第6話 最後の夜、新たな仲間

 坑道での初めての採掘体験から戻った私とクリスタ君は用意されたお部屋に入りました。

 私は早速休憩の為にベッドに座り、初めて採掘した硬金の鉱石を眺めました。

 付着している石で見えないところもありますけど、金色にキラキラしていて綺麗です。

 帰ってくる途中、オーラ様にこの鉱石を鍛冶屋さんと呼ばれるところにもっていけば買い取ってくれたり、お金を払えば新しい武器を作ってくれると教えていただきました。

 初めて採った物なので売るのは勿体無いですね。

 でも、武器はお母さんの使っていた剣とお父さんの短剣がありますし。

 うーん。……記念に取っておいても良いですよね。


 私はそう考えてレオンさんから頂いたバッグにしまいました。

 確かにこの鉱石結構重く感じたんですけど、入れてしまえば重さを感じませんね。


 私はこの不思議なバッグに感心しつつ、クリスタ君の方に視線を向けました。

 クリスタ君は私の横で上機嫌で足をぶらぶらさせながら鼻歌なんて歌っちゃっています。

 まあそれも、あのミスリル鉱石でしたっけ?それの周りの石が手に入るからそれが楽しみなんでしょう。

 ちなみに、あのミスリル鉱石はクリスタ君のブレイクによって周りが掘り出されました。

 それもクリスタ君が器用に周りをブレイクしていきましたね。

 その時、驚いたのはあの鉱石。全体を四角く掘り出された大きさが結構大きかったんですよ。

 あれ、どうやって運ぶんでしょうかね?

 少し気になりますけど、運び出すためにオーラ様と私兵団の人達以外の立ち入りが禁止されちゃった為に見れないのが残念です。

 ああ、気になったら見に行きたいです。


 そう考えて天井を見上げた私。

 天井には何もありませんがつい見上げたくなっちゃうんですよね。

 悩んだ時とか、考え事しても解決しない時とか。


「あ!れしあさん、れしあさん」


 と私がボーっとしていたらクリスタ君に声をかけられました。

 彼は興奮した面持ちで窓と私を交互に見ています。

 何か見えたんでしょうか?


「どうかしたんですか?」

「みするり運んでるよ!」


 私が問うと、彼はそう言って窓の外を見ます。

 どうやらオーラ様達がミスリル鉱石を運んでいるようですね。

 ……という事は!!どうやって運んでいるのかが見えるという事じゃないですか!


 私は咄嗟に彼の横に並び窓から外を見ます。


「わぁ!」


 オーラ様を先頭に私兵団さん達とお馬さんが荷車を引いてきました。その周りを大勢の人が見ています。

 そのお馬さんの引く荷台にはクリスタ君がブレイクで取り出したミスリル鉱石がでかでかと乗っていました。見た感じではクリスタ君が掘り出した状態のまま乗っています。


「美味しそう。早く食べたーい」


 どうやって運び出したのかと考える私の隣ではクリスタ君がそう言ってじゅるりと涎を垂らしていますね。

 全く食いしん坊さんです。私も人の事は言えませんけど。


 そんな感じで私とクリスタ君は運ばれてきたミスリル鉱石を見ていると、オーラ様が私達の方を見て手を振るじゃありませんか。


 私とクリスタ君は手を振り返します。

 そんな事をしているとオーラ様は微笑みました。その間も列は進んでいき、ミスリル鉱石が完全にお庭に入ると、オーラ様が振り返り何やら言っていました。

 そして言い終えたオーラ様はこの建物に入ります。

 その後にミスリル鉱石を積んだ荷馬車が左側に向かっていきました。

 窓からその馬車を目で追いましたけど、全然見えなくなってしまいました。うう、少し残念です。

 ふと横を見るとクリスタ君が窓にこれでもかっていうくらい頬を押し当てて見ていました。涎を垂らしながら。

 本当に食べたいみたいですね。


 と、その時でした。ドアをノックする音が聞こえたのは。


「はーい」


 私はそのノックされたドアに近寄り開けます。

 と、そこにはオーラ様の姿が。


「少しよろしいですか?」


 するとオーラ様が話しかけてきました。


「はい。大丈夫ですよ」


 すかさず答える私。

 と、見えなくて諦めたのかクリスタ君が私の横にやってきます。


「今日、お祝いの小さなパーティーを開こうと思いまして、お二人にも是非参加していただきたいのですがよろしいでしょうか?」


 そう言って微笑むオーラ様。

 な、なんとパーティーを開くそうです!

