第5話 コーメイン坑道採掘体験

 お部屋に辿り着いた私とクリスタ君は同じベッドに倒れ込みました。

 私は久々の魔法を結構使ったりして疲れて、クリスタ君はといえば


「うー、あのごーれむ美味しそうだったのにー」


 こんな感じで布団にうつ伏せになって拗ねています。


「クリスタ君、仕方ないですよ。あのゴーレムさんは人間さん達を倒そうとした悪いゴーレムさんなんですから」

「……分かってるー。分かってるもん。でもー」


 クリスタ君はうるうるしながら訴えてきます。

 仕方ないですね。

 私はクリスタ君の頭に手を伸ばしました。


「いつまでもめそめそしてたらかっこ悪いですよ。クリスタ君はこの町を救うののお手伝いをしたんですから、胸を張りましょう!胸を!」


 私が撫でながら言うとクリスタ君は唇を尖らせつつも駄々を言うのをやめました。

 駄々は言いますけど素直で良い子ですね。本当に。

 そう思いつつ撫でていると、クリスタ君は欠伸をしたかと思うと徐々に頭を下げていき布団に顔を埋めてしまいました。

 そして規則的にゆっくり体が上下しているのを感じます。

 どうやら寝てしまったようですね。


 時刻でいえば夜ですから、仕方ないでしょう。

 それに、私もクリスタ君から欠伸がうつってしまったようです。


 明日はあの坑道で採掘ですし、今日は寝てしまいましょう。

 私はクリスタ君の頭を撫でたままゆっくりと睡魔に身を任せるのです。

 そうして、私はふかふかの布団の上で視界が暗転するのでした。



「おはようございます。レシア様、クリスタ様」


 私はそんな声で暗転した世界から戻ってきました。

 第一に私の視界に映るのは眩しい光。と、目の前で頭を下げている人の姿。

 どうやらこの同じ服装をしている人達、使用人って言うらしいです。


「ふあ、おはよーございます」


 挨拶を返した私は抱きしめたままゆっくりと起き上がります。

 ……私は何を抱きしめているのでしょう?でも抱き心地は良いですね。

 ……あ、クリスタ君ですね。これ。


 私に抱きかかえられたクリスタ君は未だに寝息を立てています。

 仕方ないですね。私はクリスタ君を抱いたまま揺らしました。


「クリスタ君、朝ですよー」

「……んう?」


 クリスタ君は薄目を開けます。そして横を見たりした後、私とクリスタ君の目が合いました。

 するとクリスタ君はにへらーと笑みを浮かべています。まだ、少し寝ぼけている感じで。


「あー、おはよー。れしあさん」

「おはようございます」


 そんなやりとりをした後、私はクリスタ君をベッドに置いて身支度をします。

 御髪を直して、服を着替えて。

 その間、クリスタ君はまたベッドに横になっていたのは言うまでもありません。

 準備が終わった私とクリスタ君は使用人さんに連れられ、とある部屋へとやって来ました。

 そこは――


「「 わあー! 」」


 ――様々な衣服のあるお部屋でした。


「クリスタ様に衣服の用意をとオーラ様からの伝言ですのでお好きな衣服を選んでくださいませ」


 使用人さんはそう言って頭を下げました。

 ……む、クリスタ君だけずるいです。でも、今、クリスタ君は最初に出会った時の布一枚だけで他の衣服は着ていないんですよね。そう考えれば、仕方ないですよね。でも、私もああいうヒラヒラした感じの服着てみたいです!

 そう思っている私の目の前でクリスタ君はうろうろと色んな服を眺めています。


「えーと、えーと」


 どうやら悩んでいるようですね!

 ふふ、ここは私の出番です!


「クリスタ君、クリスタ君は――」

「クリスタ様、こちらなどお似合いになると思いますが」

「おおー!」


 私が得意気に説明しようとした瞬間、使用人さんが服を取り出してクリスタ君に見せているじゃないですか!

 凄くふりふりしている装飾とかされているお洋服です。か、可愛い。

 って、クリスタ君それ女物――!


「どうでしょうか?」

「わー、凄いね!」


 クリスタ君は布の上からそれを着せられて大きな鏡で見てます。

 本人も嬉しそうに跳ねていますね。確かに似合っています。黒い衣服に白いヒラヒラが付いていて、髪飾りのリボンも黒で白のヒラヒラが付いていて。

 わ、私も着てみたいです!そういうヒラヒラしたの!って違います!

 それよりもちゃんと言わなければ!いえ、決してクリスタ君だけずるいとか思って言う訳じゃないですよ?本当ですよ?


「あのー」

「はい。なんでございましょうか?レシア様」

「クリスタ君、似合ってますけど男の子ですよ?」

「……え?」


 使用人さんが私の言葉にやんわりした笑顔のまま固まりました。

 なんかその表情もどんどん青くなっていっている様な?

 すると、使用人さんはクリスタ君に頭を下げました。


「申し訳ございません!クリスタ様」

「ふえ?」


 ですが、クリスタ君は使用人さんが何で謝っているのか分かっていません。

 私も良く分かりません。


「い、今すぐに別のお召し物を!」


 使用人さんは慌てて服がかかっている場所へと行ってしまいました。

 その時、私の頭でピピピンときました。なるほど。使用人さんはクリスタ君の性別を間違えてしまったため謝ったんですね。


 ですが、クリスタ君は首を傾げて使用人さんの様子を見ています。

 ふふ、仕方ないですね。

 私はそんなクリスタ君の傍へ近寄ってこの事について説明しようじゃないですか!


