第11話 スクロック遺跡 ‐邂逅‐

「本当に奥に進んでよかったのかな?」

「……提案したのは、一応貴女」

「そ、そうだけど……」


 遺跡にあった通路を通っていたらそんな会話が後ろから聞こえてきます。

 コロンさんとマイティアちゃんですね。お二人はそんなやり取りをした後、また黙ってしまいますけど。

 うう、なんかあんな感じで会話が途切れてると気まずい雰囲気が……。


「ところでクリスタ君、疲れてませんか?」

「だいじょーぶ!」

「そうですか」


 私は少し気まずい空気をどうにかしようと隣で一緒に手を繋いでいるクリスタ君にそう声をかけます。するとクリスタ君はいつも通りの声色で返答をしました。

 ですけど、それで終わっちゃいましたね。うう、それもこれも一本道なのになかなか他の部屋とか出口っぽい所とか見えて来ないのが悪いんですよ!


「それにしても、広い敷地だよね。何でこんなに広いんだろう?」

「……ここは一応、建ったのが統一戦争時って言われてるから、敵から逃げた人が簡単に捕まらないように長いのかも」

「へー、そうなんだ」


 後ろから聞こえてきたそんな会話。

 何でしょう?統一戦争って。


「とーいつせんそー?」


 クリスタ君も気になった様で後ろを振り返って問いかけます。

 そんなクリスタ君にマイティアちゃんが答えました。


「……約二千年前に起きた戦争。ここら周辺に沢山の国があった時代の戦争」

「へー?」


 ですけど、クリスタ君良く分かっていない様子で首を傾げました。

 まあ、私も良く分かりません。何でしょう?戦争って。


「それよりも、なんかおかしくないかな?ここずっと真っ直ぐにしか進んでないのに全く先が見えないし、外観から考えてもこんなになってる部分無かったと思うんだけど……」


 私が戦争というものについて考えていたらコロンさんが不安気な表情で言います。

 確かに長いですよね。いつになったら付くんでしょうか?


「ねえねえ、れしあさん。ちょっと待ってー」


 クリスタ君が突然そんな言葉を発したため私は立ち止まります。


「どうしました?」

「んーとね」


 そう言うとクリスタ君は腰のバッグからオーラ様から頂いた手のひらサイズの石を取り出すとしゃがみ込んで床に置きました。

 そんなクリスタ君の行動にコロンさんが口を開きます。


「何してるの?」

「目印置いたの」


 そんなコロンさんに対してクリスタ君はそう答えると笑顔で返答し立ち上がりました。


「……目印?」

「うん!そーだよ」


 続くマイティアちゃんにもクリスタ君は無邪気に返答します。

 なんでクリスタ君はそんな行動をしたのか全く分かりませんけど。でも、クリスタ君良く気付きますから何かあるのかもしれませんね。


「ねえねえ、れしあさん。行こー」


 と、自分の素晴らしい解釈に頷いていたらクリスタ君にくいくい引かれました。


「そうですね。行きましょう」


 こうして私達はまた歩みを進めます。

 あ、そういえば。


「ところで、マイティアちゃん」


 私はふと気になった事があったのでマイティアちゃんに言葉をかけました。


「……何?」

「マイティアちゃんって今日予定とかありますか?」

「……なんで?」


 するとそんな返答が返ってきました。ふふ、そんなの決まっているじゃないですか。


「今日からお祭りあるらしいじゃないですか。一緒に行きませんか?」

「……え?」


 そしたらマイティアちゃんは立ち止まってしまいました。

 どうかしたんでしょうか?


「どうかしました?」

「……いや、なんでも、ない。人混み苦手、だから」


 どんどん意気消沈していくマイティアちゃんの言葉。

 しかも発言の内容的に行かないって言われそうですね。


「あ、じゃあ。お手手繋いで行こー!そーすれば迷子にならないんだって!」


 と、そんなマイティアちゃんにクリスタ君が振り返って手を向けました。


「いやいや、クリスタ。マイティアが言ってるのは迷子になるから苦手なんじゃないと思うよ?」

「そーなの?」


 コロンさんの言葉を受けてクリスタ君はマイティアちゃんにまた視線を向けました。


「……いつも一人だから。迷子には、ならない」


 そんな言葉をマイティアちゃんは口にします。

 た、確かに。常に一人なら迷子にはなりませんね。これは一本取られました!

 って、こんなに小さな子が一人……?


「あの、マイティアちゃん。お父さんとお母さんは?」


 私が問いかけると、マイティアちゃんは俯いちゃいました。そして少し暗い雰囲気が。

 まさか……、お父さんとお母さんは、もう?

 私が質問した事に後悔を感じていると、コロンさんが慌てたように口を開きます。

 ですけど、


「ちょっと、レシア――」

「……知らない」


 コロンさんの言葉を遮ってそんな言葉が返ってきました。

 知らないって、どういう事なんでしょう?


「……お父さんとお母さんは、私を、捨てたから」


 首絵を傾げる暇も無く、そんな言葉が連なって来ました。

 ……お父さんとお母さんに捨てられた?


「……私が怖いって、それから――」


 彼女はそう言って震えています。……マイティアちゃん。


「……それで、皆離れて行っちゃって、捨てられて。魔法学校理事の、グリノレッジ公爵に拾われたけど――、魔法学校でも、魔力、異常だって、言われて」


 私は今にも泣き出しそうな彼女を気付いたら抱きしめていました。


「マイティアちゃん、良く頑張りましたよ」


 そう言って頭を撫で撫でです。彼女の辛さは分かりません。それに私にはこれしか出来ません。ですけど、これが出来る事なら私はやります。

 そうしていたら、私の腕の中で彼女が泣き出しました。大泣きって程では無いですけど、ぎゅっと彼女も抱きしめ返してきました。


 そういえば私も良く泣き出しそうな時、お母さんにやってもらいましたね。お母さんの腕の中は温かくて、安心できます。

 私もそんな感じで出来ていますかね?


 と、そんな私とマイティアちゃんを見ていたクリスタ君もマイティアちゃんの背中側から腕をいっぱいに広げて抱きついてきました。

 その行動に少し驚いていると、クリスタ君は笑顔ですけど真剣な表情で「僕も元気にするー!」と言います。

 それなら二人でむぎゅーです。

 前方の私と後方のクリスタ君でマイティアちゃんを優しく抱きしめます。

 そうして彼女が泣き止んだ頃、そのむぎゅむぎゅ大作戦は終了しました。


「……ごめん、なさい」


 と、泣き止んだ彼女はまた、すまなさそうに謝ってきました。

 そんな彼女に私とクリスタ君は言います。


「良いんですよ」

「元気になったー?」


 そんな私達にマイティアちゃんはこくっと頷きます。

 よし、それじゃあ。


「出発しましょう!」


 そう言って私が思いっきり足を踏み出すと、足に固いモノが当たりました。

 しかも結構な重さの物で、あろう事か私の足の小指にヒットです。


「――ッ!」


 私は声にならない声を出して転がります。

 痛いです!すっごく痛いですッ!


「だ、大丈夫?レシア」

「れしあさん、だいじょーぶ?」


 そんな私に二人は声をかけてくれました。

 その事で痛みが少し引いたような気がします。


「うう、凄く痛かったです」


 痛みが引いた私は涙目ですけど、小指に襲撃してきた物へと視線を向けました。

 そこには、さっきクリスタ君が置いた石が。

 ……あれ?なんでここにあるんでしょうかね?


「あ!僕の石!」


 と、クリスタ君も気付いたようで指差して報告してくれました。

 いや、見れば分かりますけど。でも、不思議ですね。本来なら後ろにあるはずですよねこれ。

 そんな私の後ろでは「え?なんで」ってコロンさんも私と同じような疑問を口に出していました。


「……何かの魔法が働いてる?」


 すると、マイティアちゃんが言葉を発しました。見れば顎に手を当てて考えています。

 なんか、頭良さそうな仕草です!

 はっ!私もそうすれば頭良く見えますかね。


「何かの魔法、ですか?」


 早速私も顎に手を当ててマイティアちゃんに問いかけます。

 おお、なんだか少し私も頭良くなった気がします!