 そこで私はクリスタ君の方を見ました。クリスタ君は首を傾げています。


「パーティーって何ー?」


 と、早速質問するクリスタ君。

 ここは私が教えてあげましょう!


「パーティーと言うのはお祝いをする事ですよ」

「お祝いするの?それって宴じゃないの?」

「ふふ。クリスタさんは面白い方向に知識がありますね。そうですね。宴とパーティーの意味は同じです。けど、パーティーは少し静かに行うものって感じです」

「そうなんだ!」


 クリスタ君に解説してくださるオーラ様。

 その解説にクリスタ君は感心したように返答します。


「それでどうでしょう?」


 と、オーラ様が首を傾げ問いました。

 私は無論です!


「参加させて頂きます!」

「僕も!」


 と、私にくっ付いてクリスタ君も返答します。


「ふふ、決まりですわね。では、時間になりましたら係りの者に呼びに行かせますね」


 そう言うとオーラ様は頭を下げ私達の部屋を後にしました。

 パーティーですか。という事は料理がいっぱい出るんですよね。楽しみです。


 そして待つ事、数時間ぐらいだと思います。

 部屋をノックされ使用人さんが私達を呼びに来てくれました。

 私達は使用人さんの後を着いて行くと、朝とは違う部屋に通されました。

 そこは広くて綺麗なお部屋でした。その中にオーラ様の姿がありました。

 黄色のドレスで綺麗で、まるで物語のお姫様みたいです!


「ふふ、いらっしゃいましたね」


 と、オーラ様がゆっくりと私達の元にやってきて微笑みました。


「今日のお祝いはこう言っては何ですが、ミスリル鉱石採掘記念という事で開かせていただきました。ですから、クリスタさんとレシアさんに楽しんで頂けたら幸いです。使用人の方々も私の私兵である方々も楽しんでくださいね」


 オーラ様のその言葉に歓声が上がりました。

 そしてパーティーが始まります。

 美味しそうなご馳走や飲み物。そして、軽石と煉瓦が運ばれてきました。


「オーラ様?失礼ですが、な、なんで、煉瓦と石を?」


 その様子を見ていた方が問いかけます。

 オーラ様はその方に対して耳打ちをしました。


「これはクリスタさんにですわ。彼、ちょっと変わった種族ですから」

「はあ、その。クリスタ殿、とは?」

「あそこに居ます彼です」

「……あ」


 と問いかけた人が視線をクリスタ君に移すと目を見開きました。


「き、君達はあの時の!?」


 その人は近寄ってきて言いました。

 その時?あの時って、何でしょう?

 疑問に思っていたらその方は急に床に膝を付くじゃありませんか。急にどうしたんでしょう?


「あの時は助けていただきありがとうございました」


 と、疑問しか沸いてこない私の目の前で頭を下げるこの方。

 その行動と意味が分からずクリスタ君を見ると、クリスタ君も私の方を見てきます。


「何かあったのですか?」


 そこへオーラ様がやって来ました。


「ええ、実は。キングゴーレムが復活した際に警備をしていたのですが急にゴーレムが坑道から出てたのです。それをこちらの方々に助けていただいたのです」


 その人はそう言いました。

 そこまで聞いて私は理解します。あの時いた人だと。


「まあ、そうだったのですね。重ね重ねありがとうございます」


 そう言ってオーラ様が頭を下げました。

 そんなオーラ様に私は慌てて言います。


「いえ、そんな。頭を上げてください」


 と、その時でした。


「フハハハハハ!今宵は良い月だ!」


 声が聞こえて私達の視線はその方へと向けられます。

 それはこの部屋の大きな窓がある場所でした。


 そこには黒いマントを翻し目元だけを隠すような仮面を着けた白い髪の、多分、いえ、女性が立っていました。

 というのも、シャツの上しかボタンがされておらず、私よりも大きな胸の谷間と下部分が見えている姿でいるのですから。

 ちなみにズボン穿いてますね。


「だ、誰ですか!?」

「良くぞ聞いた!わた――、我が名は、ノクターンホロウ!」


 オーラ様の言葉にその人はマントをバサッと広げます。

 なんでしょう。あのポーズカッコいいですね!