「クリスタ君」

「何ー?」

「なんで使用人さんが謝ったのか分かっていないようですね」


 私のこの言葉にクリスタ君は目を見開きました。


「れしあさん分かるのー!?」

「ふふ、ええ。分かりましたよ」


 私は自信満々に答えます。

 ですが全部を教えるのは教育する上でダメですから、ヒントだけ与えるのです。


「クリスタ君が着ているその服は女性物なんですよ。そして、さっき私は使用人さんにクリスタ君は男という事を伝えたんです!ふふ、ここまで言えば分かりますよね?」


 これでクリスタ君がなんと言うか。するとクリスタ君も分かった様子で「あ」と目を再度見開きました。

 どうやら分かったようですね。


「えっと、間違っちゃったからごめんなさいしたんだ!」

「そうです!当たりです!」

「わーい、当たったー!」


 私とクリスタ君がそんなやり取りをしていると使用人さんが戻ってきました。


「こ、こちらはどうでしょうか?」


 それは白い長袖のシャツと緑色のズボンといった組み合わせです。

 なんかいきなり庶民的な感じになりましたね。


「わー!着てみたい!」


 クリスタ君はそう言って目を輝かせました。

 そうしてクリスタ君はこのヒラヒラドレスを脱いでいきます。といっても脱ぎ方が分からないようで私も手伝おうとも思いましたが、私も分からないので使用人さんにお任せです。

 そうして手際よく脱がされたクリスタ君はまた布一枚です。


「クリスタ様、お手数ですがこちらのお召し物を着ていただく際に現在着ているお召し物を脱いで頂いてもよろいしいですか?」

「これ?」

「はい」


 クリスタ君が自分の着ている布を引っ張ると使用人さんは頷きます。

 するとクリスタ君は「分かったー」と言うとその布を脱ぐのでした。そして私達の目に映ったのは、様々な宝石が散りばめられたクリスタ君の生まれたままの姿です。つまり、まっぱです。確かに私に無いもの付いてますね。

 って、下着着てないんですか!?

 そんな事を思っている私の隣では使用人さんが固まっています。

 何故か真っ青ですね。


「あのー」

「ひっ!」


 私が声をかけたらそう言って体をビクッとさせていました。

 ……どうしたんでしょう?なんか怯えているような?


「どーしたの?」


 クリスタ君も不思議に思った様子でその姿のまま近寄ってきます。

 って、


「クリスタ君、下着はつけないんですか!?」

「下着?下着ってなーに?」


 どうやら下着を知らない様子です。

 そうですね。


「下着っていうのはですね、服の下に着たり穿いたりするものです。クリスタ君の場合は下着は穿くものだけですけどね」

「そーなんだ!」


 私の説明におーと目を輝かせるクリスタ君。

 ふふ、また私の知識が輝きましたね!


「あ、でも、下着って何で着るの?」

「え?」


 クリスタ君の言葉に私は固まってしまいました。

 そういえばどうしてでしょう?私は物心付いた時から既に着用していましたし、そういえば何で身につけるんでしょうね?

 あ、分かりました!


「多分、その上にお洋服を着るより安心できるからですよ!ぴったりしていますし」

「そーなの!?」


 私の言葉にクリスタ君は目をぱちくりします。

 まあ、多分なので分からないですけども。多分そうでしょう!


「ねえねえ」


 するとクリスタ君は使用人さん(未だに顔が真っ青)に言葉をかけました。


「え?あ、な、なんで、ご、ございましょうか?」


 使用人さん、震えていますね。大丈夫でしょうか?


