第3話 採掘の町 コーメイン
「「 わあー! 」」
初めて見る景色に私とクリスタ君は感嘆の声をあげてしまいました。
でもしょうがないですよね!こんなに人間や色々な種族と思われる人達が行き交う様子を見たんですから。
私は目の前に広がる景色を見て思います。
私達は念願の町に到着したのです!
見るもの全てが初めてで楽しいですね!
大勢の人が動く様子は凄く新鮮です。こんなの見たこと無いですし。
それに色んな人が目に止まります。道の端で話している人、肩に木の箱を持って歩いてる人。果物が置かれている棚の前で何か言っている人、その果物を見ている人、様々です。
更に、家とは分かるんですけど、私の家と違って壁とかが何か茶色い物で出来ていますし、なんというか茶色い間に白い細長い模様が綺麗で、例えるなら、まるで蛇の鱗のような感じです。
と、私の横でクリスタ君がジッと地面を見ているのに気付きました。
どうしたんでしょう?
「クリスタ君、どうかしました?」
「あのね。
すると可愛らしいお腹の音がなります。
さっき彼は彼曰く美味しい石を食べたのに、もうお腹が空いちゃったそうです。
あ。私にその石、半分くれましたから、彼からしたら満腹じゃ無いんでしょう。
あ!それならさっき頂いた石を返せば良いんですよ!流石私!
そう思ったところで、ふと思います。
……石、どこにしまいましたっけ?
確か彼から貰った石、二回ほど噛んだ後……。
私は記憶の中を探りますが、全く思い当たる事がありません。
どうしましたっけ?とりあえず、ポケットとかに入れましたっけ?
そう思ってポケットと小物入れようのバッグに手を入れてみましたが何もありませんでした。
うーん、背中のバッグは寝そべった時以外下ろしていませんし、旅に出てからまだ一回も開いていませんからバッグには無いと思います。
「お腹空いたなら早めに私の家に行きましょうか」
私が悩んでいるとセナさんが発言します。
そういえば指輪を見つけたお礼に彼女がご馳走を用意してくれるんでした。
ならば膳は急げ、早めにお伺いしましょう!
という訳で私とクリスタ君はセナさんに着いて行く形で町を歩きます。
町の中心に行けば行く程、人の通りも多くなって町の入り口で見えた人達よりも色々な人やもっと凄い光景が見えました。
その中でも一番興味が引かれたのは町の中央に水を噴出させている謎の石で出来た物ですね。
「わあー、水が飛び出ています!」
「間欠泉だー!」
その水を噴き上げている物を見た私とクリスタ君は思わず発言します。
どうやら間欠泉というらしいです。……間欠泉ってなんでしょう?
クリスタ君は私の知らない事を知っていますね。
「あれは噴水ですよ。間欠泉では無いです」
クリスタ君の言葉に感心していると横からセナさんが言いました。
「「 噴水? 」」
私はセナさんに向かって問いかける意味を含めてこの物についての名前を復唱します。クリスタ君も同様に。
「ええ、人工的に水を噴出させているものです」
「へぇ~」
なるほど。噴出させた水ですか。
私は教えていただいた事を頭に入れ再度噴水を見上げます。
噴出される水は綺麗に広がり下に落ちていきます。見ていてなんというか良い気持ちになりますね。
それと、少しですけど、この水どんな味がするのでしょう?気になります。
「さ、行きましょう。ご馳走の用意もありますし」
見上げていたらセナさんが言いました。
そういえばセナさんの家に向かっていたんでしたね。ですけど、少し見ていたい気持ちも……。
悩む私。でも、さっきのクリスタ君のお腹が鳴ってしまった事を思い出して観光するのを踏みとどまります。町を見て回るのは後ででも良いですからね。
私は自分にそう言い聞かせセナさんに着いて行くことを決めました。
そうして歩いて行くと色々な建物の並びが切れた先に白くて大きく立派な建物が見えてきました。
なんというか、綺麗な白い壁です。
その建物の前には町の壁ほどではないですけど立派な壁が。そんな壁の中心に二人のいかにも強そうな男の人間さんが剣を携えて立っているのが見えます。
「ただ今戻りました」
するとセナさんはその人間さん二人に声をかけました。
「ああ、セナか。お帰り」
するとそのうちの一人がセナさんに声をかけます。
と、もう片方の方がこちらに視線を向けました。
「ところでその二人は?」
どうやら私達の事が気になったようです。
ふふ、先手必勝!
