第8話 休憩
青い空。そこを流れていく雲。
絶好の光合成日和な天気の中、私達は馬車に乗って次の町に向かっています。
「という訳で私の事は怪盗じゃなくてコロンって呼んで」
「了解です」
「はーい」
それで今は何をしているのかといえば、怪盗さん……じゃなかった。コロンさんが自分の事はこれから本名で呼ぶようにって説明しているところです。
ちなみに怪……――、コロンさんは今、あの時のようなちょっとカッコいいマントの姿ではなくて普通の服装をしています。こうしてみると普通の人にしか見えませんね。
ただ、一部凄く大きくて馬車が揺れるたびに揺れるためにそっちに視線が向いちゃいますけど。
「それで、私が怪盗の格好をして活動している時はノクターンホロウって言ってよ?本名なんて出されたら終わった後に捕まっちゃうんだから。あなた達も捕まる可能性があるんだから、本当に注意してね」
コロンさんは真面目な表情でひっそりと言います。
「うん。分かったー」
「分かりました!」
「ちょ、返事が大きい!」
そんな旅の仲間の注意を私とクリスタ君は胸に留め返答します。
ただクリスタ君、石食べながら聞いていますから本当に理解しているか心配ですけども。
「旅人さん方。そろそろ昼時ですし、馬の方も休ませたいのでここら辺の馬車用の休憩所で休憩でも良いですかね?」
「はい。お願いします」
前から聞こえた声にコロンさんは返答しました。
そして道の少し開けた場所でお馬さんが止まります。それに伴って私達も馬車から降りました。
「それでは、少し離れた川のところで馬を休憩させてきますので」
そう言って前にずっと座ってお馬さんに指示を出していた方は行ってしまいました。
私達も馬車から少し離れたところで集まります。
「それじゃあ、私達もここでご飯にしよっか」
ここでコロンさんが提案してきます。
そんなコロンさんは先程の真面目な表情とは打って変わって凄くうきうきした表情をしています。
凄く楽しみみたいですね。
「でー、誰か料理作れる?」
と、コロンさんはそんな事を聞いてきました。
ふふ。ここは!
「私作れますよ!」
私が宣言します。
「本当!?」
「ええ」
一人暮らしをしていたのだから当たり前です。
そんな私をコロンさんは目を輝かせて見てきます。す、少し照れますね。
「りょーりって何ー?」
と、ひょっこりクリスタ君が聞いてきました。
どうやら料理を知らないらしいですね。
……。
「ってぇ!?クリスタ君、料理知らないんですか!?」
「ふぇ?」
私は驚きです!
まさかここで料理を知らない人、いえ、彼は人じゃないですけど。
そんな方がいるとはッ!!
「あー、石しか食べないから知らなくても無理ないよね。料理って言うのは――」
私が呆然としているとコロンさんが説明し始めました。
クリスタ君はそれを聞いてこくこく頷いています。
――って、私が説明したかったですぅぅ!
「そーなんだ!」
私が悔やむ中、説明は終了してしまいクリスタ君が目を輝かせて納得しました。
うう、それは私が言いたかったですけど、コロンさんの説明分かりやすかったです。
ですけどこれ以上私の活躍が取られるのは嫌です。で、あれば先手必勝ですよね!
そして私は気持ちを入れ替え宣言します!
何人たりともこの
「それじゃあ、私、
「よろしくね」
私が宣言するとコロンさんがワクワクした様子で笑顔で返答してきました。
ふふ、こうなってしまえばこちらの者です!
「それでは、食材確認してきます」
私は気合を込め意気揚々と馬車へと向かいます。
さあ、皆さんに私の実力を見せ付けて上げましょう!
そうして私は馬車の荷台に乗り、材料が入っている箱へと近付いた時でした。
ズズンという音と共に大きなものが降りてきて荷台が崩壊しました。
その大きなものと目が合います。
「……へ?」
私は自分が見ているものが信じられませんでした。
夕日色の硬そうな鱗が体を覆い、特徴的な大きな翼に屈強な足。そして大きなお口には鋭い歯があって、青い瞳で見下ろしてきています。
え、えぇっと。これって……。
「ど、どどど、ドラゴン!?」
そんな声が遠くから聞こえてきます。
声的にはコロンさんですね。
あははー、そうですかー。ドラゴンさんですかー。
「って、うえぇ!?」
私は頭が理解したと同時に声を出していました。
そして一気に恐怖が!