「下着ってあるー?」


 クリスタ君は首を傾げて聞きます。


「え、ええっと、ご、ござ――」


 なんか使用人さんが大変な事になっていますね。

 あ、分かりました。これはあれですね。さっきもクリスタ君に出すお洋服間違えてましたから、間違えないようにって緊張しちゃってるんですね。

 これはちゃんと言わないと間違っちゃう可能性があることを教えてクリスタ君にちゃんと言うようにって教えなきゃです。


「クリスタ君クリスタ君。クリスタ君が穿く下着はパンツだけなので、ちゃんとパンツありますか?って聞かないとダメですよ」

「そーなの?」

「そうですよ」


 私の言葉を受けてクリスタ君は「そーなんだ」と納得し再度使用人さんに話し掛けようとしていましたけど、いつの間にか使用人さんの姿がありませんでした。

 見ればお洋服の掛かっている場所にいました。何故かこっちをチラチラ見ながら何かやっています。

 そして使用人さんは戻ってくるなりクリスタ君に震えながら一枚の畳まれた布を渡しました。

 それを広げるクリスタ君。どうやらパンツですね。


「これなーに?」

「パンツです」

「パンツ」

「そうです。パンツです」


 私がそう言うとクリスタ君はまじまじとそれを眺めました。

 そして、


「これどうすれば良いの?」


 首を傾げて聞いてきます。

 どうやら知らないようですね。まあ、下着も服も初めて見るんですから仕方ないでしょう。


「穿くんですよ?」

「さっきから言ってるけど、穿くってなーに?」


 クリスタ君は再度首を傾げました。

 そうですね……。


「穿くっていうのは、下から着る事をいうんです。って言ってもあれなので、私が最初やってあげましょう!」


 そういって私はクリスタ君の前に立ちました。

 そんな私を見てくるクリスタ君。興味津々のようですね。


「まず座ってください」

「はーい」


 そう言ってクリスタ君は床にペタリと座ります。


「それで、穿く時にはこれが上になるようにするんですよ?」


 そういって私は穴が一番大きい所を広げて教えます。それにクリスタ君は大きく頷きました。


「そしてこの穴からまず片足を入れてこの二つの穴の片方から足を通すんです」

「ほえー」


 実際にクリスタ君の足を入れて実演する私の説明に、クリスタ君は感嘆の声を出します。


「そして、後は」

「分かったー!こっちの足、こっちに入れるんでしょ?」

「おお!正解です」

「やったー!」


 クリスタ君はなんと途中で穿き方が分かったようです。

 そしてクリスタ君は下着の着方を覚えるのでした。

 と、そこで使用人さんが声をかけてきます。どうやら後は彼女がクリスタ君に着せ方を教えるそうです。

 その後は真っ青なままの使用人さんがやってくれました。その時、震えてはいませんでしたけども。

 こうしてクリスタ君は着衣の方法を覚えたのでした。


「おー!」


 クリスタ君は初めて着たお洋服一式に目を輝かせています。

 確かに普通な感じですけどクリスタ君。似合っていますね。

 すると部屋のドアをノックする音が鳴りました。


「お着替えの方は終わりましたか?」


 声からするにオーラ様ですね。


「うん!」


 クリスタ君が元気に返事を返します。


「それは良かったです。ところで、入ってもよろしいですか?」


 するとオーラ様がそんな事を言いました。


「うん!」

「大丈夫です」

「それでは、失礼しますね」


 ガチャリ。音を立ててドアが開くとオーラ様が入ってきました。

 昨日とは違って黄色の淡いドレスを着ています。素敵です。私もああいう感じの着てみたいですね。


「まあ、お似合いですよ。クリスタさん」

「えへへー。しよーにんさんに選んでもらったの!」

「ふふ、そうなのですね」


 クリスタ君の言葉にオーラ様は微笑んで答えます。そしてクリスタ君も微笑んでいます。

 と、オーラ様は顔を上げました。


「レシアさん、クリスタさん。今、お時間よろしいでしょうか?」


 オーラ様はそんな事を言ってきます。

 ……時間がよろしいってどういう意味なんでしょうか?


「うん!」


 疑問に思う私の横で元気にクリスタ君は返事をしました。

 クリスタ君、意味分かってるんですかね?


「ふふ、ありがとうございます」


 するとオーラ様はどうぞお入り下さいと私達とは逆の方。自身の後ろを向いて言いました。

 するとすると、オーラ様の向いている方向から昨日ゴーレムさんを倒した人物。

 レオンさん一行が現れました。


「レシアさん、だったね」


 と、レオンさんが言います。

 ……なんでしょう?なんか意味ありげな雰囲気でレオンさんが語りかけてきました。


「はい、そうですけど」

「昨日はありがとう」


 急にレオンさんが頭を下げました。

 その後ろにいるお二人も頭を下げてきます。

 その突然の行為にポカーンです。


 私はとりあえずクリスタ君を見ます。クリスタ君も私を見ました。

 そして、その視線を私達は同時にレオンさん一行に向けて首を傾げます。


 何かお礼を言われるような事があった記憶は無いんですけども……。

 そんな事を考えているとレオンさんが口を開きました。


「昨日は本当に危なかったんだ。君達が来てくれなかったら、今頃僕達、いや僕達だけでなく、この町の人達、言ってしまえば世界中の人達にも被害が出ていたかもしれないんだ」


 何を言ってるんでしょう?

 私達、そんな事を止める手助け的な事しましたっけ?昨日はゴーレムさん倒しただけですけど。主にクリスタ君が。

 そんなクリスタ君を見るとクリスタ君も私を見てきました。

 クリスタ君も何を言われているのか分かっていない様子です。と、この瞬間、私の頭がレオンさんが言ったことを理解しました。


 多分、昨日最後に戦った(?)ゴーレムさんがそれ程の力を持っていたという事ですね!それで、危なかった所に私達参戦したんですね。ふむふむ。

 なるほどなるほど。……え?

 ちょっと待って下さい。私達、そんなの相手にしてたんですか!?

 キングゴーレムって名前だと思われるあのゴーレムさん、そんなに強いんですか!?

 あわわわわ!

 そう考えると、私、足震えてきちゃいましたっ!

 で、ですけどこれがクリスタ君に伝わらないようにしないとっ!

 彼も怖がったら可哀想です!この気持ちは私だけの中に閉まっておきましょう。そうしましょう!


「それで、君達はこれから冒険をするんだよね?」

「え?あ、はい」


 私は頑張って悟られないように返答します!返答しますよォ!


「あれ?僕達するの旅じゃないの?」

「あ、そうです。旅ですッ!」


 いけませんいけません。緊張で間違えるところでした。


「え?あ、うん。そうだったね。それでなんだけど、助けてくれたお礼っていうのには全く当てはまらないかもしれないけど、荷物が増えると思うからこのバッグを貰って欲しい」


 するとレオンさんは私達に小さなバッグを手渡してきた。

 それは私が腰に下げている小物入れ用のバッグより少し大きいくらいの物でした。

 何でしょうこの小型のバッグ。見た目は普通ですけど不思議な感じがしますね。


「これなにー?」


「これは魔法で容量が拡張されているバッグなんだ。最大で馬車一台分の物が入る物で、入れた物の重量も魔法で軽減されて最大詰め込んでもこのバッグより少し重いかなくらいにしか感じない物なんだ」


「へぇー?」


 あ、これ。クリスタ君理解していませんね。

 首を傾げて返答していますから。まあ、私は言われて凄いものだと分かりましたよ。

 とても凄い物です。うん、とても凄い物ですよ!