「レシアです!」
「クリスタだよ!」
綺麗に連携が決まりました。少し気持ち良いですね!
しかし相手の方は「お、おお」と何とも歯切れの悪い返答をしてきました。
折角、綺麗に決まったのに。むう……。
「えっと、私、外で指輪を落としてしまって。それを拾っていただいたのでお礼にご馳走でもと連れてきました」
と、そこでセナさんが口を開き相手の方に言いました。
どうやら私達との出会いを語っているようです。
「はー、そうか。でも、屋敷に入れるのは流石にどうかと思うぞ?」
「あ、いえ。屋敷ではなく、私の部屋の方にと思いまして」
「ああ、そうか。なら心配ないな」
何やら話しています。
屋敷とかって言ってますね。なんでしょう?屋敷って。
「どうしました?皆さん門前に固まりになられて」
私が首を傾げているとそのお二人の向こう側。大きな建物側から声が聞こえてきました。
見れば、何とも美しい女の人間さんが一人。いつの間にか立っていました。見た目的には私と同い年って感じです。あ、でも人間さんなので私より年下だとは思いますけど。
すると急にセナさん含めた三人がピシッと姿勢を正します。
……どうしたんでしょうか?
「オ、オーラ様。何か御用でしょうか?」
と、そんな中セナさんが口を開きます。私達に話しかけたよりも、なんか、こう違う雰囲気が伝わってきます。
「いえ、特には無いんですけど皆さんが揃って門前にいらしたのでどうしたのかと思いまして」
すると美しい女性が優しい笑みを浮かべて答えます。
その声や雰囲気はなんというか美しさよりも可愛さって感じで完全にふわふわしている感じがします。
でも、暖かい感じがしますね。
「ところで見慣れない方がいますけれど、どちら様でしょうか?」
私が彼女の雰囲気を考察していると彼女は続けざまに言いました。
これは完全に私に興味惹かれていますね。
私はちらっと横を見ます。するとクリスタ君も私の意図を感じたようで視線が合いました。
これはやるしかないでしょう!
「レシアでンッ――!」
「クリスンッ――!」
なんという事でしょう!私とクリスタ君の口がセナさんの手によって塞がれてしまいました。
というかセナさん、何するんですかー!
自己紹介の途中で口を塞ぐなんて!
「すいませんオーラ様。この者達は旅をしているそうで、今日偶然この町に寄ったそうなので私が案内していたのです」
「まあ、そうなのですか」
「ええ」
「ふふ、それならば。旅人さん方、ようこそ採掘の町コーメインヘ」
凄く眩しい笑顔を向けお辞儀をするオーラ様という名前らしい彼女。なんというか、このまま光合成が出来てしまうのではと思うほどの輝きと暖かさが感じられます。
隣を見ればクリスタ君も目をキラキラさせながら相手を見ています。
それ程の魅力がありますね。
「ところでセナ」
「はい。何で御座いましょうか?」
「
オーラ様は笑顔で、やんわりと声をかけます。
それはなんというか子供が親にねだるかのような感じで。
するとセナさんはオーラ様を見ていた視線を私とクリスタ君に向け、またオーラ様へと戻しました。
でも、その表情はどこかそわそわしている様子です。どうしたんでしょうか?
するとオーラ様が寂しそうな表情で口を開きました。
「ダメでしょうか?」
「い、いえ。そのような事は!」
慌てて手をわたわたさせるセナさん。
するとセナさんは急に私とクリスタ君の方へと向きました。
……なんとなくお顔怖いです。
「良いですか?これからオーラ様と共にお屋敷の方に行きますけれど、絶対に無礼の無いようにお願いします」
ヒィッ!こ、怖いです。
こんな怖い雰囲気で話す人を見たのはお母さんが怒った時以来です!