 隣にいるクリスタ君も「おおー!」って言って目を輝かせていますし。やっぱりカッコいいんですよ。


「ノクターンホロウ!?あの伝説の大怪盗」

「ああ、そうだ。我はその誇り高き四代目。所謂四世だよッ!?」


 と、そのノクターンホロウさんが言った瞬間でした。

 私兵の方々がその方を取り押さえます。

 すると怪盗さんは床にうつ伏せにされてしまいました。


「何をしに現れた!言え!」

「いたっ!痛たたたい!痛いから、ちょっと待ってー!腕、腕ー!!」


 私兵さんは怪盗さんの腕を背中側に回して言います。

 対して怪盗さんは痛がっています。なんか可哀想です。


「それで、ここへはどの様な用件で現れたのでしょうか?」


 と、いつの間に行ったのかオーラ様がその怪盗さんの方へと足を運びました。


「え、そ、それは言えない」

「言え!」

「痛ーい!あい!言います!言いますからぁーー!!」


 見ていて凄く可哀想です。


「ねえねえ、なんで痛くしてるの?痛いのは痛いんだよ?」


 と、クリスタ君がその場へ向かって声を発しました。


「クリスタさんは優しい方ですからそう思っても不思議ではありません。ですがこの方は怪盗。人の物を盗む悪者なのです」


 オーラ様がいつになく怖い表情で語ります。

 それに話を聞く限りどうやら相当悪い方みたいです。

 ですが、クリスタ君は納得出来ないようで口を開きました。


「悪い人なら殺しちゃうのが一番ってどらるー言ってたのに、なんで殺さないの?」


 そのクリスタ君の言葉に固まる一同。そして私。


「あ、いえ。こ――」

「え!?ちょ、ちょっと待って!?私、殺されるの!?ま、まだ怪盗としてというか未だに物盗んだこと無いんだけど!?って、待って待って!まだ生きたい!せめて、せめて最後くらいはそこの美味しいご飯だけでも食べさせて!」


 と、オーラ様が何か言いかけたのですが、怪盗さんが押さえつけられた状態で猛抗議しています。


「いえ、殺しませんから。まだ、実害があった訳ではありませんし」

「ほ、本当?」

「ええ。ですから、目的は何ですか?」

「……美味しそうなご飯があったから、頂戴しようかなって」


 そう答えた怪盗さんのお腹からくぅぅううという音が鳴りました。

 どうやらご飯を盗みに来たみたいです。

 なんて人ですか!