ど、どどど、どうしましょう!?武器とかドラゴンさんの足元ですし!
私があわあわしていた時でした。
「小さき者よ」
そんな声が聞こえました。声の元を見れば見下ろしているドラゴンさんでした。
「な、ななな、なんでしょか?!」
「……落ち着け。我は貴様を襲うつもりは無い」
「は、はははいぃぃいいい!!」
ドラゴンさんはそう言ってますけど、怖いです!
ドラゴンさんって言ったら強くて強いんですからね!?あわわわわ!
「わぁー!見た事無いドラゴンだー!」
そんな私の隣にいつの間に来たのかクリスタ君がいて目を輝かせていました。
「なんだ貴様は?」
「僕?僕はね、クリスタっていうのー」
いつも通りのクリスタ君。
ですけど、ダメですよ!相手はドラゴンさんなんですから!
私は慌ててクリスタ君を抱き寄せると、ドラゴンさんにごめんなさい連発です。
うう、怖いです~。
「貴様、怖がるなと言ったはずだ」
するとドラゴンさんが言います。
そうは言いますけど、無理です。怖いです!
「ドラゴンさんお名前はなんて言うの?」
ですけどそんな事なんて関係ないとばかりにクリスタ君が続けます。
はわわわわわ!
「我か。我は、アルアハールという」
と、ドラゴンさんが普通に返答しました。
何となくクリスタ君の言葉に返答したことで恐怖心は少し消えましたけど、でも、怖いです。
「あうあはーる。うん!覚えたー」
「いや、アルアハールだ。アウア、ではない」
「あるあ?」
「そうだ」
「あるあはーる!」
「そうだ。間違えるでないぞ」
「うん。あ、えーと、間違えてごめんなさい」
「うむ。分かれば良い。小さき者よ」
そんな感じに会話しています。
正直、クリスタ君凄いですね。私なんて怖くてとてもとても……。
「それで、そこの小さき者よ。貴様はなんという名前だ?」
「へ?あ、わ、私ですか!?」
「そうだ」
「え、えーと。レシアって言います」
「ほう、そうか。して、レシアよ」
「は、はい!」
「少しばかりこの食料を分けてはくれぬか?」
「……はい?」
ドラゴンさん、いえ、アルアハールさんがそんな事を言いました。
見れば、私達用にとオーラ様が用意してくれた食料を見ています。
ですけど、アルアハールさんの大きさで分けてってどれくらい持って行くつもりなんでしょうか?
「ダメか?」
考えていたらアルアハールさんが問いかけてきました。
「あ、い、いえ。あの、分けてってどれくらいの量をでしょうか?」
とりあえず確認です。
半分とか言われたら流石に断りますよ。こ、断ります。
うう、私、断れるんでしょうか?
「それは貴様が提示した量で構わん。少し人間の育てた食い物というのに興味があってな」
アルアハールさんはそう言ってきます。
な、なるほどぉ。興味があってですか。
アルアハールの言葉に納得します。何に納得したのか自分でも分かりませんけど……。
とりあえず返答を。
「これ、りょーりするんじゃないの?」
と、そう思った時。クリスタ君がそう言いました。
「料理、とな?」
その言葉にアルアハールさんが私達の方に視線を向けます。
その瞳は力強くビクッとしてしまいます。ですけど、怖がるなって言われてますし!
た、耐えます。耐えるんです!
「うん!りょーりするんだよ」
「ほう?」
そんな私をさて置いて、二人がそんな会話を始めました。
「ふむ、もし良けばで良いんだが」
するとアルアハールさんが何故かおずおずとし始めました。どうしたんでしょう?
「我にも良いだろうか?」
「へ?」
突然言われた事の意味が分からず首を傾げてしまいました。
それを見たアルアハールさんが少し残念そうに「ダメか?」と言いました。
え、ええっと。ダメって事は無いですけど……。
「良いよー」
「本当か。それは恩に着る」
「へ?」
私が了承しないまま、クリスタ君が決めちゃいました!
ど、どうしましょう!人生でまさかドラゴンさん相手に料理を振舞うなんて思っても見なかったです!
も、もし、お口に合わなかったら……。
今までしたことも無い事への恐怖感が襲ってきます。
それに、逃げ場がなくなっちゃった感じがしますよぉ。
もう、なんて事をしてくれたんですか!クリスタ君!
私は助けを求めようとコロンさんの方を見ましたけど、コロンさん完全に固まってます。
これは見て分かります。コロンさんに今、助けは求められないと。
「ふむ、だがただ頂くというのもあれだな。我にできる事があれば言ってくれ」
そんなコロンさんを見ていたら、アルアハールさんが声をかけてきました。
「うん!」
その言葉に私が反応するよりも早く、返答をするクリスタ君。
よく出来ますよね。ドラゴンさんと会話するなんて……。
「そーだ!ねえねえ、あるあはーるさん」
と、早速またアルアハールさんに話しかけるクリスタ君。
関心しかありませんけど、少し怖いんですけど。
「さんは不要だ。で、どうした?」
「あるあはーるさん、変わった形してるね」
「さんは不要だ。しかし、変わった形、とは?」
クリスタ君に答えるアルアハールさん。
そんなアルアハールさんにクリスタ君は言います。
「僕の友達のどらるーはね、おててあるのにあるあはーるさんは無いから」
クリスタ君が言うとアルアハールさんは首を傾げましたが、突然「ああ」と納得したように話し始めました。
「我は
「そーなんだ!」
アルアハールさんの言葉に目を輝かせるクリスタ君。
へ、へぇー。ドラゴンさんにも種類があるんですか……。
私は二人?の会話を聞いて初めて知りました。
アルアハールさんはドラゴンさんですけど、ワイバーンさんらしいです。
「して、レシアよ」
「え!?あ!は、はい!」
感心していたら突然アルアハールさんから話しかけられました。
突然だったので反応遅れてしまいましたけど。
「料理を作っているところを見せてもらっても良いか?見た事が無いゆえ、見てみたいのだ」
「あ、僕もー」
二人はそう言うと期待のこもっている眼差して見てきました。
な、なんか、そんな瞳で見られると断り辛いです。
というより、見ていて楽しい物でもないと思いますけど……。でも、見たいって言ってるんですから良いですかね?
「良いですよ」
私はとりあえず了承しました。
そうして私はこちらの様子を見ているだけだったコロンさんの方に行き、調理に取り掛かります。
コロンさんは一緒についてきたアルアハールさんに若干震えてましたけど、アルアハールさんに「怖がらなくても良い」と言われて耐えています。
ですけど、ぷるぷるしていますね。
それよりも、まずは料理です!
私は自身に気合を入れて、自分の大きなバッグから両親が使っていたらしい折りたたみ式簡易鍋吊るし、鍋、まな板を取り出します。
まずは鍋吊るしを組み立てます。と、言ってもパタパタと開くだけなんですけどね。
と、組み立てている私にクリスタ君が声をかけてきました。
「れしあさん。それ、なーに?」
早速気になったようですね。
「鍋吊るしですよ」
「鍋吊るし?」
「そうです。鍋吊るしです」
「ふーん?」
私の説明に首を傾げるクリスタ君。
「クリスタ。鍋って分かる?」
と、そんなクリスタ君の傍にコロンさんが近寄ってきて問いかけました。
それに対してクリスタ君は「分からない」と返答。
……あ、これは!
「鍋っていうのは、これの事だよ。これで煮込む料理を作るんだよ。って言っても分からないと思うからそこは見てた方が分かるかもね」
「へー!」
「ほう」
私の予感が的中してしまいました!
コロンさんが私の役目でもあるクリスタ君に教えることをやってしまいました。うう、悔しいです。というかアルアハールさんも感心してます。
むむむぅ。だ、大丈夫です!私はこれから料理を作るっていう役割があるんですから!
私は自分にそう言い聞かせて、食材を確認します。
中には野菜中心ですけど、お肉やお魚もありますし、それらも保存された状態で入っていました。
そして、なんと、バターもお塩もあります。これは凄いですね!