お母さん、アルラウネですけど……。思わずクリスタ君と繋いでいる手に力が入っちゃいます。
「うん!分かったー!」
と、私の横で元気に返事をするクリスタ君。
その様子を見たセナさんは、なんというか微妙な表情を浮かべました。
「ふふ、元気で良い子ですね」
するといつの間に移動してきたのかオーラ様がセナさんの横でしゃがみ微笑んでいました。
セナさんはセナさんでまたビクッとしています。
「うん!僕は元気だよ」
「ええ、見れば分かりますわ」
クリスタ君の言葉に対してオーラ様は微笑みます。
そしてクリスタ君の頭を撫でるとクリスタ君は「えへへー」と微笑みました。
「ふふ、では私は先に屋敷に行っていますので。セナ、連れてきてくださいね?」
オーラ様はそう言って立ち上がると、ゆっくりとした足取りで大きな建物へと入って行きます。
なんというかあれが優雅って感じなのでしょうか。綺麗ですね。
「――それでは、お二人とも着いて来てください。くれぐれも粗相の無いように」
「そそう?」
セナさんが説明するとこのタイミングでクリスタ君が首を傾げてしまいました。
どうやら意味が分かっていないようですね。仕方ありません。ここはレシア先生が教えてあげましょう。
「粗相っていうのはですね。お漏らしとかの事ですよ」
「お漏らし?僕そんな事しないよ!」
「違います。そう言う意味もありますけど、要するに無礼を働かないようにって意味です!」
私がクリスタ君に教えたら横からセナさんに怒られてしまいました。
でも、粗相にそんな意味があったとは驚きです!初めて知りました。勉強になりますね。
「色々言いたい事はありますけど、本当に無礼の無いようにお願いしますね」
セナさんはふうと溜め息をつき、着いて来てくださいと言い大きな建物に向けて歩いて行きます。
私達はその後ろを着いて行きます。
するとその途中には向かっている大きな建物ほどではありませんけどなかなかに大きな建物がありました。
そこでは同じ用な服装に身を包んだ人達が出てきて大きな建物に入っていったり、またその逆の動きをする人達もいました。
忙しそうという雰囲気が見られます。
そんな人達を見ながら私とクリスタ君は大きな建物の大きな扉の向こう側へ。
「「 わあー! 」」
そこで私達は本日二度目のわあーを発していました。
なんとその建物の中はとっても綺麗で、私達が立つ場所からずっと赤い絨毯が伸びていますし、内側も白色で綺麗です。
それに私の家とは違って天井が高いですね。室内なのに凄く開放的に感じます。
私の家もこれくらい天井高かったらもっと良かったんですけどね。
あ、そうです。帰ったときの参考にしましょう!
そう心に誓い、セナさんの後ろを着いて行きます。
会う人会う人、男女での違いはありますけど同じ服装をしています。違うとしたら私とクリスタ君とセナさんくらいなものですね。
そんな人達の中を進みつつ私達は大きなドアの前に着きました。
するとセナさんが私達の方を向きました。
「では、ごゆっくり。くれぐれも粗相の無いようにお願いしますね」
再度注意するセナさん。これが釘を刺すって事ですね。
少し怖いですけど、セナさんに感じているのは恐怖というより、まるで子供に心配して言う感じですね。その緊張が伝わって怖さを感じているんでしょう。
「はーい!」
と、今度はクリスタ君が元気に返事をしました。それに対してセナさんはさっきと同じように微妙な表情をします。
セナさんは軽く溜め息を吐くとドアをノックしました。
すると中からオーラ様の「どうぞ」という言葉が聞こえてきます。
「失礼します。先程の者達をお連れ致しました」
セナさんはドアを開けて言いました。
そして私とクリスタ君にどうぞと一言。
私達はその横を通って中に入りました。
その部屋の中はとても、凄かったです!
なんていうか、全体的に白色って感じのお部屋でした。
その部屋の中で椅子に座り微笑むオーラ様。
「ふふ、どうぞ席にお座りください」
オーラ様は私達に手を向けてそう言います。
なんとも全てが綺麗と思える動きで。
私達は言われた通りに白いテーブルの空いている席に座ります。
位置的には入り口の傍の席ですね。ついでに傍に荷物を下ろします。
それにしてもこのテーブル長いです。一体いくらくらいの長さがあるんでしょうか?