「ご飯盗むのはダメな事なんですよ!」


 私は怪盗さんに少し強めに言います。


「ご飯は生命線なんです!それを奪うのは命を奪うのと同じ事なんですよ!」

「え?そ、そんなに?」

「勿論です!光合成が出来ない状態でご飯が食べられないのは考えられませんから!」

「へ?こ、光合成?」

「そうです!光合成です!出来ないとお腹空くんですよ!お腹空いたら辛いんですよ!」


 私は説明してあげます。

 これで分かってくれたでしょう。


「……まあ、空腹が辛いのは知ってるよ。私、もう五日も食べてないし……」


 怪盗さんは力無く言いました。

 ……五日も食べた無いですか。ふむふむ。


「何で食べてないんですか!?死にますよ!?」

「仕方ないでしょ!怪盗だから盗みでしか稼げないし、お金無いし……。それに、最後に食べたの道端の蛙だからまともなの、食べたい……」


 哀愁が漂う彼女は項垂れ、その様子に皆さん黙ってしまいました。


「じゃあ、一緒に食べようよ」


 とそんな冷めた空気の中。押さえつけられた怪盗さんにクリスタ君がしゃがんで目線を合わせるとそう提案しました。


「……良いの?」

「うん!」


 クリスタ君の言葉に怪盗さんはパァッと明るい表情になりました。

 さっきあんな言葉を発したクリスタ君とは思えませんね。


「いや、そうはいかない。こいつは怪盗だ。しかもあの大怪盗ノクターンホロウの子孫だ。これも全て演技かもしれない」


 ですけど、彼女を押さえている私兵さんはそう言い離す気配はありません。


「いや、演技じゃないから!演技だったらもっと良い嘘付くしぃ痛ーーーい!」


 抗議する怪盗さんでしたけど腕を引っ張られて悲鳴上げちゃってます。


「……離してあげてください」


 その時でした。ずっと様子を窺っていたオーラ様が発言しました。


「しかし――」

「ノクターンホロウは代々義賊と聞きます。ですから、家訓を守る方であるならやましい事をしていなければ恐れる事は無いのです。そうですよね?」

「当たり前だよ!私の家は正義の大悪党なんだから」

「そう聞いて安心しました。という訳ですので離して差し上げてください」


 オーラ様の言葉に押さえていた私兵の方は渋々彼女を解放しました。


「うう、痛かったー」


 彼女は彼女で今まで後ろで引っ張られていた腕をさすっています。

 と、そんな彼女のマントを引っ張るクリスタ君。


「こっちで一緒に食べよー!」


 そしてクリスタ君用に用意された料理?前へ。


「……何これ?」

「んとね!凄いんだよ!軽石がこんなにと煉瓦!」


 クリスタ君の説明を聞いた怪盗さんは目をぱちくりさせています。

 そして


「いやいやいやいや!食べられないでしょこれ!何の嫌がらせ!?」


 怪盗さんはクリスタ君に猛抗議しています。

 ですがクリスタ君は首を傾げました。


「美味しいよ?」

「え?いや、美味しいって……」


 クリスタ君の平然とした返答に戸惑う怪盗さん。

 そんな怪盗さんの横でクリスタ君は軽石を一つ取ると自身の口に運びました。

 そしていつものように食べます。平然と。


「……え?え?これ、軽石、なんだよね?」


 クリスタ君の用を見ていた怪盗さんが信じがたいものを見たように問いかけました。


「うん!そうだよ!」


 クリスタ君は元気に返答します。


「あ、えーと。私、普通の料理が食べたいんだけど……」

「ふぇ?」


 怪盗さんの言葉に首を傾げるクリスタ君。

 全くクリスタ君は。


「クリスタ君、怪盗さんは石食べれないんですよ?」

「そーなの?」

「そうなんですよ」

「へぇー」


 私が説明するとクリスタ君は怪盗さんに視線を向けます。


「いや、普通は石食べないと思うんだけど……」


 視線を向けられた怪盗さんはボソリそう言います。

 まあ、普通はそう思いますよね。


「怪盗さん、これどうですか?」


 私はそんな怪盗さんに私用に用意されたご飯をお皿に乗せてあげました。


「え?良いの?」

「はい。クリスタ君は私の旅の仲間ですから。クリスタ君と一緒に食事をするって事は私とも食事をする事なんですよ!」

「え?」


 私の素晴らしい論理に怪盗さんは感動したんでしょう。一瞬固まりましたが、お皿を手渡すと食器を使って綺麗にお行儀よく食していきます。

 なんか食べ方が綺麗ですね。

 そんなこんなで怪盗さんという突然の来訪者を迎えた食事会のパーティーは進んでいきます。

 そこで私は色々質問して怪盗さんについて情報を手に入れました。

 なんと怪盗さん。色々な町を転々としているらしいです。つまり、私達より旅の経験がある方なんですよね!凄いです!


「それでは皆さん」


 そして深夜になるかならないかくらいになろうとした時、オーラ様が声を出して注目を集めました。


「本日を記念して花火を打ち上げたいと思います」


 花火って何でしょうか?

 そう思っていると、オーラ様の後ろの窓から綺麗な円が空に映りました。

 それに遅れて爆発音が聞こえてきます。

 少し爆発音に驚きましたけど、それ以上に花火の綺麗さに感動を覚えます。


「わあー!凄いね!」


 と、クリスタ君が笑顔で言います。


「そうですね!綺麗ですね怪盗さん」

「……綺麗」


 私が話題を怪盗さんに振ると怪盗さんはまるで呆然とした様子で花火を眺めていました。

 ……私の話聞こえてないみたいです。

 でも、綺麗ですから仕方ないですよね。


 そうしてパーティーは花火が終わるのと同時にお開きとなりました。


「あ、そうだ。怪盗さん!」

「ん?何?」

「もし良かったら。私たちと一緒に旅しませんか?」

「へ?」


 折角仲良くなったのでそう提案した私に怪盗さんは目を丸くしました。


「もしかして、ダメでした?」

「え、いや。私、怪盗だよ?怪盗なんだよ?怪盗を旅のお供にって、冒険者の盗賊じゃないんだから」

「ダメですか?」

「いや、ダメじゃないけど。でもー」

「僕もかいとーさんと一緒に旅したーい!」


 と、渋る怪盗さんにクリスタ君が笑みを投げかけます。


「でも」

「ふふ、よろしいのでは無いですか?ノクターンホロウさん」


 と、オーラ様も会話に入ってきました。


「うーん、だけど」

「怪盗と言っても旅をしてはいけないという決まりはありませんし。それに――」


 オーラ様はそう言うと怪盗さんに何やら耳打ちをしています。

 何を話しているのか気になりますね。でも、全然聞えません!何を話しているのでしょう?


「ふふ、お二人とも。了承を得ましたよ」


 と、気になってもやもやしていたらオーラ様が言います。


「よろしくね。二人とも」


 そして怪盗さんの言葉。

 これは――。


 私はクリスタ君と目を合わせます。


「よろしくです!」

「よろしくー!」

「わわっ!?ちょっと!?」


 私達は嬉しさのあまり怪盗さんに抱きついちゃいました。

 こうして私たちの旅の仲間が増えました。

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