと、半人前ってなんでしょうかね?うむむ?

 あ、分からなかったら人に聞く。これですよ!


「半人前って――」

「私、言われたの。お前は怪盗に向いてないって。確かに私は教えられても何も上手くいかなかった。でも、有名な一族で、いつもパパとかおじいちゃんの話聞いてて憧れてたのにそう言われて、悔しくて、それで家を出たの。でも、結局どこかの家に入る勇気なんて無くて、唯一優しいって聞いてたコーメインのお屋敷に忍び込んだ程度で、だから――」


 え、えーと、どうしましょう。

 これは半人前について聞ける雰囲気じゃないですよ。

 ですけど、何となくその気持ち分かります。

 私も回復魔法、お父さんから教えてもらいましたけど全然上手くいきませんでしたから。

 ですけど、お母さんも一緒に覚えるって言ってくれて嬉しかったですね。

 あ!私もそうすればいいんですよ!


「コロンさん」

「私は――」

「コロンさん!」


 私は沈み気味のコロンさんの手を取りました。

 これ以上沈める気はありませんからね!

 そしてここから私のお母さん秘伝のターンです!


「私も一緒に怪盗やります!ですから、色々教えてください。お願いします!それにお手伝いも」

「っそ、そんな簡単に――」

「クリスタ君達の為なんです。それに見返してやりましょうよ!そう言った人に!今、ここで。怪盗として!」


 私は強い瞳でコロンさんを見ます。

 伝わってください!私の熱い気持ち!


「そう、言われても」


 ですけど、コロンさん渋っちゃってます。むむー、ですけどこれはコロンさんに頼む事しかできない事です。

 他に怪盗さんいませんし。


「僕もお手伝いする!」

「です!私もするです!」


 私が何を言おうかと思った時、クリスタ君とコクヨーちゃんの二人が手をきゅっと硬く握って言いました。凄く決意を感じます。


「いや、そう言われても」


 ですけど、なかなか同視してくれません。

 ええーい!こうなったら自棄です!お願いしまくります!!


「少しでも良いんです!助けたいんです!お願いします!」

「少し、考えさせて……」


 私が熱意を込めてお願いしたら、コロンさんはそう言って部屋から出ていっちゃいました。

 ですけど、あの感じはまだ説得し足りない感じです。私の勘がそう言ってますよ。

 ですけど、何故か追いかけちゃいけない気がするんです。

 むむむー、ですけど、ですけど、このままだと首を縦に振ってくれない気がします!

 むむむー、むむ。でも、追いかけちゃいけないっていう謎の気持ちもあります。

 ですけど、ですけどぉ。ぐむむむむむ!

 こ、ここはクリスタ君達の為、追いかけるしかないですよね!


「クリスタ君達は待っててください!私はコロンさんにお願いしてみます!」

「僕も行く!」


 そう言った私にクリスタ君がそう言います。ですけど、クリスタ君が行っても説得できますかね?

 そう思ってクリスタ君を見たら、凄い真剣です!お口もへの字になるくらい真面目です。それが凄く伝わってきますよ。

 

「分かりました。じゃあ、コクヨーちゃん待っていてくださいね!」

「はい。分かったです!」


 決意した私はクリスタ君を抱き上げてドアを開けます!

 そんな私の前には窓があって左右に分かれた廊下です。ついでに蜘蛛さんを見つけましたけどそれよりもコロンさんですよね。むむむ、コロンさんはどっちに行きましたかね?

 左右を確認すると、コロンさんの後ろ姿が見えました!

 その時クリスタ君も見つけたようでお互いに目を合わせました。


 なんで廊下の真ん中で止まっているのか分かりませんけど、呼び戻す絶好のチャンスですよね!

 ですけど、距離があるので近寄ってから呼びましょう!そうしましょう!あ、ですけどもしかしたら逃げられるかもしれません。私の勘がそう言ってます。ですから、ここはお家で鍛えた抜き足差し足ですね。

 そういう訳でクリスタ君に「静かに行きますよ」と声をかけて頷くのを確認してからゆっくり動きます。

 ゆっくりゆーっくり気付かれないように。

 そーっとそーっと、ゆっくりゆっくり気付かれないように!