 いえ、私、理解してますからね!?えーと、つまり――。


 そんな時、私のお腹の虫が鳴きました。

 瞬間、皆さんの注目が集まります。

 うう、恥ずかしい……。

 思えば今日、一回も外に出ていないので光合成できていませんでした。こんなに天気良いのにッ!

 ……お腹空きました。


「そういえば皆さん朝食まだでしたわね」


 と、ここでオーラ様が言いました。

 そうしてオーラ様に誘われて私達は朝食がくるというお部屋に案内されました。

 まあ、昨日の夕食をご馳走になったお部屋なんですけどね。

 あ、この部屋の窓側。日の光入ってきてますね。

 とても、行きたいです!

 プリーズ日光です!


「では皆さん、私は少し厨房に用事がありますのでごゆっくりしていてくださいね?」


 そん事を考えていたらオーラ様がそう言って出て行ってしまいました。

 するとレオンさん一行は席に着きます。迷わず窓側に。

 って、これ私とクリスタ君必然的に日光がギリギリ当たらない壁側の席じゃないですかー!

 これは席を譲って――。


 そんな事を思っていたらクリスタ君が廊下側の席に座っちゃったじゃないですか!

 私は察します。これは、ここからは挽回できないとッ!むむう……。


「座らないのかい?」


 レオンさんが私に言ってきました。


「むむむう、座りますようぅ」

「?」


 私はしぶしぶクリスタ君の隣の席に腰を下ろします。

 と、向かい側にローブを着ている人が座っていました。その人は私の方をジッと見ています。どうかしたんでしょうか?

 それにしてもこの方、ローブのフードを被っていますから顔以外良く見えないですね。

 私の隣、そこにいるクリスタ君の向かい側はレオンさんですね。

 鎧の人の前には誰もいません。少し寂しそうにも感じます。


「あなた、エルフ?」

「へ?」


 と、目の前のローブの人が声をかけてきました。

 多分私の耳が尖っているからそう言ったのでしょう!

 ふふ。ですけど、私、エルフじゃないんですよ。


「エルフじゃないですよ。アルラウネとエルフのハーフです」

「……なかなか奇妙な組み合わせね」


 自信満々に答えたら奇妙って言われました!

 奇妙って!奇妙って言われました!


「アルラウネとエルフのハーフ。本当に奇妙、というか珍しいね」


 ショックを受けている私に更にレオンさんがそんな事を言いました。

 ……私、奇妙なんですかね?


「あうあうねってきみょーなの?」


 と、更に更にクリスタ君までもが奇妙って言ってます!

 奇妙じゃないですよ!お母さんは優しくて強かったんですから!


「いや、かなり珍しいって事で言ってるだけだ。ハーフエルフって言ったら人間との混血が大半だからな」


 鎧の人が説明しています。

 つまり、変な意味での奇妙じゃないらしいです。でも、だったら奇妙って言わないで欲しかったですッ!。珍しいって言ってくださいよ!


「それに最近は数が減っている草精アルラウネ族との混血だからな。かなり珍しい」


 更に鎧の人が言いました。つまり私は珍しいって事ですね。


「そういえば、君。クリスタ君だったね。君の種族、えーと、岩食族ロックイーターだったかな?その種族の事は聞いたことが無いんだけどどんな種族なんだい?」


 と、レオンさんがクリスタ君に話題を振りました。

 だけどクリスタ君は首を傾げます。


「どんなってー?」

「えっと、種族的特長とか、いや、そうだな。他の種族と違うところとかって事だね」

「違うところー?」


 クリスタ君はそう言って唇を尖らせ首を傾げます。

 と、急にハッとした表情に変わりました。

 というか「あ」って言ってますし何か思い出したようですね。


「んーとね。おかーさんが言ってたんだけど、僕達、まほー使えないんだって。まほー使えるのお姫様だけなんだって」


 クリスタ君がそんな事を言いました。

 魔法が使えないんですか。そういう種族もいるんですね~。

 ……え?


「クリスタ君、魔法使えないんですか!?」

「うん!」

「じゃあ、あのブレイクって一体なんですか?」

「ぶれいくはぶれいくだよ?」


 どうやらあれは魔法じゃなくてブレイクなんだそうです。

 つまりブレイクっていう魔法じゃなくブレイクっていうブレイクだそうですね。

 うん、全く意味が分かりませんね。


「もしかして種族特技ってやつかな?」


 するとレオンさんが口に手を当てて言いました。

 種族特技?何でしょうそれ。

 まあ、私が疑問に思ってるという事は――


「種族特技ってなーに?」


 早速、クリスタ君が聞いています。


「そうだね。分かりやすく言えば、ドラゴンのブレスとかかな?あれは実は魔力消費していない技なんだ。そういうのを種族特技って言うんだよ。サキュバスの魅了や吸血鬼のドレインもそれに当たるものだから種族によって様々だね」


 レオンさんが説明します。

 何となく分かったような分からないような?サキュバスって何でしょう?

