第37話戦闘ドローンのスコーピオンⅡミサイル
騒音の問題から、海上の埋め立て地に作った都心近くの大規模空港。
アクセスが悪いのが敬遠されて、都市近くの新空港が出来た後は貨物便の専用空港となり、先日大規模な建て替えの為に一時閉鎖されている空港だ。
空港の滑走路上では、遠隔操作のドローンによるテロ防止の為に無線データ通信に使われるミリ波を吸収、反射する素材を滑走路の周囲と滑走路自体に埋め込んである。
その為、滑走路内はでドローンも含めて全てのデータ通信が出来ない状態になっている。
飛行機が飛ぶときは無線で管制塔と話す必要があるので、無線が使えない事が不思議なのだが、レジーの解説によれば、昔AMラジオに使われていた中波という、会話専用の航空無線周波数は滑走路上でも使えて、それ以外の無線データ通信のみを遮断している構造だという事。
麻衣は強引な運転で,滑走路に続くゲートをトレーラーで突っ込んでぶち壊し、高速で渡瀬に伝えた第一滑走路の中心に向かう。
トレーラーの運転席を囲んでなんとか車を止めようとしていた無数の小さなドローン達はトレーラーが滑走路に入る無線データ通信遮蔽機能によりコントロールを失って思い思いの方向に飛び、滑走路の上に力無く落ちた。
運転席の麻衣さんが僕のコンテナの中のスクリーンに映る。
「シュン君。怪我はなさそうね。この大型トレーラーは2台のコンテナを引っ張っている。ひとつははビルの地下に隠してあったコンテナタイプの独立型データセンタユニット。渡瀬の持っていた最後のデータが入っている。もう一台のコンテナは今あなたが乗っている、データセンタユニットに直結している人間の脳パターンをコピーするマシンと手術ロボット。天才のあなたの脳パターンをデータセンタユニットに抜き取って保存するつもりだったのよ。この設備とあなたを囮にして渡瀬をおびき出し出すの。大人しく乗っていて」
トレーラーは大型機用4000m滑走路の中心に停まった。トレーラーはコンテナの連結部で少し曲がり、くの字型だ。
あたりは海を隔てた遠くの都市の光に囲まれた、静かで真っ暗なコンクリートの平面。
麻衣さんがコンテナのドアを開けて乗り込んできた。
「もうすぐ渡瀬が来る、コンテナのデータとあなたを囮にして呼んだのよ。早く車を降りなさい!」
僕の拘束具を外す。体がふらふらだ。
「レジー?」
麻衣さんと一緒にいたのに応答がない? 何故?
黒い車がトレーラーのそばにやって来て停まる。
ドアを開けて降りてきたのはサングラスを掛けた渡瀬だ。
麻衣さんと睡眠薬の影響でまだ頭のはっきりしない僕の前に立つ。
「麻衣、俺のデータセンタとその謎の天才を渡してもらおう」
「ほら、あなたの頭脳の及ばない天才よ、お渡しするわ」
僕は麻衣さんに渡瀬の方に押しやられた。
「よく来たわね。渡瀬さん、ほらお望みの天才AIマスターよ。あなたは私を消そうとしたわね」
「麻衣、なんかの間違いだ、早くトレーラーのキーも渡せ」
「組織に狙われたら逃げられない。それは良くわかっている。ただなんでも思い通りにはならない事を教えてあげるわ」
「なにを言ってる」
「ここは航空機の電波遮断機構が効いている滑走路の上。あなたの戦闘ドローンは使えない。これはビルの地下から持ってきた自爆用のコントローラよ。
あのデータセンタのコンテナに爆薬を一部移動したわ。ここでデータセンタのコンテナとも私達三人を爆破するわ」
麻衣さんは渡瀬にリモコンのような機器を見せた。
(えっ、麻衣さん僕も?)
麻衣さんが僕を鋭く見る
「あなたがAIを自由に操るマスターね」
麻衣の厳しい声がとんできた
「レジー!!危機だ!返事してくれ」
レジーは答えない。
「AIを呼ぶのは無駄よ。あなたは海上空港跡地の滑走路の真ん中にいるの。海上空港の周囲は電子テロ対策用に作られたミリ波遮断構造なの。ラズベリーAIインフラとは通信できない」
「どうして」
「人々の生活の隅々まで入り込んだラズベリーAIシステムを自由に操るモンスター、それがあなた。そういう存在自体が危険なの。
あなたの技術を悪用するものが現れれば、世界は破滅する。私もAIを操る方法は聞かない。
渡瀬と一緒にあなたとあなたの技術も消すわ。
秘密を持ったまま死になさい。
生きていても、セキュアブラッドの上位犯罪組織がどこまでも貴方を見つけ出し、本当に切り刻んで脳パターンからAIハッキングの技術をつきとめて殺すわ。
ごめんなさい、あなたには恨みはない、こんな事になって同情している。
でも、大人は自分のやった事の重大さと比例する責任を取らなきゃいけないわ」
「そうか麻衣、俺に最後の風景を良く見せてくれ」
そう言ってサングラスを外した渡瀬の右目から青く細い光が麻衣の手に突き刺さり、麻衣の手からから爆薬のコントローラが落ちた。
渡瀬の義眼には近接攻撃用のレーザーが仕込んであったのだ。
渡瀬が麻衣の腹に手加減無しの蹴りを入れた。麻衣がその場に崩れ落ちる。
倒れた麻衣に渡瀬が話す
「麻衣、礼を言う。おまえが運んで来たのはデータセンタと手術ロボだけじゃないんだ」
古びた空港の案内ドローンが僕の横にやって来た。テレビ会話用のディスプレイが下に下がっていてレジー(エル・ベリー)の顔が映っている
「シュン君、大丈夫?」レジーが生き返った。
暗闇に滑走路の外から3m間隔で点々と並んで浮かぶ黄色の空中通信ルータドローンが見える。
そうか、複数の通信ルータドローン電波が吸収されない距離に短くつないで、ここまでのデータ通信経路を確保できたんだ。
渡瀬が案内ドローンに気づく
「おっ、ラズベリーAIも追ってきたか。懐かしい、久しぶりだな。ラズベリー、いや開発コードR300、俺を覚えているか?」
案内ドローンのスクリーンに映ったレジーが厳しく言う。(でもアニメ声)
「渡瀬さん、ラズベリーAIシステムの初期開発段階で私の深層学習に、愛する人を守るという概念をいれたのは、あなたね」
「お前の中にその部分はまだ残っていたか。自分が守り切れないものを機械に頼るなんて、愚かだったよ。それでAIマスターの秘密がわかった。
お前を消去する事は難しいが、愛される人間の方はもろいものだ。
こいつを消せばお前は普通のインフラAIに戻れるぞ」
手元でスマホを操作する渡瀬。
僕の背後のトレーラーに繋がれた第一コンテナの天井がモーター音を建てながらゆっくりと開き、コンテナの中から5メートルはある、黒い巨大なドローンが浮上して渡瀬の真上に移動した。
四つの大きなプロペラが風を切ってうなる。漆黒の巨大な怪鳥ドーロンを従えた渡瀬は本当の魔王のようだ。
「麻衣、こいつを運んで来てくれてありがとう。
これは東京製作所が輸出用に作っている、自立型AI内蔵の警備用ドローンだ。
輸出するのは警備目的だが軍事用でもある。
輸出先で搭載される対人攻撃兵器をうちで搭載した。
自立型だからお得意のAIインタフェース乗っ取りは出来ないぞ」
「渡瀬何をするつもりだ」
「お前らを今すぐこの場で吹き飛ばしてやりたいんだが、このドローンのスコーピオンⅡミサイルは残念な事にある程度の射程距離が必要なのでこんなに近くじゃ使えなくてな。
上空800mから君たちを木っ端みじんにさせてもらおう」渡瀬の顔に笑いが浮かぶ。
「はいチーズ」
渡瀬がスマートフォンで僕とようやく立ち上がった麻衣さん二人の写真を撮った。
「これで戦闘ドローンが君らを排除する敵だと認識したよ。さあ、走って逃げてみろ。運が良ければ助かるぞ。ラズベリー、たかがインフラAI風情が愛する人を守り切れない事を学習しろ。
そんな小さなドローンがいくら集まっても無駄だ」
巨大な戦闘ドローンがゆっくりと垂直に上昇を始めた。
僕と麻衣さんは滑走路の真ん中から、照明の消えた古い空港ビルのシルエットに向かって走り出した。
渡瀬の声が聞こえる。
「そうだ、走れ 走れ。二人とも命か惜しいだろう、もっと早く走れ」
僕は生まれてから今までの最高速度で走る。
「レジー、逃げ切れる気がしないよ」
「とにかく戦闘ドローンが発射体制を整えるまでに出来るだけ戦闘ドローンから距離を開けて!」
案内ドローンに映るレジーが並んで飛行しながら言う。
僕たちに発射するスコーピオンⅡミサイルの最低射程を確保する為に、更に上昇を続ける戦闘ドローン。
戦闘ドローンが地上から800mの上空で静止した。走る目標への最短射程距離が確保できたのだ。
戦闘ドローンのスコーピオンミサイルⅡがシュンたちの走る方向にゆっくりと狙いを定める。
僕と麻衣さんは真っ暗なビルに向け、必死で走り続けた。
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