「じゃあ、諦めるか?」


 そういう風に近付いていったらそんな声が聞こえてきます。

 声的に男性の声っぽいですね?


「……そういう訳じゃ」

「見ていたが何もかせていなかったじゃないか」

「……っ」


 え、えーと、何の話をしてるんでしょうか?

 なんだか凄く入りにくい雰囲気がありますよ。とりあえず、近付いてみましょう。

 そして聞き耳を立てつつ近寄ると、コロンさんはさっきの宿の人とお話していました。あ、あれ?でも、話してるの女性の方ですよね?


「はぁ、そんな覚悟で継ごうなど、お前に怪盗は無理だ。普通に街娘として過ごしていれば食い扶ちには困らないはずだ」

「でも、だけど……」


 な、なんだか気持ち悪いですね。可愛い顔立ちの人なのに声が凄く合ってない感じです。

 というかさっき対応して頂いた時と声が全く違いますよ!


「はっきり言うがお前には才能が無い。それが分かったんじゃないか?」

「それは……」


 聞いていたらなんだか全部上から目線な話し方ですし、コロンさんが凄く沈んでいます。

 むむ、流石に友達に酷い事を言う人にはドーンと言ってやりたいですけど、うーん。何をどう言えば良いんでしょう。もやもやです。


「なんでコロンさんに酷いこと言うの!」


 考えていたら急に傍で聞こえた大声にびっくりです。その声にコロンさんも宿の人もびっくりです。

 見ればクリスタ君がムーとしていました。びっくりしましたけど何となくスッとしましたね。


「ふ、二人とも。いつの間に!?」

「あ。その、えーと、さっきですね」

「まさか、接近に気付かぬとは。ぐっ」


 私がそう答えると宿の人は凄い顔をしました。

 なんでしょう。声と表情はあっていますけど容姿が合っていない感じで凄く凄いです。色々と怖いですよ。


「正体がばれかけてるだけなのに慌てていたら完全にバレてしまうでしょう?全く」


 その時でした。そんな声が聞こえて、いきなり私とクリスタ君の前に黒い服の女の人が現れましたよ!

 ど、どこから来たんでしょうか……?


「エ、エミー……」

「お、お母さん」


 と、その女の人を見て宿の人とコロンさんの二人がそんな声を出しました。

 は、はえー、コロンさんのお母さんみたいですね。


「ふふ、ようやく見つけたわよ。ア・ナ・タ」


 そしたらコロンさんのお母さんは宿の人に優しく微笑みます。

 その表情、笑顔ですけどなんだか怖いです!はわわわわ!


「いや、その、違うんだ。今は仕事でな、偶然出会ったから、そのー」

「偶然出会った娘に見ていて活かせてないって言えるかしらぁ?」

「うぐっ、いや、その」


 女の人の言葉で宿の人はさっきコロンさんに言っていた感じの勢いをなくしています。

 な、なんだか凄いです。


「それに、まだここでコロンは何もやってないじゃない。でしょ?」

「あ、うん。何もしてない、けど」


 そういうコロンさんにコロンさんのお母さんはフフと微笑みます。

 なんだか凄く怪しい笑みですね。


「フフ、そうよね。するんだものね」

「え?」

「あら、お部屋でそこの子達に頼まれていたじゃない」


 コロンさんのお母さんは私の方をチラッと見て言いました。

 え?もしかして聞いてたんですかね?


「そ、それは」

「それに見返してくれるんでしょ?私達を」


 口篭るコロンさんに容赦なくコロンさんのお母さんは言います。

 って、ま、待って下さい!


「その言葉言ったの私ですからコロンさんじゃないですよ!」


 そう言ったらコロンさんのお母さんは笑いました。

 私、何かおかしい事言いましたかね?


「フフ、知ってるわよ。でも、あなたは怪盗の技を教えて欲しい人物でしょう?言わば助手兼見習いスクワイア。じゃあ、その助手にそう言わしめた怪盗マイスターはどうするべきか分かるわよね?」

「え?え、ええ……?」


 コロンさんはコロンさんのお母さんこ言葉に困惑しています。

 でも、私も頭に?マークばっかりです。


「い、いや、待てエミー。スクロックここで怪盗業なんて――」

「何を言っているの?怪盗に場所なんて関係ない、これが家訓でしょう?」

「うぐっ、そ、そうだが」


 す、凄いです。コロンさんのお母さん。完全に宿の人がしどろもどろです。


「でも、お母さん。私にそんな事――」

「コロン、いつまでそんなウジウジしてるつもり?もう予告状は速達で送ったわよ?」

「え?」

「は?」


 コロンさんのお母さんの言葉にコロンさんと宿の人がびっくりしています。

 多分予告状っていうのが二人を驚かせたんでしょうけど、予告状ってなんでしょうかね?でも、二人の表情から凄いものなのでしょう!

 うん。きっとそうですよ!


「エ、エミー!?お、お前」

「さあ、コロン。下準備はしてあげたわ。思いっきりあなたに授けた怪盗技を使って取ってきなさい!」


 宿の人の言葉を遮って言うコロンさんのお母さん。

 な、なんだかかっこいいですね。


「い、いきなりそう言われても……」

「友人の大切なモノなんでしょう?」

「……」


 お母さんの言葉にコロンさんは俯きます。


「大丈夫よ、コロン。あなたには別に一人で行けって言ってる訳じゃない。そこにいる助手を連れて勝ち取ってきなさいな。あなたの友人の性格上行かないなんてしないでしょう?」


 急に優しくコロンさんに語り掛けるコロンさんのお母さん。凄く母親って感じがします。

 ……私も少しお母さんの事思い出しちゃいました。

 そんなコロンさんのお母さんの言葉にコロンさんは返答はしません。

 コロンさん。


「じゃあ、あの二人売っちゃいましょうか!アルラウネと魔宝石を精製する種族なんて珍しいから高く売れるわよ?」


 そしたら突然コロンさんのお母さんが私達を指差してそんな事を言ってきました。

 うーん、売れるってなんでしょうかね?


「それはっ!」


 突然の大きな声にびっくりです!ずっと静かだったコロンさんが言った事なので更にびっくりしちゃいました!


「私が冗談で言った事に対してそんな表情が出来る友人なんでしょ?今ここで動かなかったら絶対後悔するわよ?」

「でも」

「でもは無し!怪盗として生きるなら捕まる事を恐れちゃダメ。脱獄術だって教えてあるんだから。失敗しても大丈夫って意気込みで行って来なさい。大丈夫。本当に危なかったらお母さん達も応援に入れるように見てるから」

「……っで」

「聞きたいのはイエスかハイのみ!」

「わ、分かった。やってみる」

「そう、それで良いの」


 なんだか話が凄い勢いでまとまって行きます。

 少し羨ましいですね。私もよくお母さんに励まされることがありました。あそこまで色々言われませんでしたけど。


「それであなた、レシアちゃんだったかしら?」


 お母さんの事を思い出していたら話しかけられちゃいました!

 これはお返事しないと失礼ですよね。


「はい」

「僕、クリスタだよ」


 私が返答を返すとクリスタ君がコロンさんのお母さんにそう言います。

 多分、私と間違えられたと思ったんでしょう。ここは訂正しておきましょう!


「違いますよクリスタ君。コロンさんのお母さんは私に用事があるから言ったんですよ?」

「ほえー?そーなの?」


 と、クリスタ君は私を見た後コロンさんのお母さんに問いかけます。


「フフ、そうよ?ゴメンね、僕じゃなくて」


 コロンさんのお母さんはそう言ってクリスタ君の頭を撫でました。

 クリスタ君はくすぐったそうにしていますね。少し羨ましいです。

 そう思っていたらコロンさんのお母さんが顔を寄せてきました。そして小さな声で話しかけてきます。ひそひそ話な感じですね。


「それで、レシアちゃん。コロンの事よろしくお願いするわね。自信が無いととことん落ち込んじゃう性格だから」


 ほえー、そうなんですか!初めて知りました。ですけど、そうですね!

 頼まれたからには頑張りますよ!


「はい!頑張ります!」

「うん。良い返事ね」


 と、私が返答したらコロンさんのお母さんはコロンさんの方へと向き直りました。


「それじゃ、コロン。しっかりやるのよ?あなたの事件が翌朝、号外で見れるように楽しみにしてるわ。それにこれも。はい」


 そう言ってコロンさんのお母さんはコロンさんに何かを渡しました。

 何でしょう?黒い棒みたいな物ですね。でも先端にキラキラしたものが付いてますよ。


「え?これって――」

「フフ、お爺さんからアナタにって」


 コロンさんはお母さんにそう言われてまじまじとそれを見ます。

 何でしょうか。凄く気になりますよ!


「うん!これがあれば。頑張ってみる!」

「フフ。それで良し。それじゃ、アナタ。行きましょうか」

「いや、エミー、俺は」

「何言ってるの。娘の晴れ舞台の席取りは親の務めでしょう。ほら早く」

「待てって!まず着替えええぇぇぇ―――……」


 そう言ってコロンさんのお母さんは宿の人を連れて行っちゃいました。

 コロンさんのお母さん凄い人ですね。それとコロンさんの貰ったもの気になります。

 あ、そういえば。


「コロンさん、コロンさん」


 私はそれよりも気になる事を思い出して呼び止めました。


「何?」

「予告状ってなんですか?」


 そうです。予告状についてです。

 一体なんなんでしょうね?


「予告状って言うのは、怪盗がその品を頂きますって相手に送る手紙みたいなものかな?」


 へー、そういうものなんですか。

 あれ?でも


「そんな事をしたら大事にしまわれちゃうんじゃないですか?」

「そうだけど、それを盗むのが怪盗だから」

「ふーん」


 何でそんな事をするのかよく分からないですけど、それを盗むってことは凄いってことですよね。


「あれ、そういえばさっきお母さん、予告状はもう送ったって言ってたような」

「確かに言ってましたね」


 そう言ったらコロンさんは固まっちゃいました。

 どうしたんでしょうかね?


「ちょ、ちょっと待って!?何をいつ頃盗みに行くのかわかんないんだけど!?」

「へ?好きな時じゃダメなんですか?」

「だ、ダメだよ!?予告状には時刻と盗む物品の名前を書くのが普通なんだから!」


 何でそんな事をするんでしょうか?怪盗ってなかなか良く分からないですね。

 ですけど、コロンさんの慌ててる様子を見る限りだと大変みたいです。って、あれ?


「コロンさんコロンさん背中に何か付いてますよ」

「へ?」


 私はコロンさんに言いつつ背中に付いていた四角い紙を取ります。見れば文字が書いてあります。

 えーと、【本日、夜。宝晶族のティアラを頂に参上する。‐ノクターンホロウ‐】って書いてありますね。


「これ何でしょうかね?」

「あ、これこれ。これが予告状だよ」

「ほえー、これが予告状ですか」


 初めて見ました。こういう感じなんですね。

 コロンさんは横から見ながらなにやらぶつぶつ言っています。と、そんなコロンさんが頭を上げました。


「とりあえず、誰かに見られたら不味いから部屋に戻ろっか」


 こうして私とクリスタ君、コロンさんは部屋に戻ります。

 そして部屋に戻ったらコロンさんから作戦を言うって言われてとりあえずコロンさんが前になるようにベッドに腰を下ろしました。


「それで私が考えた作戦を言うと、まず、私とレシアで宝晶族のティアラを奪って、更に宝晶族だけが来るように伝言を残し来る。それでクリスタとコクヨーは今日行った遺跡に行って、底で落ち合う感じにするから。そこで取り返しに来た宝晶族にクリスタとコクヨーが元気付ける為に頑張る。で、その時に宝晶族のティアラを返すようにするから」


 と、コロンさんが紙に書いて説明してくれました。

 なんだか凄い感じですね!


「あれ?なんで遺跡なの?宿ここで良いんじゃないの?」


 と、クリスタ君がコロンさんに言います。

 あ、確かにそうですね。それなら近いですし。


「そんな事したら簡単に誰が怪盗かバレて捕まるから。だから遺跡にするの。絶対宝晶族一人でなんて来る訳が無いでしょ?」


 コロンさんはそう言います。

 あれ?


「でも、トパーズサイト様にだけ来るように言うんですよね?」

「素直に珍しい種族である人物を一人で行かせる訳無いでしょ。何かあったら困るから」


 コロンさんはそう言います。ですけど……。


「でも、約束ですよ?」

「約束でもこっそりバレない様にやるのが普通だから。いくら大事な物を取って、返して欲しかったら一人で来いなんて言っても護衛はぎりぎりまで付いてくるから」

「そうなんですか」


 なんでしょう。話的に納得出来ない感じですけど凄い説得力です。それに今日のコロンさん、凄く輝いてますよ!


「それでレシア」

「なんでしょうか?」

「怪盗をやる時、私の事はノクターンホロウじゃなくて、マイスターって呼んで」

「え?何でですか?」

「一応、怪盗の助手っていう扱いになるんだから、そう呼ばないと不自然だからよ。それにレシアは怪盗の助手をしてる時は、ラフって名乗って」


 へ?


「何でですか!?」

「いや、本名だとバレるからに決まってるでしょ」


 そう言われてハッとしました。

 確かに。本名だとバレちゃいますよね。


「で、クリスタとコクヨーは私達が出て行ったら遺跡に向かって行って」

「うん!」

「分かったです!」

「よし、じゃあ、クリスタ達はこの事は他の人に言わないようにしてね」

「うん!」

「分かったです!」


 コロンさんの言葉に二人はフンスと気合を入れました。

 見ていて分かるくらい凄いやる気ですよ!

 私も二人に負けないくらいやる気出さないとですね!


「で、レシア。ちょっと詳しい話するからこっちに来て」

「はい。了解です」


 私も気合を込めて行きます。

 フンスですよ!


「集まっている護衛がいると思うから、私とレシアで二手に分かれて宝晶族に近付いた方が宝晶族のティアラを取るっていう算段でいこう。取ったら私がこれで護衛達の視界を遮るから」


 そう言ってコロンさんはさっきお母さんから貰っていた物を見せて来ました。

 あ、そういえばそれなんでしょうね?


「レシア分かった?」

「へ?あ、はい。大丈夫です!」


 あ、危なかったです。その棒状の物に気を取られかけちゃいました。


「よし。それじゃあ、早速。怪盗用の服を買いに行こっか」


 コロンさんがそう提案します。

 怪盗用の服装、なんだか凄そうです!一体どんな服装なんでしょうか?


「あ、ちょっと待って。そう言えばレシア、今日店やってないって聞いたんだよね?」

「あ」


 そう言えばそう言ってました!

 今日、お店やってないって宿の人に言われましたよ!


「ど、どうしましょう!?」

「いや、どうするも何も。ええ、ど、どうしよう。黒い布とかあればそれでそれなりな上から羽織るのを作れればいいけど、布屋もやってないだろうし」


 コロンさんと私は大慌ててです!

 ど、どどど、どうしましょう!?黒い布なんて、黒い布?

 そこで何か引っかかりを感じました。なんかそんな感じのものがあったような気が。

 でも、どこででしょうか?むむむ、確か、えーと。


「どーかしたの?」

「どーかしたです?」


 悩んでいたらクリスタ君とコクヨーちゃんの二人が声をかけてきました。

 ですけど、二人に怪盗が出来ないなんて言ったら絶対にシュンってなっちゃいますよ。どうにか誤魔化して……。

 その時視界に入ったコクヨーちゃん。それのお陰で私の頭にピピピンときました!そうです!思い出しましたよ!

 確かワンダーさんから貰った袋に黒い布があったはずです!


 そうと分かれば早速私はバッグをごそごそします。

 そしてワンダーさんから貰った袋を見つけました!中には畳まれた布がまだ入っていますね!


「コロンさん!ありました!黒い布」

「え?本当!?」

「はい!これで――ッ!」


 喜んでコロンさんに見せようとした瞬間でした。

 黒い布がコロンさんに向かってバッと行って、コロンさんをぐるぐる巻きにしちゃいました!!

 あわわわわ!ど、どうしましょう!?

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