 吸血鬼やドラゴンはお家にあった本で知っていますけど。


「へー!じゃあ、どらるーがいっつも口から出してたのもそうなんだ!」


 するとクリスタ君が目を輝かせて言いました。

 どらるーってなんでしょう?

 いえ、この場合は『誰?』が正しいんでしょうけど。


「ドラルー?それは誰だい?」

「んーとね、僕の友達ー」


 レオンさんの問いに満面の笑みを浮かべるクリスタ君。

 クリスタ君友人いたんですか!?

 あ。まあ、私と出会う前に溶岩に流されて来たらしいですから、地元の友達なんでしょう。

 ……わ、私にも地元の知り合いはタイボクさんいますから!

 ゆ、友人かは分からないですけど……。


「その友人は一緒じゃないのかい?」

「うん!」


 問いにクリスタ君は元気に答えます。

 するとレオンさんが私の方を見ました。


「もしかしてその、クリスタ君の友人さんって、地上に出てきたゴーレムに?」


 何故か申し訳なさそうに言ってきました。

 いや、私に聞かれても分からないんですけど。そんな方にお会いしてませんし。


「えーと、私も初めて聞きました」

「え?彼と一緒にいたとかじゃなかったのかい?」


 私の言葉にキョトンとするレオンさん。

 そう言われても。


「クリスタ君とは旅に出ようとした日に出会ったばっかりですから」

「その時には既に一人だったのか?」

「そうですね。その時には一人でしたよ?」

「そうなのか」


 私の言葉を受けて考え込む姿勢をとろうとしたレオンさんにクリスタ君が話し出しました。


「だって、僕、お昼寝してたらうっかり溶岩に落ちちゃって流されちゃったんだもん。それで起きた時に溶岩の中だったから上に向かっていっぱいぶれいくして出たの!」

「あー、なるほど。そうなの――え?」


 なんか面白い顔をしてレオンさんがクリスタ君を見ています。

 そんなクリスタ君はレオンさんを見ていました。


「今、溶岩に流されてって……。いや、色々言いたい事はあるけど。クリスタ君、君はどこから来たんだい?」

「えっとねー。火山地帯っていうところ」

「火山地帯?」

「うん!だからどらるーに何も言わないで来ちゃったの」


 クリスタ君は答えます。

 するとレオンさんの表情が引きつりました。

 何かそんな驚くような事があったのでしょうか?

 私は考えます。けど、良く分かりませんね。

 あ、もしかして。溶岩は火山地帯の川みたいなのってクリスタ君が言ってましたから川に流されて良く無事だったなって思ってるんですねきっと。


「あ、火山地帯って麓の町の事かな?」

「違うよー?火山地帯だよ!」

「いや、あそこには恐ろしい怪物がいるはずだから暮らすなんて。特にヴォルドラールとか――」

「ふえ?どらるー知ってるの?」

「え?」


 レオンさんが固まりました。

 というより、レオンさん一行さん全員固まっていますね。

 どうしたんでしょうね?

 クリスタ君はクリスタ君で首を傾げて見ています。まあ、私も首を傾げていましたけど。


「火山地帯のヴォルドラール。極炎竜王の名を持つドラゴンですわね」


 するとそこにそんな声が聞こえてきました。

 見ればいつの間に来たのでしょうか?オーラ様がドアの前に。


「極炎りゅーおー?どらるーはどらるーだよ?」

「ふふ、そうですわね。これはどらるーさんの称号みたいなものですわ」


 オーラ様はそう言いながら私達の元へと歩いてきました。

 そしてクリスタ君の隣へと座ります。

 それと同時に扉が開き料理が運ばれてきました。

 様々な料理が私達の前に並べられていきます。ああ、匂いが。美味しそうです。

 今日はまだ光合成してませんからお腹が捻れます。ああ、早く食べたいです。

 そんな私の横ではゴリッという音。


 あ、またクリスタ君は!


 私は再度止めようとしましたけど、私が止まってしまいました。

 クリスタ君、なんか四角い物食べてますね。何でしょう?大きさ的には両手ほどある明るい茶色の物ですけど。


「これ美味しい!なにこれー!」


 クリスタ君もどうやら初めて食べる物のようで目を輝かせてオーラ様に問いました。

 対してオーラ様は微笑んで答えました。


煉瓦れんがですわ」

「煉瓦っていうんだ!僕これ好き!」


 オーラ様にそう返答したクリスタ君はゴリゴリボリボリと食べて行きます。

 ゴクリ。……見てるとなんだか美味しそうですね。


「え?れ、煉瓦!?あの、なぜ彼に煉瓦なんて」


 と、レオンさんが驚いた様子で聞いてきました。


「ふふ。この子、石を食べるそうなので少し趣向を凝らしてみたんです。昨日は軽石だけでしたので」

「文字通り石を食べる種族なんですか」

「そうみたいです。私も昨日それを知りましたし」


 オーラ様は少し困ったような表情で言いました。

 でも、昨日の悲しそうな、無理をしているような表情と比べれば全然マシな表情です。


「ただ、平然と煉瓦を食べている姿を見せられていると、それが本当に煉瓦か怪しく思えてしまうな」

「そうですね。用意させたのは私ですけど、私もそう思いますわ」


 と、鎧の人とオーラ様がそんな風に会話をしていました。

 つまりクリスタ君が食べているものは、石なんですね。

 美味しそうなのに。美味しそうなのに。

 あ、ダメです。私も我慢できませんよこれは!