「あの、もう少し近くでも良いのですよ?」
私が感心しながら考えているとオーラ様がそう言いました。
確かにここだと結構離れていますね。
「じゃあ、僕ここに座るー!」
するとクリスタ君は椅子から降りて、オーラ様の一番近い椅子に座りました。
「あ、ズルイです」
「あ、じゃあ、僕あっちに行くー」
私がそう言うとクリスタ君は椅子を降りて向かい側に座りました。
なんでしょう。不思議な罪悪感というか敗北感が沸きました。
しかし、折角クリスタ君が退いてくれた席。座らない道理は無いでしょう。
私はすぐさま立ち上がり、荷物を持ってその席に座りました。
ここからだと凄くオーラ様との距離が近いですね。この席、本当にすぐ傍です。
「ふふ、こんなに近くに座る方は初めてですね」
オーラ様はそう言って微笑みました。
どうやら私達が初めてここに座ったみたいです。
少し優越感ですね。
と、そこでオーラ様が口を開きました。
「ところで、あなた方はどのような旅をなさって来たのですか?」
どうやら私達がどんな旅をしてきたのか気になるようです。うーん、そうですねぇ。
「私は今日から旅に出る事にしたので、私的にはここが初めての町ですね」
「まあ、そうなのですか」
私の回答に驚くオーラ様。
「僕もね今日から旅をするんだよ。それでね色々見るの!」
クリスタ君も続いて言います。
「ふふ、そうなのですね。なら、旅の最初の町として私も気合を入れて色々お持て成し致しますね」
オーラ様は穏やかな微笑みを浮かべて言います。
本当にほんわかします。なんていうか太陽と大地の様な暖かさを感じますね。
「あなた方にはセナの落し物を拾って頂いた御恩もありますから」
オーラ様は言って片目を瞑ります。
なんでしょう?なんか不思議な感じがします。
でも、分かるのはオーラ様に感じていた雰囲気とは違う感じの仕草ですけど、それでも似合っているという事ですね。
「ふふ、それでは初めに食事にしましょうか」
オーラ様がそう言うとドアが開きました。
その音に私、ビックリしました。急に開くんですもん。
私が視線を向けると、さっき廊下で出会った人達と同じ服装の人達が入ってきます。
中には頭から角の生えた人とか、私のように耳の長い人とか色々見受けられます。
その人達は何やら台車の様なものを押してやってきました。
台車の上には白い綺麗なお皿と、上には銀色の何か半円の様な物が乗っています。
すると、その人達は手際よくこの長いテーブルに台車の上に置かれているお皿を並べていきます。
お皿の上を見ると、凄く綺麗でした。
多分、サラダと思われるものにも丁寧な感じで盛り付けられていますし、お魚を煮たと思われる物も、良く分からない四角い物も綺麗に盛り付けられています。
「わあー!軽石だー!」
そんな声が聞こえて、見れば綺麗なお皿の上に綺麗とは程遠いぼっこぼこしている石が乗せられていました。見れば運んできた方も何とも言えない表情です。
でも、それとは打って変わってクリスタ君の瞳はキラキラしています。
「何かありましたらお呼び下さいませ。オーラ様」
すると手際よく並べていた人達が台車の上に乗せられていた物を並べ終え一箇所に集まり頭を下げました。
そして一斉に出て行きます。なんというか皆さん動きが均一で綺麗ですね。
動きに感心していると、ボリという音が聞こえました。
見ればクリスタ君が早速手に取って食べているじゃないですか!
「クリスタ君、ダメですよ。皆で食べるときは、皆でいただきますしてからです!」
「ふぇ?」
ボリボリと噛みながら首を傾げるクリスタ君。
もう、クリスタ君は。
「ふふ、お腹空いていたんでしょう?気にせず召し上がってください」
するとオーラ様が微笑みました。
でも、流石にそれは。
チラッとクリスタ君を見るとクリスタ君は口を動かしつつ目をパチクリさせて首を傾げて私の方を見ています。
むう、本当であれば頂きますしてからなんですよ?
