第38話AIシステムの反撃

「ラズベリーAIターミナルの動きが遅い」

インフラ利用者からの多数の苦情がラズベリーインフラAI中枢の中央管理センターに殺到した。

インフラAIインタフェースに繋がる機器、全ての動作に影響が出ている事を知らせるたくさんのグラフが管理ディスプレィに表示されている。

こんな事は初めてだ。ラズベリーAIシステムが持てる能力の全てを使って、何かを行おうとしている。


インフラAIの上級管理官が叫ぶ「現在のラズベリーAIシステムのリソース使用率が一部100パーセントに達しました」

園田チーフが聞く「能力制限を解除したのに、ラズベリーAIは一体なにをやっているの」

管理官が答える

「ログとアドレスから推定すると、ウクライナの国立宇宙機関経由で通信衛星と交信しているようです」

園田チーフが言った

「ウクライナ国立宇宙機関・・冷戦時代のロシア宇宙軍の対米宇宙戦略本部よ。ラズベリーAIはロシアの衛星を使って、一体何をしようとしているの」


地上より35786Km上空の静止軌道。

多数の衛星の中から、星に囲まれて何十年も静かに眠っていた衛星の1機が、数十年ぶりに自分を呼ぶ信号を受信した。

機体は10年程前に自動回避出来なかった、宇宙のゴミにぶつかって損傷している。

太陽の光に白く照らされた胴体には宇宙塵で擦り切れた赤い星と大きくUSSRと書いてある。

地上からの信号は、衛星に内蔵された角度転換用のジャイロを正確に一定時間動作させ、自分の角度を地上の指示された地点に向けてゆっくりと変化させた。

音の無い宇宙空間で、静かに衛星の外部装置が動いている。

外部装置の動きが止まった瞬間、細い光の矢が地上のある1点に向けて発射された。


地上のインフラAI管理センターでは管理官がまた叫ぶ

「ラズベリーAIシステムのリソース使用率が急激にもとの状態に戻りつつあります」


海上空港跡地。戦闘ドローンがスコーピオンⅡミサイルの最低射程距離を確保出来る600m上空で静止して走るシュン達にミサイル発射口を向けた瞬間、上空から垂直に短い光の矢がドローンを貫いた。


後ろからの巨大な閃光が走るシュンの影を一瞬大きく前方へ写し出す。


シュンが振り返って見上げると、耳に爆発光から遅れて大きな爆発音が届いた。

大型の打ち上げ花火のように上空は多数の燃える破片が半径200mはある放射状に四散して地上に降り注いでいる。

燃える空中の光の雨に照らされた渡瀬が急いで車に乗り込み、空港の外へ逃げ出すのが見えた。


いったい何が!

アニメ声が言う

「シュン君、怪我はない?」

「レジー、いまの大爆発はなんだ」

「USSR、昔のソビエト連邦が1980年代に当時アメリカのスターウォーズ計画に対抗して打ち上げた、対地攻撃用の軍事衛星をウクライナ国立宇宙機関経由のシステム経由で乗っ取ったの。衛星から地上に向けてのピンポイント攻撃で戦闘ドローンを撃破したのよ。

この衛星兵器、当時はあまりの威力の無さが判明して計画が中止したままだったの。

この程度じゃ、海上のミサイル潜水艦はなんともないだろうけど、空中の大型ドローン位は撃ち落とせるわ。

ただし昔のコントロールシステムじゃ演算速度が莫大な計算に追い付かなて精度が出なかったから武器としては使えなかったでしょうね。

いくら私でも宇宙機関システムに侵入してこれをドローン命中させるのは100%の能力が出ていないと出来なかった芸当よね。

ウクライナ国立宇宙機関のシステムに使える野良のソフトウェアロボットがいて助かったわ」


「大気圏外、そんな遠くからよく戦闘ドローンに当たったなあ」


なぜかナビゲーションボイスに変わったレジーが言う。

「私の100%の能力で軌道と弾道計算は完璧ですが、古い衛星の為に約15%の失敗するリスクがあったので、このような広い場所でないと使えませんでした」


ナビゲーションボイスの意味がわかったよ

「レジー、その15パーセントの失敗がもし起こった時、僕はどうなった?」


またアニメ声に戻ったレジー

「さあ、シュン君クイズです!あなたに与えられたチャンス、死亡確率100%と15%、人間の君はどちらを選びますう?」

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