 でも、いただきますしてから。いただきますしてからですー!


 そう思い周りを見ると、


 既に皆さん食べ始めているじゃないですか!

 ええ、いただきますしないんですか!?うう、なら、分かりました。ここは私もいかせていただきます!


 私は精神統一してから食事にありつきます。


 ―――んー、美味しいです!えへへ~


 最初に頂いたのは白い三角のものに食材を挟んでいる三角のモノです。

 美味しいです~。食べて分かりましたけど、この外側のものパンみたいです。でも、私の知ってるパンと違って柔らかいです~。んふふ~。

 次に黄色いスープです。何でしょうこれは?

 浮いている黄色い粒々も気になりますね。

 とりあえず一口。


 ―――ッ!


 なんですかこれ!?ほんのり甘くて美味しいです!

 そういえばこの味は、たまにお父さんが取ってきてくれたコーンって呼ばれるものの味みたいですね。ふむふむ。

 は!?もしかして、こ、これはコーンのスープですか!?


 私は目の前にあるそれについて考察して衝撃を受けました。

 あの甘くて美味しいのが更に美味しくなるなんて!

 知りたいですね。どうやって作るんでしょう?


「ねえねえ、煉瓦無いのー?」


 と、私が考えていたら私の隣でクリスタ君がオーラ様にそんな事を言っていました。


「ごめんなさい。あまり用意できなかったんです」

「そーなんだ。あ、んーとね。煉瓦ありがとーございました」


 クリスタ君は少し残念そうにしていましたけど、オーラ様にそう言って頭を下げました。


「いえいえ」


 対してオーラ様も頭を下げます。

 その様子に、ふふ。やっぱりほっこりしますね~。

 って、また私、クリスタ君に先を越されてしまった気がします!


「ところで君達はこれからどうするんだい?」


 突然レオンさんが問いかけてきました。

 どうやら私達の今後の予定が気になるようですね。ふむふむ。


「私達、昨日の坑道で採掘してから次の町に行こうって思ってるくらいですね。ね、クリスタ君」

「うん!」

「そうか。良い鉱石が採れると良いね」


 レオンさんはそう言って優しい笑みを浮かべました。

 まあ、そんなこんなで朝食が進んで食べ終えた頃に、勇者さん一行がもうこれから町を後にするらしい事を聞いて簡単に挨拶を交わして分かれます。

 そういえば、レオンさんと一緒にいる人達の名前聞くの忘れてましたね。

 ですけど、もう行ってしまったので聞けないですから、また出会った時聞く事にしましょう。


 気を取り直して!

 私とクリスタ君はついに初体験です。

 ズボンと普通の服といういつもと違う格好のオーラ様に連れられて私達は昨日、ゴーレムさんと戦った坑道へと入りました。そこで知ったんですけど、採掘にはこの小さなハンマーと先端が平たくなっている道具を使うそうです。


「差し出がましいようですけども、レシアさんは鉱石と普通の石との見分け方等は分かりますか?」


 と、オーラ様が話しかけてきました。

 そう言えば全く分からないですね。


「初めてなので分からないですね」

「それはそうですね。それでは簡単な見分け方法から教えていきますね?」


 オーラ様はそう微笑むと石を二種類取り出しました。


「右手にあるのがここの坑道を形成している岩肌で、こちらの光沢のある黒い石がこの坑道でよく採掘される鉄鉱石です。この他にも様々な鉱石が採掘されるので何か気になったら聞いてくださいね?」

「はい。ありがとうございます」


 私はお礼を言い二つの違いをよく見て覚えます。覚えますけど、よく分かりませんね!

 まあ、でも、なるようになるでしょう!じっくり見た感じ黒いけど光っている石でしたし。

 そしてオーラ様に教えられた私は早速掘ってみるのです!

 そう意気込む私は岩肌をハンマーとこの先端が平たい道具を使って削る私。削り落ちた岩を拾い食すクリスタ君。

 そして削る事数分。

 全く見えないです。黒く光る石。

 少し意気消沈している私の隣ではクリスタ君がボリボリゴリゴリ食べていました。

 ……落ちた石の破片で嬉しそうにしていて、ちょっと羨ましいですね。

 するとクリスタ君が顔を上げて言いました。


「ここの石、美味しいね!」


 とても良い笑顔で感想を言っていますね。

 何か少し主旨ずれている気もしますけど。

 対してオーラ様は


「ふふ、そうですか」


 クリスタ君に笑みを浮かべていました。

 何となくほんわかしますね。

 そんな二人のやり取りを見ながらやっていたらハンマーを振るっていた手に固い感触が伝わってきました。

 見れば何やら輝いている様にも見えますね。再度叩いてみます。

 鈍い音がして手が痺れます。何でしょう、これ?


「あのー、オーラ様。何かに当たったんですけど、見ていただいても良いですか?」

「はい」


 そう言い私の元にやってくるオーラ様。

 私は少し退いて見ていただきました。


「まあ、これは!まさか採掘初めてで見つけるとは凄いですね!」


 オーラ様はそう言って少し驚いたような表情をしました。

 なんでしょう?何か私凄いの見つけてしまったようです。


「それで、あの、これは何でしょうか?」

「硬金と呼ばれる鉱石です。見た目は金の様ですけど金とは比べものにならない硬度や強度を誇ります。あまり産出しない物ですけども、ここで見つけるなんて凄いです」


 目を輝かせながら語るオーラ様。

 えっと、つまり。どういう事なのでしょうか?