そう心の中で言いつつ、気持ちを入れ替えて私も目の前に並べられた料理を一口。
ふむふむ……、お、美味しい。
「美味しいです!」
「ふふ、そうですか」
私は感動してその料理の感想を告げるとオーラ様は微笑みます。
その笑顔は見ていると癒されるといった感じでしょうか。
それにしても、美味しいです。この四角い物の料理、一体何が使われているんでしょうか?
多分お肉っていうのは分かるんですけど。
四角いお肉ってあるんでしょうか?
それにしても柔らかくて美味しいですよ。うふへへ。
「それにしても、あなたはそれだけでよろしかったのかしら?」
んっく。どうやらクリスタ君に出された物が軽石という物だけで良かったのかと思って言ってるようです。
「うん!僕、軽石大好き」
クリスタ君はそう言って微笑みます。
なんというか微笑ましい感じがしますね。
それにしても、……軽石って美味しいんでしょうか?
「ふふ、そうですか」
「うん!あ、そうだ」
するとクリスタ君は何かを思い出したかのように発言すると椅子から降りました。
どうしたんでしょうか?
「軽石、ありがとーございます」
見ている先。オーラ様にペコッとクリスタ君は頭を下げました。
な、なんと!クリスタ君がお礼を言っています。
なんでしょうこの敗北感!
「あら。ふふ、どういたしまして」
そんなクリスタ君に微笑み軽く頭を下げるオーラ様。
そして顔を上げた二人のお互いに微笑む姿。
なんか私だけ仲間外れにされていませんか?これ……。
私はそう思いつつも、料理をむしゃむしゃです。
料理、美味しいです。
「ところで、その、御名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
するとオーラ様が私の方を向いて話しかけてきました。
って、そういえば名乗ろうとしたらセナさんに止められてしまっていたんでしたね!
ここは、再度あの屈辱を晴らす時!
「レシアって言います」
「ふふ、レシアさんですね。良いお名前です」
と、オーラ様が微笑みました。
それよりも初めて言われました。良い名前って。
ふふ、何となく良い気分がしますね。
「あ、僕はね」
「クリスタさん、ですよね」
「え、あ、うん。そーだよ」
元気よく発言しようとしたクリスタ君でしたけど、オーラ様に先手を打たれて意気消沈してしまいました。
クリスタ君は軽石を食べていますけど、少しつまらなそうです。
少し可哀想に思いますけどそういう運命です。仕方ありません。こうしてクリスタ君は大人になっていくのですから!
「そういえばお二人はもう坑道の方には行かれました?」
「「 坑道? 」」
オーラ様の発言に首を傾げる私達。
坑道ってなんでしょう?
「ええ、この町の誇る大きな坑道です。そこは一般にも公開されていますし、様々な鉱石が採掘出来まして、たまに魔宝石が出ることもあります。そこで採掘した鉱原石や魔宝石は持って行って頂いて構いませんから、是非足を運んでみてください」
オーラ様が説明してくれます。
採掘がなんなのか分かりませんが、なんか凄そうです!
「ですけど、今日は日も落ちて来ていますので、明日行ってみてください。案内いたしますよ」
オーラ様はそう言って微笑みます。
どうやら明日案内をして下さるそうです。
なんというか、明日が楽しみです。
「では、お部屋を御用意させますので食べ終えたら行きましょうか」
するとオーラ様が微笑んで言いました。
それに少しキョトンとしてしまいます。だって……。
「あの、旅人は宿に泊まるのが基本と聞いたのですけど?良いんですかね?」
「気にしないで下さい。私の気紛れですし、それに、お金も無いのに泊まれる宿はありませんし」
「そうなんですか!」
オーラ様の言葉にビックリしました。
宿に泊まるのにはお金が必要なんだそうです。冒険者さん、そんな事言ってなかったのでただ泊まれる所なのだと思ってました!
