第4話 コーメイン坑道

「はぁ……」


 すっかり暗くなった町。

 所々に見える明かりを見ながら私はため息をつきました。


 それはさっきの事が原因です。

 私の未経験さと無力さを改めて確認した事で少し落ち込んでいるのです。

 それに、昔の切ない記憶が蘇ってしまった事も相まって。


「どーしたの?」


 そんな私の隣にクリスタ君がやって来ました。

 見ればさっき用意されていた食事の時に出されていた軽石を手に持ってボリボリ食べています。

 この子は何も考えていないように感じて、この時は少しイラッとしてしまいました。


「なんでもありませんよ」


 そのため、少し冷たく接してしまいました。

 でも、仕方ないですよね。私達の知り合いがあんな表情をしていたのを目の当たりにしたんですし。

 それでものほほんとしている彼ですから。いえ、彼は別に悪くないです。彼は見た訳では無いですから。

 それに、私が弱いのがいけないんです……。

 すると私の言葉にクリスタ君はただ「ふーん」と返答してきます。

 ふーんって――


「あ、そうだ」


 私が何かを言う前にクリスタ君が何かを思い出したように言います。

 正直、今は彼のこの声も聞きたくないと思ってしまいました。


「明日、坑道に行くんだよね?」


 ですけれど彼はそのまま聞いてきます。

 ……。


「その予定ですけど」

「場所分かるー?」

「知らないですよ。明日案内していただく予定ですから」


 私はベッドに腰掛けたままボーっと町を見下ろしています。

 明日は坑道に案内してくれる。

 それはオーラ様彼女と約束した事。

 そんな彼女は今、キングゴーレムとかいう魔物と戦っているんでしょう。


 私はそう思いながら町を見ています。

 たった一日。それも数刻話しただけの相手なのに穴がぽっかり開いた気分です。それに、あんな表情を見せられたら。


「じゃあ、ちょっと僕聞いてくるねー」

「はい?」


 考え事をしていた私の耳にそんな声が聞こえてきました。

 見れば、もう既にその声の主は部屋のドアを開けています。

 正直、勝手にしなさい。そう思う私がいますけど、彼が周りに心配をかけないようにと思う私の方が強かったようで彼を抱き止めます。


「ダメですよ?今、夜なんですから。皆さん困りますから」

「でもでも、事前じょーほーはじゅーよーなんだよ?」


 私の言葉にクリスタ君がそう答えます。

 全く、事前情報って言っても明日案内してくれるって言ってましたから、別に坑道の場所なんて今聞かなくても――


 ……坑道?


 私はその言葉に何かが引っかかりました。

 それにクリスタ君に言い聞かせるために少し冷静になった私の頭に浮かんだ言葉がありました。

 そう。それはさっき聞いた坑道にゴーレムが出たという言葉。


「それに僕達は旅人でじゆーなんでしょ?僕、早く坑道にある石食べてみたいの!」


 クリスタ君はそう言って私の方を向きます。

 ですけど、何でしょう?この違和感。こんなに真面目な表情。

 ……彼は本当に石が食べたいだけなんでしょうか?


 それに、そうですね。私達は自由な旅人なんです。

 断られても、別の理由で来た事にすれば良いんですよね!


 何となく、クリスタ君の言葉で私も前向きになれた気がします。

 そうと決まればッ!


「クリスタ君、私も実は行ってみたかったんですよ。それでですね一つお願いできますか?」


 私はそう言ってクリスタ君に耳打ちします。

 そうして私とクリスタ君はこの部屋を待ち合わせとして分かれました。

 まあ、クリスタ君には場所を聞きに行ってもらって、私は準備って感じですね!

 そうです!採掘に行くという準備です!


 ……採掘の準備って何すれば良いんでしょう?


 考えます。考えますけど、全然見当がつきません。とりあえず、これは必要でしょう。

 そう考え私はバッグに付けていた大剣の紐を解き床に置きました。

 そしてとりあえず、短剣も装着です。


 えっと、それから――。水と水と、――水ですね。

 私は必要だと思い、今日出発した際に持ってきた森の水が入った瓶を持っていきます。この水、美味しいんですよ。澄んでで美味しいお水です。


 それに何か拾った時用に小さな小物入れも装着です。

 ふふ、準備完了ですね!

 私は腰のベルトに装着した物を見て再確認です。


「聞いて来たよー!」


 するとクリスタ君が戻ってきました。

 ふふ、準備万端ですね!