それを踏まえて私は考えます。うーんと、スープにしましょうかね。元からその予定でしたけど。
こうして私は早速調理を始めます。まずは鍋に水を入れて火を、火を……。
その時、まだ火を点けていないのに気付きました。
えーと、火打石ー。火打石はー……。
バッグの中を探しましたけどありませんでした。
こういう時は。
「コロンさん」
「んー?レシア、どうかした?」
「火打石とかありませんか?」
「え?私、持ってないよ。というか火打石より魔法で点けたりで良いんじゃないの?」
レシアさんがとても良い提案をしてくれました!
なるほど。魔法ですね!
……。
「あのー、私、炎系の魔法習得してないんですけど、コロンさんあります?」
「な、無いかなぁ。私、怪盗だから」
コロンさんはそう言って視線を逸らしてしまいました。
ええっと、それじゃあ。
ちらりとクリスタ君を見ますけど、クリスタ君は魔法使えないって言ってましたし。
あ、そうですよ!
私は一番の適材者がいるのに気付きました。
そうです!アルアハールさんです!
「アルアハールさん!」
「話は聞いていた。火が欲しいのだな?」
なんとアルアハールさんはそう言ってくれました!
これで火の事に関してはクリアですね。
私は「はい。お願いします」と言って鍋吊るしの下に近くにあった木材を敷きました。
そこに水を入れた鍋を置きます。
「アルアハールさん、ここにお願いします!」
「承知した」
私がアルアハールさんはこくっと頷きました。
これで大丈夫ですね。では私は食材を切りましょう!
私は近くにあった木箱をまな板置き場にする為に取りに行きました。
そして用意した食材を切ります。そんな私の後ろでは、アルアハールさんの起こしてくれた火で鍋が温まっています。
その傍ではクリスタ君とアルアハールさんがジッと私の方を見ています。
私はお湯に食材を切り終えると鍋にまず人参とか硬い野菜を先に入れて柔らかくします。
そしてから、他の葉の物の野菜を入れます。
そしてそしてお肉とか調味料を加えて、味を確認してーっと、こんなもんでしょう。
私特製、野菜スープ完成です!
それをおたまで掬って器に盛ります。
ふふ、そして後は呼ぶだけですね!
「出来ましたよー」
「ほう。出来たのか」
「わーい!」
私の言葉に二人?が声を出しました。
その後ろにいるコロンさんも何か言っていましたけど二人の声で聞き取り辛いですね。
と、お馬さんを休ませに行っていた馬車の人が戻ってきました。
そして、固まってしまいました。どうしたんでしょうか?
あ、コロンさんが馬車の人の所に行って何か話してます。
しばらく何か話している二人でしたけど、馬車の人は小さく頷いて一緒に来ましたね。
それに気付いた様子でアルアハールさんが二人の方を見ました。すると馬車の人、ビクッてなってます。
ふむふむ。どうやら、アルアハールさんに驚いているようですね。
そこで私は理解しましたよ。馬車の人、アルアハールさんに驚いていたんですね!
その様子から察した私。ふふ、どうですか!
って、それよりも料理ですね。
私はやらなければいけない事を思い出し再度声をかけました。
「それじゃあ、皆さん。食べましょうか」
その言葉を皮切りに近くに皆さんで座って食べます。
「ほう、なかなか美味いな」
「レシア、美味しいよ」
「これはこれは。私が作る予定でしたけれど、美味しゅうございますね」
「美味いなこれは!普通な味加減だ!ヌハハハハハ!」
「ふふ、そうですか」
私は皆さんの言葉に頬が緩みました。
こんなに好評を頂けて凄くうれしいで……?
そこで私は固まってしまいました。というのも
知らない声が混ざっていたからですし、聞き慣れた声が聞こえてこないからです。
そう、クリスタ君の声です。それに聞こえてきたのは知らない声ですし。
そう思いクリスタ君が座っていた方を見ると、オーラ様のお屋敷にいた男性の使用人さんと同じような感じのビシッとした服を着た白髪白髭の男の人がクリスタ君の隣に座っていました。そして、私がクリスタ君に渡した食器を持っていました。
……誰でしょう?それにオーラ様の所にいた人達と違って赤い色のお洋服ですし。
「え!?だ、誰ですか!?」
と、早速コロンさんがその赤い服を着た人に話しかけています。
「ん?まあ、気にしなくても良かろう!今は飯の時間だからな!」
すると男の人はそう言って「ナハハ」と笑います。
なんだか不思議な方ですけど陽気で良い人そうですね。
「いやいや、良くないですよ!というか、それ、クリスタの分じゃないですか!」
「ん?