「お金?あ、あのキラキラしてるの?」
と、クリスタ君が思い出したように言います。
「ええ、そのキラキラしている物ですね」
「僕もキラキラしたの持ってるよ!」
クリスタ君はそう言い頬を掻く様な仕草をすると、カタンという音が響きました。見ればクリスタ君のいる床に翠色の輝く物が落ちています。
「はい!」
するとクリスタ君はその翠色のキラキラした物を拾ってオーラ様に見せるように差し出しました。
ですけど、あれをどこかで見かけたことあったような?
「……これ、は?」
「んとね。これからお世話になりますっていう、お土産?」
クリスタ君はそう言って首を傾げます。
なんと、クリスタ君は贈り物をしようとしているようです。
「で、ですけど、これは――」
しかし、何やらオーラ様は躊躇している様子です。
どうしたんでしょう?
私は考えます。御礼としての贈り物を断る理由。
それは、遠慮しているという事ですね!確かにオーラ様なら素直に受け取るような事はしなさそうです。
私なら普通に受け取ってしまいますけど……。はっ!?これが差ですか!?
「魔宝石ではありませんか」
と、オーラ様が目を見開いて言います。
その表情は凄く恐ろしい物を見ているようにも見えます。
「うん!お母さんがね、お世話になる人とかに渡してあげなさいって言ってたの!」
クリスタ君はそう言って微笑みました。
なるほど。お母さんから言われての行為ですか。
……あれ?そう考えると私貰ってない気がするんですけど?
「そ、そう言われましても、こんな高濃度の魔宝石。見たことありませんわ。クリスタさん、あなた一体?」
そう言って恐る恐るクリスタ君に視線を向けるオーラ様。
「僕?僕は
と、そんなオーラ様に首を傾げて答えるクリスタ君。
あ、そういえば今思い出しましたけど、あのクリスタ君の持っている魔宝石。クリスタ君の頬に付いていたのに形がそっくりですね。
思い出せてスッキリしました。
「岩食族。……どこかで聞いた事あったと思いましたが、思い出せませんわね。それよりも、それは大事にしていたほうが良いですわ」
オーラ様はそう言ってそっとクリスタ君の手を閉じます。
「ふえ?でも、お世話になるから」
「ふふ、良いんですよ。お話楽しかったですし、それで私は満足ですから」
オーラ様はそう言ってなだめる様にクリスタ君の頭を撫でます。
対してクリスタ君は腑に落ちないといった様子ではありましたけど「そーなんだ」と笑顔で言って席に戻りました。
すると部屋のドアがノックされる音が聞こえます。
「オーラ様、お部屋の用意が整いました」
次いでそんな声が聞こえてきました。
「はい、ありがとうございます」
オーラ様はドアに向かって言います。
大声と言う訳じゃないのに遠くまで聞こえるような声。これが透き通るような声ってものでしょうか?
「では、お二人とも。お部屋へ案内致しますね」
そう言い立ち上がるオーラ様。それに続いて私達も席を立ちます。
私は荷物を持ってそのまま後を着いて行くと、さっき料理を運んで来た人達と同じ服装の人が先に立って案内してくれました。
そして辿り着いた先、ドアが開かれるとそこはとっても綺麗でした。
白い壁に真っ白なシーツが敷かれたベッド。それにベッドの頭側には引き出し付きの棚があって、床には赤い絨毯が敷かれています。
色々言いたい事がありますけど、凄いです。このお部屋!
その綺麗さに言葉を失ってしまいました。
隣でクリスタ君が「わあー!」と言っているのが聞こえます。
「ふふ、ではごゆっくりとおくつろぎ下さいね」
オーラ様はそう言って連れてきてくれた人達と共に部屋から出て行きました。
ゆ、ゆっくりくつろいでと言われましても。
立派過ぎると逆に落ち着かないですね。
「ねーねー、あの椅子大きいね!」
と、固まっている私にクリスタ君が話しかけてきました。
その彼が指差す先。そこにあったのはベッドでした。
「あれはベッドですよ?」
「ベッド?ベッドって耐火草を集めたものだよね?」
何でしょう?耐火草って。
いえ、そんな事よりもです。
「あれはベッドですよ?耐火草っていうのが何か知らないですけど。あれはベッドです」
私は言います。
するとクリスタ君は考えた後、「そーなんだ」と若干腑に落ちない様子でしたが納得しました。
そしてクリスタ君はベッドに近寄ると片手を付きます。
「わー!ふかふか!」
と、クリスタ君はその感触を楽しみ始めました。その様子を見ていると感じていた緊張がほぐれていきますね。
それじゃあ、私もバッグを下ろして休みましょう。
そうしてバッグを適当な所に下ろして私はクリスタ君のいるのとは違うベッドの方へと腰掛けました。
その瞬間感じた弾力。凄く、凄く良い気持ちがします!
