第7話 コーメイン出発
この町に来て二日目の朝を私達は用意されたお部屋で迎えました。
朝日がとっても気持ち良いです。光合成が捗りますね。
私はそうして朝日を浴びながらボーっとしているとまたもやクリスタ君を抱いているのに気づきました。
昨日、怪盗さんと一緒に寝たのにクリスタ君がいるって事はクリスタ君潜り込んできたんでしょうか?
ふふ、甘えん坊さんですね!
と、そんなクリスタ君の寝ていたと思われるベッドを見ると怪盗さんはそっちで寝ていました。
ですが、何か違和感を感じます。というか、
……あれ?私、昨日あっちのベッドで寝てた気がするんですけど。
そうです。その違和感は場所の位置でした。
確か昨日寝ていたベッドの横には私の荷物があるはずですが、今その荷物はそのベッドの方にあるんです。
もしかしてクリスタ君。潜り込んでくる際にバッグを寄せちゃったんでしょうか?
うーん、そうなら全く困った甘えん坊さんです。
ここはクリスタ君を起こしてちゃんと言わないとダメですね!
私がそう思ってクリスタ君を起こそうとした時でした。部屋のドアがノックされたのです。
「朝早くに失礼致します」
と、外から聞こえたのはオーラ様の声。何か御用でしょうか?
とりあえず起きている私が対応します。
「はい」
開けるとオーラ様が「おはようございます」と頭を下げられます。
対して私はしっかりと返答を――。
「あら、他の皆様はまだ睡眠中でしたか?」
と、私が言う前にオーラ様が室内を見て問いました。
また遮られてしまいました!
ですけど、ここは答えなければ!
そう思い私は頷きます。
「はい。まだ私しか起きてません」
「そうなんですね。すいません。こんなに早く尋ねてしまって」
「いえ、大丈夫です」
すまなさそうに言うオーラ様に私は気にしないでと言う意味を込めて発言します。
何故ならば今は朝。起きていない二人がお寝坊さんなだけですからね!オーラ様は何も悪くありませんから。
「それで何かご用事ですか?用事なら皆さん起こしますけど」
「あ、いえ。ごゆっくりして下さい。ただ、鉱石の周りの石を削り取る作業が終わりましたので報告にと思ったのですけど、クリスタさんはまだ就寝中のようですし」
「ふえ?呼んだー?」
と、そんな声がして見れば目を擦りながらクリスタ君がベッドで体を起こしていました。
「あら、起こしてしまいました?」
「ん?んー、今起きたー」
クリスタ君は少し眠たげな表情でにへらーと返答します。
うーん、あの表情を見るとまた寝てしまいそうですね。クリスタ君。
と、クリスタ君が何かを思い出したように「あ」と短く言いました。
どうしたんでしょうか?
するとクリスタ君がベッドから降り、てててーと近寄ってきました。
「おはよーございます」
疑問符を浮かべる私の横でクリスタ君は頭を下げました。
どうやら挨拶をするのを忘れていたのを思い出したようです。
って、私まだしてませんよ!
「はい。おはようございます」
それにオーラ様が返答しました。
そしてお互いに微笑みます。なんかこの二人仲良くないですか?
少しずるいです。
「ところで、ノクターンホロウさんは、その、寝ていらっしゃるのでしょうか?」
オーラ様が突然そんな事を言いました。
オーラ様、何を言ってるんでしょう?怪盗さんならそこにいるじゃないですか。
「寝てますよ?」
「寝てるよ?」
そんなオーラ様に私とクリスタ君は首を傾げて怪盗さんに指をさしました。
「いえ、その、いるのは分かるのですけど、布団が微動だにしていないので……」
オーラ様はそんな事を言いました。
??寝ている時って普通動かないですよね?
そう思っているとクリスタ君が怪盗さんの元へ。
「かいとーさん!朝だよー!」
そう言ってクリスタ君は怪盗さんを揺すります。
ですけど、反応がありません。
「かいとーさん?」
クリスタ君がそう言って布団をめくって覗き込みました。
私もクリスタ君の隣に行って見てみます。
すると布団の隙間から怪盗さんの顔が見えました。その表情は白目を向いていますね。
……。
「怪盗さーん!!」
私は慌てて怪盗さんを揺すりました。
「いや、あの、レシアさん!?落ち着いてくださいませ!」
「ですけど、怪盗さんが!」
慌てている私にオーラ様が声をかけてきましたけど、返答してる場合じゃないですよこれ!!
「あうえ?」
と、私が必死に揺すっていたらそんな声が聞こえました。
見れば怪盗さんが半目ですけど白目じゃなくなっています!どうやら戻ってきたみたいです!!
「怪盗さーん!」
「あぁぁあああっ!!?」
私は嬉しくて怪盗さんを強く抱きしめます。
うう、心配したんですよ?
怪盗さんは戻ってきたのが嬉しいのか手をパタパタさせています。時折私の腕にも当たってますけど、今はそんなのどうでも良いです。良かったです。
でも、少し強く叩くの止めて欲しいです。少し痛いですし。
「あ、あのーレシアさん。ノクターンホロウさん、離してあげないと大変な事になってますよ?」
「へ?」
オーラ様からそんな事を言われ見れば、さっきまで元気だった怪盗さんがまたぐったりしています。
あわわわ!!
「怪盗さんしっかりー!」
「レシアさん!落ち着いてください!とりあえず安静に!」
「ですけど、怪盗さんが!」
「とりあえず、ノクターンホロウさんをベッドに寝かせてくださいね?ね?」
私が必死に怪盗さんの体を揺すると必死の形相でオーラ様が言ってきました。
どうにかして起こしたいのですけど、渋々私は怪盗さんをベッドへ。
怪盗さん、大丈夫ですかね?
心配して見ている私の隣ではクリスタ君も怪盗さんを見ています。
そんな私たちの横でオーラ様が咳払いをして口を開きました。
「ノクターンホロウさんは気絶しているだけですので安静にしておいた方が良いですから、レシアさんとクリスタさん。お目覚めになるまで待ちましょう」
怪盗さん気絶してるんですか。
そう聞いて少し安心しましたけど、でも心配です。
「そういえばさっき僕の事呼んでたけど、どーしたの?」
心配している私の横でクリスタ君が言いました。
それを聞きオーラ様が「ああ」と言います。
「クリスタさんが欲しいと申していました石を削り落とす作業が終わりましたので報告に、と」
「え!?ほんとー!」
オーラ様の言葉にクリスタ君が目を輝かせました。凄く嬉しそうです。
対してオーラ様は笑みを投げかけます。
「ええ。ですから報告にと思いまして」
「わあ!ありがとーございます」
オーラ様にクリスタ君は頭を下げました。
「あうえ―――はっ!?」
そんな時でした。
声が聞こえたので見れば、怪盗さんが体を起こして辺りを見渡しているじゃないですか!
どうやら快復したようです!
「怪盗さーん!」
「え、あ?ひっ!!?」
「わーー」
私は快復した怪盗さんをまた抱きしめようと飛びつきました。
ですけど私の服をクリスタ君が掴んでいたようで、そのせいで勢いを失った私は怪盗さんの目前でベッドの上にズベッと落ちました。
そんな私の上に上手くクリスタ君が乗ります。
「かいとーさん、おはよーございます」
「……え?あ、お、おはよう」
そしてすかさず挨拶を決行するクリスタ君。
ですけど、今度は遅れるわけには行きません!
「おはようございます。怪盗さん」
「え、あ、うん。おはよう」
見事私は遅れる事無く挨拶を決行しました。
ふふ、どうですか!
「え、えーと。一つ聞いても良い、かな?」
「なにー?」
「何でしょうか?」
恐る恐るという感じで怪盗さんが聞いてきました。
一体なんでしょうか?
「あ、えーと、言いにくいんだけど。旅に一緒に行くの断っても……?」
「えー!なんでー!?」
「どうしてですか!?」
「どうしてって、昨晩、レシアが凄い力で締め上げてきて私何回も意識失ってるんだからね!?」
……え?私ですか?
「そーなの?」
怪盗さんの言葉にクリスタ君が首を傾げ私を見ます。
うーん。
「いえ、私。そんな事した覚えないんですけど?」
「そっかー」
考えてみましたけどそんな事した覚え一度も無いんですけど。
そうして意見が一致した私達は再度怪盗さんへ視線を向けました。
「いやいやいやいや!私、何回もやられたからね!?」
「もしかしてレシアさん、寝るとき何かを抱いて寝ないと落ち着かないのでは無いでしょうか?」
と、そんなやり取りをしている私達の元にオーラ様が近寄ってきて言います。
何で分かったんでしょう!?あ、でもそれは昔の話です。
「えっと、昔はそうでしたけど。でも、もう大人ですから最近は人形を抱かなくても大丈夫になりましたよ」
っていってもたまに人形をいつの間にか抱いていた事がありましたけども。
あれはあれですよ。多分人形を妖精さんがイタズラして私に抱かせて寝せただけなんですよ。うん、そうです!