コロンさんにそう言うとまた男の人は笑いました。
「え?それってどういう?」
「なんだ知らないのか?まあ、この種が滅んだのは五百年も前だからな!仕方ないか!」
そう言って男の人は笑いました。
……何か面白いんでしょうか?
「貴様、何やら不穏な力を感じるが。それよりも、あまり囃し立てるな。聞いていて不快だ」
「おお。これはこれは、アルアハールではないか。御機嫌よう。それに囃し立てている訳では無い。私はこれが素なのだ。分かるな?」
アルアハールさんに対して男の人はさっきから同じ調子で話しています。
だ、大丈夫なんでしょうかね?
「貴様、何者だ?我が名を何故知っている?」
「おやおや、熱心な竜神参拝者だから知らないわけ無いだろう?それよりもあれか?知らないていで話した方が良かったかぁ?まあ、私はどちらでも構わないがな」
男の人はそう言ってまた笑います。
「まあ、そんな話は置いておいて、だ。飯美味かったぞ。ありがとなぁ!」
男の人はそう言ってから立ち上がりました。
そんな男の人に対してコロンさんが問いかけます。
「ちょ、ちょっと待って下さい。あなた、だから誰なんですか!?」
「ああ、そう言えば言ってなかったな。だが、このタイミングで言うのもあれだ。最初から聞いてくれ」
「……はい?」
「なんだ。ノリが悪いなぁ。そういう時は素直に聞くものだぞ?」
「あなたはだーれ?」
コロンさんに対してやれやれと言った感じで言う男の人に対して傍にいたクリスタ君が首を傾げて問いかけました。
すると男の人はニヤッと口を開きました。
「私か?私は赤服の紳士、名はワンダーだ。以後お見知りおきを」
どうやら男の人はワンダーさんと言うらしいです。
するといち早くアルアハールさんが目を見開きました。
「ワンダー、だと!?伏せろクリスタ!」
「ふえ?」
そんな事を言ったかと思うとアルアハールさんはワンダーさん目掛けて口から炎の球を発射します。
って、何か嫌な予感がするんですけど!
私は咄嗟にあの炎の球がぶつかったら爆発が起きるんじゃないかと思い目を瞑りました。
ですけど、一向に何も聞こえません。一体どうしたんでしょうか?
そう思っていても何も無く、アルアハールさんが「なっ!」という声を出していたので目をゆっくりと開けると、アルアハールさんが目を見開いていました。
その視線の先。そこではワンダーさんがさっきアルアハールさんが放った炎の球を掴んでいました。
……って、え?掴めるんですか、それ。というか熱くないんでしょうか?
「全く危ないではないか。周りに人がいるというのに。それにアルラウネの血を持つ者がいる傍で火を使うとはなぁ。まあ、いい。ではな」
ワンダーさんはそう言うと炎の球を上に放り投げました。
炎の玉は一直線に飛ぶと、お空ので爆発します。その音が振動と共に遅れて響きました。
あ、あれがここで爆発したと思うと……。やばいです。身震いがしますよ!
「ワンダーが、いない!?」
と、そんな声がして見れば、今までそこにいたワンダーさんがいなくなっていました。
その事に皆ビックリです。私もビックリです。
「アルアハールさん。ワンダーっていうあのおじさんについて何か知ってるの?」
と、呆然としている中聞こえたコロンさんの声に皆さんがアルアハールさんの方を向きました。
そういえば、名前を聞いた途端あの炎の球を放ってましたしね。
「聞いた事無いか?さ迷う者について」
「「「「 さ迷う者? 」」」」
アルアハールさんの言葉に私とクリスタ君とコロンさん、あと馬車の人も首を傾げました。
何でしょう?さ迷う者って。
「知らぬか。そうだな。ワンダー、さ迷う者は恐ろしい存在だ」
そう答えるアルアハールさん。ですけど、クリスタ君は首を傾げて全く分かっていない様子です。
まあ、私もよく分かってませんけど、とりあえず恐ろしい方なんでしょう。
と、コロンさんが再度口を開きました。
「恐ろしいって具体的にはどんな感じに?」
「ううむ、なんと言えばいいのか。聞いた話だが、我が崇拝する竜神が協力してさえも傷一つ与える事のできぬ者なのだそうだ。それに、我も今日始めて邂逅し攻撃した訳だが我が技をあのような状態で受け止めるとは、予想外であった」
アルアハールさんはそう言うと少し残念そうに俯きます。
それにしても、あのワンダーさんって人。そんなに危険なんでしょうかね?