私は思わず、そのままベッドへと倒れこみました。
凄くふんわりとしていて幸せです。
そしてふと横を見ればもう外は赤く染まっていました。
夕暮れが迫っています。私はその景色をボーっと眺めていました。
見れば窓が町の方を向いているようで人が行き交うのが見えます。それに所々、家の窓から明かりが漏れているのも見えます。
「外真っ赤だねー」
と、クリスタ君の声が聞こえ視線を向けると私の横になっているベッドに膝立ちで窓を覗いていました。
「そうですね。もう夕暮れですからね」
私は寝そべったまま答えます。
行儀は悪いですが、クリスタ君は仲間です。いつまでも緊張してるのも悪いですしね。
すると私の目にとある人間さんが目に映りました。
それは家族と思われる男女とその子供が手を繋いで歩いている姿です。
子供は両親の顔を見て笑いながら二人の間にいます。
それを見ていると両親の事思い出してしまいますね。……胸がちくりと痛みました。
「ねーねー、あれ何だろう?」
するとクリスタ君が突然そんな事を言いました。
あれって何でしょう?
そう思いクリスタ君が見ているであろう場所を見ると、銀色の鎧を着た人がこの建物の門を走り抜けてきました。
見るからに重そうですけどよく走れますね。
私は起き上がり感心しつつその人を見ていると、この建物の入り口で何か話しています。
すると今度はまた別の人が門から走ってきます。
さっきの人ほどではありませんけど、この人は部分部分に金属があしらわれているのを着ていますね。
その人達はやはり入り口で何やら言っています。
私とクリスタ君がそんな人達の様子を眺めていると、私達のいる部屋のドアを叩く音が聞こえてきました。
その音に気付いて振り返ると「失礼致します」という声が聞こえてきました。
なんでしょう?
私は首を傾げますけど、そのまま外にお待たせするのも悪いですよね。
「はーい」
私は外を眺めているクリスタ君をそのままにベッドから降り、ドアを開けます。
すると外にはさっき案内していただいた方達と同じ服装の方がいました。
その手にはお盆があって二つのコップと一本の瓶が乗っていて、瓶にはブドウジュースと書かれていました。
「オーラ様よりお飲み物です」
そう言うとその方は頭を軽く下げてお盆を差し出してきます。
なんかここまでされると嬉しいですね。
そう思っていた時でした。
「急げ!キングゴーレムが復活したらしい!」
小さかったですけどそんな声が聞こえました。
それに合わせてがちゃがちゃという音も聞こえてきます。
……キングゴーレムってなんでしょう?
