主人公の女子高生は、ごく普通のありふれた人生を送っていた。しかし彼女は死に瀕し、異世界に飛ばされてしまう。しかも初めて出会った赤髪の男に、城のような所に連れていかれ、一人の老爺と謁見することになる。そこで聞かされたのは、この世界の成り立ちと、それを司る賢竜たちの存在だった。
そして何と主人公が、その賢竜の内の一匹であることが判明する。何も分からず、家族や友人たちから突然引き離された主人公は、悲観し、反発する。教育係になった犬の亜人である司書官の前でさえ、全く教えられたことを理解しようと思わなかった。
そんな主人公は、人間と亜人の血を引くダブルと呼ばれる人々が暮らす北の聖堂がある地へ行かされることになる。そこの聖堂で祈りを捧げれば、魔力を得たり、人間としての器をなくすことが期待されたからだ。しかし、たどり着いた北の地は、治安が悪く配給で何とか暮らしを立てる過酷な土地だった。主人公はここで、自分が恵まれていたことや、今まで嫌なことから逃げてきたことを痛感することになる。
死が近くにある聖堂の中で祈り続ける主人公。
果たして、主人公は何を祈るのか?
今までの生き方を反省して、元の女子高生に戻りたい?
それとも、賢竜として目覚めること?
裏切りや人間への憎しみ渦巻くこの世界で、主人公が見つけた物とは?
是非、御一読下さい。
自分、って一体何だろうかと思います。
流行り物の異世界転生の話ではなく、いえ、転生といえば転生なのですが。
昔の自分をあっさり捨てる事が出来る人もいれば、そうでない人もいる。
主人公の千晴も異世界へ連れてこられて、人間の女子高生という姿を喪い、その世界の根幹となる存在へ転生します。
でも記憶がなくなるわけじゃない。新たに転生した姿は人の形をとっていても、ヒトではなくて。
戸惑いながらも、こちらの世界の住人の為に、自分の役割とは何か。
自分ってなんだろうかと歩む、彼女の『道』に惹かれていきます。
そして異世界で千晴の仲間となる『賢竜』の皆様。
どなたも麗しい…。まだ全員お会いできていませんが、楽しみです。
「赤い髪の青年」に攫われ異界へと連れてこられた少女が、自分の役割を知り、それを受け入れがたく感じて葛藤し、受け入れようにも方法が分からず、もがくように道を模索する物語。
彼女を迎えた世界は決して優しくはなく、そこに住む者たちも厳しかったり辛辣だったりと、千晴の境遇に気持ちを寄せてくれるわけではありません。
そんな中でも千晴は、相手を理解し会話を重ね、自分にできることを探すことで歩み寄ろうと頑張っていく。その過程は、結構かなり凄絶。
千晴だけでなく、他の賢竜たちや、千晴と関わる人々も、割と容赦ない運命を背負いつつ生き様を模索しています。それがしっかり描かれており、心を揺さぶられます。
誰かが誰かと出逢うことで、救われたり、心のあり方に影響を受けたり。そういう繊細な部分を丁寧に描こうとしているのがとても好感です。
果たして千晴は、理不尽とも言えるおのれの運命を受け止められるのか……?
是非、物語を読んで見届けて欲しいです。