「じゃあ、クリスタ君。行きましょうか!」

「うん!」


 決意を固めた私とクリスタ君は互いに頷きあって準備を整えました。

 私はバッグを置いて背中に二本の大剣を背負い、クリスタ君と手を繋いでこの建物を後にします。

 この建物で働いている人達にどこに行かれるのか聞かれたので、明日の採掘の為の準備に行くと言って。

 そうして外に出ると夜の風が吹いていました。少し気持ち良いですね。月もあんなに綺麗に見えます。


「それでどう行けば良いんでしょう?」


 私はクリスタ君に問います。


「んーとね、噴水のところを曲がるんだって!」

「なるほど」


 とりあえず真っ直ぐじゃないそうですね!ふんふん。

 そういう事で私とクリスタ君はとりあえず噴水のある方へと向かっていきます。

 そこは昼ほどではありませんけど、未だに人が行き交う姿が見受けられました。


「坑道でなんかあったらしいな」

「ああ、勇者一行とオーラ様が鎧を着て行く姿を見たからただ事じゃないなありゃ」


 そんな話が聞こえてきました。

 オーラ様、鎧着れるんですかね?

 あ、それよりも、これからどうすれば良いんでしょう?


 私が左右を見ると同じような道が左右にありました。


「クリスタ君、どっちに曲がれば良いんですかね?」

「えっとね……こっち!」


 するとクリスタ君はキョロキョロして左側の道を指し示しました。

 そっちですね!


 私はクリスタ君を抱えると走り出します。

 クリスタ君。小さいから歩くのも走るのも遅いですから。


 そうして指された方へと進むと大勢の人が見えました。

 見れば皆さん門の所に立っていた人と同じ服装をしています。


「止まれ!」


 そこに差し掛かかるとそのうちの一人が声をかけてきました。

 とても険しい表情で。


「何でしょうか?」

「今、坑道は閉鎖中だ。すぐに戻れ!」


 その人は私に強い口調で言います。

 ですけど私も引く事なんて出来ません!何故なら!


「私、今すぐ坑道に入りたいんですけど」

「は?聞いてなかったのか。今、坑道は閉鎖中だと言っているだろう!」


 私の言葉にその人は更に強く言います。

 正直、怒られていて怖いです。でも、ここで退く訳には行きません!

 ならばここは強行突破で!

 と、私がクリスタ君を下ろして剣に手をかけた時でした。


「れしあさん、帰ろー?」


 服を引っ張られました。見れば、クリスタ君です。


「な、何を言ってるんです――」

「シーッ」


 その言葉に抗議をしようとしたらクリスタ君が口に人差し指を当ててそんな音を出しました。


「そうだ。坊主の言うとおりここは帰りな」


 すると男が続いて言います。

 何がしたいんですかクリスタ君!もう!

 これなら一人で来たほうが良かったです。


 そう思いつつもクリスタ君に引っ張られて私は来た道を戻――

 るかと思ったら、急にクリスタ君が横に引っ張ってきました。

 そこは丁度、岩がある場所です。


 そこに私を連れてくるとクリスタ君はしゃがみました。

 するとちょいちょいとクリスタ君が手で招きます。


「何ですか?」

「ねえねえ、れしあさん。おねんねさせるまほー使える?」

「え?」


 クリスタ君の言葉に私は一瞬戸惑いましたが、そこで私は理解しました。

 なるほど。眠らせてから通るんですね!

 私は納得して考えます。……そんな魔法使えませんね。


「使えません」

「えー」


 完全に意気消沈です。どうしましょう?


「ご、ゴーレムだ!」


 と考えているとそんな声が聞こえました。

 見ればさっきの人達の後ろの穴から動く岩の塊が出て来ています。その大きさはあの人達より遥かに大きいです!それが三体。ズッシズッシのっしのっしやって来ています。

 あ、あれがゴーレムですか!


「あわわ、ど、どうしましょう!強そうですよクリスタ君!」


 私は慌ててクリスタ君を庇おうと掴みます。決して怖い訳ではありませんよ?

 守るためで――


 ズズンッ!


 やっぱり怖いです!お家に帰りたいです!

 そう思うのも無理ありませんよね。だ、だってあのゴーレムさん、拳を地面に叩きつけたと思ったら地面がへこんで割れてるんですから!