疑問に思っていると目の前にいる方が少し不安そうな表情で声のしたであろう方へ視線を向けています。
この人、何か知っていそうですね。
そう思った私は聞いてみようと思いました。
「あの、キングゴーレムって?」
「へ?あ、お客様はお気になさらずにおくつろぎ下さい。今、オーラ様の私兵団が向かっておりますので」
そう言って微笑んだこの方ですけど、なんというか無理しているような笑みを浮かべています。
どうやら何か不安な感じがしますね。
すると別の所から声が聞こえてきました。
「坑道のキングゴーレムだって!?」
見れば他の部屋のドアが開いていて、そこから皮の鎧に身を包んだ私と同い年くらいの男性とその後ろには同い年くらいの二人ほどの女性が立っていました。
片方はローブを着ていて、もう一人は鉄の鎧って感じです。
その人達が入ってきた時に見かけた同じ服を着た男性の一人と話している様子でした。
「ええ、ですが心配は要りません。オーラ様の私兵団が向かっていますしレオン様はどうぞご心配なさらず」
「いえ、そうはいきませんよ。僕も、いえ、僕達も行きます!」
レオンという名前らしい彼がそう言うと、後ろの二人も頷きました。
これはもうただならぬ雰囲気を感じます。
「しかし、勇者の末裔であらせられるレオン様の手を煩わせるのは――」
「だからこそです。勇者の一族である以上モンスターによる被害は食い止めなければいけませんし、封印する事でしか倒せなかった岩の魔王とも呼ばれた者が復活したのです。元はといえば倒せなかった僕の一族が招いた事態ですから」
レオンさんはそう言って拳を握ります。
なんかカッコいい事言ってるように感じますね。
その時気付いたのですけど目の前の女性も私と同じ方を見ています。
……お顔真っ赤ですね。
「ねーねー、何かあったの?」
と、彼女を観察しているとクリスタ君が私の隣に来て聞いてきます。
「なんか、キングゴーレムっていうのが復活したそうですよ?」
「きんぐごーれむ?……ゴーレム!」
今聞いた情報をクリスタ君に教えるとクリスタ君は凄く嬉しそうに満面の笑顔になりました。
キングゴーレムに関して何か知っているのでしょうか?
「クリスタ君、知っているんですか?キングゴーレム」
「知らないけど、僕、ゴーレム大好き!」
聞いてみたらそう言われました。
あ、ゴーレムが好きだからさっきの反応だったんですね。なるほど。
「私も討伐に向かいます」
理解して頷いているとそんな声が耳に届きました。
見れば、さっきのレオンさんの部屋の前にオーラ様が立っていました。
なんか一大事って感じですね。
でも、そんなに一大事なら私もお世話になっていますし、協力しないといけませんでしょう!
そう心に決めて私は踏み出します。
あの人達が集まっている部屋に向けて。
「あの、私も行きます」
私が発言すると視線が一斉に集まりました。
そんなに一斉に見られると恥ずかしくて困りますね。
「えーっと、君は?」
と、レオンさんがきょとんとした表情で尋ねてきました。
「レシアです!私も今日はオーラ様にお世話になったので、お手伝いさせていただきたいと思いまして」
「レシアさん、お気持ちは嬉しいですけれど、あなた魔物との戦闘経験はあるのですか?」
オーラ様の言葉に言葉に詰まりました。
「えっと……全く無いです」
そう、私は今まで魔物と戦ったことがありません。
住んでいたののも、行動範囲も平和な森でしたので魔物などいなかったですし。
でも、戦闘技術は両親から教えていただきましたし――
「気持ちはありがたいです。ですけれど、レシアさんはこれからする事があるのでしょう?もしかしたらここで命を落としてしまう事があればそれも出来なくなってしまいますのよ」
私が口を開く前にオーラ様がそう言いました。
その表情には少し険しい様な表情も見えています。
私では足手まといになる。それは分かっていますけど、ですけど、ですけど――
「ですけど――」
「今は一刻を争いますので、レシアさんはご用意したお部屋でくつろいでいて下さい。明日の予定もありますし、ね?」
私が私の意見を言う前にオーラ様が笑みを浮かべて語りかけてきました。
それは先程見た優しい微笑み。
でも、不安も入っているのが分かる様子の表情です。
だからこそ、親切にしてくれました方ですから何かしたい。
そう思いましたけど、――今回は私じゃ何も出来ない。
現実がそう言っています。
我がままと現実とどっちを受け入れるか。普通なら我がままを通したいですけど、今は現実なんですよね。
それに、オーラ様が言っていた事、あの時の両親からも同じような事を同じように言われた気がします。そして、二人は――
「……っ、分かりました」
私は思い出された両親の姿を思い出して諦められない気持ちが強くなりました。でも、自分には何も出来ないと諦めて部屋の方へ戻ります。
その最中、チラッと振り返れば先程の方達はオーラ様と共に廊下を進んで行ってしまいました。その背中を見つつ思います。
……私もお手伝い出来たら……。
その時、おぼろ気だった思い出の両親の背中がはっきりと思い出されて、私は再度、胸がチクリと痛くなりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます