第7話(バーチャル)スター誕生!

レジーのエル・ベリーが音無ECHOに呼ばれて登場した時、ネコネコ超会議 ライブステージのバックヤードにあるコントロールセンターはこの世の地獄の様相を示していた。

ライブ会場のステージと観客を合わせて映す大きなスクリーンにエル・ベリーと音無ECHOが映っている。

スタッフのひとりがぼーっとステージを見ていて「可愛いなあ」とぼそりと言い、お前なにやってんだ!とどやしつけられた。

血走った眼の多数のエンジニアが慌ただしく機器とディスプレイを操作する。

中央で、ライブ全体のチーフエンジニア柳田が大声で怒号している。

「どうしてプログラムにも設定にもないあんなのが突然音無ECHOに紹介されて出てくる、しかもなんで俺たちのステージで勝手に歌っているんだ!

ここは音無ECHOのMCの後に新曲を披露する予定だったろう!」

「柳田さん、今システムを必死に調べていますがわからないんです。

システムがハッキングされて誰かが故意にライブシナリオのプログラムを改変しなければこういう結果にならないのですが、厳重なセキュリティで守られているはずでして、」

「おまえ馬鹿か!何年バーチャルアイドルライブのオペレーションをやってるんだ、コンピュータで作っている音無ECHOが自分の意思で友達をステージに呼んでくるわけないだろう! 人間じゃないんだぞ!そんな事が可能だったら、母親とか彼氏とかなんでも有りじゃないか。」


 細身で目の鋭い紳士が静かに言った

「柳田君、まあいいじゃないか。ここまで周到に用意されたハッキングだ。

ステージが終わるまでの短時間に原因を突き止めるのは難しいのだろう」 

話したのはコンテンツビジネスの巨大企業、VOXグループホールディングスの最高経営者、代表の末野義弘。

「しかし、末野社長、こんな事が許されるはずが」

「相手はコンピュータグラフイックスの映像だ。

このコントロールセンターからステージ映像に出るまで10秒遅延させろ、ステージに映る10秒の間にここで話す内容やコンテンツをチェックする。

内容が観客に危険な事やコンプライアンスに違反するようであれば直ちに映像と音声系統の電源を遮断してライブを中止する。

それでいいじゃないか。

なにより見ろ、この子は可愛いし、観客があんなに喜んでいる。

おい波村くん、歌っているこのエル・ベリーという子の版権はどうなってる」

「著作権と画像データベースで調べましたが、世界のどこにも登録がありません。(君のプロトコル)という曲の方は動画投稿サイトに該当がありました、総アクセス数82回で一般個人のオリジナル曲です」秘書の波村みどりが答える

「波村くん」

「はい代表」

末野代表が鋭く指示を出す。

「VOXエンタテインメントの開発部に連絡して、その総アクセス数82回の超サエないヤツにすぐコンタクトしろ。曲は二次使用権も合わせてまるごとVOXで買い取れ」

会場の映像より10秒早いコンテンツチエックが至急開始され、ライブ会場の盛り上がる様子をモニターで眺めながら、末野代表は言った。

「我々は思いがけずエージェントの付いていない音無ECHOに続く有望なバーチャルアイドルをデビューさせてしまった事になるね。

しかも新曲付きで。鴨がネギ背負って来たねえ。

いずれわかるだろうこの子のコンテンツ版権者には大規模イベント妨害行為での巨額な賠償をネタにしてうちに版権を全面的に提供させよう。

見てみろよ、この子を見る観客の目を。私もこんな事は初めてだ。

現代のスター誕生物語はライブステージのハッキングから飛び出したバーチャルアイドルか。時代は変わったものだ」


ネコネコ超会議 音無ECHOのライブステージで起こった突然の謎のアイドル出現ニュースは、ライブが終わるころには動画SNSを通じて会場の観客から世界に拡散されてしまい、その日の終わる頃には1000万を超える人々が視聴し、各検索エンジンでは「エル・ベリー」が軒並み上位の検索ワードに登場。

翌日にはアジアの某国で「エル・ベリー」公認をうたった海賊版キャラクターグッズが早々と発売されしかも即時に売り切れたという海外ニュースのおまけまで付いた。

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