 あそこに立っている人達も一目散に距離を取っていますし。


「ひ、怯むな!こいつ等が町に出れば甚大な被害が出る!ここで食い止めるんだ!」


 私がクリスタ君を抱きながら見ていると、門の所で私達に声をかけてきた人が言いました。

 ですけど、凄く震えています。分かります。怖いですよね。


「れしあさんー。離してー」


 するとクリスタ君が暴れました。


「だ、ダダ、ダメですよ!な、何かあったらどうするんですか!」


 そうです。クリスタ君に何かあったら一緒に旅をする人いなくなっちゃうじゃないですか!彼は人じゃないですけど!

 そう思い引き止めていたのですが、クリスタ君は私の抱っこを抜け出してしまいました。

 しかもあろう事かゴーレムの元へと走っていきます。


「く、クリスタ君!」


 私も慌てて追いかけます。追いかけますけど、近付くの怖いです!無理無理!怖いです!

 それのせいでクリスタ君との距離がどんどん開いてしまいます。

 そしてクリスタ君はゴーレムさんに槍を向けている人の横を通ってしまいました。


「あ、な!?こ、小僧!?」


 その人もクリスタ君に気付きましたけど、クリスタ君はそのまま行ってしまいます。

 するとクリスタ君は立ち止まりました。

 でも、そこは、ゴーレムさん達が暴れている目と鼻の先。

 な、なんでそこで止まるんですか!?


 私は彼のその行動に驚いて止まってしまいます。

 その時でした。クリスタ君に気付いた様子のゴーレムさんの一体がクリスタ君に向かってあの岩で出来た拳を振り上げました。

 これは、まずいです!あんなの受けたらクリスタ君、ぺちゃんこになってしまいます!

 そう思い、私は全力で走りました。

 でも、距離が開きすぎていて、これでは間にあわな――


「ぶれいく!」


 私の視線の先。振り下ろされる拳。そしてクリスタ君のそんな声。

 すると、急にゴーレムさんの肩の辺りが爆発して拳が腕ごとゴーレムさんの体から離れました。

 そしてゴーレムさんは横の方に倒れてしまいました。そして離れた腕は飛び、少し離れた地面にゴゴンという音を立てて落ちます。

 その光景を見た周りの人達が唖然としています。私も唖然としています。


 その音に気付いた様子で他の方を見ていたゴーレムさんの二体がクリスタ君の方を見ました。

 それに倒れたゴーレムさんも立ち上がります。でも、その立ち上がったゴーレムさん、なんだか様子がおかしいです。何度も何度も飛んでしまった腕があった場所をもう片方の手で触っています。


「ぶれいく!」


 そしてまたクリスタ君が言います。それによって今度は起き上がったのとは別のゴーレムさんの、今度は太ももの部分が爆発してそのゴーレムさんは後ろに倒れました。

 そして立っていた場所には爆発した部分の足が残っています。

 するとクリスタ君は続け様にぶれいくと言いました。


 それによって今度はまだ爆発していないゴーレムさんの胴体が爆発しました。胴体から半分が地面に落ちます。


 片足を失ったゴーレムと胴体が半分になったゴーレムさんの二体が地面で必死に立ち上がろうとしていますが、片方は片足が無く上手く起きれないみたいです。

 もう片方は起きましたけど、手で移動しています。


「い、今だ!魔法を使える者で対処しろ!」


 そんな声が聞こえてきます。見ればさっき槍を構えて立っていた人が言っていました。

 すると、他の人達が一斉に魔法を放ちました。

 その攻撃は三体のゴーレムさんそれぞれに当たります。

 って、うわわ!い、今、炎の攻撃が私の横を通っていきました。

 うう、私。炎攻撃苦手なんですよう。


 あ、そ、そんな事よりもです。どうなるのか見ていましたけど腕を失ったゴーレムさんは魔法の攻撃を残った腕で防いでいます。

 上半身のゴーレムさんも防いでいます。

 足を失ったゴーレムさんには直撃していますね。

 でも、まだまだ元気です。ここはっ!

 私は背負った剣を抜きます。


「はあー!」


 そして飛び上がって倒れているゴーレムさん目掛けて振り下ろしました。

 ―――ガッキィィイイイイン

 そんな音と共に腕に痺れが。うう、か、硬い。

 私はそのまま一旦距離を取ります。お父さんから教えられた倒せていない相手は何をするか分からないから一旦離れなさいという教えです。


「ゴーレムに斬撃は――、って、う、嘘だろ?」


 そんな声が聞こえて振り向けば槍を構えていた人が私の元まで来て呆然と見ています。

 どうしたんでしょう。それにしても、痺れます。


「ゴーレムの体にヒビが、入っている、だと!?」


 その男の人が驚いた表情をしています。

 え?ヒビですか?


 私は再度、ゴーレムさんを見ます。確かにヒビが出来ていますね。


「今だ!あのゴーレムのヒビを狙え!」


 すると槍の人が言います。

 そしてまた魔法が放たれました。色とりどりの魔法がゴーレムさんのヒビ目掛けて飛んで行きます。そして――


 ――必死に起き上がろうとしているゴーレムさんは手を上に向け、崩れていきました。

 ……なんでしょう?この少し寂しく感じる感覚は。


「た、倒した!倒したぞぉ!」


 と、そんな私の横で槍の人は喜んだように言いました。

 すると近くにいた男の人が言います。


「ゴーレムはあと、二体います!」


 その声はとても慌てた様子です。って、そうです!ゴーレムさんはあと二体います。

 ですが、なんというか少し静かな気がしますけど。

 そんな私は視線を別のゴーレムさんがいた場所に移した時でした。

 その視界に入ってきたのは腕と足を失い地面に仰向けに倒れているゴーレムさんと更に両腕を失った上半身だけのゴーレムさんでした。

 そしてそのゴーレムさんの腕と思われるものをもぐもぐしているクリスタ君の姿。


「なっ!?ご、ゴーレムを食ってる!?」


 そんな声とか色んな声が聞こえてきました。


「やっぱり、ゴーレムは美味しい!んふふ~」


 クリスタ君はそんな声など気にせずボリボリと腕を食していきます。

 ……え、えーっと、ゴーレムさん。美味しいらしいですね。

 って、そんな場合じゃありません!


 私は剣を納めるとクリスタ君に駆け寄ります。


「クリスタ君!行きますよ!」

「わっ!?」


 私はゴーレムさんの手を食べているクリスタ君を抱き上げ坑道の入り口へ突入しました。

 クリスタ君がゴーレムさんの腕を離さないせいでクリスタ君がそれを持った状態で突入しましたけど。

 そんな私の後ろでは戻ってくるように言う声が聞こえますが、私は進みます!

 待っていて下さい!オーラ様!そして勇者の末裔さん達!

 私も戦いますよー!


 そしてこの坑道を全力で走っていると道が二つに分かれているじゃないですか!

 え、えーと、これはどっちが良いんでしょう!?


「クリスタ君、これどっちに行けば良いと思いますか!?」

「えっとね。あっち」


 でも、クリスタ君はその二つの道じゃなく全く別の方を指差しました。

 そこは少し広くなっている場所です。

 でも、何もいません。


「クリスタ君、そこ何もいませんよ!?」

「え?いるよ?」

「え?」


 私とクリスタ君は見つめあいます。

 ……どうしましょうか?いえ、悩んでる場合じゃありませんね!


「分かりました。行きますよ!」


 私はクリスタ君に言われたとおりその場所へと行きました。

 でも、やっぱりそこはただ広いだけで道も何もありません。ただ、明かり用のランプがあるだけです。


「クリスタ君!やっぱり何もいないじゃないですか!」


 私はクリスタ君に猛抗議します!

 だってオーラ様達が戦っている場所に行かなきゃいけないのにこんな――ッ!

 その瞬間でしたクリスタ君が言いました。


「ぶれいく!」

「へ?」


 瞬間、爆発音と共に私の足元がふわっとして――

 見れば足場がありませーん!!

 わ、私達――


「落ちてますぅぅううううう!!」


 ど、どどど、どうしましょう!?

 このままじゃ痛いじゃすみませんよぉ!!

 ど、どうすれば良いんですかぁ!


 私はクリスタ君を抱えたまま考えます。

 いえ、こんな状況で考えられる場合じゃないですよこんなの!無理ですー!


 その時、色々な思い出が蘇りました。

 お父さんと果物を取りに行ったり、お母さんと狩りに行ったりしたそんな今までの思い出が。ふふ、楽しかったなぁ。

 そういえば、私が木から落ちた時、お父さんが咄嗟に放ってくれた風の魔法でゆっくり下ろしてくれたのを思い出します。あの時もこれくらい怖かったですね。

 お漏らしもしてしまいましたし――、?あの、時?……ッ!あの時ッ!


 思い出に浸っていた私はふと思い出しました。父の使っていた魔法の事を。

 そうです!あれを使えばいいんですよ!


「エアーフロー!」


 私はお父さんが使った魔法を使いました。

 すると風がぼわーっと吹き上げ、私とクリスタ君はゆっくりと先行して落ちて行った岩の上に降り立ちました。

 ――ふう。


「クリスタ君、怖かったですー!」


 私はクリスタ君を強く抱きしめました。震えが止まりません!

 もう本当に怖かったです!ううっ……


 そんな時でしたドォンという音と共に私達が立つ岩達が爆ぜました。

 衝撃でその岩達の着地した広場と思われる場所の床に尻餅です。痛いです。


「あ、あなた方……」


 と、お尻を擦っている私の見上げた先には銀色の宝石が散りばめられた鎧を着たオーラ様の姿。

 なんというか、会った時は可憐って感じでしたけれど髪を結んでカッコいい感じになっています。

 ですけど、なんか色々ボロボロです。それに少し驚いていますし。

 そして辺りを見渡すと座り込んで呆然としているローブを着たレオンさんの後ろにいた人と、それまた呆然と立っている鎧を着た人。そして、これまた呆然としているレオンさん、ですね。


「チッ、岩ニ阻マレタカ」


 そんな声がしました。振り向けばそこには――さっきのゴーレムさん達よりも大きな頭になんか金色の光物が輝いているゴーレムさんがいました。

 しかも、なんというか凄い魔力量です!


「わあー!あのゴーレム凄ーい!」


 と、抱えているクリスタ君が未だに離していないゴーレムの手を握って目を輝かせています。

 いや、確かに凄いですけど……。そんな目を輝かせてる場合じゃないと思うんですけど……。


「って、クリスタ君!涎出てます!」

「ふえ?」


 口元が涎でダラダラですよ。クリスタ君。

 って、私の袖で拭かないで下さい!


「え、あ?」


 と、そんな声が耳に届いて、見ればローブを着た人が私達の方を見ています。

 というより、レオンさん御一行が見てきます。

 するとレオンさんが口を開きました。


「き、君達。何をしにここへ?」


 なんで今更そんな事を聞くのでしょう?


「旅です!」

「旅だよ!」


 私達二人はそう答えます。その答えにレオンさんは「は?」と間抜けな顔をしていますね。

 その時、ズズンという音がしました。

 慌てて何が起きたのか見れば大きなゴーレムさんが床を拳で叩いたようです。


「弱キ者ガ増エタダケカ」


 そのゴーレムさんはそんな事を言います。

 まあ、確かに強くは無いですけど。


「ドウヤラ、先程感ジタ嫌ナ技ノ波長ハ気ノセイデアッタヨウダ」


 するとゴーレムさんはそんな事を言いました。

 なんでしょう。嫌な技の波長って?


「サテ、弱キ者ガ増エタカ。ドウシテ遊ンデヤロウカ」


 そのゴーレムさんは光り輝く瞳で私達とレオンさん達とオーラ様を見ます。

 あの瞳、夜道とか便利そうです!

 そんな便利な瞳を持つなんて、少し羨ましいですね。


「そこのレシアとかいう者、今すぐこの場から逃げろ!」


 と、私にそんな声が飛んできました。

 見れば鎧を着たレオンさんの後ろにいた人です。

 でも、それは――


「それは、嫌です!私は明日ここで初めての採掘がしたいんですから!」


 私はそう言ってクリスタ君を下ろして剣を持ちます。


「なっ?あんな大剣を片手ずつに!?」


 なんか驚かれています。ちょ、ちょっと照れますね。

 そして私が照れている間にクリスタ君がてってと走っていきました。


「フン。鉄ノ板如キデ我ヲ倒セルト――」

「ぶれいく!」

「グアァァアアアアア!!」


 爆発音。そして大きなゴーレムさんの大きな腕が体から吹っ飛んで壁に叩きつけられました。

 ってー!


「クリスタ君!それ、ズルイですよ!私の見せ場がー!」

「ふえ?」


 と、クリスタ君はそんな私に戸惑いの色を見せます。

 いえ、それよりもオーラ様とかレオンさん達とか凄い面白い表情してますけど……。

 今、そんな表情してる場合じゃないですよ!?


「グガァア、腕ガ、我、腕ガ、復活シナイ!?」


 と、そんな声が聞こえて見れば大きなゴーレムさんが吹っ飛んだ腕の方を押さえています。


「ナンダ?!何ガ起キタト言ウノダ!?マサカ――」


 ゴーレムさんはそう言いクリスタ君に光を走らせました。

 それによってクリスタ君の大きくクリクリしている両目が輝きます。なんていうか綺麗ですね。でも、クリスタ君。眩しくないんでしょうか?