 すると、コロンさんが口を開きました。


「もしかして、ループ系統の魔法?」


 ……なんでしょう?ループ系の魔法って。


「……多分」


 と、マイティアちゃんもコロンさんに同意しました。


「るーぷ系統のまほー?それ何ー?」


 クリスタ君が首を傾げて問いかけます。ナイスです!クリスタ君。


「良く罠とかで使われる設置型の魔法だね。これは繋ぎ目にある魔方陣を見つけて解呪するかしないんだけどね。効果的には永遠に繋がれた場所に行かされる魔法で、脱出するのなかなか大変なんだよ」

「そーなんだ」


 コロンさんの説明に感心したようにクリスタ君がおーと反応しています。

 なるほどつまり、繋ぎ目を見つけなきゃいけないんですね。


「……でも、繋ぎ目が全然分からない」


 なるほどなるほど。そういう事なら。

 ……。


「どうすれば良いんでしょうかね?」


 全く案が思い浮かびません。どうしましょうか?


「……とりあえず、少しでも変わった所があったら教えて欲しい」


 するとマイティアちゃんがそう言いました。

 少しでも変わった所ですか。

 そう言われて自分の周りをぐるっと見渡します。ですけど全く違う所なんて無いですけど。


「少しでも変わった所。うーん、何かある?」


 と、コロンさんも辺りを見渡しますが特に見つけられていない様子です。

 そんな私達にマイティアちゃんが声をかけてきます。


「……そう簡単には、見つから――」

「あそこ!」


 ですけどそれを遮ってクリスタ君が言いました。


「……あそこ?」

「うん!なんかね。あそこ違うんだよ!」


 クリスタ君は指差して笑顔で答えます。

 え、ええっと。どこでしょうかね?


「……ごめん。どこ?」

「あのね、あの壁の中がね他の壁の中と違ってね、こういう風にね他の石が入ってるの!」


 マイティアちゃんの言葉にクリスタ君は大きく丸を描いて伝えました。

 それが何を言ってるのかようやく分かりましたよ。

 どうやらクリスタ君、何かに気付いたんですね。


「……その位置、教えて」

「うん!」


 クリスタ君は大きく頷くとてててーと走って壁に手をつきました。


「ここからねこーんな感じで石があるの!」


 クリスタ君は手を大きく広げて伝えてきます。

 ふふ、なんか可愛いですね。少し癒されますよ。


「……そう言う事」


 と、マイティアちゃんが何かに納得しました。

 何でしょうね?


「……気付かなかったのは、壁全部に障壁魔法が練り込まれていたから」


 マイティアちゃんは壁を触ってそう言いました。

 えーと、どういう事なんでしょうか?


「……クリスタ」

「なーに?」

「……ブレイクで、その違う石を見えるように出来る?」


 私が考えていたらマイティアちゃんがクリスタ君を呼んでそう言いました。

 対してクリスタ君は「うん!」と元気に返答して早速ブレイクです。案の定、石の壁が爆発しました。

 そして爆発によって発生した煙が落ち着くと、凄い光景が広がっていました。

 クリスタ君がブレイクした部分は壁、天井、床でそこには他の壁と違って色の違う煉瓦の様な石が入っていました。


「……練りこまれた魔力が違う石……」


 マイティアちゃんはそれを見ています。確かに他のとは違う雰囲気の石ですね。

 なんか黄色っぽい石ですから。


「……魔宝石も無いのにずっと維持してる」


 マイティアちゃんは真剣に触ったりして見ています。

 そうしているマイティアちゃんは少しして静かに何かを呟きました。

 なんて言ったのかは分からないんですけど、マイティアちゃんの手元が光っていたので何かの呪文だと思います。

 すると、急に周りがぐにゃってなりましたよ!


「な、何これ?」

「わー!凄ーい!」


 そんな周りの様子にコロンさんとクリスタ君が反応します。

 コロンさんは驚いてますけど、クリスタ君は眼を大きくして笑顔で楽しんでいる様子です。

 すると、マイティアちゃんは手を石から離しました。

 その後から歪んでいた周りがゆっくりと元に戻って行きます。そんな歪みが完全に消えると私達の進行方向に扉が見えました。その時、何か音が聞こえましたけど。

 そう思って音の聞こえた方に視線を向けますと、ゴロゴロゴロゴロって音を出しながら廊下いっぱいの大きさの黒いのが転がってきました。

 た、大変です!あんなのとぶつかったら皆さんぺちゃんこになっちゃいますよ!!


「……あの扉に逃げよう」


 どうしようかと慌てていたらマイティアさんがそう言いました。

 そ、そうですね!それしかないですよね!

 私はすぐさまクリスタ君を抱えてマイティアちゃんとコロンさんの後を追って走ります。後ろから迫る音に恐怖心を感じて速度上昇の強化魔法かけてるんですけど、怖いです!というか、お二人とも早くないですかね!?全然追いつかないんですけど!!


 ですけど、そう思っている私の目の前、扉の前でお二人が止まってしまいました。

 な、何してるんでしょうか!?

 辿り着いた私は二人に声をかけました。


「は、早く開けてください!」

「いや、開けたいんだけど!」

「……鍵穴、無いし、開かない」


 私の言葉に二人がそう言います。

 え?どどど、どうしましょう!?

 普通なら考える所ですけど、後ろからはあの黒いのが迫って来ています!

 これは、強行突破しかないです!ですけど、私に出来るか分かりません。でも迷ってられないです!


「二人とも、退けて下さい!」


 私はそう言って思いっきりドアを蹴りました。

 その瞬間、足にガァンって感じが伝わってきました。

 多少足が痛いです。けど、私、負けませんよ!


 そう自分に気合をかけて私は渾身の力でそのドアに蹴りの一撃をお見舞いしました。

 そうしてドアを蹴り飛ばすことに成功しました!

 ドアは部屋の奥の方まで飛んでいってガァアアアンという音を立ててました。多分、暗くて分からないですけど壁とかにぶつかったんだと思います。


 って、それよりも!


「皆さん、行きましょう!」


 私は二人にそう言いお二人の方を見ると、いませんでした。

 ど、どこに!?


「レシア早く!」


 と、聞こえて見ればもう既に入ってるじゃないですか!二人とも早すぎません!?って、私も入らないと!

 慌てた私が入ったのと少し遅れて大きなごぉんっていう音が後ろから聞こえてきました。

 見れば黒い物体が入り口の残っているもう片方のドアをへし曲げた形で止まっています。

 しばらくその様子を眺めてから、


「か、間一髪ですね」

「あ、危なかったぁ……」


 私とコロンさんは二人で停止している黒いものを見ながら言葉を発しました。

 ふう、助かりましたよぉ。

 胸を撫で下ろす私の横ではコロンさんが床に座り込みました。

 私も少し安心してクリスタ君を隣に下ろしました。


「……安心するのは早いと思う」


 そんな私達にマイティアちゃんがそんな事を言ってきます。


「え?」

「……何かいる」


 マイティアちゃんの言葉に私とコロンさんは固まります。

 ええ、まだ何かいるんですか?!


「……薄暗くて分からない。けど、何か奥にいる」


 マイティアちゃんはそう言うと手にさっき使っていたかっこいい短剣を出現させました。

 なんていうか、光が集まって形成された感じですね。


「まさか、さっきの怪物みたいなの?」

「……大きさと魔力はそんなに大きなものじゃない、けど。何かいるのは確か」


 マイティアちゃんは薄暗くなっている部屋の奥を見つめながら言います。

 ……あの奥に何かがいるんですね。

 私もマイティアちゃんのように見ながら唾を飲み込みました。あ、マイティアちゃんは飲み込んでませんよ?私だけです。


「ねえねえ、ぴかーってなるまほー使わないの?」


 するとクリスタ君が小さくそう言いました。

 ぴかーってなる魔法って何でしょうかね?


「……ライトの魔法の事?」


 と、マイティアちゃんがクリスタ君に確認します。

 対してクリスタ君は静かにですけど「うん」と元気に頷きました。

 するとマイティアちゃんは少し考えます。何を考えているのか分かりませんけど、何か真剣ですね!


「……ライト」


 そう思ってみていたらマイティアちゃんは片手を上に向けて呪文を言いました。

 瞬間、マイティアちゃんの手のひらよりも大きな光の玉が浮かび上がります。その光は凄く明るく感じるくらいの明るさでちょっと眩しいですね。

 それは上に行くとふわふわとある一定の高さで止まりました。


「……子供?」


 そんな光の玉を見ていたらマイティアちゃんの声が聞こえて見ると、ある程度明るくなった部屋の奥を見ていました。

 私もその方に視線を向けますと、小さな子が床に寝そべっているじゃないですか。

 なんでこんな所にいるんでしょうかね?

 そう思っていたらクリスタ君がてててーとその子に近寄って行っちゃいました。


「ちょっと、クリスタ」


 そう言ってコロンさんは止めようとしましたけど、もうクリスタ君はその子の傍にしゃがんでいます。

 何かあっては遅いので私もクリスタ君の元に駆け寄りました。

 全く、勝手に行動して!

 そうして近付いていくとある事に気がつきました。

 この子、凄くボロボロの布を着ています。もうほとんど擦り切れていますし、所々から肌が見えました。


「二人とも、安易に近寄っちゃ危ないって」


 そんな私とクリスタ君の元にコロンさんも近寄ってきました。

 遅れてマイティアちゃんも。それについて来る様に光の玉も移動してきています。


「え?何この子?」


 と、私達の元にやってきたコロンさんがこの子を見て言いました。

 何かあったんでしょうかね?

 そう思って再度視線を戻すと、さっき薄暗くて気付かなかった事がありました。

 この子の出ている肌に、黒くて艶やかな物が光を反射してるじゃないですか!


「……何?この子」


 と、マイティアちゃんもそんな事を言いました。

 うーん、なんでしょうね?

 なんというか。クリスタ君と似ているような気がするんですけど……?


「この子、僕と同じ種族だよ」


 そう思っていたらクリスタ君が私達の方を見て言いました。

 確かに言われて見ればそんな感じの方が強い気がします。


「という事は岩食族ロックイーターですか?」

「うん!」


 私の言葉にクリスタ君は頷くと、「起きてー」と言いながら寝そべっているこの子を揺すります。

 するとこの子から「うぅん」という声がして瞳が薄っすらと開き、顔をあげました。

 その子は私達を一通り見やります。

 見た感じ普通の子に見えますけど……。

 と、その子にクリスタ君が問いかけました。


「ねえねえ、名前なんていうの?」

「……お」

「お?」

「おなかー……すいたです」

「お腹空いたの?」

「うん……」

「ちょっと待ってね」


 クリスタ君はそんなやり取りをするとバッグをごそごそやり始めました。

 そして、「はい」って言ってこの子にコーメインで貰った石を差し出すじゃないですか。


「ふえ?……これ、良いのです?」

「うん!良いよ~」


 クリスタ君の返答を聞いたこの子は恐る恐るその石を手にとって口に運びました。

 そして、この子はゆっくりと起き上がると地面にぺたっと座ってクリスタ君同様、ゴリゴリという音を立てて食べ初めました。

 クリスタ君と違ってこの子はすぐに食べ終わりましたけど、クリスタ君がまだ食べるかを聞いて頷いたこの子にまた石をあげています。

 見てるとこの二人のやり取り少しほっこりしますね。


「……岩食族と宝晶族って食性が同じ?」


 と、そんな二人を見ている私の後ろでマイティアちゃんが呟くように言いました。

 見れば何か考えている様子ですね。


「へー、クリスタと同じ種族って事はこの子もあのブレイクっていうの使えるのかな?」


 コロンさんがそう言います。うーん、どうなんでしょうね?


「ぶれいく、です?」


 と、私がコロンさんの言葉に反応していたらこの子はゆっくりとこちらに視線を向けてキョトンとしています。


「ええ、ブレイクですよ。あなたの傍にいるクリスタ君が良く使うので、あなたも使えるのかなって」


 私はこの子に確認するために聞いたのですけど、急にこの子は固まったのかと思ったらクリスタ君の方を見て、目をぱちくりさせるといきなりピシッと正座をして姿勢を正して、頭を下げました。

 その様子に私達も、当事者のクリスタ君も目を見開きます。

 きゅ、急にどうしたんでしょうかね?


「は、はは、初めましてです。おりなー!」


 ですけど、そんな私達の事は余所にその子はそんな事を言いクリスタ君を見やりました。

 なんでしょう?おりなーって?


「おりなーってなーに?」

「へ?」


 クリスタ君も知らない様子で首を傾げてこの子に問いかけたら、この子は目が点というか、なんかそんな感じの表情になっちゃいましたよ。


「お、おりなーはおりなーを知らないんです?」

「うん。おりなーって何?」

「おりなーはおりなーです」


 な、なんだか二人の会話を聞いていたら、良く分からなくなってきました。

 え、えぇっと。おりなーというのはクリスタ君の事で、クリスタ君はおりなーですけど、その事についてクリスタ君が知らないという事ですね。

 うん。合ってる筈です。


「……オリナーって、どう言う意味?」


 すると、私の横からマイティアちゃんが顔を出して問いかけました。


「おりなーはぶれいくの使える凄い方なんです。とっても凄いんです」


 この子の話を聞いて私は理解しましたよ!ふっふーん、どうですか。

 つまり――、


「つまり、クリスタ君は凄く凄いんですね!」

「そーなんです!凄いんです!」

「僕、凄いの?」

「凄いんですよ。クリスタ君!」

「おりなーは凄いんです!」

「ちょ、ちょっと待って」


 私達がクリスタ君に事実を告げていたら、コロンさんに止められました。

 一体、どうしたんでしょうかね?


「凄いだけじゃ分からないから、詳しく教えてくれない?」

「詳しく、です?」

「そうそう詳しく」


 コロンさんの言葉を受けてこの子は首を傾げました。

 そして、


「えーと、おりなーは、私達みたいな、普通の岩食族ろっくいーたーとは違うんです。ぶれいくが使えるんです」


 そういう答えが返ってきました。

 対してコロンさんは少し困った表情をすると口を開きました。


「えーと、それだけ?」

「それだけじゃないです!ぶれいくは凄いんです!」


 そしたらこの子は一生懸命に伝えてきました。

 つまり、それくらい凄い事なんですね。なるほどなるほど。


「……ところで、あなたはどうやってここに来たの?」


 私が納得していたら、「えぇ……」と若干引き気味のコロンさんを押し退けマイティアちゃんがまたまた急にこの子に聞きました。


「それが、分からないんです」

「……分からない?」

「えっと、お家から石を探しに行ったらがうがうに追いかけられて一生懸命走ったんです。でも、がうがうに服をはむっ!てされて転んじゃったんです。それでがうがうにいじめられると思ったら、ここにいたんです。それで暗くて見えなくて、お腹空いて、寂しくてぐすんってなって、パタってなってたら、おりなーが起こして石くれたんです。やっぱり、おりなーは凄いです!」


 凄く頑張ったんでしょうねこの子。それが伝わってきます。こんなに小さいのに、がうがうとかいうのに追いかけられて。


「……そう」


 そうマイティアちゃんが言った時、マイティアちゃんの服のポケットが薄っすら光り出しました。

 マイティアちゃんもそれに気付いた様でその光ってるポケットに手を入れます。すると、マイティアちゃんはその光っている物取り出しました。

 見ればさっきマイティアちゃんが額に当てて何か言っていた物です。そしてマイティアちゃんはまたさっきみたいに額にそれを当て、先ほど同様に話し始めました。

 誰かと話してるみたいですけど、誰と話してるんでしょうかね?


「そういえば、さっきワンダーさんが奥に行ったら使えって言ってたあれどこで使うんだろうね?」


 と、コロンさん。

 そういえばありましたね。私は思い出してクリスタ君がキャッチして預かった袋に入った布を取り出しました。

 これ、どこで使えばいいんでしょうかね?

 広げると凄く大きな布ですけど、全く用途が思い浮かびません。


「どう見ても普通の布だよね」

「そうですね。少し変な魔力感じますけど」

「え?その布に?」

「はい」


 コロンさんがなんだか驚いた様子で聞いてきました。ですけど、普通に感じますよね?この布少し不思議な魔力ですし。

 ですけど、不思議っていうだけで何か邪悪な怪しい力が働いてるって感じは無いですけど。ちょっと不思議ってだけですね。

 でもどうすれば良いんでしょうかね?これ。


 そう考えていたら、ふとあの子の姿が視界に映り思いつきました。

 そうですよ!色々破れてて寒そうですしこの布をかけてあげましょう。肌触り良いですし。

 私はそう思い、この子に近寄りました。

 この子はそんな私を見てきます。そうしてこの布をかけてあげようとしたんですけど、その時、ある事に気付きました。

 そうです。名前聞いてませんでした。


「あの」

「なんですか?」


 私が声をかけるとこの子はキョトンとした表情で返答します。


「お名前聞いても良いですかね?」

「お名前です?私、コクヨーって言います」


 この子、コクヨーちゃんは首を傾げて答えてくれました。

 なんだか、コクヨーッ!って感じで叫びたくなるお名前ですね!


「コクヨーちゃんって言うんですね。私はレシアって言います」

「そーなんですね。よろしくです」


 コクヨーちゃんはそう言って私が伸ばした手を取って握手してくれました。

 クリスタ君よりも小さな手ですね。


「それで、コクヨーちゃん」

「はいです」

「色々お洋服ボロボロですからこの布、羽織って下さい」

「良いんです?」

「はい」


 私はそう言ってコクヨーちゃんにこの布を渡しました。

 その瞬間でした。

 布が勝手に動いてコクヨーちゃんに巻きついたじゃないですか!?

 何ですかこれ!?


「なんですこれ!?動けないです!」

「ど、どうしましょう!コロンさん、コロンさーん!」

「いや、私に聞かれても。というか、勝手にやったレシアが悪いでしょこれ!」


 ど、どどど、どうしましょう!あわわわわ!

 頭だけを外に出した状態で布に巻きつかれたコクヨーちゃんを見ながら何も出来ません!

 どうすれば良いんでしょう!どうすれば良いんでしょう!?


「ねえねえ、れしあさん」


 と、私が頭を抱えていたらクリスタ君から声をかけられました。

 正直、クリスタ君にもすがり付きたい気持ちです。


「うぇ、クリスタ君」

「およー服になったよ?」

「……へ?」


 そう言われてキョトンとしてしまいましたけど、クリスタ君が指差す方、コクヨーちゃんの方を見るとぐるぐる巻きにされていた布がワンピース型のお洋服になっていました。

 っていうのも、布と同じ黒色のお洋服なので安易に予想がついたのですよ。


「あ、あれ?いつの間に?」


 横からコロンさんの声。

 どうやらコロンさんもコクヨーちゃんの方見てなかったみたいですね。


「はえ?こ、これどうなってるです??」


 今度は私達の視線を集めているコクヨーちゃんです。

 どうやら彼女も見てなかったみたいで驚いてますね。

 ですけど、なんだか少し安心しました。あの後、どうなるか分からなかったですし。というか、どうも出来なかったのでお洋服になって一安心です。

 お洋服なら何かあったとき脱げば良いですもんね。


「それ、何か無い?大丈夫?」


 ふと、コロンさんがコクヨーちゃんに確認しました。


「はい。今のところは大丈夫です」

「なら、大丈夫、……だよね?」

「多分、大丈夫だと思うです」

「……それよりも、ちょっとまずいかもしれない」


 と、その時。さっきまで額に円形の物を当てていたマイティアちゃんが会話に入ってきます。

 何がまずいんでしょうかね?

 と、すかさずコロンさんが問いかけました。


「何かあったの?」

「……遺跡の入り口がこの壁と同じ物で塞がってるらしい」


 マイティアちゃんのそんな言葉。

 なるほどなるほど。入り口が全部塞がっているんですかぁ。ふむふむ。

 ……え?


「「 ええええええ!? 」」


 マイティアちゃんからの話を聞いて私とコロンさんはそんな声をあげてしまいました。

 私達、閉じ込められちゃったみたいです。

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