「ふふ、そうですか。でも、久々に誰かとお休みした事でそういう癖が出てしまったのでしょう。ですから今後気をつければ大丈夫だと思いますよ?」
オーラ様は優しく言ってくれました。
確かに私、誰かと一緒に寝るのは久しぶりですね。
……あれ?昨日、クリスタ君と一緒に寝てたような?というか今日も一緒だったような。
「とりあえず、皆さん。起きられたようですので、朝食でもいかがでしょうか?」
「朝食!?え、い、良いのですか?」
オーラ様の言葉に怪盗さんが恐る恐る問いかけます。
「ええ、怪盗さんがこの方達の旅の仲間になるのであれば、
「うえ?!いや、でも」
怪盗さんは悩んでいる様子ですけど、その怪盗さんのお腹が鳴ります。
とても可愛らしい音でした。
「うぐ、……ご、ご馳走になります」
「はい。それではご案内致します」
こうして私達はオーラ様に連れられて朝食の席へと連れられていきました。
そこは昨日も朝食を頂いたお部屋です。
私は朝の日差しを浴びれる場所を確保しました。
隣にクリスタ君が座り、向かい側には怪盗さんです。
「それではごゆっくりお食事をお楽しみくださいね?」
オーラ様はそう言うと出て行ってしまいました。
今日は一緒にお食事されないんですね。
そう思っている私の視線の先。オーラ様が出て行かれたドアが再度開き、使用人さん達が料理を運んできてくれました。
そして手際よく並べられていく料理。
はー、凄くいい匂いです。
「わあー!これ、あの石だー」
匂いを堪能していた私の耳に聞こえた声に視線を向けるとクリスタ君の前には軽石や煉瓦ではなく、黒っぽい石がお皿に乗せられ置かれていました。
クリスタ君の声からするにこれは昨日採掘したミスリルの周りの石みたいですね。
「……昨日も思ったんだけど、なんで、クリスタ、だっけ?石食べるの?」
「ふえ?」
早速石を食べようと手を伸ばしたクリスタ君に怪盗さんが問いかけました。
ふふ、ここは私が説明してあげましょう!
「クリスタ君が
「岩食族?……どっかで聞いた事あったような、無かったような」
私の完璧な言葉に怪盗さんは頭を傾げます。
どうやらどっかで聞いた事あるらしいですね。私は全く聞いた事無いですけど。
でも、私はこの二日間クリスタ君と一緒にいて岩食族がどういう種族なのか分かりました。
彼等は石を食べて、石をブレイク出来るんです!ふふ、どうですか。この分析力!
「ところで、二人はいつまでここにいるつもりなの?」
「へ?」
と、怪盗さんが問いかけてきました。
いつまでと言われましても。
「クリスタ君の用事が片付いたらもう出発しますよ?」
「あ、そうなんだ。それで、用事って?」
「石を貰う事ですね」
「石?」
「うん!この石ー」
首を傾げた怪盗さんへクリスタ君が今食べている石を見せます。
「……えっと、普通の石にしか見えないんだけど?あ、もしかしてそれ、特別な魔石とか?」
「違うよー。でもね美味しいんだよ!」
そう言ってクリスタ君はひょいっと口に入れ、ゴリゴリ食べます。
「えーと、つまり食料調達みたいな感じ?」
クリスタ君の返答に怪盗さんは私を見ていいました。
「あ、そうですね!クリスタ君の食料調達です」
「そっかー。ところで」
と、ここで怪盗さんは話題を変えてきました。
なかなか自然に変えてきますね。
「次に行く場所は決まってるの?」
「次ですか?」
そういえば決めてませんでした。
というか、どこに何があるのか分からないですし。うーん。
「まだ、決めてないですね。私達自由に旅しようと思ってたので」
「あー、そう言えばそう言ってたね。でも決めてた方が良いと思うけど」
怪盗さんが言いました。
でも、うん。確かに。目的地があった方が良いですもんね。
「じゃあ、次は別の町を目指しますよ!」
私は提案を受け入れて宣言します。
そんな私の宣言に「おー」とクリスタ君が目を輝かせて反応します。
ふふ、少し優越感ですね。
「いや、別の町って。どの町に行くのよ」
「へ?」
と、怪盗さんが更に問いかけてきました。
そう言われても私は次の町に行く事しか考えてませんし。
「……もしかしてだけど、他の町の名前知らないとかって言わないよね?」
怪盗さんがそんな事を言いました。
「えへへ、分かりません」
「……本当に?」
「本当ですよ!一回も森から出た事無かったですから」
「僕も!」
私の返答にクリスタ君も同意すると怪盗さんが恐る恐る聞いてきます。
「え?森からって、あなたどこに住んでたの?」
「この町からあっちに半日かけて行った所ですよ?」
「ここから半日?って、大精木の森!?」
私の返答を聞いた怪盗さんが驚いた表情をしました。
どうしたんでしょう?