 まあ、オーラ様の雰囲気からすると珍しい物なのでしょうけど。


「とりあえず、掘るのであれば、全体を掘り出してみてくださいね。直接それで掘ると逆に道具が欠けてしまうほどですから」


 オーラ様はそう言って微笑みました。

 なるほど。それじゃあ、頑張りましょうかね!

 意気込む私。

 と、そんな私の耳にクリスタ君の声が聞こえてきました。


「ぶれいく」


 すると昨日も聞いた音を響かせ岩肌が爆発しました。その音に坑道内にいた人達がビックリしています。まあ、仕方ないですよね。結構、響きますし。


「って、クリスタ君!何してるんですか!?」

「ふえ?」

「採掘はこの道具を使うって言われたじゃないですか!」


 私はそう言って手に持った道具を見せました。

 それにクリスタ君はビックリした様子です。


「あー!そーだったー!うう、ここから美味しい匂いがしたからやっちゃったぁ。ごめんなさい」


 しゅんとするクリスタ君。どうやら忘れていたようですね。

 いえ、これはいつもの癖なのかもしれませんけど。


「ま、まあ、採掘は掘れれば大丈夫ですから」


 そんな私達の様子を見ていたオーラ様がそう言います。

 なんか気を使ってくれているように感じますね。

 クリスタ君、しっかりしてくださいね?


「ところで、美味しそうな匂いってどんなにおいなんですか?」

「んとね、これ」


 クリスタ君が指差す先。そこには銀色に輝く物が見えました。

 とっても綺麗です。何でしょうこれ?


「え?こ、これ、み、ミスリル鉱石!?」


 なんだかオーラ様が驚いた声をあげました。

 ミスリル鉱石って何でしょうかね?

 というか、その声に坑道にいた人達が反応します。


「ミスリルだって!?」

「ミスリルが出たらしいぞ!」


 そんな声が至る所から聞こえてきて、人が集まってきました。

 急に人が増えて少し怖いですね。クリスタ君なんてその人だかりの中心でおろおろしていますし。


「お、オーラ様。本当にミスリルなんですか?」


 と、その人だかりの中からそんな声が聞こえてきました。


「え、ええ。間違いでないと思います。原石でありながらこの輝きを放つ銀はそれしか考えられません」

「「「 おおー! 」」」


 聞こえてきたオーラ様の声に歓声が上がりました。

 クリスタ君はその歓声にびっくりしていますけど。そんなクリスタ君と目が合いました。

 怯えたリスみたいになっています。クリスタ君、うるうるしています。

 仕方ないですね。


「ちょっと、すいませーん」


 私はそう言って人の群れに入っていきます。

 まあ、人の他にも耳が尖ってたり、額から角が生えていたりする方もいたので人以外の方もいるようですけど。

 私は半ばかき分けつつクリスタ君の元へと辿り着きました。

 クリスタ君はすぐに駆け寄ってきて私の腰辺りに抱きつきます。その力的に怖かったみたいですね。

 とりあえず人の群れから離脱しましょう。

 私はクリスタ君を連れて、またかき分けながら人混みの外へ。

 そして視界を再度オーラ様へと向けました。

 オーラ様達はクリスタ君が見つけた鉱石の方しか見ておらず、興味も完全にそこに集まっています。


「少し削って範囲を確かめましょうか」


 すると、オーラ様が私が使っていた道具と同じ物を持って岩を削り始めました。周りの人も数人同じように削り始めます。

 慣れた手つきで徐々に削られていく岩肌。

 そして、その銀色に光る原石の全貌が見えました。


「こんなに広い範囲にミスリルが……」


 削り出されたその岩肌は結構広くて、どれくらいでしょうね?

 私とクリスタ君が両手を広げたくらいでは足りないくらい広いですね。

 と、ボーっと眺めている私の服をクリスタ君がぎゅっと握ってきました。

 震えていますけど、怖いって感じでは無い気がします。どうしたんでしょうか?


「どうしました?」

「あれ美味しそうだったのに」


 クリスタ君はオーラ様達が見ているミスリルという鉱石がある岩肌を見て言いました。


「クリスタ君、ミスリル食べたいんですか?」

「ううん。あのキラキラしてるのの周りー」


 クリスタ君はしゅんとしながら言いました。

 どうやらクリスタ君的にはミスリルが美味しそうだったという訳ではなくその周りの岩が美味しそうに感じていたそうです。

 私にはよく分かりませんけど。

 そもそもミスリルもなんだか分からないですし。

 とりあえず、私は硬金を掘り出す作業へと戻りましょう。

 ですけど掘るの大変そうですね。あ、そうです!


「クリスタ君、お手伝いしてもらっても良いですか?」

「何をー?」

「私の見つけたこの鉱石を掘り出すのをです。今はこれを使ってくださいね?」


 私はそうして道具を見せました。

 クリスタ君は頷きましたけど、チラチラと後方の人だかりを見ています。


「さ、クリスタ君。お願いしますね!」

「うん……」


 私はクリスタ君を少し強引ですけど誘って、この道具を使って硬金の周りの岩肌を削り始めました。

 クリスタ君は最初、名残惜しそうにあの現場を見ていましたけど、今は削った岩を食べながらせっせとやっています。

 正直、お行儀が悪い気がしますけど、クリスタ君の気分が晴れるなら良いですかね。

 ただ、クリスタ君のやってるところ全然進んでません。まあ、このくらいの子なら余り進まなくても無理は無い気はします。

 ハンマーも重たい感じで振っていますし。


 そうして隣が盛り上がっている間。私とクリスタ君はせっせと頑張って両手くらいの大きさの硬金の原石を手に入れました!