「キ、貴様!マサカ!?岩食族ロックイーターカ!」

「うん!そーだよ」


 ゴーレムさんの言葉に頷くクリスタ君。


「嘘ダ!貴様等ノ種族ハ愚カナ人間ニヨッテ既ニ絶滅シタハズダ!」


 ゴーレムさんはそんな事を言いました。いや、自分で確認してなんで否定しているんですかこのゴーレムさん。

 対してクリスタ君は首を傾げています。

 それにしても絶滅ですか?クリスタ君は現にいますし。もしかしてクリスタ君、幽霊さんだったんですか!?

 で、でも、幽霊さんだったら触れないですよね?ね?


「エエイ!悔ヤンデモ仕方ナイ!ソレニコイツノミ生キテイル可能性ガアル!ココデ始末スル!」


 と、大きなゴーレムさんは残った腕を振り上げました。


「ぶれいく」


 しかし、クリスタ君の言葉でまたその腕を吹っ飛ばされてしまいます。

 ちなみにその腕はローブを着た人の近くに地響きを立てて落ちました。ローブの人目を見開いて杖を握っています。それを見ただけでも恐怖心が分かりますね。

 私ならちびりそうです。


「グァ、グゥ!コノ……」


 痛そうにしているゴーレムさんはクリスタ君を見ました。

 そして目とは別の光がゴーレムさんの口に――


「――君、避けろ!」

「ふえ?」


 そんな声が聞こえて見ればレオンさんがハッとした表情で言い放っていました。

 なんでしょ――


 私が何故彼が叫んだのか考えた瞬間でした。

 強烈な光と熱を感じ、視線を戻します。

 私の瞳に写ったのは業火と呼んでも過言ではない程の熱量をもつ光線でした。

 それが、クリスタ君がいた所に向かって飛んでいく瞬間です。それは私が何かするよりも早くクリスタ君に直撃しました。

 ど、どどど、どうしましょう!?


「流石ニコレハ耐エラレマイ!!」


 ゴーレムさんは光線を吐きながら言います。

 器用です。って、そうじゃないです!く、クリスタ君がッ!

 私がおろおろして辺りを見ていると、皆さんも信じられないような表情でその光景を見ていました。


「ぶれいく」


 その声を聞くまでは。

 その瞬間、ゴーレムさんの顔半分が爆発して光線は天井に路線変更していました。


「ガ、ナ!?」


 その事に驚いた様子の声をあげるゴーレムさん。

 そしてさっき光線が直撃していた場所には、出会った時と同じ布に身を包んだクリスタ君の姿がありました。

 まあ、あの上からシャツを着せただけなのでシャツが燃えただけでしょうね。

 でも、あの布とか燃えてないのおかしくないですか?


「なにするのー。れしあさんのお洋服燃えちゃったじゃん!」


 クリスタ君は頬を膨らませて猛抗議です。


「ナ、何故。我攻撃ガ!?」

「ぶれいくぅぅううううう!!」


 困惑したような声を出しているゴーレムさんにクリスタ君は怒ってぶれいくと叫びました。

 それにより、ゴーレムさんが爆ぜました。

 足と下半身を残して、上全部無くなりましたね……。


 と、そのゴーレムさんの下半身から紫色の球の様な輝くものが半分出ています。


「ゴーレムのコア!あれを破壊すればッ!」


 そう言って私の横をレオンさんが剣を携えて駆けていきました。

 辿り着いたレオンさんはゴーレムさんの下半身の球に対して剣を突き立てます。剣は見るからに硬そうな球にまるでチーズにナイフが入るように入っていきました。

 そして、球は強い光を放つと、サラサラと紫色の砂になって崩れました。

 それと同時に下半身もガラガラと崩れていきます。

 それは戦いの終わりの合図でした。残ったのは崩れた岩の塊と呆然と行く末を見ていたレオンさん一行とオーラ様。ただ剣を抜いただけで終わった私と剣を突き立てたレオンさん。そして、


「ああー!あのゴーレムまだ食べてないのにー!」


 崩れたゴーレムさんの残骸を見て地面に膝を付いたクリスタ君でした。

 こうして私達は引き返し外へと出ます。浮遊の魔法で来た時の穴を通って。

 まさかこれが役に立つとは。


 まあ、そんな事よりも。こうして私達はオーラ様の大きな建物へと戻るのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る