「その話だと、あんまり危険そうに思えないけど……」
「いや、危険な存在だ。だから注意しろ。良いな?」
アルアハールさんはそう言いました。
うーん?私も危険性がよく分かりませんでした。というより、いつの間に来たんでしょうかね?
色々思うところがありましたけど、考えても解決しなさそうなのでやめました。
そうして気を取り直し、私達は食事を食べ終えます。
「それでは、そろそろ出発を――」
そして、馬車の人がそう言ったのですけど、途中で止まってしまいました。どうしたんでしょう?
「すいませんが、馬車はどこに?」
と、馬車の人がそう言いました。
何を言っているんでしょうか?あそこにあったはず……。
そう思い私が見た先には崩壊した馬車の荷台。
そういえばアルアハールさんが着地した際に壊れたんでしたね。
「あれだよー?」
と、私が思い出したとき、クリスタ君が指をさして馬車の人に言っていました。
「え?いや、あの、え?」
馬車の人、凄く困惑しています。
とりあえず一部始終を伝えました。
「な、なるほど……」
伝えたら馬車の人がアルアハールさんの事を見ながら納得されます。
「む、その様子からするに我は何かしてしまったか?」
と、アルアハールさんがこちらを見ました。
「えーと、さっきアルアハールさんが降りてきた時、下にあった馬車が壊れちゃって」
「馬車か?」
「馬車です」
「ふむ、それは。すまない事をした」
そう言ってアルアハールさんが頭を下げました。
ちゃんと謝っていただいたのでこの事は水に流してあげましょう。
そう私が思った時でした。
「馬車が無いとなるとご予定の街までは徒歩で五日ほど掛かりますが……」
馬車の人がそう言います。
まあ、でも旅をしている私達ですから徒歩でも問題ないんですけどね。
「食料も余裕を持って積まれてはいましたけれど、それでも馬車での換算なので今日を含めて三日分の量ですし」
「……え」
その言葉に固まるコロンさん。
私は光合成出来るから大丈夫ですけど、コロンさんは出来ませんからね。食料は大事ですよね。
そう思い悩んでいたときでした。
「そういう事ならば、我が貴様等を乗せて目的地まで飛ぼうではないか」
アルアハールさんが言いました。
「え?本当に!?」
その言葉にコロンさんは期待の眼差しで見ています。
「ああ。それを失ったのは我のせいだ。であれば、貴様等を乗せて飛ぶのもしかない事であろう」
アルアハールさんはそう言って翼を広げました。
これは、凄く嬉しいですね!
「ありがとうございます!アルアハールさん」
「ありがとー!」
「ありがとう!」
私達はそんなアルアハールさんにお礼を言いました。
「いや、何。我のせいだからな。これくらいはしようではないか。それに料理美味かったからな。お礼として行なおうではないか」
そういう事で私達はアルアハールさんに乗って次の街に行く事になりました。
馬車にあった荷物を背負ったり、食材の入った木箱は私が勇者さん達に頂いたバッグに入れて。
クリスタ君のバッグにはオーラ様から頂いた石の木箱を入れます。
そして準備が完了して、いざ、アルアハールさんの背中へと乗りました。
「貴様は?」
と、アルアハールさんが馬車の人に声をかけました。
「私は馬がいますからそれに乗って帰りますのでお気になさらずに。それと、次の街であるスクロックは道沿いに行けば着きますので」
馬車の人はそう言うと「では、よろしくお願いします」とアルアハールさんに声をかけました。
「そうか。では行くぞ。しっかり掴まっていろ」
アルアハールさんはそう言うと翼を広げ、羽ばたき、宙に浮かびました。
こうして私達はアルアハールさんに乗って次の街であるスクロックへと出発するのでした。
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