第10話 スクロック遺跡 ‐遺跡博物館‐
朝食を終え、レオンさん達と別れた私達は早速遺跡に向かう準備を済ませて宿を後にしました。
外に出るとコーメインの時よりも多くの人が街を行きかっているのが目に映ります。
「人が多いですね~」
「多いね!」
「まあ、スクロックは一応、王都に次ぐ大都市だからね。街の中心には教育する場所の学校も多くあるし、世界に名だたる魔法学校もあるんだから」
「そうなんですか!」
コロンさんが説明してくださいました。良く分からないですけど凄い事は分かりましたよ!
「ねえねえ、遺跡ってどー行くの?」
そんなやり取りをしていたらクリスタ君が私の服を引っ張って聞いてきました。
……そういえば、どうやって行くんでしょうね?
「コロンさんは場所分かります?」
「いやー、ゴメン。私もわかんないや。あるっていうのは知ってたけど」
「そうなんですか」
これは困りましたね。どうやって行けば良いんでしょうか?
「あのー、すみませーん」
悩んでいたらクリスタ君のそんな声が聞こえて見れば、いつの間に行ったのか女性の方に声をかけていました。
その女性の方凄く綺麗ですね。翠色の髪が太陽を浴びてキラキラしているように見えます。それに、なんて言うんでしょうか?頭にペンダント着けてますよねあれ。でも、変な感じではないですけど。見た感じそういう飾りみたいです。
それに手に指が出るような感じで腕もほとんど覆われている黒い手袋をしています。その手の甲には薄い翠色の魔宝石が付いていますね。
「遺跡ってどう行けば行けますか?」
その女性にクリスタ君は首を傾げて問いました。
「遺跡はこの道を行くと看板があるので行けば分かりますよ」
「そーなんだ!ありがとーございます」
クリスタ君はその女性の方にお礼を述べると、てててーと戻ってきました。
「あっちに行くと看板があるからそこに書いてあるんだってー」
クリスタ君はそう言って宿を出て右の方の道を指差しました。まあ、聞こえていたので分かりますけども。
こうして私達は先程の女性がクリスタ君に説明してくれたように道なりに進みます。すると女性が説明してくれたように【この先遺跡】と書かれた看板がありました。
そうして進んで行くと、大きな石造りの建物が見えてきました。
と言っても他の建造物とは違って屋根は平たい感じの建物で石の柱が綺麗に沢山並んでいます。
そしてその建物の傍にも看板があって【スクロック遺跡】と書かれていました。
ふむふむ。
「どうやらこれが遺跡みたいですね」
「わー、凄ーい!」
見上げながらクリスタ君が目を見開いて嬉しそうにしています。
「私も初めて見たけど、意外と大きいねこれ」
コロンさんも見上げて驚いています。
でも、入り口でずっと見ていても仕方ないので。
「いってみましょう。二人とも!」
そんな感じで私達は遺跡の中に入りました。
中は静かで私達の足音だけが響きます。誰もいないんでしょうかね?
「なんか凄いね。壁とか柱は石の荒い感じがあるのに床は全部つるつるしてて、なんか別の世界の建物みたい」
色々見渡していたらコロンさんがそう言って感心していました。
ですけど、確かに見たこと無い建物の感じですね。窓無いのに明るいですし。
まあ、それよりも床滑ったら危ないのでクリスタ君と手を繋いで行きましょうか。
そうして私はクリスタ君に手を繋ぐように言います。と、クリスタ君は笑顔で了承して手を握りました。
するとクリスタ君はもう片方の手をコロンさんに向けます。
「ころんさんもー」
どうやらコロンさんとも手を繋いで行きたいようです。
「え?私はいいよ」
ですけどコロンさんはそう言って断りました。するとクリスタ君は「なんでー?」と首を傾げます。
「三人で横に歩いたら、他の人が来た時に邪魔になっちゃうからね」
と、コロンさんはクリスタ君に説明しますけどクリスタ君良く分かっていない様子で首を傾げました。
ふふ、ここはまたまたレシア先生が教えて――
「三人で横に並んで歩いたらこの道が狭くなっちゃうでしょっていう事」
「なるほどー」
って!また私が説明する前に言われてしまいましたよ!
うう、悔しいです。けど、次はこうはいきませんからね!コロンさん!
私はコロンさんに内なる炎を燃やしつつ胸に決めます。次は私がクリスタ君に説明する番ですからね!
まあ、それはさて置いて。私達は遺跡の中に置かれた看板に従って三人で歩いていると部屋の入り口みたいな場所に辿り着きました。
その入り口の前には看板がありました。
「えーと、展示室って書いてますね」
私はそこに書いてある文字を読み上げました。
ですけど、展示室ってなんでしょうかね?
「展示室って事は遺跡で見つかった物を飾ってる場所みたいだね」
「そうなんですか?」
コロンさん色々知っていますね。凄いです!
と、コロンさんに感心していた時でした。私達の横を女の子が通って行きました。
まあ、女の子って言っても私達よりは身長低いだけで、クリスタ君より身長は高いですけどね。
その女の子は結構立派な感じの服装をしていました。どう立派なのかと聞かれたらなんと答えて良いのかわからないのですけど、ピシッとした感じの服ですね。
「あれ?あの女の子。スクロック魔法学校の制服着てる」
するとコロンさんは展示室に入っていった女の子を見てそう言いました。
スクロック魔法学校の制服ですか?うーん、良く分からないですけど字面的に何か凄そうですね。
「ねえねえ制服って何ー?」
と、ここでも質問クリスタ君です。
「私はここに所属していますっていうのを表す服装だよ。でも、あの子あの歳でスクロック魔法学校に入学してるなんて凄いなぁ~」
「そーなの?」
「それはもう凄い事だよ。スクロック魔法学校は世界的に有名な学校なんだから。しかもあの歳で入れるなんて相当魔法適性あるし、頭も良いんだと思うな」
コロンさんが説明します。なんだか本当に凄そうです。
はっ!?つまり――ッ!
「そんな子がここに来ているという事は、ここはそれくらい凄いってことですね!」
私は完全に理解しました。それくらい凄い人が来た場所。と、いう事はそれくらい凄い場所なんですよ!うん!
「え?いや、まあ、あの子が凄いのは事実だろうけど、その解釈はおかしいから」
って、思ったらコロンさんにそう言われてしまいました。
「ど、どこがおかしいんですか!?」
「いや、色々と。でも、凄いって事は間違ってないかな?」
どうやら凄いって事は間違いじゃないらしいです。
あれ?でも、じゃあ、何が間違いなんでしょうか?
……ううむ、謎です。
私はコロンさんの言葉に頭を抱えました。その時です。
「……遺跡では静かに」
そんな声が聞こえました。そして顔を上げた私の視界に、さっき展示室というお部屋らしいところに入っていった女の子が私達の前に立っていました。
って、いつの間にいたんでしょうか!?全く足音も聞こえませんでしたし。
私はその子の突然の登場にびっくりです。コロンさんもびっくりしています。クリスタ君も、いえ、クリスタ君は特に驚いていないですね。
と、とりあえず。
「ご、ごめんなさい」
私は謝ります。何となくですけどあの女の子の視線が少し怖かったので。
「……分かってくれれば、良い」
と、女の子は踵を返しました。
ですけど、その時に感じたのはどこか寂しそうな彼女の様子です。
……うーん、なんというか全然楽しそうじゃないですね。
「一人が好きな子なのかな?他に誰も見かけないし……」
コロンさんが言います。
……そうでしょうか?なんというか違う気もしますけど。
「ねえねえ、展示室に行かないの?」
考えていたらクリスタ君がくいくいと引っ張って言いました。
そうですね。考えても仕方ないですし行って見ましょう。
私達はクリスタ君の言葉を受けて展示室に入りました。
入室して目前に広がるそこは、一言で言えば凄かったです!
ガラスのケースに入った色々な物が綺麗に並べてあって、それぞれ下に色々書いてありました。
ですけどどれも『~だろう』って書いてますね。
それになんか魔法で起動する物が多いようです。
コロンさんは他の展示物を見に行ってしまいました。
そうして一旦コロンさんと別れて色々見て回っていたらさっきの女の子を見かけました。
彼女はずっとガラスケースに入って壁に貼られたものを眺めています。その彼女の視線の先にあるものは、紙で何か書いてありますね。
……ちょっと近寄ってみましょうかね。少しあの子とも話してみたいですし。
私はクリスタ君と手をつなぎながら彼女に近寄ります。
ですけど、まだそんなに近付いていないのに彼女は振り向きました。
その表情はどこか暗いです。あ、もしかして……。
「もしかして、邪魔しちゃいました?」
「……大丈夫」
私は恐る恐る彼女に問いかけると彼女はそう言って視線をまた紙に向けました。
そんな彼女の隣に私とクリスタ君は立ちます。そして同じようにガラスケースの中に貼られている紙を眺めました。
そこには本当に良く分からないものが書いてありました。その下には当時の生活の様子を描いたものの記録図と書かれています。
……確かに人が何かしているように見えますけど、うーん。何でしょう変な違和感がありますね。
剣だと思う物を腰に下げた光ってる人がいて、そこから四角い何かを貰っています。
それに、その四角いのを寝ている人に対して矢印であげているように見えますけど、なんで口のある位置じゃないところを指しているんでしょうかね?
「あ、二人ともこんな所にいた」
コロンさんがやって来ました。
「って、あれ?その子、さっきの」
と、コロンさんはそう言って彼女を見ました。
女の子はそんなコロンさんをチラッと見ただけで、また紙に視線を戻してしまいましたけど。
「私達がここに来たらもういましたよ」
「そ、そうなんだ。ところで何見てたの?」
「絵ですよ。昔の人の生活風景を描いた物らしいです」
私はコロンさんにそう言い紙を指差しました。
コロンさんは「へー」と言って紙に視線を向けました。
「何これ?」
すると、コロンさんがそう呟きました。
「何って絵ですけど」
「あ、いや。そうじゃなくて、あそこの文字。全く意味が分からなくて」
「へ?」
コロンさんが指差す先。そこには模様だと思っていたモノがありました。どうやら文字らしいです。でも、見たこと無いんですけど……。
「……どういう事?」
すると隣にいた女の子が尋ねてきました。
「え?いや、どうって言われても。あの光ってる人の上に書かれた文字。小さい頃にお父さんから教えてもらった字なんだけど、書かれてるそれは全く意味が分からない事書いてるんだよね」
そう言い眉を顰めるコロンさん。ですけど、読めるだけで凄いですね。全く知らない文字読めるんですから。
「……一応読んでみて」
「え?良いけど、本当に意味分からないからね?」
女の子に催促されてコロンさんは書かれている字を読み始めました。
ですけど聞いてても本当に良く分からないですね。なんでしょう?
って。
「……何それ」
「でしょ?だから意味不明だなって思って」
二人もその謎の言葉に首を傾げていました。私も良く分かりませんね。これ。
「ねえねえ、れしあさん」
と、クリスタ君が服をくいくいと引っ張って来ました。
「どうしました?」
「あそこ、無いよ?」
「あそこ?」
クリスタ君が言って指をさした場所を見ると、壁でした。
……クリスタ君、何言ってるんでしょうか?もしかしてさっきまで何かあったんでしょうかね?
とりあえず聞いてみましょうか。
「あそこって何かあったんですか?」
「……あそこは元から壁。何も無くて当たり前」
と、クリスタ君に聞いたつもりでしたけど女の子が先に答えちゃいました。
ですけど、クリスタ君は首を横に振ります。
「違うの。壁の中何も無いの」
「壁の中?」
そんなクリスタ君の言葉にコロンさんが聞き返しました。
「うん。あの壁の中、無いよ」
するとそんなクリスタ君の言葉に女の子は言いました。
「……ここら辺一帯はもう調べつくされてる。優秀な学者達も参加してるから、だから見落としなんてありえない」
「でもー」
それに対してクリスタ君は少しシュンとした表情をします。少し可哀想ですね。
「……それに、そうだとしても。ここの壁は特殊な石で出来てるから壊すどころか、傷も付かない」
「壊れれば良いの?」
「……え?」
女の子がそんな声を出すよりも早くクリスタ君はてててーと走ってその気になった壁の近くに行くとあの言葉を発しました。
「ぶれいく!」
その瞬間、いつも通りに爆発が起こりました。
そして土煙が上がります。
「ケホッ、ケホッ、な、何が起きたの?」
そんな私の隣でコロンさんが手で煙を払う動作をしながら問いかけてきました。
何って。
「ブレイクですよ?」
「ブレイク?」
「クリスタ君のえーと、種族特技でしたっけ?そんなのです」
「え?クリスタ、種族特技なんて持ってるの!?」
私が説明したらコロンさんは驚いた様子で言いました。
そう言えばコロンさんが仲間になってから初ブレイクでしたね。
そんなやり取りをしていたら、土煙が落ち着いてきてクリスタ君と、爆発された壁と、通路がありました。
「ほらー、何も無いよ!」
クリスタ君はそう言って通路を指差しました。
確かに何も無いですね。
「……ど、どうして?ここの壁は誰も解けない障壁が練られた石で囲われていたのに。種族特技って、言ったって岩食族じゃあるまいし――……、
その時でした。女の子がクリスタ君の種族の名前を口にしました。けど、何か様子が変です。分かっている様な感じで言っていたのに、
しょうがないですね!ここは私が教えて差し上げましょう!
「
「……
「だから、クリスタ君の種族ですよ?」
「うん!僕の種族だよ」
女の子に私が説明したら、クリスタ君も言いました。
どうですかこの連携!完璧ですよね。
「……わかんない。わかんないのに、なんで?」
そうしたら急に彼女は床に座り込んでしまいました。
あ、あれ?どうしたんですかね?
そうして様子を見ていると彼女の瞳に涙が浮かびました。
「……もうやだ。なんで、どうして知らないのに。知らないはずなのに、なんで。いっつも、私、知らない――」
そう言って泣き出してしまいました!ど、どどど、どうしましょう!
「え?ちょっと、急にどうしたの!?」
「……わかんない!わかんないよ!」
コロンさんも慌てています。ど、どうしましょう。
いえ、ここは年上である私がしっかりしないと、ですよね!
最年長の私、しっかりしますよ!レシア先生兼レシアお姉ちゃんです!
これは、私がしっかりしないといけませんね!
私はそう心に決めて大泣きしてしまっている彼女に近寄ってしゃがみました。
そして、優しく彼女を抱きしめます。しっかりと。
さらに優しく言葉をかけます。
「大丈夫です。大丈夫ですよ」
何が大丈夫なのか全く分かりませんけど。大丈夫なんです!これが、この心持が重要なんですよ。
あと、背中の辺りとかぽんぽん軽く叩いてあげるのも良いんですよ。
そうしていると彼女が徐々に泣き止んでいきました。しばらく嗚咽も収まるまで私は優しく抱きしめます。
「……ごめん、なさい。ご迷惑かけました」
そして彼女は私に頭を下げました。
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
と、ここである事を思いました。
この子の名前まだ聞いていないという事です。思い立ったが吉日!膳は急げです!
「ところでお名前なんて言うんですか?」
「……え、あ。マイティア」
「マイティアちゃんですか。いい名前ですね!あ、私はレシアって言います」
「僕はクリスタだよ!」
私が自己紹介をしたらクリスタ君も続いて言いました。
って、あれ?もう一人何も言ってないですね。仕方ないですねー。
「で、こちらがコロンさんです」
「いや、私はいいって」
私は自己紹介をまだ言っていない本人さんを紹介してあげました。
コロンさん、少し赤くなって照れているのが分かりますね。ふふ。
「それよりも!このクリスタが開けた通路どうしよう?」
と、コロンさんがそう言って話題を変えてきました。
……確かに。どうしましょうかね?
「……調査隊に知らせた方が良いと思う」
するとマイティアちゃんがそう提案します。
調査隊。何か凄そうな言葉ですね!
そう提案したマイティアちゃんは服のポケットから何かを取り出しました。
なんだか真ん中に魔宝石の填められた不思議な円形のものです。
「……調査隊。今、派遣出来る?」
と、マイティアちゃんはその円形の物を額に当てるとそう言いました。
私はその様子をジッと見ています。誰かとお話しているようですけど、誰でしょうかね?
「……そう。遺跡に新しい通路が開いた、から」
と、彼女がそう言った時でした。彼女は急に顔を私の方に向けます。
急に向いたのでびっくりしました。ど、どうしたんでしょうか?
「ガァァアアアアアア!!!!」
その途端、そんな大きな声が私の後方。さっきクリスタ君が開けた道の方から聞こえてきました。
びっくりしたのと大きな音で耳がキーンとしていたら、コロンさんとクリスタ君の声が聞こえてきます。
「な、ななななな!?」
「わあー!おっきい!」
方や大慌て、方や感想を述べる二人。
一体何でしょう?
そうして私が振り返ると、そこには大きな獣さんがいました。
でも、この獣さん。見たこと無い獣さんです。
明らかに肉食獣と分かる頭と、その横に草食獣的な感じの角を持った頭がありました。
そして背中から翼が生えていて、その真ん中には猪さん的な頭があって、後ろで動いている尻尾は蛇さんみたいな尻尾です。
ですけど、蛇さんというよりトカゲさんって言った方が合ってる感じがしますね。
それが私達を見下ろしています。凄く大きいです!
「……
と、見ていた私の横でマイティアちゃんが呟きました。
どうやら
なんでこんな所にいるんでしょうか?謎で――。
ゴォッ!
私が考察していたらそんな音が耳元を通り過ぎて行き、後ろの方で爆発音が鳴り響きました。
見れば、後ろにあった展示物がガラスケースごと散らばっています。そして、視線を合成獣さんの方に戻すと合成獣さんの肉食獣さんのお口から煙が上がっているのが見えました。
えーと。これ、やばいですよね。
私の感が危険信号を発しています。すると、今度は草食獣さんの方は魔方陣を浮かび上がらせました。
色は淡い白みがかった青って感じで。
すると、私の下に同じ色の魔方陣が浮かび上がりました。
って、これは!
私は咄嗟に魔方陣から外れようと横に跳びました。そのせいでつるつるの床にダイブしてそのまま滑り硬い壁に頭ぶつけちゃいました。
うう。い、痛いですけど。か、間一髪です。
さっき私が立っていたところには巨大な氷があって色んな方向に棘が出ています。
あれを喰らっていたら、と思うと。ゾワッと背筋が寒くなりました。
いや、氷があるから冷えた訳じゃないですよ!?
って、そう言えばクリスタ君とコロンさんは?
さっきから一言も聞こえない二人を私は目で探しました。
コロンさんはクリスタ君に背中から抱きついて小さくなってますね。クリスタ君は「おー」と合成獣さんを見上げています。
って、そんな二人目掛けて合成獣さんは走り跳びかかりました!
まずいです!でも、私のこの体勢じゃ絶対間にあわないです!何か無いですか!
そうです!間に合わないなら魔法で!
「エア――」
そう言おうとした私の視界。そこに二つの黒い物が合成獣さんに向かって飛んでいくのが見えました。それは合成獣さんの体と肉食獣さんの方の目に刺さります。
合成獣さんは刺さって驚いた様子でクリスタ君とコロンさんから逸れて、横の展示物に突撃します。
か、間一髪です。ですけど、あの黒い刺さっている物なんでしょう?
というか誰が投げたんでしょうか?
そう思う私の前にマイティアちゃんが立ちました。
その彼女の手に同じ黒い物が見えます。どうやら、マイティアちゃんが投げたみたいですね。
すると彼女は手を横に振りました。
その途端、合成獣さんに刺さった黒い物が爆発します。それによって立ち上がろうとした合成獣さんは苦悶にも似た声を上げてよろめきます。ですけど、すぐに体勢を直して凄く怖い顔をして私のいる方。マイティアちゃんの方を向いて大きな声を張り上げました。
す、凄い音です!な、なんというか飛ばされそうなくらいの勢いがありますよ!
ですけど私の前に立ったマイティアちゃんはその音に怯む様子は無く、持っている黒い物を持ち替えて少し姿勢を低くしました。
その時、マイティアちゃんの持っている黒い物が少し大きくなって私の持っている(宿に置いてきちゃった)短剣くらいの大きさの刃物へと変わります。
ですけど、私の持っている短剣とは違って、片刃です。けど、カッコいい形の短剣ですよ。
それをマイティアちゃんは普通に刃が前に来るように持つのではなく、刃を私の方に向ける形で、後ろ向きに持っています。
マイティアちゃんは姿勢を低くしたまま、合成獣さん目掛けて走りました。
って、す、凄く早いです!!
マイティアちゃんはまるでリスさんのように駆け、合成獣さんへと肉薄します。
その時、私に声が聞こえました。
『……私が注意を引き付けるから、あの二人と一緒に入り口に』
その声はマイティアちゃんの声だと思うんですけど、でも、あの子。遠くにいますよね?何で聞こえたんでしょうか?それに何か違和感が?
って、それよりも頼まれた事をやらなきゃですよね!
私は起き上がってマイティアちゃんに言われたように、二人に向かって駆け寄ります。
その間もマイティアちゃんは合成獣さんの攻撃を避けて、攻撃してをしています。それを見て思ったんですけど、マイティアちゃん。凄いです!
まるで妖精さんのように合成獣さんの周りを素早く動いてますし、あんなに早く動いてるのに魔法放ったり、障壁で守ったりしてます。時々、目で追っても見失うこともありますし。
って、見惚れてる場合じゃないですよね。
「二人とも大丈夫ですか?」
私はクリスタ君とコロンさんに声をかけました。
ですけど、コロンさんはクリスタ君の影でクリスタ君を抱きしめながら震えています。
対してクリスタ君は「うん!」と元気です。
まあ、コロンさんは兎も角。クリスタ君が怖がっていないのが救いでしょうかね。
「それじゃあ、ここから少し離れますよ」
私はそう言ってコロンさんを見ましたけど、コロンさん、ずっと震えてますね。
「コロンさん、離れますよ?」
私はそんなコロンさんに話しかけました。
コロンさんは答えませんでしたけど、顔を上げて凄く真剣な表情でこくこくと頷きました。若干、涙目です。
ですけど、そこは頑張ってもらわなくてはいけないので少し心を鬼にしますよ!
「さあ、早く立って行きましょう」
私はコロンさんにそう言ったのですけど、コロンさんは一向に立つ気配がありません。
「コロンさん?」
「こ、腰、抜けちゃった」
コロンさんからのそんな言葉に固まる私。
腰抜けちゃったんですか。ううむ、そうなれば仕方ありませんね!
「私が担ぎますので、ジッとしててくださいね」
私はそう言ってコロンさんをひょいっと持ち上げて左肩に担ぎました。
……あれ?クリスタ君より軽くないですか?
あ、そんな事よりも。逃げなきゃですよね!
私はクリスタ君を右に抱え、展示室の入り口に向かって走りました。
なんだか収穫物が多かった時の事を思い出す格好です。
そうして入り口に向かったんですけど。
入り口が爆発した際に崩落してしまったようで塞がってしまっています!
ど、どどど、どうしましょう!
そう思い別の場所を探そうとしていたら傷だらけの合成獣さんがこちらに向かって来ました!
あわわわわわ!と、とりあえず
「エアークイック!」
自分に補助魔法をかけて走ります。
そして後ろからガァンという音がしてチラッと見れば合成獣さんがそのまま入り口の瓦礫に激突していました。
そんな合成獣さんにマイティアちゃんが追撃しています。
『……とりあえず、開けた道に』
と、またマイティアちゃんの声の様なのが聞こえてきました。って今分かったんですけど、これ、耳から聞こえてませんね。なんか頭に直接って感じです。
そんな事よりも、そうですね。マイティアちゃんの言うとおりです!
私は横に避けてしまったので展示品の棚の横の道を迂回路にクリスタ君が開けた所を目指します。
その間もマイティアちゃんと合成獣さんの戦いは続いています。
そうして走って道の入り口に辿り着いた私。でしたけど、またまた合成獣さんがマイティアちゃんを振り切り迫って来ているのが横目で見えました。
ええい!行くしかないです!!
私はその心意気のまま通路に入りました。
そして続いてきたのはダァンッという音。
見れば、合成獣さんが入り口前で派手に転んでいました。
すると、その上にマイティアちゃんが勢い良く上から落ちてきました。そうしてマイティアちゃんが上に乗った瞬間、ガァァアアアンという大きな音と共に合成獣さんが体をくの字に曲げて、地面に沈みました。
そして合成獣さんは断末魔をあげると動かなくなり、マイティアちゃんが合成獣さんの上から降ります。
そんな彼女は少し息が上がっていますけど、まだ余裕がある様に見えます。しかも、無傷です。なんか、凄いを通り越した凄いです!
と、マイティアちゃんが口を開きました。
「……無事?」
「はい、お陰様で。全員無事です」
「……そう」
彼女はそう言うとあまり表情が変わっていませんけどホッとしたような感じを感じました。
と、クリスタ君が口を開きました。
「まいてぃあさん」
「……何?」
「ありがとーございます」
ぺこりとお辞儀をしてお礼を言うクリスタ君。
するとマイティアちゃんはプイっと視線を逸らしてしまいました。
ですけど、小さく「……別に」と聞こえます。
見れば少し頬が紅くなっています。どうやら照れている様ですね。
「あんな化物倒すなんて。流石、スクロック学生だね」
と、コロンさんもお尻をマイティアちゃんに向けながら絶賛の言葉を贈りました。
ですけど、マイティアちゃんの表情が少し変わります。あまり変わっていないようにも見えますけど、なんというか雰囲気が少し冷たい感じです。
それを感じ取ってか、コロンさんが「あれ?」と小首を傾げました。
これは空気が悪くなりそうですね。とりあえず、話を変えましょう!そうしましょう!