「いやいや、待って。あの森で暮らしてたの!?あそこは超級モンスターの大精木のトレント、タイボクがいる森なのに!?」
すると怪盗さんがそんな事を言いました。
え?
「タイボクさん、知ってるんですか?」
「いやいやいやいや!知ってるんですか?じゃないって!タイボクって言ったら移動する森林っていわれる伝説級のモンスターで、一体で大都市を簡単に壊滅させる程の力を持つトレントの王様よ!?」
「へ?そうなんですか?」
「そうなんですか?って」
怪盗さんがなんか呆れています。
でも、タイボクさん、そんなに凄いんですかね?
最近、肌荒れがどうこう言ってましたし、最近幹の辺りが太ってきて痩せないととか言ってるあの方がですか。
うーん、もしかして人違い……いえ、トレント違いじゃないですかね?
と、そんな会話を聞いていたクリスタ君が言いました。
「たいぼくさん、凄そう!」
「凄いですよ!物知りですし。それに木の実採取している時とか手伝ってくれたり、迷子になった時とか家まで案内してくださいましたし優しい方ですよ」
「おー!」
私の言葉にまたまた目を輝かせるクリスタ君。
「それ、本当にタイボク、なの?」
「そうですね。私の知ってるタイボクさんはそうですよ」
「そ、そう。まあ、いいっか。それで、町の名前が分からないんだよね?」
と、怪盗さんが話題を元に戻します。
「そうですね」
「えーと、じゃあ――」
「では、クリスタさんの種族の事に詳しい方の所に行ってみては如何でしょうか?」
怪盗さんが頭を抱えたそんな時、不意に聞こえてきた声に視線を向けるとオーラ様がドアの前に立っていました。
それに怪盗さんがビクッと少し跳ねます。よく座った状態で跳ねれますね。
私もできますかね?
ちょっと試しにやってみましたけど出来ませんでした。
ガタって椅子が動いただけですよこれ。
「ふえ?僕の種族?」
「ええ、そうですわ」
そんな事をやっている隣でクリスタ君が首を傾げ、オーラ様が言いました。
ふーむ、クリスタ君の種族についてですかー。
ちらっとクリスタ君を見るとクリスタ君は私の視線を感じたのか私の方を見てきました。
「そうですね。予定は無いですからそうしましょう!」
という事で行き先は決まりました。
クリスタ君の種族に詳しい人に会いに行きましょう。
「ふふ、ではその様に馬車を手配いたしますね」
オーラ様はそう言い微笑みました。
と、そこで怪盗さんが恐る恐るといった感じでオーラ様に問いかけました。
「え?えーと、あの、どこに行く事になったんですか?」
「ふふ、宝晶と学術の街。スクロックです」
そんな怪盗さんの言葉にオーラ様は笑顔で答えてくれました。
宝晶と学術の街。なんだか凄そうなところですね。
「スクロック!?あの、
と、怪盗さんが驚いた様子で言いました。
「宝晶族ってなにー?」
そこで早速質問をするクリスタ君。
抜け目が無いですね!
「宝晶族っていうのは、奇跡の種族っていわれる種族で魔力の枯渇した魔宝石に再度魔力を充填たり、魔宝石を精製する力を持っているっていう種族だよ」
怪盗さんが説明してくれました。
なんだか聞いてると本当に凄い種族みたいですね。
それを聞いたクリスタ君は感心したように言葉を発します。
「へー、まるでお姫様みたーい」
「え?んー、まあ、確かに見た目も綺麗だって話しだし、数少ない種族だから国自体から保護されてて装飾品も付けているから見た目的にはお姫様に見えなくも無いらしいけど、……お姫様?」
怪盗さんはそう説明します。
お姫様に見えなくも無い方ですか。それを聞いたら凄く会うのが楽しみになってきましたね。
どんな方なんでしょうか?
「あ、そうです。今のうちに皆さんにお礼をお渡し致しますね」
と、オーラ様が突然そんな事を言いました。
お礼って何でしょう?というか、何かしましたっけ?
そう思っているとドアが開いて使用人さん達が入ってきました。
そして私達一人ずつに両手サイズの袋を渡してきます。
なんでしょう?触った感じ、中身は固いモノのように感じますけど。
すると隣から「お金だー」という声が聞こえ、見れば、クリスタ君が中を見て目を輝かせていました。
どうやらお金が入っているみたいですね。
「こ、こここ、こんなに?!」
と、私の向かい側から声が聞こえて見れば怪盗さんがクリスタ君みたいに袋の中を見てわなわなしています。
「本来であればこれでは足りないのですけど」
「いや、え?これでも足りないってどういう?」
オーラ様の言葉に怪盗さんは唖然としています。
「ふふ、ノクターンホロウさんは知らなくて仕方ないですけど、そちらのクリスタさん、レシアさんが私達にもたらして下さった功績に対してのお礼です。本来であればもっと必要だと思うのですけれど、こちらの事情でこれくらいしか渡せないのです。すいません」
オーラ様はそう言って頭を下げました。
功績って何かしましたっけ?よく分かりませんけど、とりあえずお礼は大事ですよね。
「いえ、ありがとうございます」
「ありがとーございます!」
お礼を言った私に連なってクリスタ君もお礼を言います。
それにしてもお金ですかー。確か、教えてもらった限りですとお店で使うんですよね。それと宿に泊まる時にも必要ですし。
ふふ、また初めての体験が出来そうですね!
「いや、でも、この金額は。何したの?二人とも」
初体験をする事に心を躍らせていたら、怪盗さんが聞いてきました。
うーん?何をしたのかって言われましても。
思い出しますけど、これ確かお礼って言ってましたし……。
あ!そう言えば昨日ありましたね。お礼は多分それの事ですよね。
「昨日キングゴーレムさんを倒すの手伝いましたよ」
私は思い出した事を伝えます。
それしか思い当たる節ありませんし。
「キ、キングゴーレム!?ええ!?な、なんでそんなのが!?」
そしたら怪盗さんが悲鳴にも似た反応をしました。
声大きいですよ。怪盗さん。
「でもねでもね。食べれなかったの」
そんな怪盗さんにそう付け加えるクリスタ君。
「いや、まあ。それは残念だったね。って!それよりも、なんでそんなのがこの町に現れたの!?」
「封印されたのがどうとかって言ってましたね」
「ええ、あの坑道はキングゴーレムを封印していた場所だったんです。それに勇者様の一族が世代交代毎に封印の強化をし封印の維持をされていたので最下層は封鎖してそれ以外を坑道として公開していたのですが、まさか復活するとは思わず。ですけど、ゴーレムは倒されましたから。本当にありがとうございます」
そう言ってオーラ様が深々と頭を下げます。
すると怪盗さんはそーっと私の方を見てきました。
「レシア達、そんなに強いの?」
強いって言われても。どうなんでしょう?
「ゴーレム倒したのゆーしゃさん達だよ?」
「あ、そうなの」
「うん!」
と、クリスタ君の言葉に怪盗さんは「なーんだ」とホッとした表情で椅子に腰を深くかけ――
「って、勇者様に会ったの!?」
また、飛び起きました。
凄い動きですね。私、その動きは出来なさそうです。
「うん!それでね、これ貰ったの!」
クリスタ君はそう言うと腰に巻いたベルトに付けたバッグを見せました。
「え?あ、まあ、どういう経緯で貰ったのか気になるけど。良いなぁ~。勇者様から貰ったなんて」
怪盗さんはそう言ってまじまじと見ています。
凄く欲しそうです。
「なんでも、馬車の荷台に乗るくらいの量なら入るそうなんですよ」
「へー、そう……は!?」
私がそう説明したら思いっきり私の方を見てきました。
ちょっとビックリです。
「え?待って。じ、じゃあ、それ、かなり高価な奴でしょ!?何で!?それを貰ったって!え??」
そんな私に怪盗さんは聞いてきます。
何でって言われましても……。
「まあまあノクターンホロウさん。それよりも皆さん、出発はいつ頃なさる予定でしょうか?」
怪盗さんをなだめたオーラ様がそんな事を言います。
「クリスタ君の欲しがってた石を頂いてからですね」
私がそう言ってクリスタ君の方を見るとクリスタ君は目を輝かせて「うん!」と返答しました。
「ふふ、そうですか。では、準備が出来ましたらお知らせいたしますのでそれまで屋敷の方でゆっくりおくつろぎ下さい」
そうしてオーラ様は出て行ってしまいました。
残った私達は朝食を食べて、部屋に戻り荷物を整理して準備を整えます。
と言ってもあんまり荷物は出していないのですぐに終わりましたけどね。
怪盗さんはもう既に準備整っていますし、後はクリスタ君だけです。
そう言ってもクリスタ君も特に荷物はなかったと思うので終わってると思いますけどね。
「クリスタ君は終わりました?」
「まだー」
私が声をかけたら意外な言葉が返ってきました。
え?まだって。
そう思いクリスタ君の方へ視線を向けると、クリスタ君は自分の服の中に手を入れて何かやっています。
そして難しい表情をしているじゃないですか。
……何してるんでしょうか?
「何してるんですか?」
「えっとね。あ、いけそう!」
「いけそう?」
そう思っていたらクリスタ君が「ふん」と気合を入れたます。
そしてクリスタ君は服の中から手を出しました。するとその手には綺麗な透明の魔宝石があるじゃないですか。
しかも相当な魔力を秘めているものですね。
それをクリスタ君はテーブルの上におきました。
見れば置いたテーブルの上には一昨日オーラ様にあげると言っていた翠色の魔宝石もありますし、その他にも、大小様々で黄色や紫など様々な魔宝石が置いてあります。
「うん!僕の準備終わりー」
クリスタ君が言いました。
え?終わりって……。
「その魔宝石置いていくんですか?」
「うん!ありがとーございましたって置いてくの!」
私にクリスタ君が言います。
その顔はとても良い笑顔です。と、そこで私も良い案が浮かびました。
そしてその良い案が出来た上がった時、ドアをノックする音が聞こえて怪盗さんが出ます。
「もう終わったって」
その言葉を聞いて私とクリスタ君は顔を見合わせます。
お互いに笑顔になっていきます。
「はーい!」
「今行きまーす!」
こうして私達は持ってきた荷物を持って外に出ます。
その時、教えに来て頂いた使用人の方にちょっとお願い事を頼んで。
外に出るとオーラ様と私兵団の方。そして使用人さん達がいました。
その横にはミスリル鉱石を運んできたのとは別の形の馬車がありました。そしてその馬車の荷台に木箱があり、その中には剥がしたのだと思われる石が積まれています。
「わあー!」
クリスタ君は積まれた石を見て目を輝かせます。
ふふ、とっても嬉しいみたいです。
その他にも木箱には色々な野菜とかが入っていたりしていますね。
それよりも、と。私はクリスタ君に言い、一同オーラ様の前へ。
「オーラ様、色々ありがとうございました」
「いっぱい美味しい石ありがとーございます」
私とクリスタ君はそう言って頭を下げました。
「ふふ、お礼を言わなければならないのは私の方でもありますのに。御二方、本当にありがとうございました。皆さんの旅路に幸福がありますように祈っていますわ」
オーラ様はそう言って私達に軽く礼をしました。
そして私たちはオーラ様が見守る中、用意してくださいました馬車に乗り込みます。
と、そんな時でした。
「お待ち下さーい!」
声が聞こえてきて私たちはその方へと視線を向けます。
するとそこには、セナさんが紙袋を持って駆けて来ました。
「セナ?」
「はあはあ、すいません。オーラ様、この方々にお礼を差し上げるのをお許し下さい」
駆け寄ってきたセナさんはそう言うと私達に紙袋を渡してきます。
見れば、緑色のとか青色のとか何かいろんな色の液体が入った瓶がありました。何でしょうこれ?
「これしか用意できませんでしたけど、旅で何かあった際に使用してくださいね」
と、中を見て思った私にセナさんが言いました。
えーと、何か分からないですけど、セナさんはそう言ってますから何かあった時に使えるものなんですね。なるほど。
「ありがとうございます」
私はそう言って頭を下げました。
そして私達はオーラ様、セナさん達に手を振り、馬車に揺られて最初の町コーメインを出発したのでした。
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