「結構重いですね。これ」


 私は始めて持った鉱石の重さに素直な感想を述べました。

 でも、苦労した甲斐もあってか見つけたときより輝いているように見えますね。

 そうしげしげと見ている私の横でクリスタ君がせっせとレオンさんから頂いたバッグに石を詰めています。

 あ、そう言えば。


「クリスタ君、ベルト要らないですか?」

「べると?」

「そうです。ベルトですよ。これがあればこんな風に下げておけますから便利ですよ」


 私はそう言って自分のベルトを見せました。

 それにクリスタ君は「おおー!」と感心しているようです。


「べると、欲しい!」


 そしてクリスタ君は目を輝かせて言いました。


「なら、私の予備のベルトをあげますね」

「やったー!」


 私は切れた時用の予備のベルトを取り出してクリスタ君の腰の辺りに巻いてあげました。

 そしてクリスタ君のバッグをそこにかけます。


「わあー!ありがとー!」


 クリスタ君が満面の笑みでお礼を言います。

 お礼を言われると嬉しいですね。

 そんなクリスタ君はベルトとバッグ新しい装備を何度も見ています。本当に嬉しいみたいです。


「すいません。お二人とも」


 と、そんなクリスタ君の様子を見ていたらオーラ様が私達の元にやって来ました。


「興奮してしまいお二人のご案内をおざなりにしてしまって」

「いえ、大丈夫ですよ。それより、見てください!こんな感じに採れました!」


 私はすまなさそうにしているオーラ様に採れた硬金を見せます。


「まあ!レシアさん初めてなんですよね?凄く綺麗に採れていますわ」


 オーラ様はそう言って褒めてくれました。

 嬉しいですね。


「ねえねえ、みするりは?」


 と、クリスタ君が言いました。

 多分、ミスリルの事を聞きたいのでしょう。


「その事なんですけど」


 するとオーラ様は少し申し訳なさそうな表情をしました。


「ここの坑道で採れた物は自由に持って行って良いと言いましたけど、クリスタさん」

「なにー?」

「あのミスリル、見つけたのは貴方ですから貴方が持って行く権限があります」

「ふえ?」


 クリスタ君がオーラ様を見てキョトンとしていると、突然、オーラ様が頭を下げました。


「おこがましいのは分かっています。ですけど、私にあのミスリルを譲ってくださいませんでしょうか!?」

「うん。いーよー」


 凄く真剣な感じにオーラ様が言っているのに対してクリスタ君は即決で軽く言いました。

 そのせいでオーラ様が顔を上げて「え?」と言ったまま固まってしましました。

 まあ、元々クリスタ君、ミスリルが欲しい訳じゃないですしね。


「ほ、本当によろしいのですか?!」

「うん!煉瓦美味しかったから、僕からお礼!」


 クリスタ君はそう言って微笑みます。

 でも、その言葉を聞いたオーラ様は今度、複雑そうな表情をしました。


「あ、でも、みするりの周りの石欲しい!」


 と、クリスタ君は思い出したように言いました。

 クリスタ君が本当に欲しがってたの周りの石でしたから。


「よ、よろしいのですか?このミスリルと煉瓦やミスリル鉱に付着している周りの石では天と地の差ほどの価値が発生しますけれど……」


 オーラ様がそう言います。

 でも、クリスタ君は「うん!」と元気に答えました。


「クリスタさん、ありがとうございます」


 そんなクリスタ君にオーラ様はまた頭を下げました。


「僕もね!色々ありがとーございます」


 そんなオーラ様にクリスタ君は深々と頭を下げます。そして同時に顔を上げる二人は互いに笑みを浮かべていました。

 って、また私会話の、輪の中に入っていませんよね!これ!


「やったー!れしあさん、僕石もらえるってー!」


 と、クリスタ君が報告してきました。

 聞いてたから知ってますけども。でも、クリスタ君は嬉しそうに私の手を握ってぴょんぴょんしています。


「よかったですね!」

「うん!」

「ですけど、この量を掘り出さなければならないので早くても数日は要しますけれど」


 喜んでいたらオーラ様が言いにくそうにしながらそんな事を言いました。

 その視線は先程から人がいるミスリルの方へと向いています。

 あー、確かに私のとは違って範囲広いですもんね。大変そうです。

 まあ、ですけど別に予定があるわけでは無いのでしばらく町にいて、クリスタ君が欲しいって言った物が手に入ってからでも大丈夫ですし。


「僕に任せてー!」


 そんな事を思っていたらクリスタ君はそう言って、たったったと走って行きました。

 人の群れをかき分けかき分け進んでいます。

 そしてクリスタ君はミスリルの元へとたどり着きました。

 あ、なるほど。あれをやるんですねクリスタ君。


「ぶれいく!」


 私が彼の行動を予想すると思ったとおりの言葉が聞こえて爆発音が響き渡ったのは言うまでもありませんでした。

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