「それで、そのどうしましょうか?」
「……どうって?」
はっ!ついうっかり考えてる事言ってしまいました!
ど、どど、どうしましょう!考えるんです!私。えーと、えーと。
「い、入り口塞がっちゃってますし、これからどうしましょうって」
おお。ナイスですよ私!ふふ、見ましたか!これが私の実力です!
「……待つしかない。一応、発掘調査隊が向かってくると思うし」
と、マイティアちゃんが言いました。
「そうですよね!」
「……うん」
会話が続きません!どうしたんですか私!いつもならもっと話せるのに!
「ねえねえ、この先行ってみたーい」
と、そう思っていたらクリスタ君が言いました。
正直、ナイスタイミングですよクリスタ君!
「そうですね。暇ですしこの先に――」
「……それはダメ」
マイティアちゃんにダメと言われてしまいました。
「……この先に何があるのか分からないから。調査隊が来るのを待った方がいい」
「確かにそうだね。とりあえず大人しくしてよう二人とも」
と、そんなマイティアちゃんの言葉にコロンさんも同意しました。
確かに。あの合成獣さんが出てきた通路ですもんね。何があるのか分かりませんから。
「確かにな。安全を期した方が良いぞぉ」
そうワンダーさんも同意します。
これで皆さんの意見が一致しましたね。とりあえず、調査隊さんを待ってから――。
……へ?
ある事に気付いた私が視界を向けると昨日の昼に出会ったワンダーさんが腰に手を当てて髭を撫でながら立っていました。
「どうした?混ざりもののレシアよ。私の顔に何か付いてるか?って、そうだな!顔には目、鼻、口、耳、ほくろが付いてるな!まあ、私の場合は髭もあるがな」
いつもの調子でワンダーさんが言いました。
「いえ、そうじゃなくてですね。な、なんでワンダーさんがここにいるんですか!?」
「おや?私がいたら何か不味かったか?」
「いえ、不味くはないですけど。えーと、どうやってここに?」
「んー?それは重要な事か?」
「重要ですよ!私達、今、閉じ込められてるんですから!」
と、おとぼけワンダーさんにコロンさんが言います。
「はっ。まあそう慌てるな。パンツ丸出しで未だに担がれてる四分の一のコロンよ」
「ッ!?」
そう言われてコロンさんは片手でスカートを押さえました。
そんなコロンさんはどうでも良いとばかりにワンダーさんは続けます。
「私はこの奥から来た。行けば何かあるかもしれないぞ?まあ、無いかも知れないけどなぁ!」
そう言うとワンダーさんは歩いてきて、マイティアちゃんの前で止まります。
そうして前かがみになってジッと見ます。
「……なんですか?」
「いや、何。今度はその姿かと思ってな。逆に三十回も変わっていてそんな感じになったかと感心するぞ」
「……何の、話?」
「はっ!知らないのであれば別に気にする様な事ではない。気にせず生きろ。なっ!」
ワンダーさんはそう言って笑います。
なんでしょう。凄く気になる言い方ですよ。
「わんだーさんって悪い人なの?」
と、ずっと黙っていたクリスタ君がワンダーさんに問いかけました。
「ん?違うぞ。私は人では無いからな。それこそさ迷う者だ。じゃあな。またどこかで会えたら会おう」
そう言ってワンダーさんは合成獣さんが倒れている入り口の方に歩いて行きました。
と、そんなワンダーさんは「そうだそうだ」と何かを思い出したように言うと振り返ります。
「お前達、この先に進むならこれをやろう」
ワンダーさんはそう言うと私達の方に向かって布の袋を投げてきました。
それをクリスタ君がうまくキャッチします。
なんでしょうこれ?
「あのこれ――」
私がそう思って聞こうと思い見たら、既にワンダーさんの姿はありませんでした。
そのワンダーさんが渡してきた袋を開けると中には、折りたたまれた布が入っているだけでした。
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